乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-10 ……お母さん
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ヨクラートルことヨドゥグと狗鬼ユノは大広間で子供達と再会した。
広間には皆が集まっていた。
絵里洲は、派手すぎるピンクのスーツを着た謎の中年男が「父親だ」と紹介され、目を白黒させた。
(うわ~なんかすごい人が来たなぁ……)
そんな娘の様子に母ユノは嬉しそうに話しかける。
「どうだ絵里洲?この人がお前のお父さんだぞ〜、地球に帰ったら母さん達キチンと籍を入れて結婚するんだ!」
「え、えええぇ〜〜っ!? この人がパパぁ!?……いやいや無理無理、ちょっとムリなんですけどおおお!?」
思わず叫んだ絵里洲の顔には、“心底イヤそう”と書いてあった。
しかしそんな娘の態度に動じることなく父親は漢児、絵里洲、獅鳳、ユキルの4人対し話しを続ける。
「俺はヨドゥグ、これから正式に君たちのお父ちゃんになる!だからもう遠慮せず、今日から“パパ”って呼んでくれ!……いや、むしろ敬って“パピィ様”でもいいぞ?」
「「「「…………(絶句)」」」」
「「「 「はあああああ!?!?」」」」
四人は困惑しながらもヨクラートルをじっと見つめていた。
「ところで、そこの獅鳳そっくりの子は誰だ?ま、まさかリュエルの子は実は双子だったとか!?」
「違うよ。この子は私の弟雷音。で、こっちが妹の雷華よ」
ユキルこと神羅に紹介された雷華は神羅に抱きつくとキッとヨクラートルを睨みつけた。
「神羅姉様は、私たちの姉様なんだ!勝手に“おとうさん”面しないで!絶対に渡さないからっ!」
睨まれてたじろくヨクラートル
だがユノは動じる事なく雷華に声をかけた。
「大丈夫、その事も含めてじっくり話し合うつもりだ。実はここに来る前にホエル…君のお母さんに会って来たんだ。そしたらこの基地に到着するのが遅くなっちゃってさ…」
「絵里洲のお母さんは私達の母様を知ってるのか?」
雷華は驚いた顔でユノを見る。
「なに、ほんの冒険仲間だよ」
そう言って笑うユノを見て、自分の知らない所で母と友達の母に繋がりがあった事に驚きながらも何故か少し嬉しい気持ちになるのだった。
一方その頃、絵里洲達はと言うと……
「……(じー)」
「…ど、どうしたのかな? 絵里洲ちゃん、さっきからじっと見て?」
絵里洲の視線に気づいたヨクラートルが怪訝そうに尋ねる。
すると絵里洲は
「…おじさん、本当に私たちのお父さんなの?今更現れてお父さん面するなんてちょっと都合いいんじゃないかな?ねえ?どうなの?」
と言って疑いの目を見せた。
これにはさすがのヨクラートルも困り果てると助けを求めるように神羅の方を見た。
その視線を受けて神羅が言う。
「いいぞ〜絵里洲ちゃんもっとガンガン言ってやれ〜!子供をほったらかしにした無責任なパパなんてガンガン怒ってやればいいのよー!」
「ヒィ!」
フォローどころか火に油を注いでいた。
その後しばらく言い争いが続いたものの結局絵里洲達が根負けして、父親と認める事にしたようだ。
「ねえユノ…」
「なんだい雷華ちゃん?」
「私達のお母さんと話し合ったって一体どんな話をしたの?」
「そうだね。もうすぐ雷華ちゃんのお母さんがここにやってくるからその時みんなで話し合いしよ?」
その発言に一堂は驚いた。
「え?いや、え?ユノさん今母ちゃんがこっちに来るって言った!?」
混乱しながら尋ねて来る雷音にユノは首を縦に振り答えた。
「うん言ったよ」
「いやいやおかしいだろ!?だってここはドアダのアジトだぞ!!何で母さんが来るんだよ」
雷音の疑問に対してユノは答えた。
「さっき言ったじゃないか『みんなで話し合い』をしにきたってね」
その言葉に雷音はますます困惑した。
「でもどうやってここを特定したんだろ?」
「確かにそれは気になるわね」
「ああそれか、それなら簡単だよ。ここには黒の封獣エリゴスと契約した鵺ちゃんがいるじゃない?エリゴスは空間を自在に転移し移動する神馬。魔剣クトゥグァと並ぶ最強の封獣で例えどれだけ距離が離れていてもアレは主である鵺ちゃんの下に駆けつける。もう一人の主黒天ジャムガと一緒にね」
その答えに雷音だけでなく他の皆も唖然とする。
ナイトホテップがため息をつき鵺に話しかける。
「……フン、お前はその気になればいつでも自分一人逃げ出せたわけか黒の魔法少女?」
「さあどうかしら?もし逃げようとしてもドアダのトップ3がいたからそう簡単にいけたとは思えないわね…。だったらここで大人しくしてた方が賢明と判断したけど…」
「フン、簡単に手の内を明かさんか…」
そんな彼らをよそにユノ達は話を続ける。
「じゃあそろそろ来る頃だからみんな準備しといて、多分鵺ちゃんの近くに転移して来るだろうから彼女から離れて」
その言葉を合図に皆がそれぞれ動き出す。
そしてそれからしばらくして空間に亀裂が走った……。
そしてその亀裂から黒い馬の前足が見えた。
「来たわよー」
続いて胴体と頭が現れると、最後は全身が姿を現した。
その姿はまさしく神話に出てくるような黒馬だった。
ただし普通の黒馬と違う所はその馬は象の様に大きいという点だろう。
以前アシュレイ領でナイアと対峙した時に見た馬と同じ馬だ。
「いよう鵺、迎えに来たぜ〜」
黒いサングラスと黒衣を着た男が馬上から声をかける。
「遅いわよジャムガ」
「おお!ジャムガのダンナじゃねぇか!ひっさしぶり〜!!」
ジャムガの姿を見た漢児が彼に手を振る。
「んん?おお!漢児じゃねーか!相変わらず元気そうだな!しかしお前も変わったなぁ〜前より一回り…いや二回りはウェイトがデカくなったか?今の方が断然良いぜ〜!」
「わはは!血のションベン出し尽くすくらいにゃ自分を鍛え込んでるからな!」
二人は久々の再会を喜ぶかのように会話する。
「お袋さん下ろしますぜ」
ジャムガがエリゴスの後ろに跨る婦人を降ろす。
赤髪の妙齢の美女だ。
腕に小さな娘を抱えている。
「お母さん!」
「母ちゃん!」
「母様!」
神羅、雷音、雷華が口々に叫ぶ!
