乂阿戦記5 第四章 鏨夕は誘拐された友達を助けたい-13 雷華達を襲う災禍
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
その頃──薄暗い部屋の片隅で、一人の少女がゆっくりと瞼を開いた。
冷えた空気が頬を撫で、反射的に小さく息が漏れる。上体を起こし、ぼんやりと周囲を見渡した。
「……ここ、どこ?」
足元は石畳、壁は湿った灰色。薄い霧のような冷気が漂っている。
立ち上がりながら、自分の服に目を落とす。
「ああ……いつもの制服……ほんと、このデザイン、何度見ても変わってるよな」
少女の名は──乂雷華。
短気で正義感が強い、剣術を叩き込まれた武闘派女子だ。
雷華の隣でもう一人気を失っていた少女が、かすかに眉を動かし目を覚ます。
背まで届く金髪が、わずかな光を受けて陽だまりのようにきらめいた。
澄んだ蒼の瞳には、冷静さと柔らかさが同居している。
白を基調に金の装飾をあしらったブレザー、その胸元で揺れる青いリボンが清楚さを際立たせていた。
彼女は──鳳アリス。アカデミア学園のトップクラスで、“氷の微笑”と呼ばれる才女。雷華とは同学年にして良きライバルだ。
二人が出場するのは、アカデミア学園、ドアーダ魔法学園、アルテミス女学園による三校ロボ対抗戦。
優勝賞品は──世界樹の果実を一年間食べ放題。参加者全員が血眼になる代物だ。
「うーん……」
目を開けたアリスは、辺りを見回すと眉をひそめた。
同年代の少女たちが同じ部屋に閉じ込められており、全員が結界に縛られ身動きできない。
(……遊び半分で来た場所が、敵地の真ん中だったなんて)
胸の奥に冷たい焦りが広がる。
アリスは出口へ駆けだそうとした──が、背後から雷華に羽交い締めにされた。
「待て!落ち着けアリス!」
「なっ……!」必死に振りほどこうとするが、びくともしない。
雷華の腕は鉄のように固く、身動きが取れない。
「離して──!」
その瞬間、空間に大きな鏡が浮かび、血まみれのアリスが映し出された。
「えっ……これ、私!?」
「それは、あなたが無謀に動いた場合の未来図よ」
艶やかな銀髪の美女──**鋼灰**が妖しく微笑む。「敵に見つかり、命を落とす可能性のね」
「灰さんの仰る通りですわ、アリス様。まずは落ち着いて現状把握を」
芝居がかった所作の迦楼羅スモモが穏やかに諭す。
「……焦っても無意味」
無表情な白髪少女──**白水晶**が淡々と告げる。
「だね!まずは落ち着こ!」
明るく無邪気なミリルが手を振った。
アリスは息を吐き、うなずく。
──まずは状況整理だ。
ここはミリルの姉ミレニアの案内で来たアイドル事務所。だが今は生き物の気配すらない。
雷華、ミリル、白水晶、鋼灰、アリス、スモモ。六人だけが、不気味な静寂に取り残されていた。
足元に、不気味な紫光が浮かび上がった。
蜘蛛の巣のように広がる魔法陣──薄闇の中で不気味に脈動している。
「……これが元凶か?」雷華が剣の柄に手をかける。
その瞬間、足元が揺れた。いや、これは地震ではない。
──何か巨大なものが、こちらへ向かってくる足音だ。
「来るのだ!」ミリルの声が鋭く響いた。
ズガアァァン!
