乂阿戦記5 終章 ああ、クィン、どうして君はクィンなんだ?-14 最強魔女と黒き神父の騙しあい
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
「……フフ」
ナイ神父の顔に浮かぶ笑みは、どこか哀愁を帯びていた。
「驚いたな。私の前に立てば、常人なら五秒と持たぬというのに」
羅刹の手が震えている。だがそれは恐怖ではなく、全身の力を制御するための震えだった。
「私はただの戦士ではない」
羅刹の声は低く響いた。
「我は鬼父より授かりし闇の力を操る者……」
「ほう?……鬼父……阿烈…ではない、前世の父、巨竜王アングのことだね?」
「そうさ、お前と同じ六道魔人ケイオステュポーンのことだ」
ナイ神父が一歩前に出る。その瞬間、空間が歪んだ。
羅刹の体に刻まれた無数の傷から血が滲む。
「闇と光は表裏一体。その真理を理解せずして、力に酔いしれる愚か者ども」
羅刹は右手を天に掲げた。手のひらから漆黒の霧が湧き出し、渦を巻きながら天井へと昇っていく。
「我が名は羅刹……最強魔女ラスヴェードが生まれ変わり!」
漆黒の霧が形を変え、焼けこげたドクロのような姿を形作る。
それはかつて羅刹と共に戦場を巡り歩いた部下たちだった。
「フフ……面白い」
ナイ神父は顔をしかめた。
「だが、その程度の業で私に挑むつもりかね?」
「私には我が人生全ての闇が味方をする」
羅刹は静かに言った。
「我が戦場の絆と言うものを、あなたには理解できないだろう、神父。私の闇は、ただの力ではない。それは私自身の一部であり、そして私自身が闇そのものなのだ」
「傲慢だな。まるで闇のジャンヌダルク気取りだ」
ナイ神父は冷笑した。
「この私を相手に、そのような自己満足に浸っている暇があるのか?」
羅刹は答えず、両手を広げた。
獲物を狩る、戦いの構えだ。
「来い、神父。あなたの“喜び”を私に見せてみろ」
「喜びなど……」
ナイ神父は一瞬言葉を詰まらせた。
「私にあるのは愉悦だけだ」
羅刹が微笑む。
「それこそが、私の求める獲物だ」
夜。朽ちた書庫に月光が差し込む。
床には血の跡、壁には無数の弾痕。だが今、銃は要らない。
互いの“業”こそが武器だ。
ナイ神父。
這い寄る混沌でありながらヒトのカタチをとることに拘り、殺人嗜好の八極拳を使う無貌の神。
乂羅刹
乂族特殊部隊出身の女傑。システマの技を取り入れた大武神流を使う。
両者、無言。
呼吸のみに意志がこもる。
――開戦。
ナイ神父が先に動く。沈墜勢からの突き。
重心を落とし、全体重を拳に込めた八極拳の正拳――「崩拳」。
羅刹は一歩退くと同時に、システマ特有の柔らかな“体流し”で受け流す。
ただの回避ではない。受け流しつつ、肘がナイ神父の首筋を狙う。
だがナイ神父は笑う。
「今日のあなたは“合理”に徹しすぎる。昔のように拳に“死を楽しむ色”がない」
「……ソレは私の黒歴史だ。最近敬意ある猛者達との激闘に巡り会えてな……自分の拳の在り方について見つめ直してるところなのだ。我が兄羅漢、指輪王ロキ、聖剣の乙女ルシル、いずれ劣らぬ素晴らしき強敵達だった」
「ほう!では私もその輪に踏み込ませてもらおうか!」
ナイ神父が鋭くステップを踏み、接近戦へ持ち込む。
肩、肘、膝、すべてが打撃となりうる八極拳の猛連撃――!
