乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-8 世界最強の男 覇王阿烈の来訪
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狂気山脈の影に沈む、ドアダ本部要塞。
そこで、ひとつの密談が静かに幕を開けた。
議題はただ一つ――雷音たち、乂族の若者たちの処遇について。
「現在、彼らは一時的に“保護”という名目で本部に収容されている。が、いつまでも曖昧な立場にしておくことはできん」
ナイトホテップが端的に状況を説明する。
乂雷音。乂雷華。どちらも最強の封獣“クトゥグァ”を宿す器にして、狂戦士阿烈の血縁でもある。
神羅ユキルを中心とする“乂の要石”とでも呼ぶべきこの兄妹は、味方にも敵にもなり得る最重要人材だった。
「処刑すべきだ」「いや、恩赦を与えて寝返らせるべきだ」
会議は紛糾した。
“兵器”として見れば厄介な火種、だが“人”として見れば希望たり得る。
利害と思想の衝突が、円卓の上に交錯する。
最強の封獣クトゥグァを持つ2人の評価は実はかなり高い。
阿烈の寵愛も受けている。
そんな雷音、雷華をどうするかについては当然意見が分かれた。
ある者は今すぐ処刑するべきと唱え、またある者は恩情を与えてこちらの味方にすべきと唱えたのだ。
その混沌に、ひとつの静かな声が差し込んだ。
「……私は、彼らを解放すべきと考えます」
発言者は、ドアダ最強の武人――スパルタクス。
その一言に、場が静まり返る。
「神羅の協力を得ることが我々の最大目的。その彼女と長年を共にした雷音を軽んじれば、彼女の心も遠ざかる。
さらには……ガープ首領の孫である神羅を、無意味に傷つけるような真似は、避けるべきでしょう」
言葉の一つ一つは理路整然としていた。
だが、その声には軍人としての誇りも滲んでいた。
「天下のドアダが、幼子を人質として政治交渉の材料にする……笑い者だ。
責任は、すべて私が取ろう」
その瞬間――空気が凍りついた。
だがそれも一瞬のことで次の瞬間にはざわめきが起こった。
数秒の沈黙の後、立ち上がったのは七将筆頭・ナイトホテップ。
「……スパルタクスの案、前向きに検討しよう。
ただし、生体検査が終わるまでは保留。そして――ユキルだけは渡さん」
その声は冷酷だったが、揺らぎはなかった。
「ユキルはエクリプスの呪いを跳ね除けた唯一の存在。ドアダにとっても、宇宙にとっても唯一無二の鍵だ。
乂族には渡せん。もし渡せば、我らは奪還に全戦力を注ぐことになる」
淡々と語るその姿は、策士というより――王の代弁者であった。
「ではユキル様は?」
「ああ、引き続き彼女はこちらで保護することにしよう。」
そう答えると男は再び席に座った。
すると今までずっと黙っていたイブが立ち上がった。
「銀仮面羅漢殿を前線に送り込んだと聞きまシタ……よろしいのデスカ?羅漢殿の洗脳手術は失敗に終わったと聞いておりマスガ」
「それは問題ない……むしろ羅漢の本気をたしかめられるいい機会だ」
ナイトホテップはそう言うとニヤリと笑った。
タイラント族の首都ティタントで乂族の反乱が起きてから、ドアダ基地内に抑留されていた雷音達の監視は厳しくなった。
「うー、もうそろそろ家に帰れると思っていたのに残念なのだ!」
「同意……本来ならば本日中に乂族、もしくはアシュレイ族から迎えが来る予定でした。」
「……雷音また脱走しようとか考えてる?」
鵺に尋ねられ雷音は答えた。
どうやら図星だったらしい。
雷音は目を泳がせながら慌てて言った。
「お、思ってないよー」
その様子を見た鵺は少し呆れた顔をした後、少し微笑んでいった。
その表情を見て雷音はホッと胸を撫で下ろした。
そんな二人のやり取りを見ていた神威は思わずため息をついた。
(やれやれ、本当に懲りないな)
だがその時、警報音が鳴り響いた。
一方その頃、ナイトホテップ達はと言うと会議を終えそれぞれの持ち場に戻って行ったところだった。
そこに突然通信が入った。
ナイトホテップはすぐさま応答ボタンを押して通話を始めた。
相手は彼の部下の一人だった。
