乂阿戦記5 第五章 吸血女王エリザベート・バートリーの淫靡な宴-8 黄金姫クィン・クイーン
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
部屋の空気が、ひやりと凍りついた。
扉が軋みを上げて開き、少女が一歩踏み入れる。
金糸を溶かして紡いだような髪が、室内の光を受けてきらりと揺れる。
紅玉を融かしたような瞳は、見る者の心臓を射抜くほど鮮烈だ。
足音は一歩ごとに静寂を切り裂き、誰も瞬きを忘れる。
「……っ」
鵺の胸が一拍、大きく跳ねる。
その衝撃は、胸の奥を冷たい手で握りつぶされたかのようだった。
知っている。この少女を。
かつて――人間だった頃――自分の従姉妹だった者。
彼女の名はクィン・クィーン。
彼女の父ウドゥグと鵺の父ユドゥグは龍麗国の王座を巡る政敵であり、血を分けた兄弟でもある。
彼女は十五年前、王座転覆事件の引き金となった元女王。
廃妃となったのち、人としての生を捨て、
アイナクィンの統括者へと変わった悲運の黄金姫。
そんな彼女が、場の誰も予想しなかった行動に出た。
深々と頭を下げ、朗らかな笑顔で――
「いやあ、エリちゃん、メンゴメンゴ♪ 私の可愛い妹分・紅花ちゃんが勢い余って、あなたをぶっ飛ばしちゃったみたいね?あの子、悪気はないの! ただちょっと……お馬鹿なだけ! 天然なだけ! 要はアホの子なの! ここは私の顔に免じて、許してちょうだい☆」
唖然とする面々の中、エリザベートだけがかろうじて返す。
「あ、ああ……別に気にしてないから……」
だが、その声はわずかに震えていた。
――レコキスタやアンドラスよりも、このクィン・クィーンを恐れているのが見て取れるほどに。
クィンはエリザベートの返事に、ほっとしたように口元を緩めた。
しかし、その表情はすぐに真剣さを帯びる。
「助かるわ……ところで、さっき“紅花”の処遇について――まるで物を扱うみたいな会話をしていたけど、私の聞き間違いよね?」
声は穏やかだが、紅の瞳はまるで刃のように鋭く光っていた。
(ひ、ひぃぃ……完全に怒ってるじゃない……)
エリザベートは内心で悲鳴をあげながらも、必死に笑顔を作る。
「……も、もちろん冗談よ」
その返事に、クィンはゆっくりと頷き、今度は皆へ向けて自己紹介をした。
「初めまして、私はアイナクィンの統括者――黄金姫、クィン・クィーン」
ぺこりとお辞儀する姿は、まるで絵本に出てくるお姫様のよう。
だが、その場に漂う緊張は一切解けなかった。
目の前の少女から放たれる圧は、明らかに常人のそれではない。
Dr.レコキスタなどは額に脂汗を浮かべ、ガタガタと震えていた。
「ば、馬鹿な……黄金姫が現世に現れて活動しているだと……! それは世界崩壊が間近に迫った証ではないか!? 人類に残された猶予は……あとどれほどだ!?」
その悲痛な叫びに、クィンは片眉を上げて答える。
「そうねぇ……来年の今頃に、全部の世界がドッカンかな?」
静まり返る室内。
レコキスタの顔から血の気が引く。
しかし、クィンは軽い調子で肩をすくめた。
「つまり、まだ一年は大丈夫ってことよ☆ よかったじゃない」
当然、その言葉で誰ひとり安堵はできなかった。
クィンはレコキスタを見据え、口元に薄い笑みを浮かべた。
「でもね、これは人類が便利だからって魔法を使い続けてきたツケなの。歴代のクィン・クィーンは“適度な量だけ使え”って何度も警告したのに……どうしてまだ、世界樹ユグドラシルから魔力を湯水のように抽出するのかしら?」
