乂阿戦記5 第四章 鏨夕は誘拐された友達を助けたい-10 スサノオミカド
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
気づけば昼。近くのレストランに入り、席に着いた。
メニューをめくっていると——。
「おうおう、見つけたぜ遍葵。テンプル騎士団の犬がよ」
「この巣蔵安三様を騙して情報抜きやがって……事務所来いや。体で落とし前つけろや、ブヘヘヘ♡」
振り向けば、どう見てもガラの悪い連中が取り囲んでいた。
(うわ……声も顔も生理的に無理なタイプだな)
そう思ったが、下手に刺激すれば何をされるかわからない。
「はぁ……全く懲りない人たちですね。チンピラ風情に付き合う暇はありませんので、さっさと消えてくれませんかね?」
静かに告げた遍葵の声に、男たちの顔が一斉に真っ赤になる。
「なんだとコラァ! 舐めてんのか!」
次の瞬間、拳が飛んできた。
だが——。
ガッ。
雷音の左手が拳を受け止め、同時に右膝が鳩尾を打ち抜く。
空気を押し出す鈍い音と共に、男の体がくの字に折れた。
「ぐえっ!?」
そこからは早かった。顎へ掌底、さらに回し蹴りで床へ叩きつける。
その衝撃で椅子が二脚、無残に倒れた。
「げぼぉ!」
残る連中が殴りかかるが、雷音は一歩も引かず、流れるように反撃。
拳が顎を弾き、肘が脇腹を穿つたび、骨がきしむ感触が返ってくる。
倒れる音と悲鳴が続き、店内の空気は一変していた。
「……で、あんた」
雷音は倒れかけた巣蔵に視線を向ける。
「人間の皮かぶってるけど、中身は悪魔だろ? この前、俺の家に襲撃かけてきたスラッグラーってのと同じ匂いがする。……それも銀河連邦から脱獄したやつの匂いだ」
「て、てめぇ……!」
巣蔵の目が殺意に染まる。
刃物を抜き、「死ねやああああ!」と振り下ろすが——。
ギィン!
雷音の魔剣クトゥグァがナイフを迎え、火花と共に真っ二つに砕き落とした。
「馬鹿な……!」
狼狽する巣蔵に、雷音は冷たく笑う。
「俺、あんたらのやってる事ぜーんぶ知ってんだよ。だから大人しく捕まれよ。そしたら——命までは取らない」
返事は罵声と突撃だった。
雷音はため息をつき、構え直す。
(しょうがねぇな。教育してやるか)
次の瞬間、顎へ拳、鳩尾へ膝、そして回し蹴りで床に沈め、そのままマウントポジションの体制に入った。
巣蔵の息が詰まり、涎が飛び散る。
だが、その目はまだ死んでいない。
むしろ、底の方で暗い殺意が燃えていた——。
直感で雷音は、馬乗りの状態を解除しスラッグラーから飛びのいた。
それは正解だったようだ。
ジュウウ
甘く焦げる匂い。——そうだ、コイツは皮膚から溶解粘液を出す。
予感は的中したようだ。
スラッグラーの衣服が溶けている。
あのまま馬乗りのままだったら、俺も溶かされていたに違いない。
「ちぃ、外したかぁ……まあいい、次こそ仕留めてやるぜぇ……!」
そう言って再度突撃してくるスラッグラーに対し雷音もまた迎え撃つ姿勢をとったその時だった!
突然背後から声が聞こえてきたのだ!
「おや巣蔵?なにやってるんだい?」
「ひ!ス、スサノオさん!スサノオミカドさん!?」
振り返るとそこには3メートル近い巨体の男が立っていた。
筋骨隆々という言葉が相応しいほどの大男だ。
年齢は40代後半くらいだろうか?
顔は強面で、サングラスをかけており、髪は黒髪で角刈りにしていた。
年齢は四十代後半ほどか。
隆起した胸筋と六つに割れた腹筋、丸太のような腕。ボディービルダー顔負けの体躯が、ただ立っているだけで周囲の空気を押し潰す。
「上からお達しだ」
低く抑えた声が響く。
「聖教会とは話がついた。青の銀の鍵はもう遍葵の手には無い。俺たちが争う理由はない——手を引く」
雷音はわずかに息をついたが、巣蔵は納得しない。
「へ、へい……でもコイツ、極道者の俺を舐めやがったんですよ! ケジメつけねぇと面子が——」
「確かに面子は大事だ」ミカドはわずかに笑った。
「だが君、もっと周りを見た方がいい」
巣蔵は怪訝そうに周囲を見渡し、表情を凍らせた。
そこには、黒外套を纏った影の軍勢——数百の乂家兵団が音もなく陣を敷いていた。
顔は深くフードに隠れ、ただひたすらに剣呑な気配だけを放つ。
「……あ、ありゃ……いつの間に……」
唾を飲む巣蔵。
その瞬間、闇の中から一斉に魔法が放たれた。
「うわああああ!」
炸裂音と悲鳴。逃げ場を失い、仲間が次々と倒れていく。
「スサノオの兄貴ぃ!助けてくれ!」
だがミカドの姿はもうなかった。
雷音はテーブルの下に身を滑り込ませ、降り注ぐ魔力の雨をやり過ごす。
(くそ……何でこうなるんだよ!)
必死で隙を探す視界の先——暗がりから、よく知る声が響いた。
前方に人影が見えた。
「いよぉ〜〜、見つけたぜぇ……」
その声は、雷音の背筋を一瞬で凍らせた。
暗がりから姿を現したのは、漆黒の外套を翻す一人の女。
「……姉ちゃん」
「やっぱりそうだなぁ? いつぞや“私達一家を手籠にする”なんてほざいてたナメクジ野郎じゃねぇか」
低く、愉快そうに笑うその女は——世界最強の魔女、羅刹だった。
スラッグラーの顔色が変わる。
「げぇっ、乂羅刹……!」
「そうだよ〜。で、わざわざ私のいる地球に来るなんて……ほんっと馬鹿だなぁ」
羅刹の口元が吊り上がる。
「じゃあこうしようか。——脱獄犯が抵抗したから、やむを得ず殺しましたってことで、ね?」
言葉は柔らかいが、その眼差しは獲物を射抜く刃のようだった。
雷音はテーブルの下から這い出し、姉の背中を見つめた。
羅刹はゆっくりと杖を掲げ、周囲の魔力が唸りを上げて渦を巻く。
スラッグラーは一歩退くが、背後は羅刹が生成した黒髑髏の兵団に塞がれている。
「姉ちゃん、本気でやる気だ……」
雷音の呟きに、羅刹は肩越しに笑った。
「雷音、見てな。教育ってのは——一度で覚えさせるもんだ」
次の瞬間、空気が爆ぜた。




