乂阿戦記2 第ニ章 翠の勇者龍獅鳳と九闘竜の魔人達-2 剣の鬼神"胡蝶蜂剣"パピリオ
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
脱出をもくろむ雷音達の前に伝説の剣神が立ち塞がる!
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目を覚ました時、そこは深き奈落だった。
天井の高い空洞。岩肌は黒曜石のように滑らかで冷たく、辺りには緑に輝く磷光が淡く灯っている。空気には鉄の匂いと――血の気配。
その中央。魔法陣が浮かぶ祭壇の上に、禍々しい装飾を施した黒石の柱が屹立していた。まるでこの空間そのものが、何かを“捧げる”ために穿たれた巣穴のようだった。
「……なんだ、ここは……?」
雷音が呟く。声が岩壁に反響し、不吉な囁きのように戻ってくる。
そして。
その周囲に佇む者たち――人の皮をかぶった異形の影どもが、口々に悍ましい呪文を唱えていた。
「フングルイ ムグルウナフ クトゥルフ ルルイエ ウガ=ナグル フタグン……」
それは言語というより“世界の法則を狂わせる記号”だった。聞く者の心を削り、魂の奥底に爪を立てる異音。
そして、その中心。群れの前に立つ、妖しげな影が一歩を踏み出す。
派手な化粧に、赤のアイシャドウが濃く引かれた双眸。艶やかな口紅が笑みを刻む。首筋には宝石のようなイヤリングが揺れ、五彩の布をまとう細身の体は妙に優美で、しかしどこか生理的嫌悪を催す曲線を描いていた。
その男は――否、その“魔”は、甘く艶めかしい野太い声で告げた。
「ようこそ、勇者様方。歓迎するわ……九闘竜、No.3《胡蝶蜂剣》パピリオと申します」
名乗りと同時に、周囲の異形たちが一斉に跪いた。
だが、彼の目は一人を真っ直ぐに見据えていた。
「ふふ……特に“あなた”にお会いしたかったのよ。翠の勇者、龍獅鳳くん――」
その瞳には、欲望と狂気と、そして執着が宿っていた。
「お前の目的は……何だ?」
獅鳳が睨みつける。全身から緊張が滲み出ている。
パピリオは肩をすくめ、艶やかにウィンクした。
「んまぁ、難しい顔しちゃって。目的なんてひとつしかないでしょ?**我らが主、クトゥルフ様の御復活。**そして、我らが“恋人”イブ・バーストエラーちゃんの確保よん」
そして、笑みのままに続ける。
「そのために――あなた、龍獅鳳くんの“身柄”が必要なの。あの子、あなたのこと大切に思ってるでしょ?だったら、あなたを人質にすれば自然と“彼女”も寄ってくる……ね? ふふ、実に合理的でしょ?」
あまりの一方的な“取引”に、誰もが言葉を失う。
「……ふざけんなよ!」
怒声と共に、獅鳳が半歩踏み出した。
だが、その刹那――
「すーべすべすべ、滑り草!!」
イポスの叫びが響いた。
彼が地面に手をかざすと、灰色の草――否、視覚的に“滑り”をもたらす能力が走った。
その瞬間。
雷音たちを捕縛していた“触手”が、するりとほどけて宙に躍る。
獅鳳、雷音、神羅、アクア、キース――全員が即座に立ち上がり、戦闘態勢を取る。
そして――
「顕現せよ! 魔剣クトゥグァの力! 変神ッ!!」
轟く雷音の声と共に、赤い焔が身体を包む。魔剣クトゥグァがその手に現れ、赤の勇者が降臨する。
「顕現せよ! 雷杖ドゥラグラグナの力! 変神ッ!!」
獅鳳もまた雷を纏い、翠の勇者として覚醒する。
「顕現せよ! 聖弓ユグドラシルの力! 変神ッ!!」
神羅が弓を、アクアとレイミが魔法衣を纏い、そしてキースが叫ぶ。
「ムガガガガ!決闘開始だ、オラァ!!」
八人の勇者たちが並び立った。
その姿に対し、空洞を埋め尽くす異形の軍勢――深き者どもが唸り声を上げる。
半魚人に似た醜悪な姿の邪神の眷属たちが、呪文と共に一斉に襲いかかる。
