乂阿戦記5 第五章 吸血女王エリザベート・バートリーの淫靡な宴-3 転生者アオネコ
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね
(o_ _)o
エリザベートが地下室を去り、残されたのは牢番のアオネコだけだった。
(……もう襲ってはこない、よね?)
そう思い込もうとした瞬間、不意に声がかかり、鵺の肩が小さく跳ねた。だが、次に耳に届いた声音は意外にも柔らかく、わずかに胸の緊張がほどける。
「ねえ、鵺さん。今代のユキル――神羅は、この世界でどう過ごしているのかしら? 七罪の魔女の副頭目、黒の魔女ルキユ様……もしよければ教えてくれない?」
背筋に冷たいものが走った。
正体を完全に暴かれたわけではない。それでも、自分が“何者か”を、相手は確実に掴んでいる――そんな確信があった。
下手に誤魔化せば、逆に隙を与える。そう判断した鵺は、率直に答える。
「……多分ね、私が知る限りでは、今のユキルが一番たくましく生きてるわ。それより――あなた、何者?」
問いに、アオネコは唇を弧にし、くすくすと笑った。
「貴方からは懐かしい匂いがする……昔の私と同じ匂い。私はラグナロクよりもさらに前の時代、女神ユキルに仕えていたアイナクィン。ただそれだけの存在よ」
なるほど――と同時に、やはり自分の素性を知っていると悟る。
しかし、なぜ“アイナクィン”の一体が、自分のようにその存在を否定する者に話しかけてくるのか。
問いただそうとした時、先にアオネコが口を開いた。
「あなた、悩んでいるのでしょう? だったら教えてあげる。あなたが何をすべきかを――」
微笑みは美しいが、その奥には人を呑み込むような不気味さが潜んでいた。
「今の世界は、あなたが知る十五年前や百年前より、はるかに混沌としているのよ。創造神アザトースに対抗しうる主神級の怪物が、ごろごろと息を潜めているんだから」
そこで一拍置き、指折り挙げていく。
「覇王・乂阿烈、黒天ジャムガ、五剣のユドゥグ、憤怒の大魔王シャイターン、悪の帝王ベルゼバブ、巨竜王アング、魔法王メルコール・ヴォータン、雷帝デウスカエサル、最強闘神ヘラクレス、冥獄力士スサノオミカド……まだまだいるわ。アシュレイ族の神子リーン・アシュレイや、ドアダの最終兵器カンキルも底知れない。そして、ひょっとすれば他にも――」
次々に並べられる名は、どれも世界の頂点を揺るがす猛者たち。
鵺は無意識に唾を呑んだ。確かに、この時代の危うさは肌で感じている。自分もまた、その渦中を生き抜く方法を探して動いているのだから。
「そんな世界に、平和をもたらすために必要なもの……何かわかるかしら?」
「……圧倒的な力を持つ者による支配体制の確立。少なくとも、この世界の覇を狙う連中は、そう考えてるでしょうね」
鵺の即答に、アオネコは楽しげに目を細めた。
「その通りよ、さすが主神級の怪物独裁者アン・ユドゥグの娘、アン・ユエね」
アオネコは表情を引き締め、まっすぐ鵺を見据える。
「でもね、今のままでは駄目。女神ユキルは争いのない優しい世界を望んでいた……私も手助けしたいのに、レコキスタに首輪を付けられていて動けない。このままだと平和な未来が来る前に人類が滅ぶかもしれないわ。だから――お願いがあるの」
視線が交差し、牢の空気が重くなる。
「あなたに、この世界の新たな秩序を築いてほしいの」
「……は?」
あまりに突拍子もない言葉に、鵺は思わず間抜けな声を漏らした。
「これからあなたは数え切れない困難に直面する。その度に強くなるはずよ。そして――あなたの母である魔女ルキユの巫女、《今宵帳》様もきっと支えてくれる。さらに本当に信頼できる仲間を得たとき、あなたたちは大きな力を手にすることになる」
その響きは魅力的だった。だが、同時に甘美すぎる。
「私に、新しい世界の支配者になれと? つまり全ての《銀の鍵》を集め、アカシックレコードの“時空大鍵”を手に入れろってこと?」
「ええ。あなたは女神ユキルのストッパーでありながら、自我を強く保っている。だからこそ、アイナクィンの法則に縛られない未来視を見出せる。――正しくあの鍵を使えるはずよ」
その瞬間、胸の奥で眠っていた何かがざわめいた。
だが、鵺は口元に薄い笑みを浮かべると、冷たく言い放つ。
「……私がアイナクィンの端末の戯言を真に受けるとでも? あんたたちは嘘は言わないが、嘘じゃない上手な嘘をつく。真実をちらつかせて都合よく誘導する――昔、そういう手口は散々見てきた」
アオネコは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐ真顔に戻る。
「いいえ、今回は違う。ただ協力してほしいだけ。もし引き受けてくれたら、あなたの願いを叶える手助けをするわ」
「……私の願いを?」
耳に心地よい響き。しかし同時に、背後に影が潜んでいるような感覚もあった。
「さあ、どうするのかしら?」
挑発めいた微笑みに、鵺もまた不敵な笑みで返す。
「何を根拠に信じろと言うの? 私はアイナクィンには不信感しかないわ。だから――まず聞く。あなたは何者?」
アオネコは肩をすくめる。
「どうしてそう思うのかしら?」
「……あなたは偽装AIというより、人間の感情を持つ機械。その瞳には、心と魂が宿っている」
「ふふ……よくわかったわ。そう、私もユキルの“愛の魔法”で変質したイレギュラーなの」
「それで、どうする? 交渉する? それとも利用する?」
アオネコの挑発に、鵺は黙考する。牢の中の空気が静まり返り、互いの呼吸音だけが響く。
やがて、鵺はゆっくりと口を開いた。
「……いいわ。ひとまず信じてあげる。ただし、条件付きよ」
「条件?」
「一つ目、お互い嘘はつかないこと。二つ目、今のユキルに危害を加えないこと。三つ目――あなたの身の上話を聞かせてもらうこと」
アオネコは唇に笑みを浮かべる。
「妥当ね」
「そして最後に」
鵺は視線を鋭くする。
「私を裏切らないこと。それを約束できる?」
「もちろん」
即答。その声色に揺らぎはない。
しばしの沈黙の後、鵺は小さく頷く。
「……わかったわ。それじゃあ――よろしくね」
次の瞬間、互いの目に交わったのは、信頼と警戒が入り混じった複雑な光。
牢の空気が微かに変わる。二人の間に、言葉以上の契約が結ばれた瞬間だった。
――腹の内を隠したまま、新たな取引が始まった。




