乂阿戦記5 幕間の章 ああ、亜突、貴方はどうして亜突なの?-11 ラブカトゥルの儀式
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
一方、その頃廃妃アン・クィンは厳重な扉で、塞がれた部屋の中で、あいかわらず眠るように横たわっていた。
すべての希望を失い、感情と言う感情が消え去っているかのような様子で無気力な状態で横たわっていた。
そんなアン・クィンのもとに一人の訪問者が現れた。
クィンの幼い頃から侍女、紫蛇である。
彼女は部屋に入るとすぐにクィンの元へ駆け寄り、そっと声をかけた。
「クィン様……クィン様……目を覚ましてください……。クィン様……。あなたを必要としている人がいます。今この瞬間にも……」
しかしアン・クィンは反応しなかった。まるで声が届いていないかのように深い眠りに落ちている。
紫蛇はしばらく無言で立ち尽くした後、小さくため息をついた。
「まだ……届かないか……。まだ……。でも……必ず……あなたを目覚めさせる。それは運命の呼び声なのだから……」
紫蛇は静かに部屋を出ていった。
その表情には決意と悲しみが入り混じっていた。
「そうそう。亜突君に一つ話があるんだけど……」
「何だよ? ヴァルシア姉」
亜突は怪訝そうな表情を浮かべながら尋ねた。
「うん。実は……亜突君のお父さんについてなの……」
「俺の……親父? 今更何の関係があるんだ?」
亜突は少し怒りを込めて返した。
彼にとって父親という存在は忌むべきものだった。
幼い頃に母、今宵帳を捨て、家庭を顧みなかった父親に対して良い感情を抱いていない。
しかしヴァルシアは真剣な表情で言葉を続けた。
「亜突君のお父さんである暗黒天馬ね……実は暗行御史だったのよ」
「え? 暗行御史 ?」
亜突は驚いた表情を浮かべた。
暗行御史とは龍麗国の秘密警察のような存在で、王の命令で各地を巡回し、不正や悪事を調査する役職である。
「そう……。亜突君のお父さんは暗行御史として各地を回っていたの。でも……ある事件がきっかけで姿を消した……」
「事件?」
「そう……。お父さんが最後に調査していたのは『ラブカトゥルの儀式』という秘密の儀式だった……。その儀式に妖魔帝国の魔道士達が関わっていて……何か大きな陰謀があるという情報を掴んでいたのよ……」
「ラブカトゥルの儀式? そんな儀式なんて聞いたことないぞ」
「当然よ。それが秘密の儀式だから……。でもね……最近その儀式が再び行われるという噂を耳にしたの……。そして……その儀式にはアン・クィン様が関わっているという情報も……」
「 あの人が?」
亜突は目を見開いて驚いた。
廃妃アン・クィンは政略結婚で龍麗国の国王イドゥグの妃となったが、自分と不貞を働いたとして廃妃され、宮中で幽閉されている。
「ヴァルシアさん……その話は本当なのか?」
「ええ……。でも私も確証があるわけじゃない。だから亜突君に協力してもらいたいの。アン・クィン様の元に行き、真実を確かめたいの……」
亜突はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「分かった……。協力するよ。でも……親父の事はもうどうでもいい……」
「そう……。でも……もしかしたらあなたの父の失踪にも関わることかもしれないわ……」
「関係ない……。もう親父の事は忘れたい……」
亜突は無理に笑顔を作りながら答えた。
「そう……。でも……いずれ知る時が来るかもしれない……」
ヴァルシアは寂しそうな表情でつぶやいた。
一方そのころ、ユドゥグ王から密命を受けた紫蛇は、ギルトンにリハリア達に関する情報を報告し終え立ち去ろうとしていた。
「はい。ギルトンさん。それでは私はクィン様のもとへ参ります。あまり時間を空けるとリハリア達に怪しまれますから・・・」
「気をつけろよ。紫蛇ちゃん。アンタの裏切りがリハリア達にバレるとまずい。オラがうまくやっておくから、オメーはラブカトゥルの儀式をしようとしているリハリア親子に気を配ってくれ」
「はい。かしこまりました」
紫蛇は一礼して部屋を後にした。
一方でヴァルシアは窓から空を見上げながらつぶやいた。
「やれやれ……。どうなることやら……。イドゥグ様とクィン様の関係……亜突さんとクィン様の関係……そしてラブカトゥルの儀式……。なんかすべてが複雑に絡み合っているきがするわ……。でも……この作戦で全てが決まる……。亜突さんの運命も……そして龍麗国の未来も……」
数日後、龍麗国の各地で大きな動きが起こり始めた。
アン・クィンの幽閉された部屋に彼女の側近紫蛇が訪れようとしたその日、突然、彼女が姿を消したのだ。
厚い扉も、鉄の鎖も、すべてそのまま残されていた。
だが――肝心の彼女だけが忽然と消えていた。
「な、なんてこと……!? クィン様が……消えた……!?」
紫蛇たちは顔を青ざめさせ、慌てふためいた。
その報せはすぐにギルトンの耳へと届く。
「……やっぱり動いたか……」
小さな拳を握りしめ、彼は険しい表情を浮かべた。
「リハリア親子……いよいよ“ラブカトゥルの儀式”を始める気だな」
ギルトンは息を切らせて亜突の宿舎へ飛び込んだ。
「亜突! 大変だ! アン・クィンちゃんがいなくなった!」
「なに……!? どういうことだ、ギルトン!」
亜突は椅子を蹴って立ち上がる。
「オラの勘が言ってる……いや、メティムの情報も重なってるだ。クィンちゃんは……儀式に連れていかれた!」
「儀式……? まさか……」
亜突の眉が深く寄る。
「そう。“ラブカトゥルの儀式”だ」
ギルトンは真剣な目で続けた。
「オラも詳しくは知らねぇけどな……。月の満ち欠けを利用して、魔法少女にすっげぇ力を与える儀式だべ。その力を使えば……神サマにだって近づけるとかなんとか!」
「神の力……?」
亜突が低く呟く。
横からヴァルシアが補足した。
「つまり……正しく使えば絶大な力を得られる。でも逆に――」
「そうだ!」
ギルトンが勢いよく割り込む。
「逆に六道魔人ってやつに取り込まれて、人間じゃなくなっちまう危険もあるんだ!」
「……!」
亜突の表情が険しくなる。
ギルトンは床を拳で叩いた。
「リハリア親子はその儀式を使って何か企んでる! オラ、ぜってぇ許せねぇ! クィンちゃんも巻き込まれるかもしれねぇんだぞ!」
その声は子供らしいが、必死の響きがあった。
「じゃあ……クィン様も……危ないのか?」
亜突は喉が張り付くような声で問う。
「そうだべ」
ギルトンは真剣に頷く。
「でもな、あの子を目覚めさせられるのは――たぶん亜突、おめぇしかいねぇ!」
亜突は拳を握りしめた。
胸の奥から熱が込み上げる。
「……分かった。行こう。クィン様を助け出す!」
ギルトンの顔がパッと輝いた。
「よっしゃー! 決まりだな! じゃあ――冒険の始まりだべ!」
少年の笑顔に、不思議と亜突の心も軽くなる。
どんな危険が待ち受けていようと、この小さな勇者となら乗り越えられる。
そう思わせる何かが、ギルトンにはあった。
こうして二人は――
アン・クィンを救い出すため、ラブカトゥルの儀式の場へと向かう決意を固めたのだった。




