乂阿戦記5 幕間の章 ああ、亜突、貴方はどうして亜突なの?-10 亜突とギルトン
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
亜突は、その少年の姿を見て思わず声を上げた。
「お、お前は……!」
「オッス! 久しぶりだな、亜突!」
元気よく片手を挙げ、満面の笑みを浮かべて現れたのは――
かつて龍麗国の宝物庫からお宝を盗み出し、それを貧しい民にばら撒いた、伝説の大義賊にして勇者。
ギルトン・カルマストラ。
年の頃はまだ十二、三。
背丈も小さく、顔つきにはまだあどけなさが残っている。
だがその笑顔の奥に宿る光だけは、誰の目にも「英雄」と呼ばれるにふさわしい輝きだった。
「ギルトン・カルマストラ!? なぜお前がここに……!」
亜突は驚きに声を震わせる。
代わりに答えたのはゴーム王だった。
「うむ。実は彼のパートナーである我が娘、メティムがこの日を予期していたのだ。彼ら“五大魔法女神の勇者”もまた――時空大鍵の行方を追う者であった」
「な、なんだと……!? そんな馬鹿な……!」
亜突は頭を抱え、混乱のあまりうずくまった。
ギルトンは慌てて近づくと、無邪気に肩を叩く。
「おいおい亜突! そんなに難しく考えるなよ!」
少年の声は驚くほど真っ直ぐで、場の空気を一気に和らげる。
「オラがやろうとしてるのは単純だぞ? ――魔法少女のみんなと力を合わせて、世界の破滅を止める! それだけだ!」
にかっと笑うギルトンの姿に、亜突は思わず言葉を失った。
「な……なんだと……!?」
亜突の困惑をよそに、ゴーム王が補足するように口を開いた。
「世界樹の乱獲による滅亡は、もはや猶予がない。人類の力だけでは防げぬほど深刻だ。だが――三聖の塔を開き、アカシックレコードへ至れば世界は救える」
「な? そういうことなんだよ!」
ギルトンは椅子に飛び乗り、両手をぶんぶん振り回しながら言った。
「オラ、世界平和なんてガラじゃねぇけどさ! このままじゃ天下取りの夢もできねぇし! だから仕方なくやるんだ!」
子供じみた仕草でありながら、その言葉には不思議な説得力があった。
ゴーム王の使い魔のカラスが一歩前へ進み、柔らかく問いかけた。
「亜突殿、貴公はクィン妃を助けたいのであろう? ならば、わしらに力を貸してはくれぬか?」
亜突はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「……いいだろう。ただし――俺はお前たちを信用したわけじゃない。俺はクィン様を助けるためだけに協力する。もしクィン様に危害を加えるようなことがあれば……そのときは容赦なく斬る。それが条件だ」
「はっはっは! 承知しておるとも!」
ゴーム王のカラスが笑うと、場にわずかに和やかさが戻る。
その時、ギルトンが勢いよく身を乗り出した。
「よっしゃー! 仲間決定だな!」
「……おい、待てギルトン。俺はあくまで条件付きで――」
「細けぇこと言うなって! 仲間は仲間だべ! なっ、メティム!」
横に控えていたメティムが溜息まじりに笑った。
「はぁ……ほんとあなたって子は。もうちょっと落ち着いて話せないの?」
「へへっ! 落ち着いてたら勇者なんてやってられねぇだろ!」
ギルトンはにかっと笑い、まるで悪戯っ子のように鼻をこする。
そして亜突に向かって手招きをした。
「なぁなぁ亜突! オラと同盟を組むってことは、オラたちの計画に協力するってことだべ?」
「……ああ、そうだな」
渋い声で答える亜突に、ギルトンは子供っぽい笑顔で迫る。
「んじゃ、決まりだ! これからは一緒に大冒険だな!」
「冒険じゃない……俺はクィン様を救うために――」
「それでいいじゃん! クィン様を助けるのも冒険! イドゥグ坊主を守るのも冒険! 全部まとめて大冒険だ!」
無邪気な声。
だがその裏には、計り知れない勇気と希望が宿っていた。
ギルトンは急に顔を引き締めると、亜突の方をじっと見た。
「なぁ亜突……。クィンちゃんを助けるだけじゃねぇんだ」
