乂阿戦記5 第六章 剛弓覇龍の娘 葵遍と葵寧々子-4 アオネコへの尋問
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
アオネコが父の話を思い出し終わったところで、場面は変わる。
アオネコは依然、ドンファンに胸ぐらを掴まれ尋問を受けている最中だった。
アオネコを庇うために前へ出た切咲紗希が、鋭い目でドンファンを睨む。
「ドンファン、何故お主がここにいるんだい? ここはお前の管轄ではないはずだろう?」
「うるせーよ紗希。俺はそこの小娘から情報を引き出せって、お達しがあって来たんだ。とっととそこをどけよ。じゃねーとテメェごと吹っ飛ばすぜ?」
「断る。この子はアタシらの大事な妹だよ? これ以上危害を加えるってんなら、容赦しないよ?」
「チッ、仕方ねえな。」
ドンファンは小さく舌打ちすると手を離した。
解放されたアオネコは、尻餅をつくように地面へ倒れる。
そんな彼女を見下ろしながら、ドンファンが低く告げる。
「おい、クソガキ。」
「なに?」
「お前が葵覇崙の娘で、龍麗国のスパイだったのはとっくの昔にバレてるんだ。俺の次に来るスラッグラーやテンタクルルーは、ガキでも容赦しねぇぞ。時間をやるから、身の振り方をよく考えろ。いいな! 忠告はしたからな!」
ため息をつき、彼は部屋を出て行った。
「大丈夫か?」
切咲がアオネコを抱き起こす。
「はい、なんとか……」
「とりあえず今日は休め。明日から忙しくなるぞ。……クィン・クィーン様が長い眠りから目覚められたからな。」
「はい、ありがとうございます。」
こうしてアオネコは解放された。
翌日。
ベッドから起き上がると、大きく伸びをするアオネコ。
ふと窓の外を見ると、日は高く昇りきっていた。朝というには遅すぎる時間だ。
慌てて支度を整え、食堂へ向かう。
香ばしいパンの匂いとスープの湯気が漂う中、料理人のゴブリンたちがせわしなく立ち働いていた。
アオネコを見るや、彼らは慌てて手を止め、一斉に頭を下げる。
「おはようございます、お嬢様」
「今日もお元気そうで何よりです」
その穏やかな空気を——唐突に切り裂く声。
「よう、ずいぶんと寝坊助じゃねぇか。」
背後からかけられた声に、アオネコの背筋がこわばる。
振り返ると、入口にもたれ立つドンファン。口元の笑みは薄く、目だけが鋭く光っていた。
「……うるさいな。」
軽く睨むと、彼はゆっくり歩み寄ってくる。
足音が石床に響くたび、周囲のゴブリンたちの手が止まり、視線が落ちる。
スープの煮立つ音すら、妙に遠く感じられた。
「まぁいい。……で、お前の親父が、お前をチェイテ城に送り込んで何を企んでるか、話す気になったか?」
声は低く、貼りついた笑みの奥に、昨日より濃い“試す”ような色が潜む。
アオネコは一拍置き、迷うふりをしてから答えた。
「……何も知りません。お父様は何も話してくれませんでした。ただ——クィン・クィーン様を助けてあげて欲しいとだけ。」
沈黙。
ドンファンの目が細まり、顎に手を当てて考え込む仕草——だが口元は笑っていない。
「嬢ちゃん、昨日言ったこと覚えてるな? 俺は女子供は殴らねぇが、スラッグラーは違う。やばいと思ったら、早めにゲロっとけよ。」
最後に一度だけ振り返り、眼光を突きつける。
「じゃあな。」
足音が遠ざかると同時に、食堂の空気が一気に緩む。
ゴブリンたちは作業に戻ったが、アオネコの手はまだ小さく震えていた。
それから数刻後、アオネコは再び尋問を受けることになった。
相手はスラッグラーとテンタクルルーの二名。そして、その場の空気を一変させる存在が現れる。
——黒衣の男。
部屋に入った瞬間、湿った空気がさらに重く沈む。
呼吸が浅くなるほどの圧迫感。壁にかけられたランプの炎まで、小さく揺れて弱まったように見えた。
「……名は?」
低く、しかし耳に残る声。名をクロウ・アシュタロスという。
