乂阿戦記5 第四章 鏨夕は誘拐された友達を助けたい-22 サンジェルマン伯爵の異常な性癖コレクション
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
永遠田神羅は局鶯が提供してくれた情報から攫われたアルテミス女学園の生徒たちの居所をつかむことにして成功した。
そして、攫われた生徒たちが多く捕まっているサンジェルマンの館に潜入してきたのである。
神羅の機敏な動きにより、少女たちは非道な実験や生贄の浮き目に合わずにすむかのように思えた。
しかし依然として危機的状況であることに変わりはなかった。
何故ならまだ生徒たちを完全に助け出したわけではない。
そして、彼女の前に立ち塞がるサンジェルマンは未だに余裕綽々とした態度を取っていたからだ。
「……おやおや」
柔らかく、それでいて底冷えするような声が降ってきた。
そこに立っていたのは、艶やかな笑みを浮かべた男――七罪“淫欲”の魔王、アスモデウス・サンジェルマンだった。
長身の体を優雅に傾け、片手を胸に添えて彼は言う。
「ようこそ、我が麗しの歌姫女神ユキル様。
この私の館へ……ようこそお越しくださいました。
ああ、なんという幸福でしょう。まさか貴女が自らの足でこの場所に来てくださるとは――」
口調は甘美で、瞳は熱を帯びているのに、背筋を撫でるような冷たさを帯びていた。
神羅は、その笑みの裏に潜む狂気と執着を感じ取り、胸の奥に怒りと恐怖を同時に抱く。
それでも、気持ちを押し殺し、はっきりと告げた。
「……アルテミス女学園の生徒たちを引き渡していただけますか?」
サンジェルマンの唇が、ゆるやかに弧を描く。
「ええ、もちろん。全員を解放しましょう……ただし」
一歩、距離を詰めて低く囁く。
「私と握手をし、サインをくださるなら。部屋でツーショットを撮り、その瞳をこの私だけのものにしてくださるなら」
「い、いい加減にしてください!」
神羅の声がわずかに震えた。
「私は真剣に、生徒たちを――」
サンジェルマンは軽くため息を吐き、首を振る。
「やはり誤解されていますね。我が歌姫よ……よろしい、私の“本気”をお見せしましょう」
彼がパチリと指を鳴らすと、魔法陣が床一面に広がる。
次の瞬間――神羅、囚われの屍紫、そして同行していたアカデミア学園スーパーロボット研究部の面々(ロイ、デブチン、ヒース、鳳博、レナス)の姿は、まばゆい光に包まれ、別の部屋へと転移していた。
転移した先は――まるで高級ホテルのスイートルームのような空間だった。
シャンデリアが天井から滴るように光を放ち、漆黒の革張りソファやマホガニーのテーブルは、すべて最高級ブランドで揃えられている。
足元には厚く柔らかな絨毯が敷かれ、歩くたびに靴底が沈み込む。
壁際には大型液晶モニターやオーディオセットが鎮座し、部屋の隅には場違いなほど華やかなカラオケセットまで置かれていた。
神羅たちは一瞬、ただ呆然とその豪奢さを眺めていたが――やがて我に返ると、一斉に騒ぎ出した。
「な、何なのよこれ!?」(神羅)
「おいコラてめぇ!いきなり転送とか何考えてやがるだお!」(デブチン)
「こ、ここは……でヤンス!? 拙者たちをどうするつもりか説明しろでヤンス!」(ロイ)
「みんな、落ち着きなさい!まずは状況を整理するわよ」(レナス)
しかし、その言葉はすぐに途切れた。
全員の視線が――壁に貼られた“それ”に吸い寄せられたからだ。
壁一面にびっしりと並ぶ写真。
すべて、神羅の姿だった。
ステージで歌う姿、戦場で剣を振るう瞬間……そして、明らかに盗撮としか思えないプライベートショットまで。
中には、セトアザスが撮ったと思しき“際どい”カットまで混ざっている。
「ひっ……!」
神羅の頬から血の気が引く。心臓が冷たい指で鷲掴みにされたようだった。
その反応を堪能するように、サンジェルマンが口元に笑みを浮かべた。
「ご覧なさい――これこそが、私のユキル様への愛を可視化した殿堂です。日々の成長、戦い、息遣いまでも記録し続けた、私の魂の結晶……」
その言葉に全員が一瞬絶句し、次に神羅が烈火のごとく叫ぶ。
「ふざけないで!私を怖がらせようとしてるんでしょうけど、そんなの無駄です! っていうか! 何ですかこの気持ち悪い写真の山は!? どうしてこんなに私の写真が……!」
サンジェルマンは、まるで「何を当たり前のことを」とでも言いたげに肩を竦める。
「この程度、ファンなら当然でしょう? まして私は――愛を記録し続ける者。これは単なるコレクションではない。祈りであり、契約であり……私だけの歴史書なのです!!」
