乂阿戦記5 第四章 鏨夕は誘拐された友達を助けたい-24 サンジェルマン伯爵の絶望
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
その後、一行は改めて話し合いの場を設けた。
ただし場所は先ほどの部屋ではなく、別の静かな空間に移されていた。
──おそらく、人に聞かれては困る重要な話をするつもりなのだろう。
全員が席に着くと、最初に口を開いたのはサンジェルマンだった。
「さて、まずは自己紹介から始めましょうか。私の名前はサンジェルマンと申します」
柔らかな笑みを浮かべ、恭しく一礼する。
それに続き、他の面々も順に名乗っていく。
「俺は乂雷音といいます!」
雷音が元気よく挨拶すると、場が少し和やかになる──が、その後の紹介で空気が一変した。
「オームだ。……神羅の婚約者だ」
彼はわざとサンジェルマンの視線を正面から受け止めながら、ゆっくりと告げた。
その口調はまるで宣戦布告。しかも口元には、明らかに勝ち誇った笑みが浮かんでいる。
「はへ?」
サンジェルマンが間の抜けた声を漏らす。
「へ?……は?……え?……ユキル様の……婚約者……?」
理解が追いつかないのか、言葉が途切れ途切れになる。
すると神羅が、照れくさそうに笑いながら慌てて口を挟んだ。
「ああ、いやいや!婚約と言っても〜❤︎乂族とタタリ族の政治的な友好の為の婚約って言うかぁ〜……すみませんねぇ……アタシのフィアンセ君、真面目だからぁ、婚約者としての筋をアタシに通したがってるっていうかぁ〜、いやぁん♪ お姉ちゃんまいっちゃうな〜〜。
+゜(〃ノ∀ノ)。+゜イヤ~ン、」
頬に手を当て、妙に色っぽく肩をすくめる。
そして舌をちょこんと出しながら、甘やかすようにオームの頭を軽く拳骨でコツン。
「もう〜、オーム君ったら☆ 伯爵様に無礼しちゃダメでしょ〜?」
どう見ても、ただの惚気である。
サンジェルマンの頬がみるみる青ざめていく。
「え?は?え?」
表情が引きつり、肩が小刻みに震え始める。
オームは余裕の笑みを崩さない──だが内心では察していた。
(ああ……これは完全に嫉妬を買ったな)
なにしろ目の前で、自分の想い人が別の男と堂々とイチャついているのだ。
恨まれないはずがない。
そんな空気を破ったのは、サンジェルマンの隣に座っていたレスナスだった。
「おい、サンジェルマン? 顔、真っ青だぞ。大丈夫か?」
だが呼びかけは届かない。サンジェルマンはガクガクと震え、呪詛のように言葉を繰り返していた。
「……あ、あああ……愛しき妻……麗しの聖女……美しき女神……ユキル様が……私の……私だけのユキル様が……よりによって……他の男に……腕を……肩を……抱かれて……ああああ……ああああああ……ガフッ!!!」
最後はうわ言のまま、椅子から転げ落ちそうになるのだった。
レスナスは、急性胃潰瘍で吐血しながらも崩れ落ちたサンジェルマンの背を、優しく摩って慰めていた。
やがて彼は、静かに雷音の方へと視線を向ける。
雷音はその目を正面から受け止め、無言で小さく頷いた。レスナスも同じく頷き返す。──意思は通じた。
雷音は、うずくまるサンジェルマンに向かって声をかけた。
「えーと、サンジェルマンさ〜ん。さらわれた女の子達の行方、わかるだけ教えてくれません? そうすれば、ウチの姉ちゃんのサンジェルマンさんに対する好感度が、爆上がりすると思うんですけど〜……♪」
その一言に、オームを睨みつけていたサンジェルマンがビクッと反応する。
ゆっくりと顔を上げ、雷音を凝視──次の瞬間、彼の両目からは赤く濁った血涙が溢れ出した。
「ぐすっ……ひぐっ……お、おおお……お願いしましゅっ!!」
嗚咽を漏らしながら、サンジェルマンは絞り出すように叫ぶ。
「我が義弟、雷音くん! どうか……どうかユキル様を救ってくだしゃい!! 彼女は今、あの悪辣なタタリ族の魔王に誑かされてるんです! い、い、一刻も早く、魔王オームの洗脳から我が女神の精神を解放せねばっ……! お、おお……お願いじまずぅぅぅぅぅ〜〜!!!!」
言うが早いか、地面に額を擦りつけるような勢いで土下座。
血涙と涎が混じり合うその姿に、場の空気が一瞬で凍りついた。
全員が思わず息を呑む──ただし、雷音とレスナスだけは平然としている。
まるで、こうなることを最初から予想していたかのように。
「「で? さらわれた女の子たちは、どこに?」」
息をぴたりと揃え、二人は淡々と問いかける。
サンジェルマンは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、震える指で答えた。
「ひっく……かの少女達は……惑星ハルガリのエリザベート島……そこの廃工場にカモフラージュした秘密基地で……人体実験を受けてまずぅ……」
地図を取り出し、赤い指先で一点を示す。
それを覗き込んだ雷音は、低く舌打ちをした。
「ちっ……あそこか。あの惑星か……。面倒くせぇ……伝説の吸血女王エリザベート……実在してたのか……」
隣でレスナスが肩をすくめ、小さくため息をつく。
「はぁ……まさか、こんな形で関わることになるとはね。……仕方ない、さっさと片付けようじゃないか」
二人の言葉に、その場の全員が力強く頷いた。
こうして、一行はすぐさま出発の準備へと取りかかるのだった。
***
***
こうして女生徒捜索チームは、目的地であるエリザベート島の秘密研究所へ向かう──はずだった。
だが、その直前で思わぬ問題が立ちはだかる。
「調査協力はご苦労さん。だが、ここから先は大人の仕事だ」
織音主水が腕を組み、鋭い視線を向ける。
「ガキんちょ共は学校でおとなしくしてろ」
「ちょ、ちょっと待ってください! なんで止めるんですか!?」
雷音が慌てて食ってかかる。
主水はやれやれと首を振り、諭すようでいて、突き放すように言った。
「お前ら、まだチン毛も生え揃ってねぇだろ。そんな半人前に危険な真似はさせられねぇんだよ。……大人しく家帰って宿題でもしてな」
痛烈な一言に、雷音は何も言い返せず、悔しそうに歯を噛みしめる。
「……っ」
そんな彼の肩に、ぽん、と手を置いたのはレスナスだった。
「まあまあ、落ち着きなよ雷音くん」
穏やかな声で続ける。
「僕たちだって、本気を出せば行けなくはない。でも……ここは彼らの言う通りにした方がいい。やっぱり君たちは、まだ子供だからね」
「ぐぬぬ……」
雷音は唇を噛み、視線を落とす。正論には反論できない。
こうして彼らは、しぶしぶその場を引くことに決めた。




