乂阿戦記5 幕間の章 ああ、亜突、貴方はどうして亜突なの?-4 追われる亜突
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
「はぁはぁ……」
息を切らしながら走る影があった。
その影の正体は、今宵亜突だった。
彼は必死に逃げていた。
なぜなら、背後には多数の追っ手が迫ってきているのだ。
彼は後ろを振り返らずとも分かるほど、圧倒的な殺意を感じていた。
(一体なぜこんなことになってしまったのだろう……)
亜突は考える。
彼には心当たりがなかった。
むしろ、理不尽に命を狙われている理由が分からないといった心境だった。
ただ、一つだけ分かっていることがあるとすれば、このままでは殺されてしまうということだ。
「くそっ……!なぜだ?なぜなんだシャチ!」
彼は舌打ちをし、再び走り出した。
彼の脳裏に浮かぶのは、かつての思いを寄せた女性の姿だった。
(クィン様との約束を守れなかったことが悔やまれるぜ……!)
彼は心の中で呟いた。
その瞬間、足元が崩れるような感覚に襲われた。
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、すぐに理解した。
崖だ。
「まずいっ!?」
慌てて立ち止まるも、既に手遅れだった。
次の瞬間、体が宙を舞う感覚に襲われ、そのまま真っ逆さまに落下していった。
「うわあああっ!!!」
叫び声とともに地面に向かって落ちていく。
そして……激突する瞬間、誰かが彼の手をつかんだ。
「……ぐぁっ!?」
亜突が目を覚ました時、痛みに悲鳴を上げつつも、なんとか気を取り戻すことに成功する。
目覚めると、そこはどこかの部屋の一室のようだった。
亜突が振り返った先にいたのは、白髪の幼い少女だった。
年の頃は十歳ほど。人形のように整った顔立ちに、無邪気な笑みを浮かべている。
「やあやあやあ! アテはセイ・ズーイ。七罪の魔女の頭目にして、今代のエクリプス!」
両手を広げ、舞台の幕開けのように声を響かせる。
声色は明るく弾んでいるのに、その瞳だけは底なしの闇を宿していた。
「お目覚めかな、今宵亜突? クィン・クィーンに見初められし“今代の鍵”。
今日から君には、アテらの親衛隊《十四天士隊》にとらばーゆしてもらうよ!」
ケラケラと笑いながらも、視線だけは獲物を測るように鋭い。
亜突は自然と背筋に冷たい汗を流した。
「……断る!」
剣を抜き、構える。
「俺は龍麗国の忠実な戦士だ! お前たちのように国を滅ぼそうとする連中に下るものか!」
だがセイは怯むどころか、興味深そうに亜突を覗き込む。
その表情は年相応の少女のように無邪気で――しかし口から出た言葉は氷のように冷たかった。
「ふーん。やっぱり忠義者か。……でもさ」
彼女は首を傾げ、小さな指先をひらひらと振る。
「龍麗国は、君みたいな“いい子”を戦争の歯車にして使い潰すだけだよ?
