乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-11 ド外道会議
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それから幾ばくかの時が流れ、狂気の余熱がようやく冷めた頃――
ドアダ本部の会議室には、重苦しい沈黙と緊張が支配していた。
出席者は六名。阿烈、ジャムガ、鵺、そして幹部三柱――ガープ、ナイトホテップ、スパルタクス。
余計な立会人はなく、黒服戦闘員数名と、給仕役のジュエルウィッチ・イブを除けば、全員が“人外の修羅”。
壁は魔封結界と古代文字で覆われ、外界から完全に遮断された密室だった。
その沈黙を裂いたのは、鵺の言葉だった。
「……まずは、雷音と雷華の帰還を認めていただき、感謝します。ですが――どうか、私たち全員を地球に帰還させていただけませんか」
場が凍りつく。
ナイトホテップが眉をわずかに動かし、スパルタクスが目を伏せ、ガープは沈黙のまま。
だが鵺は臆せず、静かに告げた。
「もちろん、手ぶらではありません。“とっておきの手土産”をご用意しました」
合図と共にジャムガが木箱を卓上に置く。開けられたその瞬間――空気が凍りついた。
中にあったのは、一つの生首。
皮膚は裂け、鼻は潰れ、眼は焦点を失ったまま半開き。
その表情には、哀願と恐怖が凍りついていた。
「ひ、ひぃぃいいいっ!!」
黒服戦闘員895号――伊藤修一は泡を吹いて倒れた。
なお彼は、数刻前にも雪男の首を見て失神している。
(……哀れな895号。当分、焼肉は無理だな)
鵺もまた、一瞬だけ視線をそらす。
だがすぐに顔を上げ、毅然と告げた。
「この男は、かつて私の仲間を殺し、私を辱めようとした者です。これは、私の復讐であり、贖いでもあります」
ナイトホテップが、記憶の奥をなぞるように呟いた。
「……思い出したぞ。タイラント族とジャガ族の間に生じたあの小競り合い。非戦闘員の避難所が襲われた……女と子供ばかりだったな。
捕らえられた者たちは、娼館に売られ、あるいは処刑され、あるいは奴隷に。
あの斥候隊の隊長の名は……そう、カルマストラ3世だったな」
鵺は無言でうなずく。その瞳に、涙はなかった。ただ燃える記憶だけがあった。
「……はい。この男が、カルマストラ3世です」
会議は、地獄の釜の蓋を開けたかのように次の段階へと進む。
阿烈が首をつまみ上げ、冷笑とともに吐き捨てる。
「ククク……ジャムガ、やってくれたな。こいつは本来なら、俺の金ヅルになるはずだったってのによ」
ナイトホテップも、内心で舌打ちを噛み殺す。
(やはり、タイラントへの援助金を吸い上げるつもりだったか)
だがジャムガは誇らしげに笑いながら言った。
「ブハハ! 悪ぃな兄弟。このタコは俺の面子に泥を塗ったんでな。ケジメだケジメ。ドアダさんよ、あんたらもホントはこの首ほしかったんじゃねえのかい?」
(悪いなぁ兄弟、ドアダの援助金とやらは俺がもらうぜ…)
阿烈は生首を投げ捨てるようにして、ゴミ箱へと放った。肉が潰れる音と共に、会議室の空気がいっそう濁る。
「まあいい。だがよく見つけたな、あの陰湿なクズを……お前、あの小狡いカルマストラの父親にでも尻尾を振ったのか?」
(…ち、まあいい!カルマストラ3世以外にも蜂起軍幹部の中には我が軍の協力者がいる。其奴等を使い巻き返す!)
「その通りよ」
ジャムガは一枚の写真をテーブルに滑らせた。そこには、カルマストラ2世と記された男の姿があった。面構えからして腹に一物ある胡散臭さが滲み出ている。
「見ろよ、あの忠臣カルマストラ1世の子や孫ってのが、これだぜ。劣化三代目ってのは、どこの時代も変わらねぇなァ?」
阿烈が吐き捨てるように言った。
ナイトホテップは火のついた煙草をくわえたまま、生首の額にそれを押し当て、火を消した。
「それにしても、だ。ジャムガ殿。えらく苦悶の表情じゃないか……拷問でもしたのか?」
「いやぁ、別に。木に吊るして放っておいただけさ。全裸でね。そしたらよ、恨みある連中が次から次へと石を投げ始めてよ。コイツ、ずっと泣きながら『殺して下さい』って叫んでたぜ。……うるせぇったらありゃしねぇ。昼寝の邪魔だってんで、仕方なくトドメを刺してやったのよ。泣き喚いたときの顔が、これさ」
ジャムガはタバコを口から離すと、生首の右目に火種を押しつけて火を消した。
阿烈もそれに倣い、左目にタバコの先をじゅ、と押し当てる。
「殺してと言われて殺してやったのかぁ〜?お前も随分丸くなったなぁジャムガ〜…」
「ダルォ?オレ最近博愛主義に目覚めちまったみたいなんだよ〜」
そして、静かに沈黙が訪れた。
次の瞬間、音のない爆発のように――
「グルァーッア”ッア”ッア”ッア”ッア”ッア”!!!」
「ブハハハハハハハハハハ!!!」
「カーッカカカカカカカカカ!!」
不気味な笑い声が重なり、会議室の空気が血のように濁る。
ど外道3者は心の底から愉快そうに笑う。
(((おいおいおいおい!なんだよこれは?右も左も人の心をなくしたド悪党ばかりじゃねーか?全くスラルは地獄だぜぇ!!!)))
