乂阿戦記5 幕間の章 ああ、亜突、貴方はどうして亜突なの?-17 勇者ギルトンvs六道魔人ナイアルラトホテップ
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
片手を拳に、もう片手を腰に当てて仁王立ちする男――赤の勇者ギルトン。
その目には、いつものおどけた笑みはなく、猿のごとき闘志がぎらついていた。
「……我が天敵たるクトゥグァを宿す赤の勇者か」
黒衣の男、ナイアルラトホテップが低く嗤う。
「復活早々、厄介な玩具と遊ぶことになったものだ」
その足取りは静謐。だが背筋を伸ばし、八極拳特有の殺気が空気を裂いていく。
「――八極拳かぁ。拳で語るのは大歓迎だ!」
ギルトンは猿のように肩を揺らし、奇妙にぶらつく構えを取る。猴拳。斉天大聖の武仙が伝えた猿の拳。
「じゃあ……いっちょやってみっか!」
――ズドンッ!
地を蹴った瞬間、赤毛の猿が弾丸のように飛び込む。
掌底と足払いを織り交ぜた変則の連撃。まるで獣がじゃれつくかのような軌道。
「ハッ!」
ナイアルラトホテップは眉ひとつ動かさず、鋭く踏み込む。
“靠打”――肩と体全体をぶつける八極拳の衝突。
鉄槌のような体当たりがギルトンの肋を狙う!
「ぐぅっ!」
吹き飛ばされる――が、その空中でギルトンは笑った。
「効くなぁ! けどよ、サルはしぶといんだぜ!」
地に手をつき、低い姿勢から足を絡めとる猿の蹴り。
ナイアルラトホテップは即座に“崩拳”を叩き込み、地面ごと爆ぜさせた。
爆音。石畳が砕ける。
それでもギルトンは拳を止めない。
「猿拳ってのはなぁ……自由自在に変わるんだ!」
フラリと揺れたかと思えば、目の前で“ニカッ”と笑う。
――そして肘打ち。虚を突く猿の牙。
「油断したな、無貌の神っ!」
「……甘い」
裏拳。
ナイアルラトホテップの拳が閃き、ギルトンの頬を裂いた。
衝撃で宙に舞い上がる――が、その勢いすら利用し、猿は宙返りで着地する。
「くっひゃー、痛てぇけど面白ぇ! あんた、いい勝負相手だ!」
黒い瘴気がナイアルラトホテップを包む。
八極拳の一撃に、這い寄る混沌の力が混じる。
「貴様も闘争の化身か。ならば容赦はしない」
ギルトンの目もまた燃えていた。
「……気の流れが変わったな。あんた、背負ってるもんがデケェ……」
両拳を構え直す。猿の戯れはもうない。
「よし。魔剣クトゥグァはまだ抜かねぇ。まずは拳で語るのがタイマンの妙味だろ?」
「来い。凡俗の勇者。お前の血が舞台を赤く染める」
――拳と拳が再びぶつかる。
猿の自由奔放な動きと、邪神の剛直なる殺拳。
その衝突は、まるで天地がぶつかり合うかのようだった。
――ドガァンッ!
拳と拳がぶつかるたび、大気が震え、地面に亀裂が走る。
八極拳の一撃は岩を砕き、猿拳の変幻は流れる水のようにそれを逸らす。
だが――徐々に押され始めていたのはギルトンだった。
「ぐっ……! こいつ……重てぇ!」
肩に叩き込まれた“鉄山靠”が、巨岩のごとき衝撃で胸を抉る。
血が口端から飛び散り、ギルトンは膝をついた。
「ほう……立つか」
ナイアルラトホテップは涼しい顔で見下ろす。
「貴様の拳は面白い。だが、力の差は歴然だ。人の身で、神の拳を超えることはできん」
ギルトンはぜいぜいと息を吐きながら、それでも口の端を吊り上げる。
「……はっ……言ってくれるだ」
拳を握りしめる手が震えていた。だがその瞳は消えていない。
「……オラはなぁ、勝てねぇ勝負ほどワクワクすんだよ」
「愚か者」
ナイアルラトホテップが右掌を開き、瘴気を凝縮させる。
漆黒の“掌破”が空間そのものを裂き、死の匂いが境内を満たした。
「終わりだ」
――その瞬間。
ギルトンは背に背負っていた黒鞘を引き抜いた。
ゴォォォォ――ッ!!
灼熱の咆哮。炎が迸り、夜空を真紅に染め上げる。
「なに……!?」
ナイアルラトホテップが目を細める。
ギルトンの手に握られていたのは――燃え盛る紅蓮の剣。
魔剣クトゥグァ。伝説に名を刻む、異界の火を宿した灼熱の刃。
「よぉ……待たせたな」
ギルトンが口端をぬぐい、ニカッと笑う。
「拳で勝てりゃ最高だったけどよ……クトゥグァが俺も戦いたいから抜け抜けってうるさいんだ。あんたなんかクトゥグァと根深い因縁があるだか?」
炎が唸りをあげる。
剣身に宿る業火は、ただの炎ではない。
燃やすのは大地か、魂か、あるいは存在そのものか。
「フッ……」
ナイアルラトホテップは初めて笑みを崩した。
「クトゥグァの火……か。成程……我が天敵の力をここで振るうか」
「そうだ。邪神だか這い寄る混沌だか知らねぇけど――」
ギルトンは剣を肩に担ぎ、獰猛に笑った。
「この剣が、オメーを焼き尽くせってスゲ〜怒ってるんだ!」
「クックック、クトゥグァめ……」
――ゴオオオオッ!!!
