乂阿戦記5 第四章 鏨夕は誘拐された友達を助けたい-20 局鶯(つぼねうぐいす)
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
一方、ソロモンの息子が操る白鍵号は神羅が呼び出した機械神ユグドラシルと激しい戦闘を繰り広げていたが、やがて、決着の時が来たようだった。
「ぐっ……!」
白鍵号の装甲が悲鳴を上げ、ユキルの操る機械神ユグドラシルの巨腕が敵の胸部を貫いた。
衝撃波が周囲の瓦礫を跳ね飛ばし、爆音と閃光が視界を覆う。
「そんなバカな!」
操縦席でフィインは歯を食いしばる。コンソールの警告灯が赤く点滅し、振動が骨を軋ませた。
それでも――まだ終わらせるつもりはなかった。
(僕は……ここで引き下がれない! お姉ちゃんを渡すくらいなら!)
震える手で最後の切り札を起動しようとした瞬間、上空から黄金の閃光が差し込んだ。
轟音と共に、白鍵号の頭部が砕け散る。
次いで胴体、脚部――精緻な関節までも粉微塵に。
ユグドラシルの一撃ではない。全く異なるリズム、圧倒的な精密さと威力。
瓦礫の煙の中から、もう一機の巨体が現れた。
白鍵号と同型――しかし眩い黄金の装甲が、戦場の光を奪うように輝いている。
「え……新手?」
神羅が息を呑む。鏨夕もすぐに続いた。
「見て! 白鍵号と同じ機体……でも色が……黄色?」
巨体はゆったりと歩み寄る。その動きは威嚇ではなく、あくまで「主の命令に従っている」者のそれだった。
やがて、機体の頭部スピーカーから、重厚でありながら朗らかな声が響く。
「フィインお坊ちゃま。もうここまでにございます。お父上様は鶯お嬢様をアルテミス女学園にお戻しになると、ご決定なされました」
その声音には、叱責でも哀れみでもない、揺るぎない事実だけがあった。
黄金の巨体は静かに片膝をつき、その胸部装甲が滑らかに開いた。
そこから現れたのは、白銀の刺繍入り燕尾服を纏った男――品格を全身から放つ執事だった。
背筋は剣のように真っ直ぐ、髭は整えられ、瞳には百戦錬磨の冷静さと慈愛が共存している。
「お嬢様方、そしてその学友の皆様。初めまして。私、ソロモン家筆頭執事――カーネル・ダンディと申します。以後、お見知りおきを」
その声には、不思議と誰も逆らえぬ重みがあった。
「な、なんだって……?」
フィインは動揺を隠せない。
父が自分の作戦を覆すなど、想像すらしていなかったのだ。
神羅は冷静に、ユグドラシルを後退させながら言った。
「わかりました。それでは私はここで降ります」
鏨夕がそっとフィインに視線を向ける。
「あなたにとって鶯がどんなに大切かは、よく分かったわ……。だったら、許可を取って、堂々と会いに来ればいいじゃない?」
その言葉に、少年の瞳が揺れ、ぽつりと涙が落ちた。
その時だった。奥の方から、弾む声と共に一人の少女が駆け寄ってきた。
「鏨さーん!緑さーん!」
局鶯――探していた少女が、息を弾ませながら二人に抱きつく。
「ああ、よかった……!無事だったんですね!」
温もりが、戦場の緊張を一瞬で溶かした。
互いにしばらく抱き合った後、雷音は改めて自己紹介をする。
「初めまして。俺は乂雷音です。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ♪」
そう微笑む鶯の笑顔は、どこか柔らかな光をまとっていた。
そんな彼女を見ていると、なんだかドキドキしてくるような気がした。
そこで俺は話題を変えるべく、気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、ここに連れてこられたのはあなただけですか?他の学校の生徒たちの行方とかは知らないでしょうか?」
俺が質問すると、彼女は少し考えてから答えてくれた。
「うーん、ごめんなさい、実はここに連れてこられたのは私だけなんです。けど、父は研究の協力を条件に私にさらわれた女の子たちの行方を教えてくれました。ひとまず学園に戻り、連れ去られた女の子たちの行方について説明したいと思います……今はひとまず学園に帰らせてください。ごめんなさい。」
申し訳なさそうに言う彼女に、俺は慌ててフォローを入れる。
「いえいえ、謝らなくても大丈夫ですよ」
むしろいきなりこんな質問をした俺の方が悪いのだから仕方がないだろう。
それにしてもどうしたものかと考えているとーーー
「うーぐーいーすー❤︎」
突如、背後から甘ったるい声が飛んだ。
振り返る間もなく、黒髪ロングの束緑が局鶯のスカートをひょいと掴み――勢いよく持ち上げた。
「きゃあああああ!束さあああん!?」
鶯の悲鳴が響く。アルテミス女学園の一部では有名な“挨拶”――束緑流の安否確認(?)が、戦場のど真ん中で炸裂した瞬間だった。
雷音は思わず口笛を吹きそうになった。
「おおーっ!」
思わず感嘆の声を漏らす。淡い桃色のショーツが、鮮やかに目に焼き付く。
しかし雷音は慌てて首を振った。(今は感想を口にする場面じゃない……!)
鶯は顔を真っ赤に染め、両手で必死にスカートを押さえる。
「もうっ……!束さん、こういうのはやめてって何度言えば……!」
束緑は悪びれた様子もなく、にっこりと笑った。
「だって元気そうで安心したんだもん」
その微妙にずれたやり取りに、雷音はどうにも割って入れずにいたが――
「お嬢様と束様は、相変わらず仲睦まじいですな」
場を収めるように、カーネル・ダンディが軽く咳払いしながら歩み寄ってきた。
「もしよろしければ、このじいやめが皆様を学園までお送りいたしますぞ。
ささ、どうぞこちらへ」
毅然とした執事の所作に、戦場だった空気がすっかり和らぐ。
断る理由もなく、雷音たちはその申し出を受け入れ、黄金の巨体――黄鍵号の護送を受けることになった。
帰還の途上、雷音はふと隣を歩く鶯を見た。
夕陽に照らされた横顔は、ついさっきまで囚われていたとは思えぬほど、静かで美しかった。
その姿に、雷音は胸の奥で小さく誓う。――もう二度と、彼女を危険に晒させはしない、と。




