乂阿戦記2 第ニ章 翠の勇者龍獅鳳と九闘竜の魔人達-6 絶対勝てない隠しボス
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一同が作戦会議をしていると、フレアが慌てた様子で部屋へ飛び込んできた。
「お、おいチビ達!今すぐ部屋のどっかに隠れろ!セトアザスのアホが大勢兵隊を動員してお前ら探し回ってる!パピリオ師匠まで一緒にだ!しばらく見つかりにくい所に隠れてろ、いいな!?」
「えぇ~……」
一同は思わず声を揃える。
「ちょ、ちょっと待てよ、それどういう……」
ドンドンッ!
フレアの個室の扉が激しく叩かれた。
「お~いフレアはん!ちょいと悪いけど部屋の中、ガサ入れさせてもらえまへんか~?なんでもちっこいガキ共が八人ばかし隠れてるらしいんでな!犬型の深き者がここ掘れワンワンって吠えおるんや!」
その声と共に、部屋の外では蛙とも犬ともつかぬ醜悪な合いの子がゲワンゲワンと気味の悪い声を上げていた。
「う、うるせぇ!今、着替え中だ!入ってきたら殺すぞ、このクソ変態野郎が!」
「へぇ~着替え中ならしゃーないなぁ……」
一拍。
「ま、ワテは気にせんと入るけどな? 言うとくけど、ワテ別にロリコンやあらへんで? ビデオ撮って売りさばこうなんて、ぜぇんぜん思ってへんで? ウシァッシャッシャッ!」
どこかのスイッチが入ったらしいセトアザスは、強引にフレアの部屋に突入しようとする。
「は、入ってくんじゃねぇっつってんだろうがァ!!! このクソド変態がァァァ!!!」
怒りに任せ、フレアはセトアザスの顔面を蹴り飛ばした。凄まじい音を立てて、彼は廊下へ吹っ飛んでいく。
ドスンッ!
「ず、ずびまぜん……」
そう一言だけ残し、セトアザスは白目をむいて気絶した。
「はぁ……あの変態、もっと全力で蹴っときゃよかった……」
雷音が思わず聞く。
「え、な、何があったの……?」
「なんかセトアザスが部屋に忍び込もうとして、フレアが撃退したら気絶したらしいよ」
「そ、そうなんだ……」
「とりあえず今のうちにここから脱出しようぜ!」
だが、その時――
「あ~~待った待った!チビ達、どこ行くつもりだよ!」
フレアが有無を言わさず彼らの前に立ちはだかる。
「今はマジでヤバいって!あいつら、アンタらを生贄かなんかにする気だぞ!?私が博士に相談して何とかしてやっから、いい子にして部屋に隠れてな!」
「ちょ、ちょっと……」
「大丈夫。ここはフレアさんの言う通りにしよう」
「……雷音、私もそう思う」
「オレもだ。雷音、ここは従おうぜ」
「うう……わかったよ」
雷音たちは、しばらく身を潜めることに決めた。
――その頃、廊下では。
「う、うう……」
セトアザスが呻きながら身を起こす。
「セトアザス様、どうかなさいましたか?」
「さ、さっき……強引に入ろうとしたら、なんや足を掴まれて動けへんかったんや……!」
「足を……?」
セトアザスはおそるおそる自分の足元を見下ろす。
「う、うう、ううううう!? な、なんやこれぇぇぇぇえ!!?」
彼の足首には、黒い手のようなものが巻きついていた。
「セトアザス様!? 一体それは――」
「いああああ!! 取ってえええええ!! ワテ怖いッ!! 誰か取ってえええええええええ!!」
――カツン。カツン。
廊下に響く、異様な足音。
磨き抜かれた黒革の靴が、石畳を静かに刻む。
全身を黒いロングコートで包み、灰色の髪を肩に垂らした男が、義眼のような片目で前だけを見据えて歩いていた。
その身長、二メートルを超える。
その威容は――“暴力”そのものだった。
現れたのは、九闘竜No.2《Dr.ファウスト》。
ファウストが一歩、石畳に足を下ろした瞬間だった。
――空気が、死んだ。
ゲワンゲワンと騒いでいた蛙犬が、ぶるぶると震え、腹を見せて泡を吹き――そのまま沈黙した。
深き者どもも沈黙し、セトアザスは完全に凍りつく。
「…………孫に、何の用だ?」
その声は、万象を凍てつかせる“虚無”だった。
「ゲエエエ!? 九闘竜No.2、Dr.ファウスト様~~!!」
セトアザスの足に絡まっていた黒い手は、ファウストの体に吸い込まれるようにして消えた。
その場にいた全員が、蛇に睨まれた蛙のように竦み上がる。