天井が崩れ、岩塊が出口を塞ぐ。土煙が視界を奪い、耳が痛くなるほどの轟音が響く。
「くっ、不覚……!」雷華が瓦礫を押しのけようとするが、びくともしない。
その時──背筋に、氷の刃を突き立てられたような感覚。
冷たい殺気が肌を刺す。
土煙の向こうから姿を現したのは、目玉のない白い巨大トカゲだった。
体長は五十メートルを優に超え、鎧のような鱗が光を反射している。
牙の隙間から漏れる熱い吐息が、肌を灼く。
「化け物……!」アリスが小さく呟いた。
それは紛れもなく捕食者の目──いや、獲物を見る死神の視線だ。
次の瞬間、アリスと鋼灰が動けずに固まった。
太い爪が伸び、彼女たちの身体を易々と絡め取る。
「きゃあっ!」
ぬるりと湿った感触が全身を包み、暗闇へと引きずり込まれる。
酸っぱい匂い、内壁の脈動、胃液の熱。
喉を滑り落ち、粘液まみれの空間に叩きつけられた。
雷華がすぐさま追いかける。炎の魔法で周囲を照らすと、壁は一面ぬめり、滴る液体が足元に広がっていく。
靴底がじゅっと焦げ、煙が上がった。
「……長居すれば溶かされるな」
雷華が顔をしかめる。
「出口はあっち!」雷華が前方を指す。
だが、喉元らしき場所には、無数の触手を生やした異形が立ち塞がっていた。
「くっ……胃袋の中に番犬とはな」雷華が剣を抜く。
「遠距離組、援護は後方!怯ませたら近接組が突撃!」雷華が指示を飛ばす。
最初は乱れたが、迦楼羅スモモの冷静な指示が入ると、動きはすぐ整った。
鋭い一撃が触手を断ち切り、番犬は地に沈む。
安堵の息をついた瞬間──ズシャッ!
頭上から、灼ける粘液が滝のように降り注いだ。熱と重みで息が詰まる。
「大丈夫ですわ!」
粘液の中から、迦楼羅スモモが雷華に覆いかぶさる。
涼やかな声が耳元を撫で、不思議と鼓動が落ち着く。
「……スモモ?」雷華が息を荒げながら顔を上げる。
「触手の死体──覚えてますでしょう? 鋼灰さんの複製能力で増やしていただきましたの。それを、わたくしが召喚魔法を応用した転送魔法で胃袋に送り込みましてよ」
走りながらも、彼女は涼しい顔を崩さない。
「案の定、あの化け物は満腹になって眠ったのですわ。ですから──今が逃げる好機!」
その言葉に背中を押され、雷華は彼女の手を強く握り返す。
二人は粘液を蹴って駆けた。
やがて前方に光が見えた。
「……出口だ!」
胸に希望が灯った瞬間、雷華の足がふと止まる。
──背後から、肉の擦れる重い音。
巨大な影がぬるりと立ち上がっていた。
「もう起きたのだ……!」ミリルが舌打ちする。
白い鱗の間から蒸気が噴き、腹の底から低い唸りが響く。
その気配は、先ほどよりも数段重く、強い。
(……さっきより大きくなってる!?)
空気が熱を帯び、足が竦む。だが雷華は歯を食いしばる。
(私が止まれば、全員が──!)
後ろを振り返る余裕もなく、ひたすら前へ。
光が近づく──あと少し。
その時、足元が崩れた。
「きゃああああ!!」
重力に引きずり込まれる感覚。視界が暗転する寸前、力強い腕が雷華の身体を掴んだ。
「──よく耐えたな」
耳元に聞き慣れた低い声。
見上げると、そこにいたのは剣の師匠・紅茜だった。
彼女は雷華を抱きかかえたまま、崩れた階層の下から跳躍し、上階に着地する。
その視線の先──仲間たちが、宙に浮かんでいた。
「……これは?」
見れば、白阿魔王・乂阿門が重力魔法を操り、仲間たちを空中に浮かべ、瓦礫の外へと運んでいる最中だった。
全員が上階へと避難した瞬間、阿門と紅茜が雷華の前に立つ。
「無事か、雷華!?」
「怪我はないでござるな!」
「う、うん……大丈夫だ!」雷華は深く頭を下げた。
「二人とも……ごめんなさい、心配かけてしまって……」
「謝ることはないぞ!」
「そうだ、おぬしはよくやったでござる!」
二人は同時に雷華の肩を抱き寄せ、その健闘を讃えた。