炎が境内を呑み込み、猿と邪神の決戦が、新たな局面へ突入する――。
眩い月光の中、不思議な空間に立ち尽くすクィン。
虚無の海のような静寂――ただ一つ、彼女を照らすのは巨大な満月だった。
「ここは……どこ……?」
か細い声が震える。
その時、月から一人の女性の影が降り立った。
長い金髪、金色の瞳。圧倒的な存在感――。
「やっと会えたわね、今代のクィン・クィーン……」
クィンは目を見開いた。
「あなたは……エキドナ・ガイア!?」
「いいえ」
女性は微笑む。
「私はエキドナの母――ユミル・ガイア。原初のクィン・クィーン。そしてあなたの内に眠る“記憶”」
ユミル・ガイア
それは伝承に名を残す存在。
オリンポス建国神ウラヌスの妻にして
暗黒時空神たるクロノスと七罪の魔女"獣の巣"エキドナの母
六道魔人を呼び、世界を滅亡寸前に追い込んだとされる“始まりの女神”にして、十二人いる原初の魔法女神の一人
そして初代のクィン・クイーン
アン・クィンは息を呑んだ。
「どうして……私の中に……?」
「それは、あなたが“選ばれた器”今代のクィン・クイーンだからよ」
ユミルは優しく、しかし厳しい眼差しで告げた。
「六道魔人を制御できる唯一の存在。あなたがその力を受け継いだの」
「制御……?」
クィンは小さく首を振る。
「でも……私はただ囚われて、みんなに守られて……何もできなくて……」
その呟きを遮るように、ユミルは彼女の手を取った。
「違う。守られるだけの存在で終わるかどうかは、あなたの意志次第。
――あなたは誰かの人形じゃない。自分の意思で、未来を選べる」
胸の奥で何かが震えた。
亜突の顔、ギルトンの声、メティムやヴァルシアの叫び……。
みんな、自分を守るために戦っている。
「……私……」
クィンはぎゅっと拳を握りしめる。
「私、もう誰かに操られるだけの“器”なんかじゃない!
亜突を、みんなを、守るために――この力を使う!
六道魔人の暴走を止めるのが、私の宿命なら……それでもいい。
でも、その宿命を“私自身の意志”で果たす!」
金色の光が彼女の身体からあふれ出す。
それは弱々しい少女の輝きではなく、王としての、守護者としての輝きだった。
ユミルは満足げに微笑む。
「……そう、それでいいの。あなたが決めたのなら――私は力を託す」
次の瞬間、月光が奔流となってクィンを包み込む。
金の輝きが空間を切り裂き、彼女の瞳が燃えるように輝いた。
「私は――クィン・クィーン。
誰の操り人形でもない……!
私自身の意思で、この世界を救う!!」
その叫びと同時に、祭壇全体が震えた。
大地の亀裂から光が噴き出し、夜空を引き裂くように天へと昇る。
「なっ……!? 馬鹿な……!」
リハリア・イーグスが目を見開く。
「アイナクィンシステムは我らの制御下にあるはず……!なぜ奴が……!」
クィンの身体を中心に、光の輪が幾重にも広がっていく。
その輪はやがて人の形を取り始めた。
「……こ、これは……?」
メティムが息を呑む。
現れたのは――古き時代を駆け抜けた“魔法少女たち”の幻影。
時代も容姿も異なるが、その姿には共通するものがあった。
それは“自らの意思で戦った少女たち”の誇り。
「歴代の……クィン・クィーン……!」
亜突が驚愕の声を漏らす。
幻影の一人、初代クィン・クィーンの姿をした少女が前へ進み出た。
「私たちはお前たちの道具じゃない。誰かの権力のために剣を振るう存在じゃない」
「やめろ……やめろォォォ!」
リハリア・イーグスは必死に詠唱を繰り返すが、術式は次々と崩壊していく。
「クィン……お前ごときに何ができる!?」
クィンは静かに首を振った。
その瞳は金色に輝き、決して揺るがなかった。
「私一人じゃない。
――私には、歴代の仲間たちがついている」
幻影の少女たちが声を合わせる。
「魔法少女は、もうお前たちの道具じゃない!」
「力は、上っ面だけの大義のためにではなく――尊い命を守るためにある!」
祭壇全体が轟音を立て、空に浮かぶ月さえ震える。
無数の光が渦巻き、リハリア親子を押し潰すように迫る。
ナイアルラトホテップが低く笑った。
「フフ……人間ども。こうでなくてはな」
その瞳に宿るのは、侮蔑ではなく――愉悦。
「さあ見せてみろ。お前たちの愛と宿命が、我ら外なる者の混沌を凌駕するのか……」
クィンは両手を掲げ、全ての光を自らの胸に取り込んだ。
歴代の魔法少女の幻影はひとり、またひとりと溶けるように消え、彼女に力を託していく。
「みんな……ありがとう」
クィンの頬を、一筋の涙が伝った。
次の瞬間――。
彼女の背に、黄金の翼が広がった。
その翼は夜空を覆い尽くすほどに巨大で、祭壇を聖域へと変える。
「私は……アイナクィンシステムの鎖を断ち切る!」
「そして……仲間を、世界を、必ず守る!」
その宣言に呼応するかのように、祭壇上の黒い繭が悲鳴のような音を上げた。
「クィン……貴様ァァァァァッ!!」
リハリア・イーグスの絶叫が、夜に響き渡る。




