乂阿戦記1 終章 これは始まりの物語の終わりの闘い-8 邪神オード・ジ・アシュラ
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そして、戦局は整った。
雷音たち“正義の勇者団”は十人。
対するは、邪神ナイア、蛇王ナイトホテップ、そして異形の殺戮兵器アシュラ。
唯一の神域級戦力――羅刹が退いた今、天秤は音もなく傾いていた。
状況は――圧倒的に不利。
その現実を噛みしめながら、彼らは廃墟と化した闘技場の片隅に集まっていた。
⸻
「さてと、これからどうする?」
雷音の問いかけに、ミリルは即答する。
「当然、勝つしかないのだ!」
それがまるで唯一の選択肢であるかのように。
「……まあ、そうなんだけどね」
雷華が苦笑し、獅鳳が小さく吐息を漏らす。
「正直言って、勝てる気がしない」
「確かに」と、鵺も頷いた。
「なら、逃げるかい?僕はそれでもいいぜ」
肩を竦めて言うオームに、神羅が静かに首を振る。
「それはできないわ」
「どうしてだ?」雷音が問う。
神羅は瞳を伏せ、名前を呼んだ。
「……ラキシスさん、のこと。私は、知ってるよ」
その名に、雷音の表情が硬直する。
「アシュラの中には、彼女の部下たちの魂が閉じ込められている。……一人だけ、絵里洲が解放してくれた。でも、残り五人の魂は、まだナイアに囚われたままなの……」
その声は、震えていた。怒りではない。悲しみでもない。
――赦せないという感情だけが、静かに灯っていた。
「……だから、助けたい。戦わなきゃ、いけないの」
その言葉に、誰も何も言えなかった。
だが――沈黙を破ったのは、狗鬼漢児だった。
「ならば、倒すしかねぇ!!」
男は立ち上がり、拳を握る。
「見せてやろうじゃねぇか……俺たちの“意地”ってやつをよ!」
「一度、戦場に出たからにゃあ、負けねぇ! 引かねぇ! 悔やまねぇ! 振り向かねぇ!」
「“ねぇねぇづくし”のクソ意地根性、神魔の前で叩きつけてやらぁ!」
「たとえ勝ち目がなくとも、全員の力を結集すれば必ず勝機は見える!」
「無理を通せ! 道理を蹴っ飛ばせ! それが、オレたちのやり方だッ!!」
堂々たる宣言に、エドナが快活に拍手を送る。
「あはは! 流石漢児や! よう言うた! それでこそ漢や!!」
すると絵里洲が手を挙げた。
「ねえねえ、アシュラに囚われた五人の魂、まず解放した方がよくない?」
「私、鎮魂の魔法ならできるよ!」
「……賛成」
静かに声を上げたのは白水晶だった。
「棄権した私は戦えない……でも、歌は許されている。乂族に伝わる鎮魂の歌を覚えているわね?」
雷音が頷く。
「あれは、亡き戦士を眠らせる歌……いや、“戦意を鎮める魔術”だったな?」
白水晶は瞳を伏せ、頷いた。
「……この歌を、今から私が歌う。戦いが始まったら、すぐに歌って。聞いた者の魂に、微睡みが訪れるはず……アシュラの中の魂を解放する、きっかけになる」
彼女は静かに口を開いた。
⸻
♪――我ら生まれた日違えども
死す時は同じ日 同じ時
同じ場所で死なん
共に生きて 死ぬ時は
同じ墓に入り
同じ夢を見んと 誓わん――♪
⸻
神羅の記憶に、あの日の荒野が蘇る。
父が殺され、部族が裏切られ、廃墟と化した拠点。
それでもなお、離れず共にいてくれた者たち。
彼らがいなければ、自分は生きていなかった。
(……あの人たちのためにも……この戦い、負けられない)
神羅は拳を握りしめた。
「よし! じゃあ、行くぜみんな! 絶対に勝つんだ!!」
「おーっ!!」
十の声が、空に響いた。
30分の間に、闘技場は完全に修復されていた。
スパルタクスが氷の封獣を操り、廃墟と化した会場を一瞬で再建。
その氷は清冽にして硬質。まるで戦士たちの誓いを刻む石碑のようだった。
観客が戻り、歓声が高まる。
ついに――
最終決戦の幕が開く。
『さぁいよいよ7将軍親善試合も大詰めです! 桜色の魔法少女プリティ・ユキル率いるドアーダチームVS筆頭・蛇王ナイトホテップ率いる暗黒軍団! 栄光の座は、果たしてどちらに輝くのか――!?』
ユキルは笑顔で手を挙げ、仲間たちと共に門をくぐる。
その中には、声援と指示のためベンチ参加を許された白水晶の姿もあった。
ナイトホテップ側のベンチには、ピンク、オレンジ、ライトブルーの三人のサキュバス――
敗れ去った戦士たちが、今は魔女の供物として控えている。
そして――開始の合図が告げられた。
「まずは小手調べと行こうか」そう言って最初に動いたのはナイアだった。
「闇よ」ナイアの言葉に応じて漆黒の球体がいくつも出現するとそれをそのまま投げつけてきたのである。
「散開!」ナイアの言葉に反応したのは狗鬼漢児だけだった。
他の面々は突然のことに慌てて逃げ惑うしかなかったのだ。
しかし、その中で一人全く動じていない者がいた。
そう、それはもちろん狗鬼漢児である。
「えーと、羅漢がやってた技はこれをこう……」
そう言うと狗鬼は両手をだらりと下げ全身を脱力させる。
そのまま闇の玉に命中したかと思うと闇の玉は消滅させてしまったではないか!
