乂阿戦記5 終章 ああ、クィン、どうして君はクィンなんだ?-1 二人のナイアルラトホテップ
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
終章 ああ、クィン、どうして君はクィンなんだ?
運命の糸が再び絡み合う。
月夜の湖畔。
水面には満月が映り込み、幻想的な光景が広がっていた。
水面が突然波立ち、漆黒の影が浮かび上がった。
その影は次第に人の形を取り、最終的には背の高い男へと変貌した。
顔の半分は影に覆われ、そこから三つの赤い目が光り、口元は嗤っているような裂け目を作っていた。
その黒衣の男が低く囁いた。
「15年の歳月を経て美酒は熟した。亜突にクィンよ。長い旅だったな。君たちにようやく再会できそうだ。君達が望まない最悪の形で…」
黒い影は、愉悦の笑みを浮かべる。
そして次の瞬間、完全に消滅してしまった。
こうして、誰も知らぬところで、物語の歯車が狂い出したのである。
暗い闇が広がっている。
何も見えない空間に一人佇む男がいた。男は闇の中で唯一光を反射するものに目を留める。
輝く宝石のような石を手に取り、その男は薄く微笑んだ。
その時、暗闇に声が響く。
「あら、ずいぶんと楽しそうね。また新しいおもちゃを見つけたのかしら? 無貌の神」
暗闇の中から現れるもう一人の影。
それは闇に溶けてしまいそうな黒衣の赤紫髪の女だった。
その姿を見た男は一瞬驚いたような表情を浮かべる。
「久しぶりだな。今代のエクリプス、カンキル・ドアーダよ。お前に会えるとは思わなかった」
「私も会うつもりはなかったのだけれど、貴方があんまり楽しそうだから。どんな獲物がいるのか気になっただけよ」
そう言って女は微笑む。
「それより貴方、いつまであの子たちを泳がせておくつもりなのかしら? 11人委員会も時空大鍵を狙っているのではなくて?ナイ神父……」
女が尋ねる。
「なに、あれの再臨にはもう少し時間がかかる。鍵の再臨の為には彼らにしっかり働いてもらわないとな」
返答した男ナイ神父が笑みを浮かべた。
女の鋭い視線が黒い神父に突き刺さる。
「貴方は相変わらず最低の男ね。そんな腐った男を慕うなんて、あなたの娘たちも相当見る目がないわ」
男の側に控えている少女を一瞥して女はため息をつく。
「ふふ、子は親を慕うものだ。たとえそれが邪神であってもね」
男は悪びれもせずそう返した。
彼らがいるのは薄暗い一室。
部屋に窓はなく、天井に吊るされた洋燈の明かりのみが室内を照らしている。
部屋の中には男と女の他にもう一人居た。
年の頃は十代半ばほどの少女だ。
少女は両腕を上げた状態で天井から鎖で繋がれ吊るされている。
衣服はすべて剥ぎ取られており、胸と股間のみを薄布で隠しただけのあられもない格好だ。
そんな扇情的な格好にも関わらず少女は羞恥を感じている様子はない。
その瞳は虚ろで、一切の感情が失われていた。
少女の周囲には幾何学的な紋様が書かれている。
どうやら魔法陣のようだ。
魔法陣からは禍々しい力が感じられ、それが少女から吸い出されているのか流し込まれているのか判断しかねる状態であった。
そんな薄暗い一室の中、男は少女を眺めながら口を開く。
「……ふむ、この程度ではまだ足りないか……」
少女は虚空を見つめながらただ黙って佇んでいる。
「ねぇナイ神父、もういいでしょう? ナイアを離してあげたら? 封獣の力を奪い取った後、彼女から得られるものなんて何もないわ」
「いいや、そんな事はない。この娘は我が力を分け与えた娘のような存在。私が主アザトースの下から離れる際、ワタシの座を譲ってやった、いわば今代の"這いよる混沌"だ。この子はまだまだ舞台を大いに盛り上げてくれるはずさ。そうだろう?ナイア……」
名を呼ばれ少女は静かに目を開けた。
彼女は虚ろな瞳を虚空に向けているが、その中に確かに意志の光が灯っていた。
「……いいでしょう。父よ。確かに私は貴方の娘のようなもの。なら今更私をどうするつもりですか?」
その言葉にはわずかな怒りが感じられた。
ナイアはナイ神父の方を見ずに言った。
「……ただの茶番に付き合うほど私は暇ではないのよ。時空大鍵は貴方には渡さない!」
彼女の声には明確な意志が宿っている。
「ふむ……。なら少し手荒な真似をするしかないかな」
ナイ神父は手をかざした。
少女はその動きに気づいたが、動かない。
彼女はまるでその力を予見していたかのように微動だにしなかった。
「我が"黒き力"を甘く見てはいけないよ。私の娘よ。私があの時の君に与えた力は私への絶対服従の契約でもあるのだから」
「そう……。それが貴方のやり方なのね」
「さあ、もう一度聞こう。今度こそ答えてくれ」
答えぬナイアにナイ神父は問う。
「この時代の大魔王アザトースは誰だ?」
ナイ神父は問う。
彼はナイアが今、転生復活した大魔王アザトースに仕えていることを知っている。
「さあ……知りませんね。私は父と違い大魔王なんて興味はないですし」
ナイアは虚空を眺めながら答える。
「……父上は誰を大魔王と考えてるのです?」
「フフ、それが目星はつけているはずなのに、そのことについて、考えようとすると、頭に霞がかかったように、思考が停止してしまう。恐らくかの主上による白痴の魔法の影響だろう。六道魔人の一柱だった私ですら、かの創造神の記録改竄にはあがなえぬ。相変わらず恐ろしいお方だよ」
そう嘯くナイ神父の声は嬉しさに満ちていた。
しかしナイアには彼の喜びが理解できなかった。
「父上……創造神様の正体は私にはわかりません」
ナイ神父は深いため息をついた。
「……嘘つきめ。残念だ。お前は相変わらず役に立たない……否、役に立とうとしないな」
ナイアの瞳が暗く沈んだ。




