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乂阿戦記~勇者✖︎魔法少女✖︎スパロボの熱血伝奇バトル~  変身ヒーローの勇者様と歌って戦う魔法少女は○○○○○○○○○○○○   作者: Goldj


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乂阿戦記5 第六章  剛弓覇龍の娘 葵遍と葵寧々子-3 廃妃アン・クィンの悲劇

作者のGoldjごーるどじぇいです!

この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…

とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!

「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」

となってくれたら最高です。


良ければブックマークして、追っかけてくださいね

(o_ _)o


 チェイテ城地下牢。

 湿った冷気が肌を刺し、苔むした石壁と赤茶けた鉄格子が、夜よりも深い重さでのしかかる。

 葵寧々子――アオネコは、猿轡で声を封じられ、壁際に座らされていた。手足を締める分厚い枷が、わずかな身じろぎにも鈍い悲鳴をあげる。

 それでも、その瞳は光を失っていない。


 (……必ず抜け出す。方法はある。見つけ出すんだ)


 古びた時計が壁に掛かっている。針は午後十一時半――あと三十分で日付が変わる。その瞬間、何かが動くかもしれない。

 胸の奥にかろうじて灯る、その予感だけが心を支えていた。


 ──コン、コン。

 石床を叩く無骨な足音が、地下牢に反響する。歩調はためらいなく近づき、鉄格子の前で止まった。

 闇の奥から鋭い視線が突き刺さる。


 「……おい、いつまで黙っているつもりだ」


 軋む音とともに鉄扉が開く。鎧の隙間から冷気を漏らすような男――見張り兵ドンファンが入ってきた。

 迷いなく距離を詰め、荒々しく猿轡を外す。冷たい空気が唇を撫でた瞬間、胸倉をつかまれ呼吸が詰まる。


 「今宵鵺と共謀して、何を企んでいた!」


 吐息混じりの怒気が頬を打つ。

 その低く湿った声が、なぜか父の声と重なった瞬間――視界が闇に沈み、遠い記憶が押し寄せてきた。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



  ⸻半年前。龍麗国、葵家の屋敷。

 磨き込まれた木の床に、湯気を立てる料理が整然と並べられている。

 しかし、その温もりとは裏腹に、父・葵覇崙あおいはろんの第一声は、いつもの世間話ではなかった。


「……アイナクィンの使徒を装い、チェイテ城のエリザベート・バートリーの動向を探れ」


 低く、揺るぎない声音。

 箸を持つアオネコの指がわずかに震え、背筋が自然と伸びる。

 覇崙の眼差しは、刃のように鋭く、その反応を逃さない。


「お前が前世で女神ユキルの使い魔だったことも、この世界で唯一、自我を保ったまま転生したアイナクィンであることも――私は承知している」


 その一言に、空気が凍りつく。

 喉の奥がひゅっと狭まり、アオネコは息を詰めたまま固まった。

 父の眼差しは、一歩も退かぬ覚悟と確信を帯びている。


「龍麗国の先代国王イドゥグ様――現国王ユドゥグ様の弟――の妃、アン・クィン様をご存じか?」


 父の問いに、アオネコはゆっくりと頷いた。

 その仕草を確かめるように、覇崙は短く頷き返す。


「彼女のもう一つの名は――クィン・クィーン。この世界に存在するすべての魔法少女を統べる管理者であり……お前の転生を女神ユキルに許可した、アイナクィンの統括者だ」


 その名を聞いた瞬間、アオネコの瞳がかすかに揺れた。

 だが胸の奥では、不思議なほど“やはり”という確信が広がっていく。

 前世の記憶が鮮明に残っている――それこそが、この世界の生まれではない証だった。


(……やっぱり。私は、この世界の人間じゃない)



「だがクィン様は、すでに妃の座を追われ、廃妃となっている。その経緯を知っているか?」


 静かに首を横に振るアオネコ。

 覇崙の目が細まり、低く重い声が続く。


「今から十六年前――」


 囲炉裏の火がぱちりと弾け、古い屋敷の空気がわずかに揺れた。

 覇崙は湯呑を軽く回しながら、過去の闇を手繰るように語り始める。


「当時のアン・クィン様は、まだクィンクィーンとして覚醒する前の十六歳。嫁ぎ先は、わずか五歳の国王イドゥグ様だ……言うまでもなく政略結婚だった」


 アオネコは息を呑む。

 父はその反応を見逃さず、淡々と事実を告げた。


「建国王ゾディグの第二婦人、カンキル王后は、溺愛する息子イドゥグ様を反対を押し切って王座に据えた。その結果、第一王位継承者であるゾディグの長子――ユドゥグ様と敵対することになった」


 箸を置き、覇崙は視線を鋭くした。

「カンキル王后は同盟者を必要とした。そして選んだのが、ユドゥグ様の兄・ウドゥグ殿の娘――アン・クィン様だ」


 その名が告げられた瞬間、隣に座っていた遍と寧々子が小さく息を呑む。

 血筋と政略に縛られる婚姻が、どれほど重い鎖となるか――想像に難くない。


「二人とも古くからの王侯貴族ではない。戦場で功を立てて成り上がった家の出だ。まして相手は五歳の子供……結婚生活がうまくいくはずもない」


 覇崙の声に、やるせなさがにじんだ。


 そして――声の調子がわずかに鋭くなる。


「そんな息苦しい日々の中で、彼女の前に現れたのが――あの少年だ」



アオネコは自然と前のめりになり、父の言葉に耳を澄ませた。

 覇崙の眼差しは、まるでその少年を目の前にしているかのように研ぎ澄まされている。


「十三歳にして戦場を駆け、傭兵団を率いた若き剣士。名は今宵亜突こよいあとつ。十三年前、伝説の将アメンオサ暗黒天馬殿と、黒の女神ルキユの巫女・今宵帳様との間に生まれた子だ」