アテら魔法少女と同じ。国も王も、誰も君を守っちゃくれない」
その声色は、からかうようでありながら、どこか寂しげでもあった。
亜突は一瞬、言葉を詰まらせる。だが迷いを振り払うように剣を握り直した。
「……それでも俺は龍麗国に殉じる!」
「やれやれ、ホント頑固だね」
セイは小さく笑い、パチンと指を鳴らす。
瞬間、部屋の影から次々と魔女たちが現れ、亜突を取り囲む。
亜突の顔が蒼ざめたその時、背後から銀髪の女が飛び蹴りを放った。
壁に叩きつけられ、視界が揺らぐ。
呻き声を漏らす亜突に、セイは子猫をあやすような声で囁いた。
「でも……アテ、君のそういうとこ、嫌いじゃないよ?」
銀髪の魔女に蹴られた瞬間、壁に激突してしまい意識を失いそうになる。
だがその直後に腹部に強い衝撃が走ると同時に激痛が走った。
胃液が逆流し口から吐き出される。
あまりの痛みに耐え切れず蹲ってしまう。
それを見て黒き魔女が悲鳴を上げる。
「きゃああ!兄さん!」
「?????」
亜突は痛みよりも黒い魔女のセリフに気が動転してしまう。
(に、兄さん!?ん?あれ?このやたらユエに似てる魔女ってまさか?……)
亜突は何か喋ろうとするが、ダメージがでかくしゃべることができない。
部屋の空気が一瞬、張り詰める。
呼び名を耳にした亜突は、痛みを忘れるほどに動揺した。
「……に、兄さん……? 今、そう呼んだのか……?」
視界に映るのは、長い黒髪に黒い瞳――落ち着いた大人の女性。
けれど、笑ったときの口元の癖、視線の熱――あまりにも妹ユエに似すぎている。
(まさかな……ユエはまだ十歳だ。こんな大人の姿であるはずがない……!)
混乱する亜突を見て、ルキユはすぐに取り繕うように口を開いた。
「……失礼しました。私の知り合いを思い出してしまっただけです。私の名はルキユ、七罪の魔女の副頭目です」
そう言って微笑む表情は冷静を装っている。
だが、声の震えや瞳の奥の揺らぎは、亜突を“兄”と認めてしまっているようにしか見えなかった。
「まったく……いつも無茶をするんだから……」
小さく漏らす声は、どこか拗ねた妹のようで。
亜突は思わず胸を締めつけられる。
「……ユエ……?」
喉まで出かかった名を、必死に飲み込んだ。
そのやりとりを面白そうに眺めていたセイが、口を挟む。
「おやおや〜、ルキユちゃん。さっきから様子が変だよ? まるで兄妹の再会みたい」
ルキユは一瞬、表情を硬くした。
けれど次の瞬間には、いつもの涼やかな声色で言い返す。
「からかわないでセイ。私は副頭目として――ただ有望な戦士を勧誘しているだけよ」
だが、亜突の耳には届いてしまっていた。
ほんの刹那の間に覗いた、妹ユエの――あの甘えん坊な眼差しが。
(そんなはずは……いや、でも……)
彼の胸の内に、抗いがたい動揺が渦巻いていく。
「ぐう!」
銀髪の魔女に蹴られた腹が結構痛むのか、亜突が腹を押さえうずくまる。
「あ、兄さ――!」
思わず口走った言葉に、自分でもはっとして口を噤む。
ルキユは慌てて背筋を正し、何事もなかったかのように冷ややかな微笑を浮かべた。
「……失礼しました。副頭目として、部下の無作法を叱ろうとしただけです」
そう取り繕うが、声の端にはどうしても動揺が滲む。
亜突は眉をひそめ、じっと彼女を見た。
「……お前、今、何と――」
「気にしないでください」
ルキユはすかさず言葉を遮る。その声音は淡々と落ち着いていた。
だがその直後、彼女は亜突の傷口を見つけて思わず顔をしかめる。
「……やっぱり怪我してる。ホントにあなたは、昔から………」
「……!? い、今、昔からって言ったよね??……」
問い返されて、ルキユは口元を押さえる。
黒髪の奥から、ほんのりと赤みが差していた。
「……いえ。何でもありません」
「え?でも確かに今……」
「言ってません!」
横を向き、冷静を装う。だが指先が小さく震えている。
その様子を見て、セイ・ズーイがケラケラと笑い出した。
「やれやれ〜、ルキユちゃん、さっきからボロ出まくりだよ? まるでお兄ちゃんが心配で仕方ない妹ちゃんみたい!」
「〜〜〜セイ……!」
一瞬だけ素の表情に戻り、耳まで真っ赤になるルキユ。
すぐに表情を引き締め直すが、頬の赤みは隠し切れなかった。