羅刹の表情は微動だにしない。
まるで死地に慣れた兵士のように。
その身体は、合理を極めた兵器だ。
ナイ神父の蹴りをすり抜け、体を倒すように滑らせてから、
腹部への掌底――いや、内部を揺らす「波」のような打撃。
システマ独特の“ボディショック”。
「……っ!」
ナイ神父の口端が吊り上がる。
腹に衝撃が走ったのに、なぜか笑みがこぼれる。
「痛みすら美しい……あなたと踊れるとは、幸運だ」
拳と肘が火花を散らし、肢体が空気を切り裂く。
静寂と暴風が交互に訪れるような死闘。まるで二つの流派がこの場で神と化したかのように。
やがて、倉庫の扉が音を立てて倒れた。次の瞬間、羅刹の体が光と闇に包まれた。
それはまるで、二つの相反する力が融合したかのような、神秘的な光景だった。
しばし肉弾戦を交わした後、ナイ神父は興味深げに口角を上げた。
「では、魔術はいかがかな?……」
ナイ神父は指をパチンと鳴らした。
すると、部屋の天井に無数の黒い穴が開き、そこから漆黒の触手が降りてきた。それらは羅刹に向かって伸びていき、その体を絡め取ろうとする。
羅刹は触手を払いのけようとしたが、触手はナイ神父の動きに合わせて自在に変化し、巧みに避けながら攻撃を仕掛けてくる。
羅刹は防御に徹しながらも、触手の動きを見極めようと目を凝らした。
「無駄だよ、羅刹」
ナイ神父は微笑んだ。
「それらはただの触手ではない。君の内なる闇と同質の存在……君自身の欲望や絶望から生まれたものなのだよ」
「……なるほど」
羅刹は冷静に分析しながら言った。
「ならば、私自身と戦っているということか」
ナイ神父はニヤリと笑った。
「その通り。君の闇と私の闇……どちらが強いか、ここで決着をつけようではないか」
「面白い」
羅刹も笑みを浮かべた。
「私の闇と戦うとはな……それこそが、私の望んでいたことだ」
羅刹は灰色の魔力をこめ、手刀で触手を薙いだ。
一瞬で闇の触手が爆ぜて消える。
「ほぅ……僅か一瞬で前の自分よりパワーアップしたか……流石は最強の魔女」
ナイ神父は興味深そうに笑った。
「そのような攻撃で私を倒せると思っているのか?」
「もちろん思ってない」
羅刹の問いにナイ神父は冷静に答えた。
羅刹は冷静に答えた。
「お前の力がどれほどかは知らないが、私には己が闇を操る力がある。お前も闇を操るようだが、私の業はお前のそれとは次元が違う」
ナイ神父は口元に薄い笑みを浮かべた。
「面白い。その自信はどこから来るのだろうな?」
両者は静かに再び拳の構えを取った。
羅刹は両腕を軽く前に出し、全身の力を均等に分散させるシステマの基本姿勢。一方のナイ神父は重心を低く保ち、八極拳独特の前屈みの構えを取った。
「では見せてもらおうか」
ナイ神父が静かに言った。
「君の闇の力を」
言葉と共にナイ神父が床を蹴った。その動きは稲光のように速く、一瞬で羅刹の懐に入り込む。八極拳の基本技
「頂肘」
肘の一撃は人体の急所を的確に捉える。
羅刹はその動きを予測していた。
システマ特有の「脱力」
体を斜めに傾け、ナイ神父の攻撃を滑らかに回避。
同時に、その勢いを利用して体を反転させ、反撃の「肘打ち」を放つ。
「フッ!」
ナイ神父は最小限の動きで後方に身を引いた。
「なるほど、その動き。攻撃特化の前世と違い合気や防御をおろそかにしていない。楚項烈と同じく苦手分野もきちんと研鑽を積んだと見える……親子揃って見事な腕前だ」
「お褒めに預かり光栄ね」
羅刹が冷静に答える。
羅刹とナイ神父の戦闘は、まるで二つの異なる世界の衝突だった。
システマの流動的な動きと八極拳の強烈な打撃がぶつかり合い、それぞれのスタイルが生き生きと表現されていた。
羅刹はシステマの基本原則「脱力」を最大限に活かし、全身の力を抜いてナイ神父の攻撃に反応した。
彼女の動きは流水のように自然で予測不可能だった。
一方、ナイ神父は八極拳特有の強い腰の力を活用し、「箭疾歩」と呼ばれる瞬発的な足運びで羅刹に迫った。
彼の攻撃は直線的でありながら爆発的な力を持ち、その一撃一撃が羅刹の防御をかすめていた。