「セトアザス。今回の作戦にフレアを巻き込むなと命じたはずだが?」
「ち、違うんです! これには訳が――」
「黙れ。言い訳は聞きたくない」
「ひっ」
「貴様を任務から外す。今後、我々との関与は一切許さん」
「そんな殺生な~~~」
一睨みで、セトアザスは口を閉じた。
「……処分は追って伝える」
「へ、へい……」
セトアザスは肩を震わせながら撤退していった。
「セトアザスの件は忘れろ。それより――お前たち。あの子たちに何をしようとしていた?」
「ひ、ひぃ……い、いえ!セトアザス様の命令で、ただフレア様の部屋にいる子供たちを……」
「そうです! 命令に従っただけで――!」
「……ならば良い。だが、次は無いと思え」
声にする必要すらなかった。兵たちは、その“理外”の怪物にただ道を開けるしかなかった。
ファウストはフレアたちの元へと向き直る。
「大丈夫か?」
「えっと、貴方は?」
「ファウスト・ドラゴニア。一応、フレアの保護者をしている」
「えっ!? フレアちゃんの……お父さん!?」
「正確には祖父だ。だが養子縁組しているから、戸籍上は養父で間違っていない」
一同は驚きに目を見開く。
「それより、お前たちには聞きたいことがある。時間はあるか?」
彼らが頷くと、ファウストは人気のない自室へと案内した――。
――場所は変わり、神殿内のファウストの私室。
リビングルームに案内された一同を出迎えたのは、二人の幼い少女だった。
一人は黄緑がかった金髪を肩まで垂らした、二歳ほどの幼女。
もう一人は、銀髪を風になびかせる、六歳ほどの少女。
姉妹なのだろうか? いや、それ以上に気になるのは――
年少の幼女が、フレアの古い写真に写っていた「妹」に、瓜二つだったことだ。
銀髪の少女が元気よく挨拶をする。
「こんにちはー! わたし、シルフィス・ドラゴニアなのですっ! よろしくお願いしますです!」
続いて金髪の幼女が――何かを叫ぶ。
「にゃー! にゃにゃによにゃんにゃ! ニカ!」
……何を言っているのかまったく分からない。
だが、名前は「ニカ」らしい。
「フレアよ。彼らと話をする。シルフィスとニカの面倒を向こうの部屋で見てやってくれるか」
「え? あ、うん。分かった、博士。――ほらシルフィ、ニカ、行くぞ。お話の邪魔しちゃダメだからな」
「アニャニャ?」
「えーん、遊びたかったのにぃ~……」
しぶる二人をなだめながら、フレアが部屋を後にする。
その様子を見届けた雷音が、ふと疑問を口にする。
「あの子たちって……フレアちゃんの妹とか?」
ファウストは静かに答えた。
「まず、銀髪の方――シルフィス。あの子はお前の兄、乂阿烈のクローンだ」
「………………え?」
「世界最強のヒトを複製しようとした連中が、阿烈の遺伝子を使って試みた。だが、成功したのは何故か阿烈とはまるで異なる……女児。さらにもう一体、“私”――ファウスト・ドラゴニアだけだった」
誰もが沈黙する。ファウストは構わず続ける。
「乂阿烈や神域の武仙たちは、理の外側にいる存在。物理法則に縛られた技術で、その模造などできるはずもない。科学者どもはそれに気づかなかったのだ……」
ようやく動きを取り戻した雷音が、ぎこちなく問いかける。
「つまり……どういうこと?」
「要するに――あの子は、最強の人類を生み出そうとした“副産物”だ。そして私もまた、最強の戦闘生物として造られた存在」
神羅が慎重に確認する。
「Dr.ファウスト……あなた、本人ですか?」
「……我はDr.ファウストにして、Dr.ファウストにあらず」
その言葉と同時に、彼の身体が膨れ上がる。
灰色の鱗、どこまでも不気味な形状――ほんの一瞬、“怪物”の姿へと変貌した。
そしてすぐ、何事もなかったかのように元の姿へ戻る。
獅鳳、キース、雷音――生粋の戦闘者である三人は、その刹那の異形を見ただけで、肌に焼きついた。
“本能”が告げていた。
――この怪物には、絶対に勝てない。
神羅が唾を飲み込み、再び問う。
「……戦うために生まれた? それが、あなたの意志なんですか?」
「そうだ。我は生まれた瞬間から、破壊と殺戮を目的に造られた存在」
「…………それで、いいんですか?」
ファウストは、しばし思考するかのように目を伏せた。
