乂阿戦記5 第六章 剛弓覇龍の娘 葵遍と葵寧々子-12 戦闘型12月天使 切咲紗希
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
その時突然足元が大きく揺れ始めた。
地震かと思って身構えるとどうもそうではないようだ。
何故なら地面の下から奇妙な物体が出てきたからである。
それは巨大な植物の根っこの様な形をした何かで、しかも動くたびにメキメキと音を立てているのが不気味だった。
しかも先端部分はまるで意志を持っているかのようにこちらを向いているではないか。
恐らくこの怪物達の親玉なのだろう。
腰よりも長い紫髪のボンテージの美女と緑髪の怪しげな目つきの少女が怪物の上に立ち上がっていた。
「ようやく見つけたよ。メフィストギルドの副首領クレオラ。さあ、銀の鍵をおとなしく渡してもらおうか?」
緑髪の少女、切咲紗希はそう言うとニヤリと笑みを浮かべた。
その言葉に反応するかのように紫の髪の女が鋭い視線を送ってくる。
その表情はまるで獲物を狙う肉食獣のようだった。
彼女達からは只者じゃないオーラを感じる。
彼女達も聖刃と同じく戦闘特化の十二月天使達である。
まずいことになったと思った瞬間だった。
いつの間にか周りを囲まれていたのだ。
見ると後ろに居た筈のメフィスト兵士達の姿が見当たらない。
いや、姿はある。
ただ、全員が石に変えられ固まっていた。
恐らく紫髪の女、紫蛇の石化魔法の餌食になったのだろう。
クレオラは舌打ちする。
(油断しましたわ!まさか敵がこんな所に潜んでいたなんて……!)
そう思いながら武器を構えると隣にいた神羅、鵺達も戦闘態勢に入った。
アオネコは両手を挙げているところから察するに、切咲達と戦うつもりは無いようだ。
その分、神羅と鵺は抵抗し尽くすつもりのようだ。
(まさか彼女たちと共闘することになるかもだなんてね……)
それを見たクレオラは思わず笑みを浮かべる。
しかし状況は芳しくなかった。
いくらこちらの戦力が神羅、鵺、フレア、アオネコ、ナイア。そして自分クレオラの上位魔法少女が6人いるとはいえ、植物のバケモノの数が多い。
多勢に無勢すぎる。
しかもそれを指揮する切咲と紫蛇、2人のアイナクィンエンジェルは強そうだ。加えて、今自分は魔王クロウ・アシュタロスを追い、一刻も早く銀の鍵を奪い返さないといけない。
ならばどうするか? 決まっている。
逃げの一手を打つしかない。
そう思い立った瞬間、その場から全速力で駆け出した。
もちろん逃げるためである。
「神羅さん、鵺さん!渡した銀の鍵を持って早く逃げてください!」
「「なっ!?」」
神羅と鵺が絶句する。
自分達は銀の鍵は奪われど取り返してはいない。
つまりである。
クレオラは切咲と紫蛇の注意を神羅と鵺に押し付け逃げたのである!
「あ、あいつ!」
鵺がギリッと歯を噛み逃げたクレオラを睨みつける。
クレオラの横でナイアがおかしそうに笑っている。
正直、ムカッとくる。
現在切咲と紫蛇の視線は神羅達に向いていた!
彼女たちは、1人が逃げた方を追い、1人が残った方を相手する。
そう判断した直後、すぐに行動に移った。
「紫蛇、任せたよ。私はあの邪魔者を始末してくるからさ」
そう言って切咲はジャンプすると地面に降り立ちそのまま走り去っていくクレオラを追いかけるために走り出したのだった。
残された紫蛇はと言えば黙ってそれを見送るだけだった。
なぜなら切咲に任せておけば自分が追う必要が無いと判断したからである。
その証拠に既に切咲は動き出していたのだから。
『気象魔法』を発動したのだ。
これにより、周囲に雨雲が出現したかと思うと凄まじい勢いで雨が降り出した。
同時に落雷が発生する。
更に台風並みの強風が巻き起こり砂埃を巻き上げる。
切咲は小型のサイクロンに乗りクレオラ達を追いかけた。
「……さて、ユエ様、ユキル様。あなたたちのお相手は、私がいたします」
紫蛇が静かに宣言すると、石のように冷たい瞳が神羅と鵺を射抜いた。
「……どうやら戦うしかないみたいね」
鵺が低く息を吐く。
「……分かったわよ、仕方ないわね」
神羅も肩を落としつつ武器を構えた。
こうして、神羅たちと紫蛇の戦いが始まった。
⸻
その頃、城外へと走るクレオラは──
「フレアさん、ナイアさん! ここで一旦散開しますわ。後で合流地点で落ち合いましょう!」
短く指示を飛ばすと、三人はそれぞれ別方向へ駆け出す。
切咲はすぐに追手へ命令を下した。
「フレアとナイアは任せる。……私はクレオラを落とす」
その声は淡々としているのに、妙な熱を帯びていた。
⸻
石畳を蹴る音だけが響く回廊。
「……くそっ、しつこいですわね!」
クレオラはドレスの裾を翻しながら全力で駆け抜ける。背後から迫る魔力の気配が、肌を刺すように鋭い。
『──待ちなさい』
耳元で囁かれたように、その声は鮮明だった。
振り返ると、切咲紗希がいた。
暴風をまとい、サイクロンの渦が足元で唸りを上げている。緑髪が風に乱れ、瞳は獲物を前にした猛禽のように光っていた。
好戦的な笑み──怒りとも楽しみともつかない、捕食者の顔。
クレオラは一瞬、息を飲む。だが次の瞬間、口元に艶やかな笑みを浮かべた。