彼は慌てた様子で報告した。
その内容を聞いたナイトホテップの顔からは余裕が消えた。
だが次の瞬間には元のポーカーフェイスに戻っていた。
そして報告に来た男に指示を出した後、他の幹部達に命令を下した。
それから数分後、その部屋の中央には巨大な円卓が置かれていた。
そこには幹部達が集まっていた。
彼等の中心にあるのは映像を映し出すための機械だった。
それを取り囲むように座っているのは、ナイトホテップ、スパルタクス、イブらと上級怪人達、そしてドアダ首領ガープであった。
ナイトホテップは今いる幹部全員が揃ったことを確認するとおもむろに話始めた。
「……乂阿烈がこの基地に来た。1人でだ……護衛も連れていないらしい」
突然のことにその場にいた全員が凍り付く。
――その報は、密やかに、されど雷鳴のごとくドアダ中枢を揺らした。
「乂阿烈が来た」
ただ、その一言であった。
だが、その名が持つ重みが、周囲の空気を凍てつかせる。
それは灼熱ではなく、氷点の威圧。恐れではなく――畏怖。
その発言に真っ先に反応したのは、意外にも一番冷静そうな見た目をした男だった。
その男スパルタクスは珍しく興奮した様子で口を開いた。
「おお!今朝から感じていたあのとてつもないプレッシャーは彼のモノだったか!サタン、よければ私が接客に当たりたいのだが構わないか!?」
普段は寡黙で冷静な男なのだが、今日はどうも様子が違うようだった。
いつもは7将軍筆頭であるナイトホテップをたてて敬語を使う彼が、今日はサタンの古い友人として発言してしまっていた。
それもそのはず、彼とてかつては最強を目指した生粋の武人だ。
"武の頂"の来訪に心が踊らぬはずがない。
ナイトホテップが立ち上がる。
その瞳には、冷酷と策謀の双刃が光る。
「単騎、護衛もなし……だと? まるで、我らが牙を測るかのような登場じゃねぇか」
苛立ちではない。
そこにあるのは、策士としての鋭利な嗅覚。罠か、挑発か、それとも――神話の歩み寄りか。
「フン……だが、奴が本物なら、単騎で十分……か」
沈黙の中、椅子の軋む音が響いた。
立ち上がったのは、スパルタクス。
「お許し願いたい、ナイトホテップ殿。乂阿烈、あの“武”の化身と相まみえる光栄を……この身に賜りたく存ずる」
その声音には、かつて死地で数千を斬った男の昂揚が滲んでいた。
彼は求めていたのだ。
戦場では出会えぬ、頂の彼方に君臨する“獣”と――剣を交えるこの機会を。
ナイトホテップは肩をすくめた。
「……ったくお前といい羅漢といい、最強をマジで目指すやつぁ頭のネジがブッ飛んでやがる……」
言ってナイトホテップはため息をついた。
「乂家の頭目が自ら乗り込んできたのじゃ。ワシも出よう…サタン、ヌシはティタントの防衛指揮に専念してくれ」
そう言ってサタン=ナイトホテップの父ガープは腰を上げた。
「親父よ、悪いがティタントの指揮はちっとの間だけイブに任せる。俺も乂阿烈に会ってみてぇからな」
そう言ったサタンの貌には笑みが浮かんでいた。
それは、悪魔の器にも似た、最強を求む戦士たちへの理解であり、同意。
「…やむをえまい」
静かに言ったのは、老将ガープ。
その声には千の軍団を統べた王者の風格と、父としての憂いがあった。
「我らが此処にあっては、孫娘ユキルもまた心惑うやもしれぬ。ならば、老いぼれ一人が道を示してやるべきだろう」
その瞬間、空気が変わった。
あの乂阿烈――灼熱と殺気の象徴たる男が、彼らのもとへとやって来る。
ただ一人、敵陣の中心へ。
死地をものともせず、嘲るように。
「ふ、まったく……地獄の底からでも顔を出しそうなやつだ」
そう呟きながら、ナイトホテップは片手で仮面を外した。
ドアダの三柱――サタン、スパルタスク、ガープ。
そのすべてが、神話に挑まんと足並みを揃え、応接の扉を開いた。
乂阿烈。
この名が示すものは、ただの敵将ではない。
神話を歩く破壊者、烈火のごとき災厄。
そして今、彼が“ひとり”でドアダの心臓に現れたという事実が──世界の理そのものを、根底から震わせ始めていた。
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