「いやいやいや!絶対おかしいでしょ!ねえ、みんなもそう思うよね!?」(神羅)
ロイが顎に手を当てて淡々と答える。
「まあ……オタクが部屋をポスターとタペストリーで埋め尽くすのは常識です。俺もブリュンヒルデ様のグッズで天井まで埋まってますし」
「フゥーハハハ!我が研究室も同じだ!」(鳳博)
胸を張って高笑いしながら、続ける。
「もっとも最近、助手に“片付けろ”と怒られてな、すべてウチウとドリやんの4次元アイテムルームに押し込んだが!」
「鳳博!あの気持ち悪いグッズ捨てろって言ったでしょ!」(レナス)
「あーあー!聞こえぬ聞こえぬ!」
耳を塞いだ鳳博の頭を、レナスがポカポカと叩く。
続いてデブチンが鼻を鳴らす。
「それにしても、この収集力……第7席の財力ってやつはやっぱスゲーな。マジ羨ましいでござる~。ブヒ! ……まあ、拙者も金さえあればブリュンヒルデたんグッズで埋め尽くすけどな!」
神羅はこめかみを押さえた。(ダメだ……このメンバー、全然危機感がない)
その時、ヒースが蒼白な顔で神羅の袖を引く。
「か、か、神羅さん……あの椅子……座ってるの、神羅さんそっくりの人形じゃないですか……?」
「えっ……――うわああああっ!?」
そこには、神羅そっくりの等身大フィギュアが、あろうことか卑猥なサキュバス衣装で、セクシーなポーズをとって鎮座していた。
「ぎゃあああ!? なんでここにこんな人形があるのよぉおお!!」
神羅は顔を真っ赤にして叫び、慌ててその等身大フィギュアを掴み上げようと身を乗り出した――
だが、その瞬間。
背後の扉が勢いよく開き、彼女の動きが固まる。
現れたのは、神羅の婚約者オームと、三か月年下の弟・雷音。
二人は援軍として、別働隊でここに駆け付けたのだ。
「どうした神羅!!……って、うおっ!? 神羅が二人!?」(オーム)
「ん? 違うな、オーム。あれは人形だ……しかも、やたら……エロい」
雷音が眉をひそめ、じろじろと視線を這わせる。
「きゃあああ!! 見ちゃだめぇぇ!!」
羞恥と怒りで声が裏返る神羅。
しかし、その抗議を無視するように、雷音が大声を上げた。
「――ちょっと待ったぁぁああ!!!」
次の瞬間、彼は素早く間合いを詰め、神羅の手から人形をひったくる。
両手で持ち上げ、まるで鑑定するように視線を上下させた。
「……出来が甘いな。本物の神羅より胸が一回り大きい。腰も細すぎる。これは神羅がなりたくてもなれない理想のスタイルだ。この前戦った偽物神羅のサキュバスの方が、まだよく似てたぜ……なあ、姉さん?」
人形の腰や胸をペタペタと触りながら、静かに、しかし確実に怒りの火種を投げ込む。
「……っ!」
神羅の頬が引きつり、目から感情がすっと消えた。
オームも同時に表情を変え――
「「……死ね」」
二人の冷たい声が重なった刹那、左右から攻撃呪文が放たれる。
雷音は咄嗟に飛び退き直撃は避けたが、彼の手にあった人形は轟音とともに粉々に砕け散った。
「あああああっ!? 私の鑑賞用がぁぁぁあ!!!」
サンジェルマン伯爵が頭を抱え、膝をつく。
彼は割れた破片を抱きしめ、狂おしいほどの声で『私の……私の神羅様が……』と呟いた。
その様子は、壊された宝物を悼む狂人そのものだった。
「ひぃっ!? ちょ、ちょっと待て神羅、オーム! 俺は何も――」
必死に言い訳しながら逃げようとする雷音の前に、いつの間にか神羅が回り込んでいた。
笑みを浮かべながらも、瞳だけが氷のように冷たい。
「ねぇ……愚弟?」
「ひっ……!」
視線がぶつかった瞬間、雷音の膝から力が抜け、腰が抜ける。
「あんた、私のこと――貧乳って言った? 太ってるって言った?」
笑顔の形をしているが、その声には一切の温度がなかった。
ゆっくりと歩み寄った神羅は、雷音の襟首を無造作につかみ上げる。
「ご、ごめん! 悪気はなかったんだ! 本物に比べて人形のスタイルが良すぎて、つい……!」
必死に弁明する声など聞く耳を持たず、そのまま引きずり始める。
「ちょ、ちょっと待って! どこに連れて行く気だ!?」
「決まってるでしょ……お仕置き部屋よ」
そこへヒースが、目を輝かせて駆け寄ってくる。
「お仕置きですか!? では私も手伝わせてください! 雷音さんに“自爆爆竹スーツ君”を装着するのはいかがでしょう!」
「そ、そんなの絶対ヤダぁああああ!!」
雷音の悲鳴が廊下に響き渡り、神羅とヒースに引きずられていく姿は、やがて部屋の奥へと消えていった――。
「やだやだやだ!!ゆるしてー!!」と足をばたつかせ暴れる雷音だったが、爆竹が鳴る音と共に沈黙したのであった。