彼らは遊園地で大はしゃぎする子供のように、あるいは対戦ゲームで歯応えある相手と対戦し興奮してる子供のように笑っていた。
(……胃が痛い)
鵺はその場の空気にあてられ、静かに吐き気を催していた。
仮面の下の顔は真っ青になり、胃が裏返るような痛みが走る。
ドアダ首領ガープは息子の教育を誤ったと頭を抱えている。
「鵺様、大丈夫デスカ?」
イブが鵺を気遣い声をかける。
「おおお!?どうした鵺!?大丈夫か!?」
ジャムガが心配そうに声を掛ける。
いや実際に鵺を心配している。
阿烈、ナイトホテップにも言える事だがこのドヤクザ共は敵には苛烈な残虐を示し、身内には過剰なまでの愛情を示すのだ。
「鵺殿は受動喫煙で体調を悪くされたご様子…少し休憩に入られては?」
スパルタクスが少し無理のあるフォローを入れてくれた。
鵺は静かにうなずいた後、席を立ち部屋を出た。
その後も悪鬼三人共による会談は続くのであった……
「……というわけで我が弟雷音よ、模擬戦でナイトホテップと対戦しろ」
「……いやだ」
俺は即答した。
ここは今、ドアダからあてがわれている俺の部屋。兄はニコニコしながら俺を見ている。
この人は、家族の前ではわりとよく笑う。怒った顔を見たことがない。
――けれど、それが逆に怖い。
怒りや激情を見せないその静けさの奥に、何かとんでもない感情が眠っている気がして。
だから俺は、ずっと兄が苦手だった。
「嫌だよ、なんで戦わないといけないんだよ」
俺も負けじと笑顔で答える。笑顔というのは大切だ。母さんが言っていた。
どんなときも、笑顔を絶やすなって。
「なに、大したことではない。この基地にいる遭難者全員をまとめて帰すか帰さないかの話し合いをするにあたり、賭けをすることになったのだ。お前たちとナイトホテップ側で親善試合を行い、勝てば即日帰還、負ければひと月勾留――という流れだ」
またこの人は、わけのわからないことをサラッと言う。
「お前たちはいずれエクリプスとも戦う。その前に、実戦で腕を磨いておかねばな」
「それに、ウヌも……蛇王の力、確かめてみたいと思っておろう?」
――そりゃ、思ってるさ。思ってるに決まってる。
あの蛇王の放つプレッシャーは、想像を遥かに超えていた。
正直、勝てる気なんてしない。
でも――
同時に、ワクワクしていたのも事実だ。
「ああ、わかったよ!やればいいんだろ! その代わり、約束しろよ!」
拳を握りしめて俺は叫ぶ。
「もし俺が勝ったら――神羅は絶対、ドアダになんて渡さないからな!!」
「俺たち全員と大叔父貴とで模擬戦……?」
漢児が訝しげに問うと、イブが説明を始めた。
「ハイ。7将軍で参加するのはナイトホテップ様のみデス。
ただしナイトホテップ様は『余興』と仰ってマス。参加しなくても構わないと……」
「だとよ? 獅鳳、お前はどうする。親父にぶつけたい想い、山ほどあるんだろ?」
「いや、いい。俺が……俺が戦う!!」
獅鳳は即答した。
「私も協力するわ!あんなネグレクト親父、ガツンと懲らしめてやるんだから!!」
絵里洲も鼻息荒く拳を握る。
「うーん、サタン叔父さんと対決かぁ……」
神羅は迷っていた。そのとき、思わぬ声が飛び込んでくる。
「神羅姉様!私、あの男をギャフンと言わせたい!!」
――雷華。神羅の妹だ。
「絵里洲から、獅鳳とあの男のこと、少し聞いたの!絶対に許せない!!」
「ちょ、ちょっと……あなたまで戦う気なの!?」
「決めたの!大事な友達を傷つけた奴は、絶対に倒す!!」
雷華は勢いよく部屋を出ていった。
神羅は呆気にとられ、やがて肩をすくめて苦笑するのだった。
その頃、オーム・エドナ・ミリル・白水晶は、イブとスパルタクスから模擬戦の説明を受けていた。
ちなみに、イブと白水晶は女神国製ジュエルウィッチシリーズのプロトタイプと量産型――いわば“姉妹”のような関係だ。
白水晶にとって、感情豊かなイブの存在は衝撃だった。
自分を“機械”だと思っていた白水晶の中に、芽生えていた奇妙な感情。
