乂阿戦記5 終章 ああ、クィン、どうして君はクィンなんだ?-8 漆黒の魔王クロウ・アシュタロスvs闇王ディオニトロ・ルフバッカス
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
闇王ディオニトロことシャチ・イーグスの掌から伸びた黄金のイバラが、蛇のように蠢き、リハリアの首を容赦なく締め上げた。
「がっ……ぬうぅっ……!」
血管が浮き上がり、怒りに染まったリハリアの顔が醜悪に歪む。
「な、なんだと……! この出来損ないの息子め! 親に手をあげるか!? 貴様など、この場で殺してくれるわぁぁっ!!」
激高したリハリアは怒声とともに、両腕を振り上げて詠唱する。
「アバダ・ケダブラッ!!――死ねえええええっ!!」
虚空に魔法陣が広がる。だが次の瞬間――。
九体の黄金狐が現れ、咆哮をあげた。遠吠えが轟くや否や、魔法陣はあっけなく霧散し、光の粒子へと分解されていく。
「なっ……!? ば、馬鹿な……! アイナクィンが……召喚できんだと!?!」
狼狽する父を見上げ、黄金の狐たちは鋭い牙を剥き出しにした。
彼らの瞳には、かつての従順さなど欠片もない。怨嗟と憎悪だけが燃え盛っている。
「クソ親父……さっさと死にやがれぇぇぇ!」
「父上はもう……邪魔だ!」
「父……死ね……」
「リハリア、貴様は用済みだぁ!」
「お父さん……消えて……」
「ディオ兄様、これでいいんですよね?」
「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い……!」
「私たちはもう、あなたの道具じゃない!」
「ケェェェェーーーン!!」
九つの叫びが重なり合い、戦場を震わせる。
そして――。
狐たちは一斉に跳びかかり、リハリアの四肢へと食らいついた。
肉を裂き、血飛沫が夜空を赤く染める。
「ぐああああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
絶望の悲鳴が中庭に響き渡る。
ディオニトロは高らかに嘲笑った。
「ハハハハハッ!! 随分と嫌われているなぁ、クソ親父! 当然だろうさ」
黄金の槍を肩に担ぎ、闇王は声を張り上げる。
「その狐どもは――お前が魔力を得るために使い潰し、無残に捨てた魔法少女たちの成れの果てだ! 十五年前、お前がアン・クィンを操り、俺に力を注いだあの時……俺は《改獣エンド・オブ・ザ・ワールド》の力を得た。堕ちた姉妹たちは、すでに俺の統括下の召喚獣だ!」
「なにぃっ!?」
リハリアの瞳が血走る。
だが、狐たちの牙がさらに深く肉に食い込み、断末魔の悲鳴が夜空を裂いた。
だが――その眼光はまだ死んでいなかった。
「ぐ……ぐうぅ……! オノレ、この出来損ない共が……! ワシはイーグス家の当主ぞ!?この裏切り者どもめえええええ!!」
怒声とともに、彼は四肢に喰らいつく魔物を強引に引き剥がす。
肉を喰い破られたはずの腕は、蠢く筋繊維ごと膨れ上がり、再生するどころか異様に肥大化していく。
まるで別の生き物が肉体の中から這い出してくるようだった。
「まだ終わらん! 貴様の拘束なぞ無駄無駄ァッ!!」
巨腕を振り回し、リハリアは闇王へ躍りかかる。
その勢いは、中庭の石畳を粉砕し、瓦礫を宙に舞わせるほどだった。
だが、ディオニトロは一歩も退かない。
余裕すら漂わせる笑みを浮かべ、低く呟いた。
「……無駄なのは、お前の方だ」
次の瞬間――。
黄金のオーラが爆ぜ、彼の手に一本の槍が顕現する。
それは《改獣エンド・オブ・ザ・ワールド》の象徴、闇王ディオニトロの神槍であった。
眩い光を纏った槍が閃き、リハリアの肩を正確に貫く。
「ぐあっ……!」
巨体が大きく揺らぎ、血飛沫が弧を描く。
リハリアは苦痛に顔を歪め、ついに膝をついた。
「はぁ……はぁ……お、終わらん……!」
それでもなお、彼は懐から短剣を引き抜き、渾身の力で投げ放った。
銀の閃光が一直線にディオニトロの胸を狙う。
だが、闇王はわずかに口角を上げ、左手を伸ばした。
ガシィッ!