「……行くぞ」
雷音が、魔剣を構えた。
次の瞬間、紅蓮の爆炎が深き者どもを焼き払った。
魔剣クトゥグァが唸りを上げ、空洞を紅蓮の奔流が呑み込んだ。
炎は咆哮となり、深き者どもを溶かし尽くす。
焼けた肉と鱗の悪臭が漂う中、焔の奥から歩み出たのは――
まさに“炎の勇者”雷音、生ける火竜の如く。
だが。
「まだ来るぞ、気を抜くな!」
そう叫んだのは獅鳳だった。
今度は、空間の奥から無数の触手を持つタコ型の深き者どもが姿を現す。その全てが軟体質の粘液を滴らせ、奇怪な眼球が脈動していた。
「ドゥラグラグナ!出力、最大だ!」
獅鳳が掲げた雷杖が放電する。青白い雷鳴が空間を走り、タコ型の群れを一斉に感電させる。
バチバチと空洞に閃光が走り、魔物たちの断末魔がこだまする。
「くっ、まだ足りないか……!」
獅鳳が呻く。
その背後で、強烈な声が響く。
「ムガガガガ! 大丈夫だ、今行くぞおぉ!!」
蛮童熹助――キースが地響きとともに突撃してきた。身長180センチ、筋骨隆々の肉体を活かした、まさに“生ける暴風”。
「どっりゃあああああああッ!!!」
タコ型の魔物を一体ずつ引きちぎり、蹴り飛ばし、抱えて叩きつけていく。その巨体の下で深き者どもは無惨に砕け散る。
火と雷と肉弾の三重奏が、戦場を支配する。
空を裂くピラニアの群れが飛翔する。
「“水牙・乱牙陣”!!」
アクアが放ったそれは、水から錬成された数十のピラニア型魔法獣。敵に食らいつき、引き裂き、喰らい尽くす。
「邪魔よ、下がりなさい!」
レイミはその隙を突き、敵に魔糸を纏わせる。
彼女の指がひとつ弾けるたび、敵の体が締め付けられ、動きを止めていく。
「……敵の数、多すぎ。火力が欲しいわ」
「なら任せとけぇ!! アポート!!」
アキンドが叫ぶ。
彼の能力は、“視認できるものを瞬時に引き寄せる”テレポーテーションの応用。
敵の手に握られた武器を、空間を超えて奪い取る。
「へっ、もらったぜ!あばよ、バカ触手!!」
武器を奪われた異形たちは困惑し、そこにイポスが追い打ちをかける。
「すーべすべすべ、滑り草ッ!」
床が異様な粘性と滑りを帯び、敵が足を取られて転倒していく。
彼の能力は摩擦力の無効化。つまり、戦場の支配者は“地面”を操る者である。
勇者たち八人は、初陣とは思えぬ見事な連携で、深き者どもを圧倒した。
学校の喧嘩騒ぎで鍛えた“実戦慣れ”が、ここに来て活きている。
爆発音、雷鳴、骨の砕ける音。
やがて、闇に充ちていた異形の群れは、灰と血と肉片へと変わり果てた。
そして――
空洞の中央に、たったひとり、パピリオが残された。
その紅い唇が、妖しく微笑を描く。
「いやん♪ あなた達、思った以上にやるじゃない♪」
パピリオは、挑むように――舐めるように――雷音、獅鳳、アキンド、イポスの顔を順に見渡す。
「しかも、揃いも揃って可愛い顔立ちじゃないの。もうアタシ、テンション上がっちゃうわ~……♪」
その目は、美少年を狩る捕食者のものだった。
一歩。
また一歩。
艶やかに、舞うように歩み寄る。
「お、おい……なんかやべぇぞ……」
アキンドが低く呟く。
彼とイポスは“本能的嫌悪”を。
雷音と獅鳳は“戦士としての直感”を覚えた。
この男――いや、この怪物は、強い。尋常ではない。
次の瞬間。
パピリオは、両腰の剣を抜いた。
――来る。
雷音たちは本能で悟った。
神羅、獅鳳、雷音、キース。
四人の主戦力が、反射的に左右へ跳び、回避行動を取る。
しかし。
反応が、一歩遅れた者がいた。
「え……?」
レイミ。
彼女は僅かに硬直していた。
「――危ないッ!!」
アクアが疾風のように走った。
レイミを突き飛ばした直後、空間が――裂けた。
空気が“切断される音”が響く。
シュパァァッ……!
