乂阿戦記5 幕間の章 ああ、亜突、貴方はどうして亜突なの?-9 ユドゥグの乱
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
ゴーム王により映し出された光景は異常だった。
王の間は血と炎に染まっていた。
燃え盛る城壁。崩れ落ちる天井。人々の悲鳴。
その中心に、本来なら座すべき幼きイドゥグ王の姿はなかった。
代わりに立っていたのは――一人の男。
五剣のユドゥグ。
背に炎を受け、影となったその姿から溢れる覇気は、幼い王とは比べ物にならない。
ただ立つだけで、見る者すべてを圧し潰す覇王の風格があった。
次の瞬間、四人の忠臣が膝をつく。
白銀雪――氷刃の魔法剣士。
亀粛鵬――奇策師にして巨岩のごとき男。
葵覇崙――剛弓覇龍、沈黙の忠臣。
アン・イバラ――夜の女神と見紛う戦乙女。
彼らは声を揃え、天地を揺るがすように叫んだ。
『イドゥグ王は堕ちました!
ユドゥグ様、今こそ龍麗国の新たな王におなりください!
我らを導き、最強の国へとお導きください!』
燃え落ちる玉座の間に、四人の讃歌が木霊する。
ユドゥグはただ無表情に、燃える王宮を見据えていた。
その唇が、わずかに動いた。
「龍麗は、血で染めたこの刃のもとに統べる」
その一言は、玉座の間を震わせるに十分だった。
――歴史が動いた。
龍麗国に新たな覇王が立つ、その瞬間であった。
「ま、待って……待ってよ!? 今……何て言ったの!?」
ヴァールシファーの顔から血の気が引き、瞳が虚ろに揺れる。
紅い口紅を噛みちぎり、笑いながら泣きながら叫ぶ
「嘘よ……! だって私……あの子のためにここまで来たのよ!?
イドゥグ様を……私の手で救い出して、一緒に生きるはずだったのに……!
誰か、嘘だと言って……お願い……!」
彼女の声は悲鳴となり、胸の奥の執着をさらけ出す。
蒼白になり震える声で叫ぶ。
さきほどまで余裕を装っていた顔は、もう見る影もなかった。
「イドゥグ王が……堕ちた? そんなはずない……!
あの子は……私の……!」
彼女の胸を突き破ったのは、ただ一つの事実。
幼き王――愛しい存在は、もうこの世にいないという現実。
「……これは大ごとね」
エメサキュバが、まるで他人事のように笑う。
「まさかユドゥグがほんとに王様になっちゃうなんて。ふふ、歴史の転換点に居合わせられるなんて、楽しすぎるじゃない」
呑気な声。だがその瞳だけは油断なく、次に何が起こるかを計算していた。
その時、重く低い声が響いた。
「……七罪の魔女たちよ」
ゴーム王だった。
老王は燃える戦場を背に、堂々と立ち、そして――驚くべきことに深々と頭を下げた。
「我らと共に来てほしい」
誰もが息を呑んだ。
一国の王が、膝を折ることなく、それでも頭を垂れる。
その姿は威厳ではなく、信念を纏っていた。
「今、世界はかつてない危機に晒されている。
セイ・ズーイ……君や魔女たちのせいではない。人間そのものの強欲のせいだ。
反物質エネルギーを得るために世界樹を乱獲し、ついにはユドゥグが兵器にそれを使い王座を奪った……。
このままでは滅びの時は近い」
その声は穏やかで、しかし誰も逆らえぬ重さがあった。
「だが――まだ希望はある。
三聖の塔を開き、アカシックレコードに到達すれば、世界の破滅は回避できる」
彼は再び頭を下げる。
「我らの下に付かずともいい。同盟を組んでくれないか。
どうか、この世界を救うために力を貸してほしい」
深々と頭を垂れる老王。その姿は信徒のように謙虚だった。
だが――その瞳の奥には、誰も気づかぬ冷酷な光が一瞬だけ宿っていた。
その光は、かつて世界を焼いた超魔導師の残滓にも似ていた
「ふざけるなぁッ!!」
亜突が一歩前に踏み出し、声を張り上げた。
その剣先は、迷いなくゴーム王へと向けられている。
「龍麗国に内乱を招いたのは――お前の謀略だろう!
リハリア将軍を唆し、シャチと手を組ませ、ユドゥグ様とウドゥグ様を争わせた……!
諜報部に人脈のある俺は、アンタとユドゥグ太子の動きをある程度掴んでいたんだぞ!
それでいて今さら“世界を救う”だと? どの面下げてほざく! 恥を知れッ!!」
激情が迸る。
亜突の目には、怒りと、失望と、そして深い悲哀が混ざっていた。
だが、ゴーム王はわずかも表情を動かさない。
老王は静かに、まるで子を諭すような声で答えた。
「承知の上だ……。だが、私が策を弄さずとも、ユドゥグはいずれ動いた。
野心家の彼が王座を奪うことは必然だったのだ」
「なに……?」
亜突は目を見開いたが、やがて唇を噛み、嗄れた声で吐き出す。
「……そうか……。
最初からそのつもりだったのか。
確かにユドゥグ様は王位を望んでいた。だがそれは民のため……!
だからこそ、俺は仕えたのだ!
国の忠臣だった我が父、“暗黒天馬”を裏切り粛正しようと、我が母“今宵帳”を強引に側室にして奪った好色の王であろうと……民を導ける英雄だと信じたからこそ!」
剣先が震える。
怒りか、悲しみか。
「だが全ては無意味だった。
俺はアンタとユドゥグ王の王座簒奪の謀略に巻き込まれ、地位も名誉も……そして、愛する者を守る願いすら失ったッ!」
叫びを終えた亜突は、剣を下ろし踵を返す。
「もう用はない……。
俺はただの野良犬として、クィン様を救いに行く!
謀略で彼女を陥れたお前たちなど、信用できるものか!」
そう言って、亜突は七罪の魔女と覇星の使徒の前から歩み去って行った。
———-
アン・クィンの行方を求めてあてもなく彷徨う亜突
その背に、ゴーム王の声が飛んだ。
「待ちたまえ、亜突」
驚いて、後ろを見れば黒いカラスがゴーム王の言葉を発していた。
「な!? ゴーム王?いや、ゴーム王の使い魔か?」
どうやら、正解だったらしく、そのカラスは首を縦に振り亜突の言葉を肯定する。
「あの場では話せなかったが、実はアン・クィンについてまだ話は終わっていない。
――この計画には、どうしても君が必要なのだ」
「俺が……必要だと?」
亜突が振り返る。その瞳には困惑と怒気が入り混じっている。
ゴーム王のカラスは頷き、わずかに口元を歪めた。
「そうだ。実はこの件に、もう一人――いや、二人、加わりたいと言ってきている者がいる」
その言葉と同時に、空気が揺らいだ。
視線が一斉に向く先。
そこに立っていたのは、赤い服の少年だった。
無垢な笑みを浮かべながら、しかし背後に潜む異様な気配は、誰一人として無視できぬものだった。




