乂阿戦記2 第ニ章 翠の勇者龍獅鳳と九闘竜の魔人達-4 復讐に生きる少女フレア・スカーレット
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
今話は、狂戦士“乂阿烈”vs邪神ナイアルラトホテップの超次元バトル! 雷音の覚醒、羅漢の変身、兄弟喧嘩の行方は――!?
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セトアザスから奪った鍵を使って皆は部屋から出る。
ここはどうやら何かの施設のようだった。
壁や床は金属でできているようだが、全体的に錆び付いている。
所々に蜘蛛の巣や埃、そして得体の知れない染みのようなものがあった。
「うーむ、まるで廃墟だな……ここは一体何なんだ?」
「多分だけど海底都市イハ=ントレイかも知れません……」
雷音の疑問に答えたのは神楽坂レイミだった。
「ほら、あそこに巨大な穴が空いてますよ。あそこから外が見えますが魚が泳いでます。それも深海魚です。そこから見える景色から判断するに、ここが地球のどこかの海の底だってことはわかります。地球には深き者どもが根城にしている海底都市があると銀河連邦警察本部で教わりました。その名をイハ=ントレイと言います。かつて古代文明が存在していたアトランティス大陸と共に沈んだと言われる伝説の都ですよ」
「じゃあやっぱりここはクトゥルー教の神殿なのか!?」
「はい、間違いありません」
私達は今、古代の遺跡の中にいるんだ……! それはわかったけれど一体誰が何のためにこんな所に……? まさかまた神様とか? いや、さすがに違うか……
とにかく今は先に進まなきゃ始まらないわね。
そう思って一歩踏み出した時だった。
『ウオオオオオオオオォォォ!!』
突然大きな雄叫びが聞こえたかと思うと、何かがこちらに突進してきた!
「うわっ!?何だありゃあ!?」
その正体は黒い鎧を着た触手の塊であった。
黒い塊――否、“それ”はもはや生物ですらなかった。
煤けた鎧を纏い、生気を吸い尽くされたかのようなその躰には、禍々しい呪術の刻印が浮かんでいる。
全身から生える無数の触手が、剣や斧、槍といった武器を携えて蠢いていた。
その中心に、ただひとつ、赤い単眼だけが爛々と輝いていた。感情も言葉も通さない、“監視者”のような冷たさがあった。
それが、静かに、だが確実にこちらへと迫ってくる。
もしかしてあれがこの施設のボスかしら?
「おいおいおい!何だよあれは!」
「恐らく奴等がここを守っている番人だろうよ」
そう言って前に出たのはキースだった。
彼は拳を構えた。
「お前達は下がってろ!こいつは俺がやる!」
「ちょ、キースさん!?」
レイミが止めようとする間もなくキースは黒い塊に向かって駆け出す。
そして高く飛び上がると渾身の一撃を繰り出そうとした。
だがその瞬間、奴は素早く動いて攻撃を避けたのだった。
まるで攻撃を予測してたかのように……
すると今度は大量の触手が伸びて襲い掛かってきたのだ!
「うわあああぁぁ!!」
悲鳴を上げて倒れるキースを見て、皆戦慄した……!
「こいつ強いぞ……!」
「なんて奴だ……」
するとその時、不意に後ろから声がした。
「おいお前ら伏せろ!」
振り向くとそこには赤いマントを羽織った金髪ポニーテールの少女が立っていた。
「はああああああッ!!!」
紅蓮のマントを翻し、炎のように揺れる金髪を風に散らせて――彼女は駆けた。
火花を撒き、空間を切り裂く音を立てて、黒き触手の魔物に向かって飛翔する。
炎の槍が――唸る。
ドガアァァァアアアアン!!!