その軌跡は、まるで死そのものが走ったようだった。
斬撃の軌道が、空間を裂いた。
レイミは無事だった――が。
「ッ――あああああっ!!!」
アクアの太腿が裂けた。赤い鮮血が空中を舞い、床に点々と音を立てて落ちていく。
「アクア!!」
神羅が駆け寄る。手のひらに光が宿り、治癒術が発動する。
傷が塞がり、痛みに震えるアクアの顔に、微かな安堵の色が戻った。
「ありがとう神羅ちゃん……」
アクアは再び立ち上がり水で錬成した剣を構えた。
アクアだけではない、他の3人も再び臨戦態勢を取る。
「あらぁ?アナタ達はいいのぉ?そこの可愛い子ちゃんはもう限界みたいよぉ♪」
「くっ……!」
パピリオの言う通り、既にレイミは肩で息をしておりこれ以上の戦闘は不可能に見えた。
先程の深き者どもとの戦いでだいぶ疲労していたらしい。
その時、アキンドはあることに気づいた。
「……相手が剣士なら剣を取り上げちまえばいいんだ!」
そう言うと彼は手を構え、お得意のアポート能力を発動する。
「うおおおおおおおおおおおお!敵の武器ゲットだぜ!!」
即座に無手となったパピリオにアクアが水の剣で切りかかる。
その一撃はまさに電光石火と呼ぶに相応しい速さだった。
だがしかし、この男はアクアの手首を掴み彼女の一撃をあっさりと止めたのである。
しかも片手で。
すると今度は逆にパピリオの方が動き出した。
まるで舞を踊るかのような軽やかな動きで攻撃をかわしながら反撃に転じていく。
その動きは明らかに素人とは思えないものだった。
一見奇抜なオカマに見えてこの剣士は相当の実力者のようだ。
だが、それはこちらも同じ事である。
雷音は炎の魔剣クトゥグァを抜き放ちパピリオに向かっていった。
「うおおおおっ!!!」
雷音が振り下ろした炎の魔剣クトゥグァをパピリオはまたしても素手で受け止めたのだった。
否、剣を持つ手首を掴んだという方が正確だろう。
ボコンと音がして雷音とアクアが武器を落とす。
手首の骨を外されたのだ!
「うっ……ぐっ……」
痛みのあまり声も出ない雷音だったが、それでも戦意を失わずに立ち上がる。
地面に外れた拳を添え、ボコンと強引に外れた骨をはめなおす。
そして魔剣クトゥグァを拾い上げた。
「あらあらぁ♪すごいわぁ~ん♡」
余裕たっぷりに拍手をするパピリオだったが次の瞬間には表情が一変する。
「けどもう流石に降参しなさい。実力差はわかったはず……子供を痛めつけるのは趣味じゃないの……」
パピリオの予想外の強さにアキンド、イポス、レイミ、アクアは半ば戦意を喪失していた。
だが残る雷音、獅鳳、神羅、キースの闘志溢れる面構えを見た時パピリオは考えをあらためた。
「……そう、あなた達は幼くても戦士なのね?ならば剣士として礼を尽くしましょう!」
無手の剣士パピリオは凄まじいスピードで獅鳳に突っ込んできたかと思うとそのまま強烈な蹴りを放つ。
間一髪でかわすことに成功したかに見えたが、なんと避けたと思った胴体から血が吹き出したではないか!?
どうやら完全に避けきれなかったようだ。
その証拠に彼の足先は血に濡れている。
「剣士から剣を取り上げたら勝てるだなんて思わないことね。今のはほんの小手調べよ?」
神羅は思わず叫んだ。
「獅鳳くん!!大丈夫!?」
「ああ、これくらいなんともない!」
強がってはいるが傷は決して浅くはない。
それを証拠に彼は膝をついてしまっているのだから。
だがそんな状況にもかかわらずパピリオは攻撃の手を休めない。
今度は雷音に掌底で殴りかかってきた。
咄嗟にガードするが衝撃までは殺せないらしく後方へ吹き飛ばされてしまう。
そこへすかさず追撃をかけるパピリオだが、それは失敗に終わることになる。
何故なら背後から音もなく羽交締めされたからだ。
羽交締めしているのはキース。
そのすぐそばにアキンドがいる。
なるほどキースのすぐ近くに駆け寄ったアキンドが待ち構えるキースのすぐ近くにパピリオをアポートさせたというわけだ。
キースの剛力は強力でパピリオの力を持ってしても振りほどけない。
「んもう!筋肉マッチョはアタシの趣味じゃないの!!」
パピリオを拘束をほどくべくエゲツない抵抗をする。
踵で足のつま先を潰し、後頭部の頭突きで鼻っ面を潰す。
「ムガガガガ!!どうした!?んなもんかウラァッ!!!」
だがキースは力を一向に緩めない。
逆にギリギリとパピリオを締め付ける。
「ふん、やるじゃない!アンタみたいなタイプがアタシは1番苦手よ!!」
ガコ、ガコ、ガコ!
パピリオの身体中から骨が外れる音が聞こえ、パピリオは蛇のようにキースの拘束から抜け出した。
ガコ、ガコ、ガコ!
