乂阿戦記5 第六章 剛弓覇龍の娘 葵遍と葵寧々子-14 妖魔将軍リハリア・イーグス
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
戦いが終わった――そう誰もが思った矢先だった。
ドゴォッ!!
轟音とともに、神羅の身体が弾き飛ばされた。
何事かと振り返った鵺の視界に飛び込んできたのは、鋭い爪を振りかざし跳躍する巨大な影。
それはバジリコック……ではない。
「……もう一体!? いや、形が違う……ニワトリ寄りのフォルム?」
冠羽を揺らし、血走った目がギラリと光る。
鵺が息を呑む間もなく、その怪物は甲高く鳴き声を上げた。
「バジリスクじゃない……コカトリス!?」
「コーッコココココ、コケェェ!!」
主を窮地に追いやられた怒りか、召喚獣は狂乱状態に陥っていた。
地を蹴る足音が石畳を震わせ、周囲の空気が羽ばたきの風圧で揺れる。
「待ちなさい、クックドゥー! 私は無事よ! 落ち着きなさい! それに私は敗北宣言したでしょう!」
紫蛇の声は必死だったが、興奮したコカトリスには届かない。
振り下ろされた翼が空気を裂き、次の瞬間、鵺の身体に重い衝撃が叩きつけられる。
「……かはっ!」
息が詰まり、背中から石壁に激突。粉塵と痛みが全身を包む。
視界が揺れる中、鵺は驚愕の光景を見た。
神羅が宙を舞い、瓦礫の地面に叩きつけられていたのだ。
「ユキル!」
慌てて駆け寄る鵺。
だが、耳に飛び込むのは獣たちの不協和音だった。
コケーッ! コーコッコケー!
シュアーッ! シャァァァ!
紫蛇の制御を離れ、バジリコックとコカトリス――二体の怪物が暴走を始めていた。
「ユ、ユエ様……ユキル様……しっかりしてください!」
紫蛇が神羅と鵺に駆け寄り、肩を抱き起こす。
神羅はボロボロの顔をしかめ、破れた服から土埃が舞った。
「……っつぅー……大丈夫。私は大丈夫だから……あなたは逃げて」
ふらつく足で立ち上がる神羅。その目にはまだ闘志が残っていた。
「これ以上は無理です! あとは私が……」
紫蛇が言い切る前に、ドゴッ! ドガッ!
背後からの衝撃が二人を地面に叩きつける。
耳を裂くような奇声と共に、影が現れた。
まるで怪鳥の翼を持つ異形――腐りかけた肉に覆われ、裂け目から内臓が覗く。
そして、その両腕は節くれ立ち、巨大な鎌のように湾曲していた。
まるでカマキリの化け物だ。
「クス、クスクスクス……助太刀に来たよ、紫蛇……」
声の主は真っ白な少女の顔をしていた。
「愛菜久印!」紫蛇が名を叫ぶ。
よく見れば、バジリコックとコカトリスの頭部にも同じ白い顔が融合している。
その眼は濁り、まるで操り人形のよう。
魔物たちが白アイナクィンに支配されているのは明らかだった。
カマキリ腕の異形が、ゆっくりと鎌を振り上げる。標的は神羅だ。
神羅は紫蛇の正面、鵺はその左後方、暴走する二体の魔物は円を描くように戦場を荒らしていた。
「……くっ、いけない!」
紫蛇は即座に神羅の前へ飛び出し、両腕を広げて盾となる。
その瞬間、世界が水の中のようにスローモーションに変わった。
全身の痛みがすっと引き、代わりに身体が軽くなる。
(これは……何?)
視線を落とせば、自らの体が淡く光を放っていた。
神羅が回復魔法を、鵺がアイナクィンたちへ時間遅延魔法をかけていたのだ。
鵺の額には玉のような汗が浮かび、その魔力消耗の激しさが伝わってくる。
紫蛇は突然の助力に驚きながらも、不思議と拒む気持ちはなかった。
むしろ――十五年前と変わらぬ二人の動きに、懐かしい安心感すら覚える。
身体は光を纏い、痛みは消え、頭の中は冷静そのもの。次に何をすべきかを計算できる余裕さえあった。
「バジリコック! クックドゥー! お前たちの主は誰だ!? 私か、それともお前たちに寄生しているアイナクィンか!!」
コケェェッ! コーコッコケェ!
