乂阿戦記5 第四章 鏨夕は誘拐された友達を助けたい-25 八尺少女の不幸な生い立ち
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
その昔のことだ。
――耳の奥で、何かが囁いた。
振り返る間もなく、腕を掴まれる。骨がきしむ音が、鼓膜の裏で弾けた。
刹那、視界は墨を流したように暗転する。
意識を取り戻すと、そこは見知らぬ室内だった。
壁一面の巨大な鏡が、無遠慮にこちらを映し返している。
映っていたのは――十歳ほどの少女。
夢ではない。
これは過去。
まだ「アイナ・クィン」ではなかった頃、人間として存在していた日。
貧しい家に生まれ、両親に売られた。
行き着いたのは、白い壁と鉄の匂いに満ちた研究施設。
そこでは、人ではなく、モルモットとして迎えられる。
衣服は剥ぎ取られ、肌はむき出しのまま。
手足には鎖付きの枷。首の金属の輪から無数のコードが延び、背後の機械に接続されていた。
スイッチが入る――
骨の芯まで焼くような電流が全身を駆け抜け、筋肉が勝手に跳ねる。
悲鳴を上げれば、あざ笑うように電圧は上げられた。
だから奥歯を噛み締め、唇を切ってでも声だけは殺す。
どれほど時間が経ったのかも分からない。
解放されたとき、床には汗が滴り、視界は霞んでいた。息は刃物のように胸を削る。
その時、影の中から男が歩み出てきた。
唇の端を吊り上げ、冷たく告げる。
「おやおや……ずいぶんと苦しそうじゃないか」
後ずさろうとしても、身体は動かない。
それどころか、自分の意思とは無関係に首が傾き、足が前へ進む。
操られている――逃げ道は、最初からない。
男は喉奥で笑い、囁くように告げた。
「これからお前には――私の“アイナ・クィン”に関する実験台になってもらう」
空気が、金属の味に変わった。
その合図と同時に、衣服は無造作に引き裂かれた。
剥き出しの身体を、脈動する肉の塊が包み込む。
無数の触腕が絡みつき、蛇のように手足を縛り上げた。
抵抗する間もなく、背中から粘つく台座へ沈められる。
その表面は奇妙な温かさを帯び、ただ触れられているだけで精神を削るほど不快だった。
薬品の匂いが鼻を刺す。
液体が全身に塗り広げられ、皮膚はじわじわと灼けるように熱を帯びる。
同時に感覚は異常なまでに鋭くなっていく。
――本格的な実験が始まった。
視界を閉ざしたくなるほどの屈辱と、骨の髄まで侵食してくる痛み。
悲鳴は喉を突き破って洩れ、それすらも記録の対象にされる。
容赦ない刺激が繰り返し襲いかかる。
意識は何度も闇へ沈みかけ、そのたびに無理やり引き戻され、再び痛みの奔流へ叩き込まれる。
限界は、とうに越えていた。
だが男たちは止めない。
命を奪うのではなく、生かしたまま壊すことを選んでいるのだ。
脳裏が真っ白に染まり、呼吸すら自分の意思ではできない。
ただ、機械と肉の波に呑まれ続ける。
――限界は、とうに越えていた。
だが、男たちは止まらない。
ギリギリで命を刈り取らず、生かしたまま苦痛を塗り重ねる。
殺すのではない――壊すのだ。
脳裏は真っ白に塗り潰され、何も考えられない。
呼吸すら自分の意思でできず、ただ機械と肉の波に呑まれ続ける。
……しかし、終わりではなかった。
死の淵から無理やり引き戻され、さらに深い地獄へと突き落とされる。
時間の感覚は、とうに消えていた。
死ねないのではない――死ぬことすら許されない。
そして彼女を待っていたのは、もっとも恐れていたもの。
自我の剥奪。
〈アイナ・クィン十二月天使〉への強制改造手術である。
「ひっ……!? いやぁあああああっ!!」
叫びは白い壁に吸い込まれて消えた。
誰も聞かない――ここは、そのための場所なのだから。
最初に施されたのは、脳への電極挿入。
金属が皮膚を破り、骨を越え、軟らかな中枢に突き刺さる。
容赦のない電流が脳髄を焼き、意識を無理やり浮上させた。
続いて全身麻酔。
筋肉から力が抜け落ち、魂を抜かれたように無抵抗となる。
そこからが、本番だった。
――骨を抜き取る音が響く。
人間の骨格は冷たい金属へ置き換えられ、皮膚は硬質化処理を施される。
感覚は麻痺し、痛みも恐怖も鈍っていく。
もう、叫び声すら出なかった。
次に眼球が切開され、異形のレンズが埋め込まれる。
視神経と直結したそれは、外界の映像を直接脳に流し込む装置。
最後に、頭部全体を覆う無機質なヘルメットが装着され――準備は完了した。
その頃には、涙を堪えることだけが唯一の抵抗だった。
……そして変化が始まる。
肉体の奥底から、異様な魔力が噴き上がる。
血管を裂くほどの圧力が全身を駆け巡り、骨と筋肉が変形する。
焼けるような激痛と、理性を溶かす奔流。
快感とも苦痛ともつかぬ感覚が精神を削り、芯を食い破っていく。
やがて――そこに残ったのは、もう「ヒト」ではなかった。
心臓は動いていても、心はそこにはない。
***
目を閉じたまま動かない彼女に、研究員たちはざわめく。
覚醒処置を試みるも反応はない。
短い沈黙――一人が装置の操作盤へ駆け寄った。
金属のレバーが引き下げられ、魔術回路と機械配線が同時に作動する。
低く唸る音と共に、装置全体が赤く明滅した。
数秒後、瞼がわずかに震え、光を取り戻す。
生還――いや、稼働再開だ。
「ふぉっふぉっふぉ……どうやら成功したようじゃな」
現れたのは、この計画の総責任者、Dr.レコキスタ。
隣でエリザベートが陶然と笑う。
「ホホホホ……これで“アイナ・クィン”のシステムは、私たちの意のままですわ」
研究員たちは互いに顔を見合わせ、わずかな不安を隠せない。
だがレコキスタは構わず言い放つ。
「うむ、よくやったぞ。これで儂の研究も次の段階に進む」
その言葉で空気は一変した。
拍手も歓声もない。
だが全員の瞳が、狂信的な光で満ちる。
***
少女たちは別室へ移送された。
そこは無機質な灰色の壁に囲まれた実験室。
中央に立つのは、すでに改造を終えた者たち。
金属光沢の肌、機械仕掛けの硬い関節。
その瞳には、もう何の焦点も宿っていない。
白衣の男たちが近づき、無造作に注射器を突き立てた。
瞬間、身体が痙攣を起こす。
ビクリと全身が跳ね上がり、筋肉が異常収縮を繰り返す。
口から泡が零れ、眼球は白目を剥く。
やがて動きが止まり、糸の切れた人形のように床へ崩れ落ちた。
研究員たちは満足げに頷き、その場を離れる。
残されたのは、冷却装置の唸りと、横たわる無機質な人影だけだった。




