乂阿戦記5 第五章 吸血女王エリザベート・バートリーの淫靡な宴-6 十二月天使<アイナクィンエンジェルズ>
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
天井の高い大広間に、割れるような爆音と眩い閃光が走った。紫外線を含む特殊閃光弾が弾け、吸血鬼たちが一斉に悲鳴を上げる。空気には鼻を突くニンニク粉末の匂いが立ち込め、豪奢な舞台も燻った煙に包まれた。
その混乱の只中、シャンデリアの鎖を滑るようにして黒い外套の影が舞い降りる。
影は軽やかに着地すると、ゆったりとつば広帽を押し上げ、白い歯を見せて笑った。
「あーん! カイト〜❤︎」
半ば裸同然のまま、彼に抱きつくレヴェナ。その感触にカイトーの口元がだらしなく緩む。
「おっと……こういう再会も悪くないねぇ」
舞台下からその様子を見ていたエリザベートは、最初こそ呆れたように眉をひそめたが、すぐに鋭い眼差しに切り替わり、冷たい声で命じた。
「者共であえ! あやつらを逃すな!」
次の瞬間、血色のマントを翻した吸血鬼たちが四方から迫る。
だが、カイトーは紫外線ライトを振りかざし、最前列の吸血鬼を一気に焼き払った。続いて現れた二つの影──ケンジューハジキとバットーイアイが彼の背に並び立つ。
「おらよ!対吸血鬼特注の銀弾だ!」
銀の弾丸を詰めた銃口が閃き、ハジは吸血鬼の心臓を正確に撃ち抜く。
「……御免!」
イアイは特注の銀刀を一閃し、刃が描く軌跡に赤黒い飛沫が舞った。
たちまち乱戦の火花が散る。カイトーランマ・ファミリーの猛攻に、エリザベートの口元がわずかに歪む。
「ええい……! 十二月天使を起動させろ! 奴らを叩き潰せ!」
号令に呼応するように床が震え、陰影の奥から三つの影が姿を現す。
翠髪の女・切咲サキは風を刃に変える斬撃魔法の使い手。
紫髪の女・紫蛇はギリシャ神話のメデューサを思わせる石化能力を宿す。
そして銀髪の竜騎士・ミルコ正刃──現存する十二月天使の中でも最強と謳われる戦士。
中世の戦乙女を思わせる甲冑と武器を携え、三人は一斉にカイトーたちへと襲いかかった。
「お、強者のご登場だな! ハジキ、イアイ、気を抜くなよ!」
カイトーがにやりと笑い、紫外線ライトを握り直す。
「チッ……!」
短く舌打ちするハジキは次の弾丸を装填し、照準を切り替える。
「ぬぅ……可憐な乙女を手にかけるのは忍びないが──」
イアイは刀の柄に手を掛け、いつでも抜ける体勢を取った。
大広間の中央で火花を散らす激戦を、鵺とアオネコは柱の陰から息を潜めて見守っていた。
「あれが十二月天使……すごいわ。あのカイトーたちと互角なんて」
鵺の瞳がわずかに細められる。
「ええ。三人とも武力鎮圧に特化したアイナクィンよ。まともに戦うだけ損ね」
アオネコは低く続ける。
「翠髪は風の斬撃、紫髪は石化、銀髪は竜騎士で……おそらく最強」
鵺は短く息を吐き、肩をすくめた。
「……関わらないに限るわね」
だが、戦場の空気は次の瞬間、異様な変化を見せた。
大広間の空気がぴたりと重くなり、視界が赤く染まっていく。
床を這う霧は見る間に濃くなり、やがて天井付近まで立ち込めた。
湿った鉄の匂いが鼻腔を刺し、低い雷鳴のような振動が足元から伝わってくる。
「ん? 誰だ……?」
ハジキが銃口を向け、イアイが眉を寄せる。
「……まさか……あれは……!」
霧の奥、まず金色の王冠がかすかに輝き、次に紅い瞳が闇を射抜くように光った。
ルビーの宝石を思わせる双眸。その下から現れたのは、燃え立つような真紅の髪を持つ少女だった。
衣装は深紅の髪と瞳が映える白い武道着の装い
背筋は真っ直ぐに伸び、その存在感は戦場を支配する。
(……只者じゃない……! この霧……あの子の力!?)