「正直、どうでもいい。だが――」
再び顔を上げ、かすかに笑みを浮かべて言った。
「もし、乂阿烈と相まみえる機会があるのなら。“最強”の座を賭けて、戦ってみるのも悪くない」
神羅が口元を緩め、苦笑を浮かべる。
「ま、まあ……その話はまた今度にしましょうか」
そして続けた。
「そういえば、フレアさんの古い写真にあなたが写っていました。あれは本来のファウスト博士ですか? それとも今のあなたですか?」
「ああ、無論後者だ。フレアの両親も、私の正体には気づいていなかった。特に支障もないので、そのまま保護者として生活を続けている」
「じゃあ……何故、クトゥルフ教団に力を貸してるんですか? フレアちゃんのご両親の仇じゃ……?」
その問いに、ファウストは静かに服の胸元をはだける。
現れたのは――
次元を超えた“闇”。
その深淵には、無数の人間と異形たちの断片が、今なお“生きたまま”蠢いていた。
「フレアの両親を殺した関係者は、もう喰った。生きたまま、な」
「た、助けて……」
「殺してくれ……」
「許して……ごめんなさい……」
深淵の内側から、断末魔が響く。
一同、凍りつく。アキンドとイポスはその場で泡を吹いて気絶した。
「……レッドに聞いたら、これ見せたらトラウマになるって止められてな。だが、お前たちはどう思う?」
意外にも最初に答えたのはレイミだった。青ざめた顔で、必死に声を振り絞る。
「……レ、レッドキクロプスさんの言う通りだと思います! あの方はフレアさんの兄も同然だし、彼の判断が正しいかと……!」
彼女は続ける。
「それより、今は他にすべきことが……例えば、カルマストラ二世を止める方法とか!」
「それだ!」
雷音が食いつくように叫ぶ。
「今あいつを止めなきゃ、また多くの人が……! あいつはクトゥルフを復活させようとしてるんだ!」
獅鳳も拳を握りしめる。
「でも、俺たちじゃ勝てねえよ……!」
「諦めんのか!?」
珍しく声を荒らげる雷音。
アクアが一歩進み出て、静かに言う。
「雷音くん、気持ちはわかる。でも焦らないで。……まずは冷静になろう? 私たちだけじゃ無理だし、みんなで協力すべきだよ」
雷音はしばらく黙っていたが、やがて頷いた。
「……すまん。ありがとう。俺、カッとなってた……」
「気にすんな。俺も同じ気持ちだ」
獅鳳が笑い、雷音の肩を軽く叩いた。
だが、そんな彼らに対してファウストは――静かに、告げた。
「君たちには残念だが……私は、クトゥルフには復活してもらいたい」
「………………は?」
全員が一斉に彼を見た。
ファウストは、あの“無感情の笑み”を浮かべながら語る。
「私は戦闘生物。あらゆる存在を喰らい、その特性を取り込み、進化する。既にドラゴン、巨人、旧支配者、外なる神すらも喰らってきた。だが……飽きた」
「次は“クトゥルフ”を喰らいたい」
「復活した完全体を、美味しくいただく。それが私の目的だ」
雷音も神羅も、その狂気に気づく。
――このDr.ファウスト。
この“怪物”こそが、乂阿烈のコピー計画の“成功例”なのではないか、と。
違いがあるとすれば、それが一応人間か、それとも人間の姿をした“災厄”か――それだけだ。
はたしてナイン族やタイラント族は知っているのか?
自分たちが蘇らせようとしている邪神が、ただの“餌”に過ぎないことを――
「と、とりあえず……この話は保留ってことで……」
獅鳳が震える声でまとめようとする。
「どのみち、今の俺たちじゃファウストには勝てねぇしな」
「そ、そうね……」
「ラスボスどころじゃねぇ……ゲームでいうなら絶対勝てない隠しボス……!」
その時。
ファウストの携帯が鳴る。
「……ああ。了解した。すぐ向かう」
「どうしたの?」
「ロキ・ローゲからの連絡だ。イブが我々の要求を受け入れた。封獣モビーディックラーケンに囚われていたイサカの魂は解放され、君たちは――」
「解放されることになった」
その言葉に、誰もがようやく安堵のため息を漏らした。
だが――
彼らはまだ知らなかった。
その背後に、さらなる混沌と絶望が待ち構えていることを。
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