「……どういう意味だ?」
亜突の声が低く響く。
「実はよ……イドゥグの坊主、生きてるだ」
「なっ――!?」
亜突の瞳が大きく見開かれる。
「ほんとだべ!」
ギルトンは真剣な表情で頷いた。
「オラの仲間が、あの子を助け出して匿ってる。怪我しちまってるけど、まだ息はある。今、ファルフィン団のみんなが必死で治してるんだ」
「イドゥグ様が……生きて……」
亜突の声は震えていた。
長年守り続けた幼い王。その命がまだ続いていると知った瞬間、彼の膝から力が抜けそうになる。
ギルトンは人懐っこい笑みを浮かべながらも、言葉に力を込めた。
「だから作戦はこうだべ。まずクィンちゃんを助ける。それからイドゥグ坊主と合流して、二人を安全な国に逃がす! ……それがオラたちの役目だ!」
「そんな……! じゃあ、俺は……」
亜突が混乱していると――
「ちょっとちょっとちょっとー!!!」
甲高い声が割って入った。
全員が振り向くと、物影から飛び出してきたのはヴァルシアだった。
「今の、ほんとなの!? イドゥグ様が生きてるって!? だったらお願い! 私も連れてってよ!」
ギルトンは頭を抱えて大げさに転げ回った。
「だぁぁ〜っ!! なんでそういう大事な話に限って盗み聞きされてんだよぉ!! めんどくせぇ〜!」
「誰がめんどくさいよっ!」
ヴァルシアはずいっと詰め寄る。
「イドゥグ様は私が助けるの! ねぇ、詳しく教えなさい! 今すぐ!!」
「だぁーっ! わかったわかった! 言うから落ち着けって!」
ギルトンは両手を振り回しながら叫んだ。
「イドゥグ坊主は確かに生きてる! でも怪我してっから治療中! 油断してっとユドゥグのおっちゃんにゴマすってる奴が、へんな勘違いをして殺し屋送り込んでくるに決まってる! だから一刻も早く国外に連れ出すんだべ!」
「……生きてる……ほんとに……」
ヴァルシアの頬に涙が伝う。
「よかった……ほんとによかった……」
亜突もまた深く頷く。
「そういうことなら……俺も必ず協力する。クィン様とイドゥグ様を、この命に代えても守る」
ギルトンは笑顔で拳を突き出した。
「よっしゃ! じゃあ三人、いや、四人で力合わせるだ! 大冒険の始まりだべ!」
雰囲気が盛り上がったあと、ギルトンは急に真顔になった。
「……実はな、イドゥグをファルフィン団に連れてきたのは、ユドゥグの妹のアン・イバラさんと、その親友の白銀雪さんなんだ」
「な、なんだと……!?」
亜突とヴァルシアが同時に息を呑む。
ギルトンは言葉を選ぶように、少しゆっくり話し出した。
「イバラさんが言ってただ……『兄ユドゥグは、本当は幼い弟を殺したくない』ってな。けど反乱を共にした仲間たちの手前、殺さなきゃ示しがつかない。それに……あの強欲なカンキルが絶対にイドゥグを利用して、国を乗っ取ろうとするはずだ……。だから表向きは“死んだこと”にして、こっそり亡命させたい。――そう頼まれたんだよ」
「ユドゥグ様が……そんなことを……」
亜突の拳が震えた。
「弟を……殺したくなかった……?」
「そうだべ」
ギルトンは力強く頷いた。
「だから、あんたに分かってほしいんだ。ユドゥグは敵じゃねぇ。……今は国を離れるのが一番だ。イドゥグ坊主だって、王になんか本気でなりたがってねぇよ」
亜突は長い沈黙ののち、低く唸るように言葉を吐き出した。
「……俺はずっと勘違いしていたのか……。ユドゥグ様が弟を憎んでると……思い込んでいた……」
彼は大きく息を吸い、そして吐いた。
その目は先ほどまでの迷いを脱ぎ捨て、烈火のような決意を宿していた。
「分かった……。俺はクィン様を救い、イドゥグ様を守り抜く。そして――そのときが来たら……イドゥグ様の盾となり、剣となる。必ずだ」
ギルトンはにかっと笑い、拳を突き出す。
「よーし! 話がまとまっただな! じゃあ早速、作戦会議を始めるべ!」
「おーっ!」
ヴァルシアも涙を拭いながら拳を重ねた。
こうして――三人の小さな誓いが、龍麗国の未来を動かす第一歩となったのだった。