「君との戦いは本当に刺激的だな」
ナイ神父は言葉を発した。
「でも、まだ君の闇の力が本気で発揮されていないように思えるよ?あの焼け焦げた部下達の力を何故つかわない?」
「お前こそ邪神の力を何故使わない?」
「さてね?」
ナイ神父が不敵に笑みを浮かべた。
羅刹がクレーバーに探りを入れる。
「なあナイ神父? さてはお前、銀の鍵を12本全て持っているな? 同盟軍ドアダ七将軍の一人カンキルの姿が見えないんだ。お前、あの強欲な女と接触してどんな裏取引を交わした? 本当はドアダの銀の鍵を既に譲り受けているのではあるまいな?」
ナイ神父は冷笑を浮かべた。
「バレたか……彼女とは既に交渉済みさ。彼女は私に水色の銀の鍵を渡してくれた。私に協力することで時空大鍵の力を手に入れることができると思っている。だがそれは大きな間違いだ。私はただ彼女を利用するだけだ」
羅刹はその言葉を聞きながらも冷静に相手を見据えた。
「やっぱりな、あの強欲な女が時空大鍵を目の前にして大人しくしてるはずがないからな……セイからエクリプスの力を奪ったように、ユトゥグから龍麗国の王座を掻っ攫ったように、今度は時空大鍵を狙うか……」
「そうかもしれないね。あの悪女は目的の為なら手段を選ばない。君の偉大なる祖父龍道龍も彼女の強欲に巻き込まれ、革命の志半ばで散った」
「祖父の志は散ってなどいない。我が偉大なる龍麗国の革命家、大参謀龍道龍の志は、当人が死んだくらいで消える脆いものではない。強欲な女の浅はかな謀略で祖父様の理想は潰えたりしない。よく覚えておくのだな無貌の神よ!」
羅刹は毅然と言い放った。
「フ、失敬した。しかし最強の魔女たる君にそこまで言わししめるか大参謀め……。やはり死してなお恐るべき男だ龍道龍……ただ、まあ、カンキル殿をあまり悪く言ってやるなラスヴェードよ。彼女は欲しいものは何としても手に入れたい。それだけなのだよ」
「フン、メチャクチャ迷惑だ!!」
羅刹は一瞬の隙をついてナイ神父の足元に踏み込み、システマの「ストライク」を繰り出した。
しかし、ナイ神父はそれを見抜き、素早く身をかわして彼女の攻撃を回避した。
羅刹は羅漢との闘いに敗れて以降、心境の変化か、脱力を活かした技術をより熱心に修行するようになっていた。
この闘いでその修行の成果が活きていた。
羅刹はシステマの「転換」を使い、ナイ神父の攻撃をかわしつつ、彼のバランスを崩すことに成功した。
頭のスイングでナイ神父を投げ飛ばしかけたのだ。
しかし、ナイ神父もみずから力の流れに従い脱力する事で、すぐさま体勢を整えてみせる。
そしてまた八極拳の基本姿勢たる蹲歩雙伸をとるのだった。
「見事だ。だがこれで終わりではないだろう?」
ナイ神父が挑発的に尋ねた。
「もちろんだ。私はまだ全力を出しているわけじゃないわ。それに、あなたも本気を出していないでしょう?」
羅刹は微笑みながら答えた。
「そうだな。だがひょっとして君は私の力を見誤っているかもしれないよ?」
ナイ神父はそう言って拳に力を込め始めた。
その姿からは圧倒的な威圧感が漂っていた。
だが羅刹はそれには乗らない。
ナイ神父が自分を挑発し目を逸らさせ、彼が影で取り行っている儀式を完遂しようとしてることに気づいてるからだ。
わかり切ってることだが奴の真の目的は時空大鍵の復活
そして、それに伴う六道魔人の復活
故に自身の権能たる"焼け焦げた髑髏の兵達"を使い、奴が展開してるであろう魔法陣を探しているが、いまだ見つからない。
まったく狡猾でいやらしい敵だ。
羅刹はそう思うと同時に冷静に作戦を考え始めた。
二人の戦いは熾烈を極めた。
だが、いまだお互い探り合いに過ぎない。
両雄の本命はあくまで時空大鍵にある。
「さあ、続けよう。まだまだこれからだよ!」
ナイ神父が挑発的に叫んだ。
「あなたこそ、もっと本気を出してくれてもいいのよ」
羅刹は自信に満ちた笑みを浮かべて返した。
二人の戦いは再び激化していった。
彼らは互いに傷つけ合い、そして互いに知略を尽くしあった。
闇の舞踏は、まだ序章にすぎない。本当の死合いは、この先に待つ。