それは戸惑いであり、興味であり、確かに“温度”を持っていた。
「質問……ジュエルウィッチプロトタイプ・イブに質問……」
「ハイ、なんでしょう白水晶?」
「……あなたは私をどう思っていマスか?」
「え?えっと……ワタシは、仲良くなりたいと思ってマスヨ」
「非効率……でも、私もなぜかあなたと会話したいと感じている……
これは、機能不全なのでしょうか?」
「フフ……ソレは“出会い”というヤツかもしれませんね」
「感情……存在しないはずのもの……なのに、どうして?」
「うーん、はたから見てると白ちゃんアンタめっちゃ感情あるやん?」
「うむ、白水晶……白ちゃんが自分からこんなに他人に話しかけるの私は初めて見たのだ!」
エドナとミリルが会話に混じる。
「白水晶ちゃんはミリル姫を助けてあげたいですヨネ?」
「同意……」
「それじゃ明日の模擬戦でミリル姫と雷音君がグッと仲良くなれるとっておきの情報を教えてあげマスヨ?」
「何!?それは本当か!!」
ミリルが白水晶を押し除けイブに顔を近づける。
「エエ、かわりと言ってはなんデスガ、明日獅鳳おぼっちゃまと雷華さんが仲良くなれるよう手伝ってもらっていいデスカ?もちろんお礼はしますヨ」
「お、いいね!ウチそういういらん事やるの大好きやで〜♪」
「商談成立デスネ。では、とっておきの情報をお教えいたしマス。勇者と魔法少女が力を合わせて発動するハイパーモード、勇魔共鳴の裏技についてデス!その名も『愛の共鳴合体』デス!お互いを思い合う心が強ければ強い程より強力な力が出せるんデスよ!ちなみに愛の深さによって威力が変わるトカ・・・」
「・・・愛とは何ですか?」
白水晶は無表情のまま小首をかしげる。
「そ、そこからかいな!いや、愛っちゅうてもなぁ・・・なんて説明したらええんやろ?とにかくお互いに好き合ってる事かな?」
「ふむ、つまりお互いの事を思う気持ちが高ぶれば高いほどパワーアップするということか!?」
「そうデス♪さすがミリル様話の飲み込みが早イ」
「誰でもできると言うわけでは無いのデス、でも雷音様と獅鳳おぼっちゃまなら条件が揃っているように見受けられマス!あの2人はおそらくホエル様、リュエル様と同じ"魂の双生児"デス。お二人の間には不思議な絆がありマス。僅かな差はありますが雷音様が出来ることは獅鳳さまが出来、獅鳳様が出来る事は雷音様も出来ル。魂の双生児とはそういう特殊な能力者なのデス!だから勇魔共鳴も獅鳳ぼっちゃまと雷華さん、雷音さんと翠の魔法少女ミリルさんとで出来るはずなのデス!!」
そう言ってイブはホエルとリュエルに関する秘蔵のデータを白水晶達に開示した。
「スパルタクス先生。これが、明日の対戦相手のリストですか……?」
名簿を見ていたオームの表情が、みるみる青ざめていく。
「確認しました。ドアダ側は最強クラスの戦力です。助っ人の申請をしましょう」
そして、名簿の中には――見過ごせない名前があった。
「……ナイアの名がありますね。ナイトホテップのみの参加では?」
「彼女、聞きつけて無理やり割り込んできたんです……」
「……それより、“銀仮面”って名前……まさか……羅漢さんじゃないでしょうね……?」
「残念ながら正解です。銀の勇者、羅漢殿です」
オームの手が震える。
一拍――そして。
「つ、詰んだ……ナイトホテップは、明日俺たちを殺す気なのか……!?」
その呟きに、誰もが言葉を失った。
だが、その絶望に差し込む光があった。
「ちょうど明日、皆さんの助っ人になってくださる方がいます」
その人物が、静かにオームの肩に手を置いた。
「久しぶりだな、オーム。エドナは元気か?」
その声に、オームの顔がパッと輝く。
「羅刹さん……!!」
そう――
助っ人として加わったのは、乂家長女、伝説の女傑・乂羅刹だった。
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↑イメージリール動画