「……今宵帳様って、今のユドゥグ様の側室の?」

 驚きと困惑が入り混じった声が、アオネコの口からもれる。


 覇崙はゆっくりとうなずき、言葉を継ぐ。

「暗黒天馬殿が戦場で斃れた後、今宵帳様はユドゥグ様の側室となり、やがて娘を授かった。それがアン・ユエ様だ」


 遍と寧々子が顔を見合わせ、小さく息を呑む。

 その名を知る者なら、そこにどれほど複雑な血脈と政治の影が絡んでいるか、察することができた。


 父はそこで一呼吸置き、視線をわずかに伏せる。

「亜突殿は、美しいアン・クィン様に剣士としての忠誠を誓った――それだけだ。だが……それが命取りになるとは、誰も予想していなかった」


 湯呑を静かに卓に置く音が、部屋の空気をさらに重くする。

 アオネコは胸の奥がざわめくのを覚え、拳を膝の上で握りしめた。


「……不義の証拠など存在しなかった」

 覇崙の声には苦みが滲む。

「だが宮廷では、真実など取るに足らん。重要なのは――その噂で誰が利益を得るか、だ」


 アオネコは眉を寄せる。

「利益……?」


「そうだ。背後で糸を引いていたのは、リハリア・イーグス――ユドゥグ王の正妻ゲンジョウ様の実弟にして、王の外戚という立場を利用し、権力の蜜を吸い続ける悪臣だ」

 覇崙の目が細まり、その奥に鋭い怒気が宿る。


「奴はイドゥグ王をウドゥグ派から完全に引き離すため、クィン様を陥れる策を練った」


 覇崙の拳が机を軽く叩き、小さな音が響く。遍と寧々子がわずかに肩を揺らした。


「リハリアの狙いは二つ。ひとつはアン・クィン妃を追放し、ウドゥグ派の影響を宮廷から根絶やしにすること。もうひとつは――イドゥグ王にユドゥグ様の娘、アン・ユエ様を娶らせ、自らは外戚として権勢を極めることだ」


 遍が唇を噛みしめる。

「ユエ様は……当時まだ十歳だったはずです」


「案の定、真っ青になって拒絶なさった。政略結婚の駒になるなど御免だ。だが宮廷の論理は、幼い少女の意思など歯牙にもかけない」

 覇崙は遠い記憶をたぐるように、視線を宙へさまよわせた。

「親友であるユキル様が、必死にユエ様を慰めていた光景を……私は今も忘れられん」


 その声音には、怒りと哀惜がないまぜになっている。


「こうして、事実はどうあれ、亜突殿は“不義の咎”で処刑を宣告され、アン・クィン様は廃妃として宮廷から追放された――」


 アオネコの胸に、冷たく重い塊が沈み込んだ。

 それが怒りなのか、悲しみなのか、自分でも判別できない。


「……追放されたアン・クィン様は、その日を境に変わられた」

 覇崙の声音は、まるで遠い過去を映す鏡のように沈んでいる。

「かつての生気を失い、魔法世界の法則を守るだけの“自動機構”――感情を封じた統括者、クィンクィーンとして在り続ける存在となった」


 アオネコは息を詰め、拳を握った。

(人の心を……閉ざしてしまった……)


「もし、その凍りついた心が再び動くことがあるとすれば――」

 覇崙はゆっくりと娘へ視線を戻し、言葉を区切った。

「それは、彼女が愛した今宵亜突殿と再会を果たした時だけだろう」


 遍の瞳が大きく見開かれる。

「でも……亜突さんはもう――」


「うむ……亜突殿は十五年前のエクリプス大戦の折、国を裏切った反逆者の汚名を着せられ、巨人族が眠るエトナ火山に封印された」

 覇崙の口調は淡々としている。だが、その奥底には何かを含んだ響きがあった。


「……封印……」

 アオネコは思わずつぶやく。胸の奥で、冷たい波と熱いざわめきが同時に広がった。


「ただし――」

 覇崙はわずかに口角を上げ、その目に測りかねる光を宿す。

「六年前の第三次巨人大戦……そのとき、巨人族の封印の一部が破られた。もしや――あの方も、一緒に……復活しているやもしれん」


 その言葉は、静かに、しかし確実にアオネコの胸を撃ち抜いた。

 鼓動がひときわ大きく跳ねる。冗談か、それとも本心か――判別はつかない。

 だが胸の奥に、小さな灯火が確かにともっていた。


「……さて、話はここまでだ。何か聞きたいことはあるか?」

「……いいえ」

「そうか。では――おやすみ」


 覇崙は立ち上がり、背を向けて歩き出す。畳が軋み、障子が静かに閉じられた。


 残された姉妹は、暗がりの中でしばし無言のまま座っていた。

 やがて、閉ざされた扉の向こうから父の足音が完全に消える。


 闇に包まれた部屋の中、アオネコの耳には、あの一言だけが何度も反響していた。


 ――“復活しているやもしれん”。


 それは希望か、それとも新たな試練の予兆か。

 答えはまだ、闇の向こうにあった。


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