乂阿戦記2 第ニ章 翠の勇者龍獅鳳と九闘竜の魔人達-5 紅き騎士レッドキクロプス
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皆が振り返る。そこに立っていたのは、闇を裂くように現れた“紅の仮面の剣士”だった。
一同が瞬時に身構える。しかし彼は、無言のまま武器を床へと静かに下ろす。敵意がないことを、沈黙と所作で示すその姿に、空気がわずかに緩んだ。
「俺の名は――レッドキクロプス。九闘竜No.5だ。だが、今は戦うつもりはない」
仮面越しの声は低く、だが誠実だった。
「仮面は……事情あって外せぬが、すまない。少しだけ、俺の話を聞いてほしい」
そう言って彼は、深々と頭を下げた。
そして――
「正確には、俺の話ではない。これは“あの子”のことだ。……フレア・スカーレットの話だ」
その名を聞いた瞬間、場の空気が張り詰める。
王子・獅鳳、姫・ユキル、そしてクラスメイトたちの視線が、一斉に仮面の男へと注がれた。
「まず、誤解だけは解かせてほしい。今回の誘拐作戦に、彼女は一切関与していない。粗野で不器用な奴だが、学友に危害を加えるような人間じゃない。……そして、九闘竜No.7という立場も仮初に過ぎない。彼女は――真の意味で教団の一員ではないんだ」
「……仮初?」とユキルが問い返す。
「そう。彼女は“復讐”のためだけに、今は教団に身を置いている。それだけの話だ」
彼の視線が、まっすぐユキルに注がれる。
「……君のことは知っている。異世界スラルから召喚された、伝説の魔法女神ユキルの転生体。その君がここにいるとは驚いたが、今はそれよりも重要な話がある。これは――他言無用で頼む」
レッドキクロプスの語りが、ゆっくりと始まった。
⸻
「かつてこの世界は、創造神アザトース……その眷属たる邪神たちによって滅ぼされかけた。人類を守るため、神々は“旧神”を名乗って団結し、その最強戦力《破壊神ウィーデル・ソウル》を筆頭に、抗戦へと踏み出した」
その神々の戦争――『ラグナロク』。
多くの邪神は封印されたが、すべてが終わったわけではなかった。一部の邪神は逃れ、地球に潜伏。今も力を蓄え、着々と暗躍を始めている。
「クトゥルフ、ハスター、ナイアルラトホテップ、クトゥグァ……“四大霊”と呼ばれる邪神たちの一柱が、今も地球に棲みついている」
「クトゥルフを復活させて……教団は何を企んでいるの?」
雷音が問う。
赤き仮面の剣士は、静かに答える。
「理由はただ一つ。支配圏の拡大だ。無名都市、インスマウス……世界中の陰で、奴らの支配が静かに広がっている。そしてその裏では、フレアのような人間が犠牲になっているんだ」
「……どういう意味?」ユキルが声を潜める。
「フレアは――幼い頃、家族を“深き者ども”に殺された。声も出せず、タンスの隙間から……叫びと血飛沫を見ていたんだ」
その言葉が、場を凍りつかせた。
「それ以来、彼女は復讐のためだけに生きてきた。教団に潜り込み、自らの手で血の贖いを果たすと、誓ってな」
その時、アクアがぽつりと呟く。
「……わかるよ。私も、戦争で母を失った。だから、彼女の気持ち、少しだけ……わかる」
⸻
「一つだけ、訊いてもいいですか?」
今度はレイミが口を開いた。
「九闘竜って、皆人間に見えるのに……どうしてクトゥルー教団に?」
「ああ、それはナイン族の命令だ。誤解されがちだが、九闘竜は“信者”じゃない。選抜された精鋭による、特殊任務チームに過ぎん」
「……目的は?」ユキルがさらに問う。
「――イサカ・アルビナスの復活。それが俺たち九闘竜の任務だ」
その名を聞いた瞬間、雷音の背筋が粟立った。
“イサカ”――水色の魔法女神。
だがその名の裏には、想像を絶する過去があった。
かつてアフリカの地では、アルビノの人々が“呪術に使える”とされ、狩られていた。
彼女――イサカもまた、その犠牲者だった。
