乂阿戦記5 第五章 吸血女王エリザベート・バートリーの淫靡な宴-15 イブvsエリザベート
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
一方、ネロとは別の場所へと転移させられたイブ。
そこは薄暗く湿った空間で、岩肌がむき出しになり、足場は不安定。冷たい水滴が時折ぽたりと落ち、音が反響していた。
周囲を一通り見渡したが、人の気配はない。
警戒しながら歩き出したその時──背後から、妙に艶やかな女の声が響く。
「あらぁ? 誰か来たのかしらぁ? ……うふふふふ♪」
振り返った瞬間、視界に飛び込んできたのは、腕を組みこちらを見下ろす妖艶な女。
流れるような水色髪、冷ややかな瞳、そして衣服の下で豊かに実った双丘──威圧と色香が同居するその存在感。
吸血女王、エリザベート・バートリー。
この城の主にして、数多の英雄を葬った“死都の女王”である。
息を呑みつつも、イブは即座に銃を構え、冷徹な声で告げる。
「あなたがここのボスですネ? 今すぐ降伏してください。命までは奪いまセン」
だがエリザベートは、余裕の笑みを浮かべて首をかしげた。
「あらあら……威勢のいいアンドロイド。でも残念ね。いくら頑張っても──無駄よ」
薄暗い格納庫に、鋼鉄の匂いと機械油の香りが漂っていた。
――蒼白な肌と瑠璃色の瞳を持つイブ・バーストエラー。
人工的に造られた戦闘機体にして、人類の守護者。
白銀の装甲を身にまとい、その佇まいは無機質でありながら、どこか神聖さを帯びていた。
「……目標、捕捉完了。戦闘モードへ移行しマス」
低く、抑揚のない声。まるで戦況報告のように告げると、イブの背部ユニットが展開し、複数の光学砲口が一斉に起動する。
対するは、黒き水色礼装に身を包んだ吸血女王――エリザベート。
暗い水色のドレスの裾を翻し、紅い双眸が静かに光を帯びる。
その手に握られた魔鎌は、周囲の空間を軋ませるほどの魔力を帯びていた。
「……貴様が、“15年前の七罪の魔女"の計画を阻んだ存在か」
エリザベートが微かに笑みを浮かべる。
挑発とも侮蔑ともつかぬその表情に、イブは眉ひとつ動かさない。
「肯定。あなたの行動は、過去三度にわたり人類存続率を7.2%低下させました。よって、排除対象に指定されてマス」
言葉の冷たさは、刃より鋭い。
それは感情の欠落ではなく、ただ事実を述べるだけの機械的な宣告だった。
「ほう……人形ごときが」
エリザベートが魔鎌を構え、床を蹴った。
瞬間、黒い残像が空間を裂き、イブへ迫る。
エリザベートの瞳がきらめいた瞬間、彼女が指をパチンと鳴らすや、闇の奥から無数の触手がうねりながら出現した。
太く逞しい幹のようなそれらの先端は、顎を開けた獣の口のように蠢き、四方八方から迫ってくる。
冷たい汗が背筋を伝う。
動きはさほど速くないが──数が多すぎる。一本切り払っても、次の瞬間には二本、三本と増えていく。
じりじりと追い詰められ、背後は岩壁。逃げ場はなかった。
(……ここまで、カ)
その刹那、鋭い気配が走った。
目の前に現れた影の手から、銀色に輝く炎が帯のように放たれ──触手の群れを一瞬で焼き尽くす。
呆然とするイブの背後から、低く落ち着いた声が響く。
「お前さんはこっちに落とされていたんだな。……イブ」
振り向けば、銀髪の美女が立っていた。端正な顔立ちに、灰色のロングコート、革手袋、重厚なブーツ。
その存在は、ただ立っているだけで圧を放つ。
「戦場の匂いに釣られてな。助太刀するぞ、イブ」
女の名は乂羅刹──世界最強の魔女ラスヴェードの転生体である。
二人は背中合わせに構え、迫る触手を迎撃する。
しかし、切っても焼いてもキリがない。数は減らず、むしろ増えているようにすら思えた。
「……チッ、ラチがあかないな」
「同感です。──二人で、合体魔法を使いましょう」
「ああ。イサカとは百年前のラグナロクでやったが……お前とは初めてだな」
軽口を交わしつつ、二人は同時に魔力を収束。
瞬間、双方向から放たれた魔力弾が交差し、爆ぜる光と衝撃波が触手の群れを一掃した。
「ふぅ……何とか切り抜けましたね」
「お互い様だ」
礼を交わす二人を、遠目から鋭い視線が射抜いていた。
闇に溶けるように立つのは、吸血女王エリザベート・バートリー。その端整な顔に、もはや先ほどの余裕はない。
「ば、バカな……この魔力……まさか、世界最強魔女ラスヴェード……!」
「やはり噂通りだな、吸血女王エリザベート・バートリー」
「ええ……数多の英雄を屠り、“死都の女王”と呼ばれた存在……まさか、こんな場所に潜んでいようとは」
舌打ちとともに踵を返すエリザベート。
しかし、その行く手を一瞬で遮る影があった。羅刹――灰色のコートの女が、氷のような眼光で間合いを詰める。
「な、何を……!」
「決まってんだろ――こうだ!」
ごきり。
骨と筋が一度に断ち切られる嫌な音が、岩壁に反響する。
エリザベートの首が胴体から外れ、赤黒い雫を散らしながら地面へと転がった。
だが――終わりではなかった。
首を失った胴体がゆらりと動き、白い指で自らの首を掴み上げる。
そして生々しい音と共に、接合を果たす。
「……化け物が……!」
怯えを隠しきれぬ声を吐き、女王は後ずさりながら壁へと溶け込む。
「覚えていろ!」という捨て台詞を残し、闇の奥に消えた。
「なるほど……あれが奴の能力か」
「ええ。ですが、今は追わずに戻りましょう」
二人は短く頷き、まだ燻る銀炎の残滓を踏み越えて、その場を後にした。