鵺が息を呑む間もなく、アオネコが小声で告げる。
「……彼女こそ紅紅花。私がエリザベートを裏切ってでも救いたい友人──魂をアイナクィンに喰われず、自我を保つ最強の少女よ」
鵺の瞳が大きく開かれた。
「そ、それって……まさか……?」
「ええ。あの子は私の前世の主、女神ユキルと同じ資質を持ってる。だからこそ組織に目を付けられ、騙され、自らの意思で十一人委員会に仕えている……彼らは紅花を次の女神ユキルに据えようとしているのよ」
鵺の胸の奥で、何かが弾けたような衝撃が走った。
静かに、しかし確実に怒りが膨れ上がっていく。
「……なるほど。とんでもない掘り出し物を見つけたわけね」
紅花は霧の中から一歩、また一歩と進み出て、カイトーたちを真っ直ぐに指差した。
「ふふふ……お前たち、なかなかやるな。だが──ボクが来たからには、もう悪さはさせない!」
八極拳の構えを取ると、瞳が一層深く紅く燃える。
「我が正義の拳を受けてみよ、大怪盗!!」
その宣言と同時に、濃密な赤い霧が再びあたりを包み込み、視界は数歩先すら霞む。
風が渦を巻いたかと思うと、紅花の姿は忽然と掻き消えた。
(一体どこに……?)
カイトーは紫外線ライトを低く構え、周囲を見渡す。
ハジキは銃を、イアイは刀を僅かに傾け、気配を探る。
そして──
「……ッ!」
背後に、息を潜めた気配。気づいたときには遅かった。
「必殺──爆極発勁ーーーッ!!」
紅花の叫びと同時に、衝撃波を伴った拳が突き出される。
その一撃は人を吹き飛ばすに十分な破壊力。
だが、カイトーは反射的に身をひるがえし、間一髪で直撃を避けた。
「おっと、危ねぇ!」
──その瞬間。
カイトーが避けた先にいたのは、舞台袖から見守っていた吸血女王エリザベート・バートリーだった。
「……あっ」
「うっぎゃああああああああああ!!!」
紅花の拳は女王の腹部を直撃し、そのまま壁を粉砕。
石の破片とともにエリザベートの身体は外へと弾き飛び、チェイテ城の高い外壁を突き破って、はるか海原の方へと消えていった。
「…………え?」
その場にいた全員の動きが、時を止められたように静止する。
遠く、海風に乗って、エリザベートの甲高い悲鳴が聞こえてくる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!」
「「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?」」」」
紅花を含む十二月天使四人が同時に叫び声を上げた。
翠髪の切咲サキが、怒りと呆れを混ぜた声で食ってかかる。
「あんた何やってんの紅花!? なんでウチの女王様を巻き添えにしてんのよ!」
紅花は小首を傾げ、悪びれもせずに言った。
「あれ? おかしいな……漫画だと、技名を叫んで放てばちゃんと命中して敵を倒せるはずなんだけどなぁ」
場の空気が完全に混乱する中、ようやく正気に戻ったエリザベートの部下スラッグラーが怒鳴る。
「う、裏切ったのか紅花ぁ!?」
「え? ち、違うって! ボ、ボクはこの人たちを倒そうとしただけで──!」
慌てて弁解する紅花だが、もはや疑いは晴れない。
「おのれ裏切り者め! この罪は重いぞ……! おい、あの小娘を捕らえろ! 絶対逃がすな!」
号令とともに兵士たちが一斉に紅花を取り囲む──。
兵士たちが一斉に動き出す。
銀の鎖が振り上げられ、鋭い槍先が紅花へと向けられる。
足元の赤い霧はまだ薄く漂っていたが、その中で紅花の表情はどこか楽しげだった。
「ふぅん……囲まれるのも悪くないけど、数で来るなんて、正義の味方としては感心しないなぁ」
軽口を叩きつつも、拳を握る音が静かな殺気を帯びる。
スラッグラーが獣じみた笑いを漏らした。
「口だけは達者だな、小娘! 女王様を吹っ飛ばした罪、骨の髄まで償ってもらうぞ!」
「だから違うってば!」
紅花は両手を振って否定するが、兵士たちの目に迷いはなかった。
じりじりと間合いが詰まり、槍先が霧を切り裂く音が近づく──。
その時だった。
『あらぁ……何やら騒がしいと思って来てみれば、面白そうなことになってるじゃない?』
場内に甘く伸びる声が響き渡った。
その声は、まるで耳朶を撫でる蛇の舌のように、聞く者の心をざわつかせる。
兵士たちが一斉に動きを止め、視線を巡らせた。
スラッグラーも眉をひそめ、声の方向を探す。
「……誰だ?」
赤い霧の中、ゆらりと影が揺れる。
高いヒールの足音が、舞台の床に規則正しく響いた。
一歩、また一歩──やがて霧の帳を押し分けるように、その人物は姿を現す。




