乂阿戦記5 幕間の章 ああ、亜突、貴方はどうして亜突なの?-13 立ち塞がるリハリア親子
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
リハリア親子は突如現れた亜突に一斉に視線を向けた。
祭壇に吹きすさぶ風がざわめきを増し、呪文の響きが止む。
「……ほう?」
低く響く声が静寂を切り裂いた。
リハリア・イーグスの眼光が、闇よりも冷たい光を放つ。
「小僧……何者だ?」
亜突は一歩、二歩と進み出る。
剣を抜き放ち、凛とした声で叫んだ。
「俺は――クィン様の騎士、今宵亜突だ!」
「クィン様の……騎士?」
シャチ・イーグスが顔をしかめ、苦笑を浮かべる。
「まさか……お前が。幼馴染として忠告してやる……身の程を知れ」
だが亜突は揺るがなかった。
「知れたこと! 俺はクィン様を取り戻しに来た!」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、リハリアの口元にぞっとするほど不気味な笑みが浮かんだ。
「……ククク……クァーハッハッハ! おのれ一匹の小僧が、この私に挑もうとは!」
リハリアは指を鳴らした。
「小僧、貴様のその勇気……無駄に散らすには惜しい。だが――ここで屠ってくれる!」
護衛兵たちが唸り声を上げ、武器を構える。
その背に月光が落ちた瞬間、彼らの肉体は歪み、血肉が膨張し――異形の怪物へと変じていった。
「な、なんだこれは……!」
亜突が息を呑む。
「我が呪詛の加護よ。月影の下で、精鋭すらも獣に変える……」
リハリアは片手を広げ、愉悦の笑みを深めた。
「さあ、噛み砕け。小僧の骨を一片残らずな!」
その時、湖岸から声が轟いた。
「亜突ーッ! オラたちも来てるだぞ!」
舟を操ってギルトンとメティムが駆けつける。
岸辺に降り立ち、剣と魔法を構えた。
「ぬぅ……! 貴様らまで……!」
リハリアは怒声を上げた。
「クィン様を救う! それが俺たちの使命だ!」
亜突は剣を構え直し、仲間の背に勇気を受けて叫んだ。
その瞬間、ギルトンが亜突の背中をどんと叩いた。
「亜突! ここはオラたちに任せろ! おめぇはクィンちゃんを助け出すだ!」
「ギルトン……!」
亜突の瞳に炎が宿る。
「行けぇぇぇぇぇ!!!」
仲間の声に押され、亜突は結界へと突進した。
祭壇の中央、虚ろな瞳のクィン。
その唇が、かすかに震えた。
「……亜突……? なぜ……ここに……」
「クィン様! 一緒に逃げましょう! この儀式は……あなたを殺す!!」
亜突はその手を掴み、強く握りしめた。
しかし――。
「遅いわ!」
リハリアが呪を唱え終える。
祭壇から迸る光柱が結界を形成し、亜突とクィンを閉じ込めた。
圧倒的な魔力が大気を裂き、稲光のように周囲を走る。
「ぬぅぅぅ……っ!」
亜突は剣を結界に叩きつけた。だが硬い壁は微動だにしない。
「ククク……どうだ小僧。絶望の檻だ」
リハリアは舌で唇をなぞりながら嘲笑った。
「巫女は我らの器。貴様はその目の前で――愛する者が怪物に堕ちるのを眺めるがよい!」
「亜突……!」
クィンが震える声で叫んだ。
「危険よ! ここから……逃げて……!」
「逃げない……!」
亜突の声が夜を裂いた。
「クィン様を……俺は絶対に助け出す!」
リハリアの高笑いが祭壇にこだました。
「フハハハ! 小僧よ、目に焼きつけろ! 巫女が“器”へと変じる瞬間をなぁ!」
その瞬間、結界の中の光が弾けた。
亜突とクィンを中心に、月の光と禍々しい黒炎が絡み合い、渦を巻く。
「なっ……!? これは……!」
リハリアですら顔色を変える。
「父上……! 制御が効いていません!」
シャチが叫んだ。
「馬鹿な……クィンの内部に眠る“何か”が抵抗しているのか……!?」
次の瞬間――。
眩い閃光が爆ぜた。
亜突とクィンの身体は、まるで糸を引くように空間ごと引き裂かれ、光の裂け目へと吸い込まれていく。
「クィン様ぁぁぁ!!!」
亜突は叫び、必死にその手を握りしめる。
「亜突……! お願い……離さないで……!」
クィンの声が涙に震えていた。
だが、光の奔流は無慈悲に二人を引き裂こうとする。
周囲の景色がぐにゃりと歪み、湖も祭壇も遠ざかっていく。
「やめろ……! 俺は絶対に離さないッ!!」
亜突は全身の力を込めてクィンの手を握り締める。
――その刹那。
二人の視界は完全に白く染まり、時間も音も消えた。
◇
気づけば、亜突は広大な草原に立っていた。
頭上には巨大な蒼い月。
足元には、星屑のように光る花が一面に咲き乱れている。
「ここは……?」
息を呑む亜突。
すぐそばに、白い衣を纏ったクィンが立っていた。
彼女はさっきまでの虚ろな表情ではなく、月光を宿した女神のような輝きを放っていた。
「……ここは“月影の狭間”。現世と異界の境目にある場所よ」
クィンの声は、どこか別人めいて響く。
「クィン様……?」
亜突は戸惑いながらも一歩近づいた。
クィンは静かに微笑んだ。
「ありがとう、亜突。あなたが呼んでくれたから……私は“私”を取り戻せた」
亜突の胸が熱くなる。
「じゃあ……本当に、クィン様なんだな?」
「ええ。でも同時に……私は“始まりの巫女”ユミル・ガイアの記憶に縛られている。リハリアが欲しているのは、その力なの」
風が吹き、星屑の花が舞い上がる。
クィンは両手を胸の前で組み、切なげに言った。
「亜突……。私をこのままにしておけば、世界は……滅びる」
「そんなの……させるもんか!」
亜突は剣を握り締め、力強く叫んだ。
クィンの瞳が揺れ、そして微笑む。
「……やっぱり、あなたがいてくれてよかった」
その時、空が裂けた。
現世に繋がる歪んだ亀裂の向こうから、リハリアの怒声が轟く。
「巫女よォォ! 戻れ! その身体は我らの器だァァ!!!」
クィンは振り返り、震える声で呟いた。
「もう時間がない……。亜突……私の力を、あなたに託す……!」
まばゆい光がクィンの胸からあふれ、亜突の全身を包み込んだ。
「これは……!」
眩しさに目を覆う亜突。
「これは“改獣の力”。あなたなら、この力を正しく使える……」
クィンは最後の力で微笑み、亜突の手を強く握った。
「私を――必ず救って……」
光が爆発する。
次の瞬間、亜突は一人、現世の湖畔に立っていた。
彼の体からは、これまで感じたことのない力が迸っていた。
「クィン様……! 必ず助ける……!」
夜の湖に、少年の誓いが轟いた。