紅の瞳がわずかに細められる。
「魔法のエネルギーはリスクを伴う力。ラグナロクやエクリプス大戦の失敗を、まるで覚えていないみたいね」
レコキスタは血走った目で叫ぶ。
「おい……頼む! この世界を救う手助けをしてくれ!! このままでは滅びる……!」
「嫌よ♡」
クィンの返答はあまりにも即答だった。
「あなたの国、ネオ・ズーイが世界樹の伐採から手を引けば一年くらいは延びるわ。魔法を浪費しすぎなのよ」
レコキスタの顔色が変わる。
「黙れ! 我が国がどれほどの労力と金をつぎ込んで魔法研究をしてきたと思っている! 魔法による猛烈な発展の結果、ようやく超大国アルティメットワンの背中が見えてきたのだ!」
クィンは小さく息を吐いた。
「はあ〜……じゃあなんで科学なんて生み出したの? 科学エネルギーは世界の歪みを生まない。そっちに切り替えれば済む話でしょう?」
その言葉に、レコキスタは口を閉ざすしかなかった。
確かに正論だ。
だが彼らにとって魔法は贅沢と繁栄の象徴――簡単に捨てられるはずもない。
クィンは追撃するように視線を鋭くした。
「魔法を使えば使うほど“歪みの怪物”は増える。奴らは本能的に、要石の星――地球を滅ぼそうとする。それがエクリプスが世界に課した呪い。……ねえ、ルキユ?」
名を呼ばれた鵺が静かに目を伏せた。
「そうね。でも……人間に、自分で作った流れを止めるのは難しいの。ヒトは感情を排除できない」
「……やっぱり、三聖塔の門を開くしか、歪みの均衡を保つ方法はなさそうね」
クィンの吐息は、どこか冷えた諦めを含んでいた。
クィンは視線をゆっくりと巡らせ、場の空気を一段と重くした。
「単刀直入に言うわ。一番合理的なのは――11人委員会の超大国たちが、メンツも何もかもかなぐり捨てて、龍麗国に頭を下げて協力を求めること」
淡々と放たれた言葉は、刃より鋭くレコキスタの耳に突き刺さる。
「我が叔父、龍麗国の事実上の支配者アン・ユドゥグは、あなたほど偏屈じゃない。話は通じる方よ。だからまず――龍麗国の内乱分子を煽って戦争を仕掛けようとするのはやめなさい。そして、素直に“ユドゥグさん、ごめんなさい”って謝ればいい」
唇を吊り上げ、挑発的に続ける。
「それとも……今からでも全戦力を集めて、龍麗国に攻め込むつもり? そうすれば、魔法の使いすぎで崩壊はもっと早まるでしょうけど」
レコキスタの表情が険しくなる。
「調子に乗るな……クィン・クィーン! いや、アン・クィン! 人間のふりをしたアイナクィンが、まだ龍麗国王太子ウドゥグの娘だと勘違いしているのか!」
声が徐々に怒鳴りに変わる。
「お前は所詮、ウドゥグがアイナクィンシステムを掌握するために造った人型端末にすぎん! あんな小国の王に、このネオ・ズーイの重鎮たる私が頭を下げるなど、死んでもあり得ん!」
クィンは嘲るように笑った。
「へぇ……そうなんだ? じゃあ他の11人委員会のメンバーが違う意見だったら、どうするのかな? マチハス・ソロモンもエンザ・ソウルも、強欲だけど合理的な判断はできる覇王よ?」
「黙れ! お前に政治の何がわかる、この小娘め!」
「わからないわね。だって私は人間じゃないもの」
そして、わずかに声を低くして告げる。
「……でも一つだけ言えるわ」
クィンの声は氷のように澄み、そして冷たい。
「あなたの台詞、小物だね」
「貴様ぁぁぁ!!!」
激情に駆られたレコキスタが懐に手を入れる――