とは言え完全には無効化できず服は弾け肌はただれてる。
それを見たナイアは忌々しそうに舌打ちをした。
「ぬう、静水合気掤勁!羅漢には遠く及ばないが貴様も使えたのか!?」
「いやいや、羅漢のあの技があまりに見事だったから俺も負けてられるかと真似しただけさ」
「一目見ただけであそこまで模倣して見せたのか!!」
しかしすぐに次の手を繰り出してきた。
今度は先程よりも大きな黒い渦を作り出したのだ!
そしてその中から無数の触手が現れ一斉に襲い掛かってきたのである!
「…やっぱ羅漢の技は俺には難易度高いな……ならこの技は……」
漢児は力強く震脚を踏み込み技を繰り出す。
『奥義爆極発勁!!』
その声とともに放たれた一撃は襲い来る触手を次々と吹き飛ばしていく。
それを見ていたナイアは思わず驚愕の声を漏らしていた。
「ば、バカな!!なぜその技を!?」
「ああ、羅刹ちゃんが使った技を参考にさせてもらったんだが?やはりまだまだ威力が足りん…拳の真髄は奥が深い…もっともっと功夫を練らねーとな」
漢児の活躍に雷音は目をキラキラさせ感動していた。
「うおお!流石正義のHEROアーレスタロス!!ヤベェ!この戦い勝てるかもしれない!!」
しかし、そんな期待を打ち砕くようにナイアは新たな一手を打ってきた。
狗鬼漢児が神域の門をくぐりつつあると確信したナイアは遊ぶ事をやめた。
この男は銀仮面やスパルタクスの域に辿りつこうとしている!
「サキュバス達よ!私を讃える歌を歌え!アシュラを最終形態に進化させる!!」
そして懐から紫猿の魔神像を取り出す。
「封獣パズスフィンクス起動!……変神!」
ナイアの詠唱に合わせサキュバス達がナイアを讃える詠唱を唱える。
「暗黒のファラオ万歳 ニャルラトテップ万歳 くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ
にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん」
そしてその言葉が紡ぎ終わると同時にナイアの仮初の貌がかわる。
貌の無い無貌だ。
ただ嗤う口と三眼だけが不気味に輝いている。
そしてオード・ジ・アシュラも変化する。
10メートルあった巨体が2メートル弱程になる。
6本の腕は2本になり左右にニンジャ刀を構えてる。
六本足の戦車と融合していた下半身は足が生え、その足で戦車を降りて地を踏みしめる。
空中に肩に顔の生えた巨大な腕が4本浮かんでいた。
それぞれに野太刀、槌、大楯、狙撃銃を構えている。
本体の色は赤と青が中途半端に混ざった悍ましい紫色。
アシュラはオームと同じ悪の特撮ヒーローの様な姿となった。
その瞬間、空気が変わった。
変神したアシュラは、全長こそ縮んだものの、圧倒的な“圧”を放っていた。
二本の足で地を踏み、肩に浮かぶ四つの巨大な武器アームが、威圧と殺意を四方に撒き散らす。
その背後、宙に浮かぶのは――ナイア。
無貌と化したその仮初の顔には、口と三眼だけが刻まれていた。
サキュバスたちが奏でるのは、死のバラード。
人骨で編まれたギターが絶望のリフを刻み、
臓腑のようなベースが不協のリズムを打つ。
ナイアが、唄う。
それは殺戮の詠唱。
愛なく、意味なく、ただ破壊のみを愉しむための“舞”。
「我は踊る。終焉の舞を……!」
空気が粘つき、魔力が凝固し、世界が狂気に染まる。
だが――
「……来いよ、ナイア。俺たちが、終わらせてやる」
雷音が歩を進める。
その背に並ぶのは、
ミリル、漢児、絵里洲、獅鳳、雷華、オーム、エドナ、鵺、神羅――
それは十の戦士の十の絆だった。
https://www.facebook.com/reel/620335580522138/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール動画




