乂阿戦記5 第五章 吸血女王エリザベート・バートリーの淫靡な宴-13 ドアダからの援軍
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
このままでは埒が明かない──そう悟ったのか、神羅は一瞬だけ目を伏せ、決意を固めた。
「……仕方ないわね。こうなったら奥の手を使わせてもらうわ」
その声が終わるより早く、視界全体が白く塗りつぶされる。
凄まじい閃光が城内を包み、反射的に鵺もクィンも、切咲も、そしてエリザベートまでもが腕で目を覆った。
熱を伴う光が肌を刺し、耳鳴りが鼓膜を震わせる。
やがて光が収まった時──
轟音と共に石壁が砕け、瓦礫を弾き飛ばしながら「それ」は姿を現した。
全長二十メートルを超える巨躯。
甲冑のような外装に樹木の意匠を刻み、背には無数の枝状アンテナが天へ伸びている。
地面を踏みしめるたび、城全体が小刻みに震えた。
「……封獣ユグドラシル?」
クィンが呆れ半分、懐かしさ半分の声音で呟く。
「お城の中で巨大ロボを呼ぶなんて……ユキルちゃん、百年前よりずっとぶっ飛んだ性格になったのね」
「ちょっと、クイ姉!」
神羅が眉をひそめ、ぴしゃりと返す。
「さっきからユキル、ユキルって……私を誰と勘違いしてるの?私は神羅!それ以外でもない!」
憤慨する彼女に、クィンは口元を綻ばせた。
「ああ、そういうこと。今回の転生じゃ記憶を継がずに生まれ変わったのね……でも“クイ姉”ってあだ名だけは覚えてたんだ」
懐かしむような瞳で神羅を見つめる。
「……な、何よ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
神羅は不機嫌に睨み返すが、クィンは軽く首を振った。
「別に。──ところで神羅ちゃん、何のつもりでユグドラシルを呼んだの?まさか本気で私とやり合う気?」
「もちろんよ」
神羅は弓を持ち直し、糸のように鋭い視線をクィンへ向ける。
「あなたが言ったじゃない。“その程度で勝てるのか”って……勝てるところ、見せてあげる!」
弦が鳴り、矢が空気を裂いた。
クィンは上体を傾け、間一髪で矢を躱す。
「危ないなぁ……本当にあの清楚でお淑やかだったユキルの生まれ変わりかしら?疑わしくなってきたわ」
その言葉の裏で、クィンの剣先がわずかに動く──だが。
クィンが次の一手を繰り出そうとした、その瞬間。
空気を裂く鋭い音が頭上から降ってきた。
光の尾を引きながら、二つの影が戦場に突っ込んでくる。
「……っ!?」
反射的に後方へ跳び退くクィン。
その直後、彼女のいた場所をレーザー光線が斜めに薙ぎ払った。
衝撃で石床が抉れ、熱で空気が焦げる匂いが漂う。
だが完全には避けきれず、右腕に焼ける痛みが走った。
「くっ……! いずれドアダが介入するとは思っていたけど、到着が早すぎるわね」
痛みを振り払いながら、クィンは視線を空へ向けた。
そこから降下してきたのは、二人の少女だった。
一人は水色の髪を持つメイド軍服姿、無駄のない動きで着地と同時に体勢を整える──機械仕掛けの肢体が青白く光る。
もう一人は銀髪ショート、冷徹な眼差しをした軍人少女。ブーツの踵が床を打ち、乾いた音を響かせる。
「神羅様、ご無事でスカ?」
機械のように正確な声音。水色髪の少女──イブ・バーストエラーは、即座に神羅の前に立ちふさがった。
「ここは私たちに任せて、後ろにお下がりクダサイ」
一方、銀髪の少女は一歩前に出て、銃口をクィンへ向ける。
「ここが女学生誘拐犯どもの最後の巣か……投降せよ」
その声は氷の刃のように鋭い。ネロ・バーストエラー──妹機にして、戦場を嗅ぎ分ける猛禽。
「おとなしく女学生たちを解放するなら、無用な流血は避けてやる」
そう言い切るネロの指は、引き金の上で寸分も揺れない。
だが、クィンの口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
「あらぁ……誰かと思えば、ドアダ七将軍とその妹機じゃない」
瞳が愉悦に細まる。
「ちょうどいいわ。ユエから銀の鍵を奪うのはやめて……代わりに、あなたたちの銀の鍵をいただくことにする」
「……銀の鍵だと?」
ネロの目が細くなり、眉間に険が刻まれる。
「なぜ貴様がその情報を知っている?」
「知ってるかどうかなんて、どうでもいいじゃない」
クィンは杖をくるりと回し、先端を二人へ向けた。
「とにかく、渡しなさい。でないと──こうなるわよ!」
クィンが手首をひねると、杖の先端が瞬く間に白熱した。
次の瞬間──
「喰らいなさい!」
爆ぜるような光と共に、無数の光矢が嵐のように迸る。
「なっ……!!」
イブとネロが反射的に回避に移るが、その数はあまりにも多い。
光矢は空気を焼き裂き、軌跡の残光が視界を乱す。
かすっただけで装甲の表面が焼け焦げ、火花が散った。
「──ッ!」
一際鋭い光矢がイブの肩を穿ち、同時にネロの脇腹を掠める。
二人の身体が衝撃で後方に弾かれ、床を滑った。
「……動きが鈍ったわね」
クィンが猫のような笑みを浮かべ、杖を軽く振る。
杖先から金色の輪が二重、三重と広がり──瞬く間に、二人の全身を絡め取る。
「安心して。これは殺す魔法じゃない。ただの拘束よ」
甘やかすような口調とは裏腹に、鎖の締めつけは骨を軋ませるほどだった。
「……クソッ!」
ネロが必死に足を踏ん張るが、拘束はさらに強まる。
その隙を見逃さず、クィンが両手を前に突き出す。
「ほらほら、避けられるなら避けてみなさい!」
立て続けに魔力弾が連射され、轟音と共に床石が砕け飛ぶ。
動きの鈍った二人に、それはほとんど直撃だった。
「──これでいいわね」
クィンは満足そうに笑みを深め、パチンと指を鳴らす。
地面が不気味に波打ち、石床の隙間から黒い芽が突き出す。
芽は瞬く間に膨れ上がり、枝を伸ばし、幹を裂き──巨大な樹木へと変貌した。
その根元から、何本もの触手じみた根が這い出してくる。
ぬらり、と濡れた音を立て、蛇のようにうねりながら周囲を探る。
「……これは一体……」
イブの瞳が一瞬だけ揺らぐ。
ネロも唇をかみ、警戒を強めた。
しかし、クィンの口から零れたのは、呪文とも祝詞ともつかぬ不思議な響きだった。
声に合わせて空間がねじれ、周囲の空気が押しつぶされるように重くなる。
次の瞬間──
「っ!? イブが……いない……!」
「ネロも消えた……!?」
神羅と鵺の視線が虚空を泳ぐ。
二人は消えたのではない。瞬間的に、別の場所へ移動させられたのだ。