パピリオが軽く自分の身体を捻ると彼の外れた間接が元通りになる。
「カアアアアアアアア!!」
裂帛の咆哮をあげ、パピリオが中指一本拳を握りキースの身体を打つ。
狙った箇所は全て間接
ガコ、ガコ、ガコ!……
キースの身体中から異音が鳴る。
関節が、次々と外れていく。
そして、最後の咆哮も届かぬまま――
彼は、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
だが――
「ぬうッ!?」
パピリオの足首に、鋭い痛み。
噛みついていた。
気を失いながら、最後の意地で肉を食いちぎる。
キースの口元に、うっすらと笑みが浮かぶ。
肉を食いちぎられた足が血飛沫を上げる。
血を浴びたキースがようやく口を離すと彼はニヤリと笑い気を失った。
「ふふ、ふはははははっ!ホント、タイプじゃないけど凄かったわ貴方!!」
パピリオはキースの健闘を讃えると未だ闘志を燃やしている神羅、雷音、獅鳳をみた。
「さあ、かかってらっしゃい!」
三人の戦士達は一斉に襲い掛かるのだった。
アクアは目の前の光景に絶句した。
何故ならあの三人組がたった一人を相手に苦戦しているのだから……
アクアが加勢しようにも外れた手首が雷音みたいに上手にはめられない。
いや、それはまだいい。
問題はパピリオの方だった。
彼はキースの噛みつき以外は傷一つ負っていないのだ。
それどころか汗ひとつかいていない。
彼はまるで舞を踊るかのように華麗に戦っている。
「うふふ、どうしたの?もう終わりかしら?」
パピリオの挑発的な言葉に三人が奮起する。
三人は連携して攻撃するも全て攻撃をかわされ、まるで霞を相手にしてるようだった。
このままではいずれ押し切られてしまうだろう。
その時だ。
地面に灰色の草や蔦の様なビジョンが現れ地面を疾走する。
「行けアクア!今ならあのオカマはお前の事が見えちゃいない!」
イポスの摩擦力ゼロの能力だ。
「イポス!わかった!!」
水の魔法少女、鮫島アクア。
戦乙女のごとく、髪をなびかせて疾走する。
イポスの摩擦操作《滑り草》が、床をすべて氷面のごとき滑走路に変えていた。
その上を、アクアはまるで氷上の刃のように舞い滑り――
「……せいっ!!」
それは、炎も雷もない。
だが純粋な“守りたい”という意志が宿っていた。
パピリオの顎が跳ね上がり、初めてその体が揺らぐ。
周囲の空気が、止まった。
「……もらったぁあああ!!」
勝利を確信し、踏み込もうとした――その瞬間。
ふわり、と風が抜けた。
パピリオの身体が、まるで絹のように滑る。
体重を後方に預ける受け身。
その軌道は完璧だった。
そして――次の瞬間、アクアの首元に、彼の腕が絡みついた。
「――あら、いただくわ♪」
パピリオの手が、アクアの腕を捕らえていた。
「あっ……!?」
その瞬間、バランスを崩したアクアが、吸い込まれるように倒れ込む。
そのまま、首へ、喉元へと、腕が絡みついた。
「ふふふ……こんな寝技、できれば美少年にかけたかったんだけど――ま、仕方ないわ」
絞め技。
腕が首筋を正確に圧迫し、気道を閉ざす。
意識が、白に溶けていく。
「――アクアァアアッ!!」
神羅の絶叫が洞窟に反響する。
だが、アクアの瞳は、既に虚ろだった。
細く、小さく――消え入るように――
「……ふぅ。さて、と」
勝利者のパピリオは、満足そうに息を吐くと、ようやくアクアの喉元から腕を離した。
彼女の身体が、ぐにゃりと地に伏す。
その首に片足を乗せ、パピリオは優雅に、しかし酷薄に微笑んだ。
「は~い。ごめんなさいね、勇者さま方。人質を取るなんて姑息だってわかってるけど……仕方ないじゃない?“戦争”って、そういうものよ」
そして、口角を吊り上げ、無慈悲な通告を放つ。
「このまま続けるって言うなら、アタシも本気でやるわよ?次は、彼女の首、へし折っちゃうけど?」
静寂。
深く、重い、圧し掛かるような静寂が場を包む。
「……わかったわ。――降伏する」
雷音と獅鳳の目が、驚愕に染まる。
だが神羅の瞳に、揺れはなかった。
「これは、勇者としてではなく――仲間を守る戦士としての判断」
弓を下ろすその手は、震えていた。
それでも、彼女は前を見ていた。
その声音に、偽りはなかった。
そして。
こうして、《胡蝶蜂剣》パピリオとの戦いは、終焉を迎えた。
だが、勝負が終わったというだけで、物語が終わったわけではない。
むしろ、すべてはこれからだった――。
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