空中で短剣を掴み取り、そのまま握り潰す。
金属が軋む音と共に、刃は粉々に砕け散った。
「な、なんだと……!?」
リハリアの顔が驚愕に染まる。
その姿を見下ろしながら、ディオニトロは嘲笑を浮かべた。
「終わりだ、父上様……。お前の“十権者”の資格は、俺が貰い受ける」
黄金の槍がさらに輝きを増し、リハリアへと突き立てられようとした――。
「――待て」
鋭くも冷徹な声が、戦場に響き渡った。
その響きに、ディオニトロの動きが止まる。
ゆっくりと歩み出てきたのは、白銀の鎧を纏ったヴァルシアだった。
その眼差しは氷のように冷たく、剣呑な気配を隠そうともしない。
「……なんだヴァルシア?」
思わず名を呼ぶディオニトロに、彼女は一歩ずつ近づきながら言い放つ。
「シャチ……リハリアから十権者の権能を奪い貴様は何を企むつもりだ?
返答次第では、その資格は貴様には渡さん」
突き刺すような声。
ディオニトロですら、思わず眉をひそめる。
ヴァルシアは携えた剣を地面へ突き立てた。
刹那、剣を中心に巨大な魔法陣が展開され、城中庭に翠の光が満ちる。
ゴゴゴゴ……!
大地が震え、光の奔流が形を変えていく。
やがて姿を現したのは――神話に語られる聖獣。
鎧のごとき甲冑を纏い、凛とした角を天へと突き出した馬。
全身から奔流のような魔力を放ち、周囲の瓦礫をも吹き飛ばすその姿は、まさしく《神馬ユニコーン》であった。
「……ほう」
槍を構えたまま、ディオニトロがわずかに目を見開いた。
「バイコーンではなくユニコーンを召喚するとはな。処女にしか従わぬはずの聖獣を……」
彼の口元に、いやらしい笑みが浮かぶ。
「意外だな、ヴァルシア。てっきりクロウと肉体関係を結んでいると思っていたが……」
挑発する言葉に、ヴァルシアの顔が一瞬で赤くなる。
「う、うるさい! 私とアシュくんはプラトニックな間柄なの!
そ、そんなやらしいことするわけないでしょ!」
「ククク……五歳の子供に劣情を抱くショタコンが、プラトニックラブときたか」
ディオニトロは愉快そうに笑い、さらに言葉を重ねる。
「いやぁ、傑作だな」
「む、むぅぅ〜〜!」
ヴァルシアが今にも噛みつかんとするのを、クロウが制した。
「やめろヴァルシア……挑発に乗るな」
彼はユニコーンの輝きに守られながら、一歩前に出る。
そしてディオニトロを鋭く睨みつけ、問うた。
「……なるほどな。その仮面の下の正体はシャチ、アンタだったのか。
どおりで龍麗国の内情に妙に詳しいわけだ……」
鋭い声。だが次に発したのは、もっとも核心を突く問いだった。
「ひとつだけ聞く。……なぜ俺の正体がわかった?」
クロウの問いかけに、ディオニトロは低く笑った。
「フハハ……理由か。簡単なことだ」
彼の眼差しが過去を射抜くように鋭く光る。
「十五年前、俺は亜突と一緒に、お前の子守を任されていた。
幼子だったお前の顔を、この目で毎日のように見ていたからな」
クロウの目が驚愕に見開かれる。
「だからだ。お前の顔を見た瞬間、直感した。……これはイドゥグだ、と。
あとは調べていけば、自然と正体が浮かび上がったまでよ」
その告白に、クロウの唇が悔しげに歪む。
「……くっ。シャチ、お前は一体何を企んでいる?目的はなんだ!」
問い詰める声に、ディオニトロは楽しげに笑みを深めた。
「企みか。あるとも……俺はこの龍麗国を俺の支配下に置く!」
黄金のオーラが槍から溢れ、夜空を照らす。
「古臭い封建制度に縛られ、俺を見下した愚かな貴族ども。
奴ら俺の母親が奴隷階級出身だってことで、ずいぶんと俺になめた態度を取りやがったからな