「あら……あなたが来るとは思いませんでしたわ。てっきり紫蛇の方かと」
「ふん。あんたなんか、私が始末してあげる。……その方が、楽しそうだから」
切咲は軽く吐き捨てると、サイクロンの回転を一段と速めた。
突風が通路の砂埃を巻き上げ、二人の間の空気がぴしりと張りつめる。
クレオラは長い吐息をつき、片手で髪を払った。
(……これは、本格的に面倒なことになりましたわね)
戦いの舞台はチェイテ城の庭園へと移っていた。
人の気配のない夜の庭園。満月の光が彫像の影を長く伸ばし、吹き込む風が枯葉を舞わせる。
その中央に、二つの影が向かい合った。
一人は黒いドレスを身にまとい、アシンメトリーなツインテールを夜風に揺らす女――クレオラ・フェレス。
もう一人は緑のサイドテールを肩に垂らし、黒いマントの裾を揺らす女――切咲紗希。口元に浮かぶ笑みは穏やかだが、その瞳は計算高い狩人のように冷たい。
「……やれやれ。逃げる鬼ごっこはこれで終わりですわね」
クレオラは深くため息を吐くと、唇に艶やかな笑みを乗せる。
「では――久しぶりに“舞台”を開きましょうか。私の時間魔法、その幕開けを」
背後に現れたのは、黒と金の装飾が施された巨大な時計盤。秒針の音が、周囲の空気を張り詰めさせる。
「……なるほど。やっぱり普通の魔女じゃなかった」
切咲は首をわずかに傾け、まるで標本を観察するような視線を向ける。
「鵺と同じ……“ヨグソトースのカケラ”のひとつ、か。ふふ……いいじゃない。試す価値はある」
淡々と告げると同時に、切咲の指先から刃のような風が解き放たれた。
疾風は目にも止まらぬ速度でクレオラの首筋を狙う――だが、クレオラの姿がふっと滲み、ずれる。
「おやおや……その程度の速さでは、私には届きませんわ」
(……だが侮れませんわね。この女、私の癖を二手先まで読んでいる)
余裕を装いつつも、瞳の奥では次の一手と退路を同時に計算していた。
クレオラは“加速”の魔力で自身の時間を引き延ばし、滑るように横へ移動していた。
返す一手、懐から黒光りする弾丸を放つ。それは触れたものの“時間”そのものを止める魔弾。
切咲は一瞬で風の盾を展開し、弾丸を受け止める。しかし魔法効果は遮断できても、衝撃までは防ぎきれず、わずかに足元が揺らぐ。
「……厄介。距離を取ったほうがいいかもね」
そう呟く声は抑揚がなく、それが逆に獰猛さを匂わせた。
「面白いですわ。もっと遊んで差し上げます」
クレオラが指を鳴らすと、時計盤が反転し、そこから霧のように複数の“過去のクレオラ”が現れる。
切咲の眉がわずかに動く。
「分身……いや、時間から引きずり出した過去像か」
観察した直後、彼女は風を斬撃に変え、四方八方から分身ごと切り裂いていく。
分身たちは華やかなドレスの裾を翻しながらも、一体、また一体と風に消える。
だがその間に、本物のクレオラは舞うように距離を詰め、背後を取ろうとしていた。
「……なかなかやるじゃありませんの」
クレオラの声が、まるで舞台女優の台詞のように響く。
「ですが――幕引きには少々早いですわ」
切咲は一瞬だけ目を細め、周囲に魔力を放つ。足元から広がる巨大な魔法陣が、庭園の石畳を光で満たした。
「じゃあ……終わらせようか」
その声と同時に、魔法陣から無数の風刃が噴き上がる。
「――『全てを切り裂く風の牢獄』」
刃は渦を巻き、クレオラとその分身たちを閉じ込める檻となった。風は鋼のように硬く、すれ違うだけで空気が裂ける音が響く。
だが、クレオラは一歩も退かない。
「お見事……ですが、それはあくまで――あなたの時間の中の話」
次の瞬間、彼女の瞳が深紅に染まる。
世界が音を失い、雨粒も風刃も空中で凍りついた。
唯一動いているのはクレオラただ一人。滑るような足取りで切咲の背後へと歩み寄る、その足音だけが静寂を刻んでいた。
風刃の速度が鈍り、軌道が歪む。頬をかすめた刃が残したのは傷ではなく、氷の針で刺されたような痺れだった。空気には鉄臭い匂いが漂い、切り裂かれた空間が低く唸りを上げている。触れれば肉を裂くはずの刃が、花びらのようにひらひらと落ちていった。
加速、停止、逆行――あらゆる時間操作が舞うような所作の中で繰り出される。
切咲の視界から、クレオラの姿がふっと消えた。
「……っ」
反射的に振り返ったその首筋に、冷たい金属の感触が突きつけられていた。
古式の魔法拳銃。その銃口が、迷いなく切咲を狙っている。
「――あなたの時間も、ここで終わりですわ」
クレオラの声音は甘やかで、けれど一切の情けを含まない。
数秒の沈黙。
やがて切咲はゆっくりと瞼を閉じ、口角を上げた。
「……参った。負けだよ」
銃口が離れると同時に、クレオラは柄で軽く首筋を打ち、切咲を静かに昏倒させた。
その口元には、不敵な笑みが戻っている。
「ふふ……楽しい舞台でしたわ。またいつか幕を上げましょう」
夜風が庭園を吹き抜ける。
魔法の鎖で縛られた切咲は、その場に置き去りにされた。
――どれほどの時間が経っただろうか。
切咲が目を覚ますと、冷たい月明かりが枝葉の間から差し込んでいた。
魔力も体も封じられたまま、彼女は夜空を見上げる。
「……面白い。次は――あんたの時間を切り裂いてみせる」
月光に照らされた切咲の瞳だけが、静かに光を宿していた。