一瞥だけで全身を射抜かれたような感覚に、背筋の筋肉がこわばる。
尋問の口火は——意外にも「好きな食べ物は?」という軽い問いだった。
「……特にありません。」
自分でも驚くほど声が硬い。
続く「嫌いなものは?」にも同じ調子で答える。
やり取りは短く、淡々と進む。だが、その沈黙の合間ごとに、心臓がドクン、ドクンと大きく響き、耳の奥で反響していた。
「君は龍麗国重鎮の息女だ。手荒に扱う事は無いから、そこは安心してほしい。事務的な手続きが済んだら父親のもとに返すと約束しよう。」
その言葉に少しだけ肩の力が抜ける。
「あなたが紳士でよかったです。」
小さく礼を述べると、クロウは感情を見せぬまま背を向け、扉の向こうへ消えた。
「……ふぅ」
息を吐くと同時に、全身からじわりと汗が滲み出ていることに気づいた。
まるで深い海の底からようやく浮かび上がったような感覚だった。
そんなことを考えながら歩いていると目の前に誰かが立ち塞がった。
それはテンタクルルーだった。
触手の悪魔はこちらの顔を見るなり口を開く。
「あんた、昨日のやつだろ? 少し話があるんだがいいかい?」
「なんですか?」
警戒しながら聞き返す。
すると彼女はいきなりこちらの腕を掴んできた。
咄嵯に身を引こうとしたが遅かった。
あっという間に壁際に追いつめられてしまう。
身動きが取れなくなったところで更に距離を詰められる。
テンタクルルーの顔が目の前まで迫ってきた瞬間、思わず目を瞑ってしまう。
「げへへへへへ、龍麗国領議政の娘か。奴隷にしておいたらいいことがありそうだ。俺の触手の虜にしてやるよ。ガキだがまあいい可愛がってやるよ」
そう言いながら舌なめずりをする彼に背筋が凍るような恐怖を覚えた時だった。
テンタクルルーは突然誰かに突き飛ばされたのだ。
驚いて振り返るとそこには見覚えのある人物がいた。
その人物とは、以前自分と同盟を結んだ今宵鵺であった。
彼女はこちらを見て微笑みながら言った。
「大丈夫?危ないところだったわね。後は私達に任せて」
そう言うと今宵鵺はそのままアオネコを庇うように前に出た。
それを見たテンタクルルーの表情が変わる。
どうやら相当頭にきているようだ。
その証拠に口からは泡を吹き出している。
「てめぇぇぇぇ!!!!よくも俺様のお楽しみの邪魔をしやがったなあああ!ぶっ殺してやらあああっ!!!」
テンタクルルーが叫びながら突っ込んでくる。
しかし今宵鵺は冷静だった。
迫り来る無数の触手を難なく躱すと逆にそれらを魔法銃の照準に捕えていく。
そして引き金を引き弾丸を打ち込む。
撃ち込まれた瞬間、触手は見えない鎖に引きずられるように空中でねじれ、そのまま石畳に叩きつけられた。
砕けた破片が跳ね、粉塵が舞い上がる。
どうやら撃ち込んだのは重力の魔力が込められた弾丸のようだ
鵺はテンタクルルーが倒れたところを足で踏みつけると思い切り力を込める。
奪わせない——その決意だけが、彼女の力をさらに深く踏み込ませた。
ボキボキッという音と共に骨が折れる音がした。
テンタクルルーの口から声にならない悲鳴が上がる。
それでも容赦無く追撃を加える。
何度も何度も執拗に踏みつけていった結果ついに動かなくなった。
それを見て満足したのかようやく足を上げる。
そこに残ったのはもはや原型すら留めていない肉塊だけであった。
鵺は息一つ乱さず足をどけ、アオネコを振り返った。
「……もう大丈夫。ここからは私がいる。」
その瞬間、張り詰めていた鼓動が一気に緩む。
支えを失った膝がわずかに震え、思わず壁に手をついた。
喉が渇ききっていて、息を吸うたびに胸の奥が熱く、痛む。
(……生きてる……)
自分の心臓の音が、今はやけに愛おしく響いていた。
まあ、テンタクルルーはしぶとい奴なので復活するかもしれないが——
少なくとも今は、守ってくれる存在がここにいる。