全員を踏みしめて、見下ろしてやらにゃ気が済まん。ククク、どういたぶり尽くしてやるか今から楽しみだぜ」
その笑い声には狂気が混じり、戦場の空気が震える。
だが、すぐにその表情は真剣なものへと変わった。
「……だが、それは表向きの話にすぎん。俺の真の目的は別にある」
クロウとヴァルシアの表情が険しくなる。
沈黙を破り、ディオニトロは低く囁いた。
「俺の目的は、この国に眠る究極のお宝を手に入れることだ」
「……お宝?」
クロウが警戒を込めて呟く。
「そうだ。龍麗国が女神国を滅ぼし、ソウル一族に代わって魔法少女を支配し続けられた理由。
その秘密は――王家が守り続けてきた《破壊神ウィーデル・ソウルの仮面》にある」
その名を聞いた瞬間、ヴァルシアの肩がわずかに震える。
「かつてラグナロクの時代、大魔王アザトースと宇宙を二分して渡り合った究極の破壊神。
ウィーデル・ソウル……」
「そうだ」ディオニトロの目が狂気に光る。
「その仮面には究極破壊神の力が宿っている!
もし俺がそれを手にすれば……俺は第二の破壊神へと進化する!」
槍から吹き出す光がさらに激しくなり、中庭全体を照らす。
「全ての存在をぶっちぎり、頂点に立つのは――龍麗国王ユドゥグでもなければ、覇王乂阿烈でも、蛇王サタン・ドアーダでも、雷帝デウスカエサルでも、巨竜王アング・アルテマレーザーでも、大魔王ベルゼバブでも、ソウル一族でもない!
この俺だ! 闇王ディオニトロだ!!!」
その咆哮は天を震わせ、クロウとヴァルシアは息を呑んだ。
野望は、もはや国盗りにとどまらない。
宇宙そのものを覆す破壊神の力を狙っている――。
彼の口から出た言葉にクロウ達は言葉を失った。
破壊神ウィーデル・ソウルの力を手に入れるだと!?
何を言っているんだこの男は!!?
クロウの脳裏には兄ユドゥグの顔が浮かんだ。
ユドゥグ兄者は野心家だが、それでも龍麗国の民の未来を第一に考えた末に反乱を起こした志ある士であった……
だがディオニトロは、大義なくただ己が野心に準じ龍麗国を盗ろうとしている。大義を語らず国盗りを口にするとはどういう了見なのか!?
頭に血が上りそうになった時、ヴァルシアが冷静な声で言った。
「なるほど……つまり貴様は自分が新たな破壊神に進化するために龍麗国を侵略たいということか……」
「そうだ!」
黄金のオーラを全身に纏い、闇王は嘲るように笑った。
「この国はいずれ滅ぶ運命にある。蛮王ユドゥグと建国王ゾディグとの骨肉の争いが必ず勃発する。
俺はその隙を突き、三聖塔の奥底に眠る仮面を奪う!」
言葉の端々に狂気が混じり、彼の野望は燃え上がる炎のようだった。
「……っ!」
クロウの喉が鳴る。確かに、龍麗国の不穏は誰の目にも明らかだった。
だが――それを好機とするこの男の冷酷さに、全身が怒りで震える。
「さらに言えば、俺は悲劇の前国王であるお前を利用するつもりだった」
ディオニトロの眼光が鋭く光る。
「廃妃アン・クィン。お前は彼女と繋がりがあるな? 時空大鍵を生み出すその女を神輿にし、反ユドゥグ派をまとめるつもりだった。だが制御できぬ可能性もあった。だからこそ、代わりにお前を探していたのだ」
「なっ!?ふざけるな!戦争起こせば龍麗国の民はどうなる!龍麗国の民は貴様の出世の踏み台ではない!」
クロウは憤慨して叫んだ。
「クク……クロウ、所詮は高貴な出自の人間の言だな。いくらでも湧いてでてくる民なんぞと言うものに気遣いをみせるとは…、もしかしたらと期待したがやはりアンタとは相入れぬのか? そうさ!俺は這いつくばる下の人間を踏みつぶし、利用し、簒奪し、のし上がった上で新しい世界を作る! 俺が勝利して支配する新世界をな! 勝利して支配する! それよ! それだけが満足感よ! 貴様が俺の邪魔をするなら殺すまでだぞ?」