シュアァァッ! シャアアアッ!
鋭い叱声に応えるように、二体は吠え、互いの背に乗る白い上半身へ飛びかかった。
肉を裂く鈍い音が響き、寄生していたアイナクィンが引き剥がされる。
地面に転がった白い顔は「あれ……?」と虚ろに呟き、そのまま絶命した。
「あーあ、せっかく寄生成功したのに……もったいない」
カマキリのアイナクィンは、淡々と残念そうなふりをしてみせる。
その直後、紫蛇の体を何かが這い上がった。
じわりとまとわりつく黄色い靄――それは渦を巻きながら膨れ上がり、やがて黄色いフードを被った骸骨の姿へと変貌する。
骨の指が蛇のように四肢へ絡みつき、締め上げた。
「な、なにこれ!?」
「ふふふ……覚えてるだろう? 君の部屋に、昔、王命で捕らえたリハリア様を封じた黒水晶があったろう。あれ、レコキスタ様の命令で解かせてもらった」
骸骨はニヤリと口を歪めると、容赦なく紫蛇の動きを封じた。
必死に抗うが、骨の鎖のような拘束はびくともしない。
「ガァァハハハ! ついにこの時が来たぞ、紫蛇! よくもワシを罠に嵌め封印してくれたな!」
「その声……妖魔将軍リハリア=イーグス!」
「そうだ! 十五年前の怨み、今ここで晴らす!」
「何が怨みだ……! 母国を裏切り妖魔帝国に情報を売った悪臣が、反省もせず化けて出るとは!」
怒声を返すも、完全な力負けだった。地面に押さえつけられ、呼吸さえ奪われる。
その間にも、カマキリのアイナクィンは紫蛇に興味を示すことなく動き始めた。
「ユキル、ルキユ……我らアイナクィンの枠を逸脱したイレギュラーども。世界の存続のため、ここで消えてもらう」
両腕を広げ、魔力を集中させる。
紫色の光が周囲を満たし、空気が震え、肌が焼けるような熱を帯びていく。
「さあ……因果律の輪の中に戻れ!」
咆哮とともに、両手から極太の紫色ビームが放たれた。
「いけない! バジリコック、クックドゥー! ユキル様とユエ様を守れ!」
視界を覆う閃光、鼓膜を突き破る轟音。熱波が肌を刺し、足元の石畳が振動で軋む。
主の命令に応え、二体の獣が盾となって立ちはだかる。
直撃――白熱の閃光に目が眩み、耳奥で鈍く反響する衝撃音と焦げた匂いが鼻を突いた。
土煙が視界を覆い、耳鳴りの中で立ち尽くす神羅たち。
やがて煙が晴れ、驚愕の光景が露わになる。
あの威力を誇ったビームは、跡形もなく消えていた。衝撃波すら、まるで初めから存在しなかったかのように。
盾となった二体も、気絶こそすれ致命傷は負っていない。
(……何が起きた?)
呆然とする二人の前で、煙の向こうから人影が現れる。
割れた煙の隙間から、蒼のコートが風に翻るのが見えた。足音が石畳を一定のリズムで叩くたび、戦場の空気が張り詰めていく。
「よう、神羅、鵺ちゃん。無事か? ガープの爺さんに頼まれて調査に来たら……お前らに出くわすとはな」
振り返らず、青髪の少女に声をかける。
「おい絵里洲、神羅たちの怪我を治してやれ」
「はいはい、わかったわよ。アホ兄、絶対戦闘に巻き込まないでよ!」
「はいはい、残念妹。いいからさっさと治せ」
舌を出してあかんべえをした絵里洲は、神羅と鵺へ駆け寄り、淡い光を放つ。
みるみるうちに傷が塞がっていく。回復魔法の精度は、二人のはるか上だ。
「さて……紫髪の姉ちゃんを助けるとするか。神羅、鵺ちゃん、俺が合図するまで待機だ」
カマキリのアイナクィンが首を傾げ、低く問いかける。
「君は、一体何者だ?」
男は薄く笑い――短く答えた。
「通りすがりの、変身HEROだ」
蒼のHERO・狗鬼漢児は、ゆっくりと構えを取った。
周囲の空気が一瞬で張りつめる。
次の瞬間、戦場は再び嵐を迎えようとしていた。