「もう!貴方達ってば連絡も寄越さず心配かけて!お母さんずっと待ってたのよ!」
「あーっ!ネーネ達だぁ!」
母の腕から小さな女の子が飛び出し神羅達に抱きつく。
その子は乂家の末っ子乂紅阿5歳である。
「あ、クーちゃん!」
「紅阿も一緒に来たのか?」
「クーちゃんほったらかしにしてゴメンな!ネーネ達大事なお仕事してたんだ!」
雷音達は代わる代わる紅阿を抱き寄せる
紅阿は家族のアイドルで家の誰もが大事にして可愛がっている。
あの阿烈でさえも人目がないところでは顔をくしゃくしゃに破顔させ、赤ちゃん言葉で紅阿を溺愛し甘やかしている。
ちなみに阿烈はその事は誰にもばれてないと思ってるらしい。
母ホエルは戯れる四人の子供達を微笑ましそうに見つめていた。
そのホエルを見たとき獅鳳の身に衝撃が走った。
「…あ……ああ?……お…お母…さん?」
(違う……でも、似ている。似すぎてる……!)
それもそのはずホエルのその顔は写真で見た彼の亡き母リュエルに瓜二つだった。
「……まさか、そんな……」
獅鳳の足が勝手に動き出していた。頭が真っ白になり、気がつけば――
「お母さん!お母さん!お母さん!うわああああああん!!」
泣きながら、彼はホエルに飛び込んでいた。
いきなり抱きつかれ驚くホエル
だが彼女は獅鳳を突き放そうとせず、優しく彼を抱きしめる。
涙に濡れた大広間は、誰ひとりとして口を開けなかった。
獅鳳がホエルの胸に顔を埋め、幼子のように泣きじゃくる光景。それはあまりにも純粋で、あまりにも痛切で、そしてあまりにも美しかった。
誰もがその場に立ち尽くし、ただ静かにその光景を見守っていた。
それは、魂の深いところを打つ情景だった。
「……そう……あなたが、リュエル姉さんの……」
ホエルの呟きは震えていた。彼女の眼差しに宿るのは慈愛——だが、それは母の眼差しではない。亡き姉の影を映した、残された者の祈りだった。
「……獅鳳くん。よく、ここまで……立派に育って、くれたね……」
その一言が、ようやく獅鳳の張り詰めたものを解いた。
「うわああああああん!!」
少年の叫びは、山を越え、空を裂き、魂を打った。
——そして、それに誰よりも強く心を打たれた者がいた。
黒の仮面の男、ナイトホテップ。いや、サタン・ドアーダ。
その蛇王が、獅鳳とホエルを静かに見つめる。
無言で、無感情に、ただ、じっと。
仮面の奥の目が、かすかに震えた。
だが誰もそれを見てはいなかった。
「………」
彼は一言も発さず、振り返ると、音もなくその場を後にした。
その背中に、誰かが目を向けた。
——イブだった。
鉄の体に涙腺はない。だが彼女は肩を震わせ、震える手で口元を覆っていた。
そして、声なき声で、心の奥底から祈るように思った。
(サタン……あの日……アナタは誰よりも微笑んでいマシタ。小さな命をその胸に抱きしめて……まるで、この世で一番優しい父親のように……)
(リュエル様は、もうこの世にいない……でも、獅鳳ぼっちゃまは、今ここにいるんデス……)
かすかに零れた声は、誰にも届かぬ祈りとなって、大広間の静寂に溶けていった。
(どうか……あの背中が、もう一度だけ、振り返る日が来ますように……)
やがて、ホエルの腕の中で泣き疲れた獅鳳は、眠るように彼女の胸に身を預けた。
その横顔は、まるで——今は亡きリュエルの面影そのものだった。
それは、母という存在が、どんな奇跡よりも深いところで、血を超えて魂に届いていた証だった。
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