「ほざけっ!!」
「俺はソウル一族の代わりにこの国を牛耳り破壊神ウィーデル・ソウルの仮面、いや、力を手に入れる。世界そのものを書き換える力だ! 俺こそが真の破壊神! 頂点中の頂点に立つ存在だ!!!」
「闇王ーーーっ!!」
クロウが叫ぶと同時にディオニトロが放った無数の黄金光弾が雨のように放たれた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァ!!!」
咆哮と共に襲い来る光の弾幕。
だが、クロウは一歩も退かず、剣を振るって全てを斬り払った。
「うおおおおおおおおおッ!!」
閃光を裂き抜け、彼は一気に肉薄する。
刃と拳が激突し、火花が散った。
空気が爆ぜ、衝撃波が石畳を粉砕する。
「ぬぅぅぅぅぅん!」
「りゃああああああああッ!!」
互いの力がぶつかり合い、夜空を焦がす。
しばし拮抗――だが次の瞬間、クロウの剣がディオニトロの肩を薙いだ。
鮮血が散り、闇王の体が仰け反る。
「やったか!?」
一瞬、勝利の兆しが見えた。
だが――。
「甘いッ!!」
ディオニトロの体から、黄色い荊の触手が無数に噴き出した。
生き物のように蠢くそれらはクロウを絡め取り、一瞬で動きを封じる。
「ぐああああああああッ!!」
苦悶の声をあげるクロウ。
だが、抵抗は無情にも封じられる。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァ!!」
怒涛の拳が、クロウの体を何百発も打ち据える。
爆音と共に地面が割れ、彼の体は宙に舞い、そして叩きつけられた。
中庭の地面に叩きつけられたクロウは、瓦礫に埋もれたまま動かない。
その胸はかすかに上下しているが、息は荒く、血の匂いが周囲に漂っていた。
「はぁ……はぁ……クク……」
黄金の荊を収束させながら、ディオニトロが愉快そうに笑う。
「所詮はその程度か、クロウ。貴様も結局は“時空大鍵”を巡る駒にすぎん」
嘲笑と共に黄金の槍を振り上げる。
「ここで貴様を葬ってやろう」
「させるかぁッ!!」
ヴァルシアが全力で駆け出した。
その足取りは迷いなく、ただクロウを守る一心だけであった。
「邪魔をするか、女……」
ディオニトロの眼差しが氷のように冷える。
だが次の瞬間――。
翠光が爆ぜ、中庭を照らし出す。
召喚された《神馬ユニコーン》が嘶きながら駆け寄ってきた。
鎧を纏ったその姿は、光の奔流そのもの。
「ユニコーン!」
ヴァルシアは一瞬もためらわず、クロウの体を抱き上げて鞍に乗せる。
「クロウ! しっかりして! まだ死ないで!」
彼女の叫びは必死で、声は震えていた。
朦朧とする意識の中で、クロウはかすかに瞼を動かした。
「ヴァル……シア……?」
その名を呼ぶ声は弱々しい。
しかしヴァルシアは必死に答える。
「死なないで……! アシュくんを失うくらいなら、私が代わりに死ぬ!」
その言葉は、闇に沈みかけていたクロウの心をかろうじて繋ぎ止めた。
まだ戦え、と。
まだ終わりではない、と。
「行け、ユニコーン!!」
ヴァルシアが叫ぶと同時に、聖獣は地を蹴り、凄まじい速度で戦場を駆け抜ける。
黄金の槍を構えたディオニトロが追撃しようとしたが――
ユニコーンが放つ聖なる光が障壁となり、その歩を阻んだ。
「チッ……忌々しい聖獣め」
舌打ちをしながらも、闇王は無理に追わず、ただ見送った。
その瞳には、なお狂気の野望が燃え続けていた。
夜風が吹き抜ける。
残された戦場には、ただ闇王ディオニトロの哄笑だけが木霊していた。