祈ることすら許されない絶望の中、切断され、捨てられ、名もなく死にかけた彼女を拾ったのは――オリンポスの海王神ノーデンス。
九死に一生を得た彼女は、やがて魔法少女として強大な力を得るが……人への絶望は消えず、初代エクリプス封印後に復讐鬼へと変貌した。
イサカは、アルビノ狩りに関わった人間たちを異世界スラルに拉致。
四肢を切断し、奴隷として飼い殺し、哀願の果てに嬲り殺した――と、語り継がれている。
だが、そんな彼女を止めた者がいた。
恋人でもあった女神国の聖王イルス。
彼は彼女の狂気を封じ、永き眠りへと導いたのだ。
その後、イサカはスラルにて“復讐の女神”として信仰されるようになった。
「――ナイン族は、何のために彼女を復活させようとしてるの?」
ユキルの問いに、レッドキクロプスはわずかに言葉を詰まらせる。
「……ここから先は、取引次第だ。俺にも守秘義務がある」
「取引?」と神羅。
「学校で――フレアに、普通に接してやってほしい。それだけでいい」
「……わかったわ」ユキルが頷く。
「私たち、友達ですから!」とレイミが笑う。
「つーか、フレアちゃんだけハブにする流れとか無理あるし」と雷音。
「レッドキクロプスさんとフレアさんって、どういう関係なんですか?」
アクアが尋ねる。
「昔、孤児だった俺を……あいつの両親が拾ってくれてな。家族も同然だった。妹みたいなもんだ」
「え、妹!?じゃあ恋人とかじゃないんだよね!?」
なぜか慌てるイポスに、赤い騎士は苦笑交じりに応える。
「あいつとは腐れ縁だよ」
「その家族になったのって……いつ頃?」今度はユキル。
「八年前。あいつが四歳の時からずっと一緒にいる」
「つまり、お前はロリコンってことか!?」
「………」
仮面の奥から放たれた冷たい沈黙。
アキンドが即座に土下座したのは言うまでもない。
「調子こいてすんませんでしたああた!!」
だがレッドキクロプスの声音は、どこか鋭かった。
「お前たちは……本当に聞きたい情報はそれでいいのか? ドアダの王族として、連邦のHERO候補生として――もっと重要なことがあるはずだ」
「確かに」と雷音が姿勢を正す。
「ナイン族の目論見――イサカ復活の真意を教えてくれ」
「……今回の“復活”を主導しているのは、カルマストラ二世という男だ」
その名に、空気が震えた。
「奴は、タイラント族の実質的支配者。奈落迷宮から神器を提供する代わりに、ナイン族に戦力を要求してきた。イサカの力があれば、クトゥルフを召喚するだけでなく、支配下に置ける――そう言ってな」
「嘘か本当かはわからんがな」と付け足す仮面の剣士。
だが、その名に誰よりも反応したのはレイミだった。
「……そんな……今回の黒幕が、カルマストラ叔父さんだなんて」
「えっ!?」と神羅が驚愕する。
「叔父さんって……?」
「私の本名は、レイミ・カルマストラ。父の名は、セドゲンス・カルマストラ」
「英雄セドゲンス!?」雷音が叫ぶ。
――彼は知略も腕力もない、ただ“心ある者”だった。
かつてカルマストラ三世が捕虜の女子供を奴隷として売ろうとした時、彼は叔父という立場を利用して救い出した。
その中には、雷音たちの仲間――鵺の姿もあった。
それが縁で、セドゲンスはジャムガと義兄弟の契りを交わしたという。
「……父は、母と私を守るために地球に逃れ、ジャムガ様に助けられた。カルマストラ三世が亡くなった後、また地球に戻ってきて……今、私はヒーロー候補生としてここにいる」
雷音は静かに頷いた。
(……ってことは、じいやの孫ってことか。ずっと前から――運命で、繋がってたのかもな……)
そう思った瞬間、不思議な微笑が浮かぶ。
神羅もまた、同じように笑っていた。
それは偶然ではない。
歴史と血脈が編み上げた、名もなき奇跡だった。
――彼らの胸に宿ったのは、“時空を超えた奇縁という名の誇り”だった。
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