レコキスタは怒号とともに拳銃を抜き、クィンに狙いを定めた。
だが――
ポトリ。
握っていた右腕が、肘から先ごと床に落ちた。
赤い液体……いや、赤黒いオイルが飛び散り、金属臭が空気に混じる。
「ぐぬっ……!」
呻き声はそれだけ。さすがは11人委員会第六席、動揺は最小限だ。
腕を切り落としたのは、短刀を構えた切咲だった。
「姫様に銃向けられたら、迎撃しちゃうっしょ?」
刃先から滴るオイルが、床に鈍く光る染みを作る。
クィンは淡々と彼女を諫めた。
「切咲、あなたはまだレコキスタの制御下にあるはず。勝手な行動は危ないわよ」
「いや、でも――正直アタシ、この爺さん大嫌いだしwwwww」
切咲は肩をすくめ、刀を払った。
その光景に、場の全員が息を呑んだ。
クィンが静かに言葉を落とす。
「やっぱり……端末体だったのね」
レコキスタの顔色が変わる。
「な、なぜそれを知っている! まさか……貴様、最初から気づいていたのか!?」
「当たり前でしょ?」
クィンの声音は、揺らぎも迷いもない。
レコキスタはなおも反論する。
「端末体とはいえ、命令権は私の方が上だ! なぜアイナクィンの切咲が、私を攻撃できる!? ありえん……!」
クィンは口角を上げ、説明を始めた。
「あなたが神羅ちゃんの歌を彼女たちに聴かせたからよ。女神ユキルの歌には、歪な支配を解放する奇跡が宿ってる。ギガス・オブ・ガイア事変で証明されたでしょう? その歌を繰り返し聴くうちに、切咲たちにも自我が芽生えたの」
わざとらしくウィンクをしてみせる。
「つーか、私もなんだけどね☆」
レコキスタは呆然とし、言葉を失った。
クィンは爪をゆっくりと振り上げる。
「というわけで――魔法少女を道具扱いする人を、私はいつでも殺せる。おじいちゃん、ムカつくから死んじゃえ♪」
爪が閃き、空気が裂ける音が響いた。
スパッ。
レコキスタの首はあっけなく胴体から離れ、床に転がった。
クィンクイーンはレコキスタの首に一言告げる。
「あてが外れたねおじいちゃん♪ 時空大鍵を得る為休眠中のアタシを誘拐したんだろうけど、世界を守護する歯車のアタシにとって貴方みたいな強欲な世界の敵は抹殺対象なの」
床を転がるレコキスタの首から、まだ赤黒いオイルが滴っている。
クィンはその無惨な光景を背に、ゆっくりと振り返った。
「さて……残るは、あんたたちだけになったわけだけど」
長く鋭い爪が、音もなくエリザベートとアンドラスに向けられる。
「降伏する? それとも……戦う?」
エリザベートは必死に媚びる笑みを浮かべた。
「ほ、ほほほ……私があなた様に敵うわけないじゃないですか! わ、私たち、同盟の契りを結んだ仲間でしょ?」
一方、アンドラスは無言のまま、足元のレコキスタの首を踏みつけた。
「……大嫌いだったあのじじいを、ぶっ飛ばしてくれて正直スカッとしてる」
だが、その声色には冷たい響きが混じる。
「――けど、依頼主からは“危険分子と判断したら殺せ”と言われてる。悪いな」
その言葉が終わるより早く、アンドラスの剣が閃いた。
スパッ。
空気が悲鳴を上げ、時が一瞬だけ止まった。
幻想的なまでに美しいクィンクイーンの首が宙に弧を描き、床へと落ちる。
転がる首の金糸が宙を舞い、光粒は雪のように静かに降り注いだ。
その美しさは、残酷さと紙一重だった。
静寂。
誰も息をしていないかのような一瞬が流れる。
鵺も、切咲も、エリザベートも――ただその場に立ち尽くしていた。
空気は氷のように張りつめ、耳鳴りだけがやけに大きく響いている。