炸裂する火光。蒼黒の肉体が抉れ、空洞が刻まれる。
その巨体にぽっかりと空いた穴。その中心から溶け崩れていく。
彼女はそのまま、触手に捕らえられていたキースの腕を掴んで引き抜き、華麗に回転しながら地面へと着地した。
「おい、坊主。大丈夫か!?」
「……ああ。平気、だよ……」
キースの息は荒く、だがその顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
見上げたその先には、怒りと優しさが同居した、焔のような眼差し。
その眼差しに、誰もが圧倒されていた。
敵を撃破したはずなのに、仲間を助け出したはずなのに――
そこに立つ彼女の姿は、まるで英雄譚の一幕のようだった。
「……すげぇ……」
呆然と、誰かが呟いた。
黒き怪物は、ドロドロと溶けて消える。
残されたのは、地に突き刺さった炎の槍と、助け出されたキースと、なおも彼の無事を気遣うフレアの姿だけだった。
みんなは口々に言った。
「え?アレってウチのクラスのフレアちゃんだよな?」
アキンドが首を傾げる。
「かっこいいー!」
イポスが両手を組んで熱い視線をフレアに送る。
「あいつがなんでここに?」
アクアが訝しげにフレアを睨め付ける。
「フレアさん私達が誰か気づいてないみたいですよ」
レイミがフレアに自分達の事を知らせようとしたとき獅鳳が肩を掴みそれを止めた。
「待ってレイミさん。フレアさんには悪いけどまだ僕らの正体を明かすべきではないと思う。ひょっとしたら、フレアさんは教団の関係者かもしれない。ここは彼女が敵か味方か判明してから正体を明かすべきだよ。」
獅鳳の言い分はもっともだったが、神羅は胸がチクリと痛んだ。
彼女が自分の危険もかえりみず果敢に子供を助け、本気で子供が怪我をしてないか心配する優しい子だからである……
「お前ら何処から迷い込んできたんだ?ここはファウスト博士が実験兵器を観測するバトルエリアだぞ!?姉ちゃんが元いた所まで連れて行ってあげるからどこから来たか教えな!名前はなんて言うんだ?」
「……えっと、俺は神威、こっちは妹のユッキーナだ。」
雷音は咄嗟に偽名を使った。
「そうか、神威とユッキーナって言うのか……ん?なんかどっかで聞いた事のある名前だな……」
まずい!!気づかれたか? 焦る神羅達を尻目にフレアは頭を捻っていた。
「うーん思い出せない。って、それよりお前たちみんな怪我してるじゃないか!?治療してあげるから、あたしの部屋に来い!!傷口にばい菌が入ったら大変だ!!あと風呂にも入れてやる!!」
そう言ってフレアは傷の深いキースとアクアの二人を抱え上げ、走り出した。
突然の事に二人は抵抗する暇もなく連れ去られたのだった。
その後、彼らフレアの個室に連れていかれ傷の治療を受けた。
フレアの部屋の壁には子供向けのポスター、棚には少女趣味のぬいぐるみや雑貨が並ぶ。
微かにシャンプーの甘い香りが漂い、ぬいぐるみの毛並みはふわふわで――戦場で見せた鋼のような彼女の姿とは、まるで正反対の柔らかい空間だった。
二人が包帯を巻いてもらい治療を終えた時だった。
フレアの携帯が鳴った。
着信を見ると相手はドクターファウストと言う名前らしい。
「もしもしファウスト博士どうしたの?……うん、わかったすぐ行く!」
電話を切るとフレアは言った。
「博士が呼んでるから行かなきゃ!しばらくここでじっとしてろよ!お風呂とか勝手に使ってもいいからな!みんなちゃんと家に帰してあげるから!」
それだけ言うとフレアは慌てて部屋を飛び出していったのだ。
残された皆は顔を見合わせた。
「あ、あの子フレアちゃんで間違いないよね?」まず神羅
「学校じゃ考えられないくらいメッチャいい子なんだけど……」次に雷音
「め、女神…フレアたんマジ女神…」続いてイポス
「あんないい子がどうして学校で騒動ばっか起こすんだ?」アクア
「……正直彼女を疑った自分が恥ずかしい」獅鳳
「あいつにゃ借りが出来ちまったな。いつかきちんと礼をするぜ」キース
「いっそのことフレアちゃんに事情を説明して脱出を助けてもらうか?」アキンド
「あれ?あそこのボードに写真が貼ってあるけど彼女の家族写真かしら?」
皆はレイミが指差すほうを一斉に見た。
そこには五人の男女が写った写真があった。
真ん中には今より幼い感じのフレアが満面の笑みを浮かべてピースサインをしている姿がある。そして両脇には彼女に似た美しい女性と優しそうな男性が写っている。そしてその前には彼女に似た2歳くらいの妹らしき小さな子が座ってピースサインをしていた。
1番後ろに50代くらいの背丈2メートル以上の体格のいい巌のような男が無表情に立っている。
彼女の祖父のようだ。
「うわー綺麗な人達だね~」神羅が言った。
確かに整った顔立ちの美男美女だった。
しかも全員優しい顔をしている。
きっと彼女の人柄の良さはこの人たち譲りなのだろうと誰もが思った。
そして、そんな彼女がなぜあの魔法学園では孤立していたのか――誰もがその謎に思いを巡らせた。
この一家が笑いあって暮らす日常が、フレアの心にどれほど残っているのだろうか――そんな想像が胸をよぎった。




