乂阿戦記5 第三章 紫の邪神ロキは銀の鍵を巡り奔走する-7 ナイアの不覚
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
◇◆◇
数日後、とある静かな夜。
闇の帳が落ちる頃、今宵 鵺のもとにひとりの少女が現れた。
──乂 聖羅。
紫のリボンを揺らしながら、彼女はいつものように明るく無邪気に笑っていた。
「やあ鵺ちゃん。聞いたよ、ロキから銀の鍵をまんまとゲットしたんだってね。やっぱりやるなぁ!」
不思議と底の見えないその笑顔を前に、鵺は表情を変えずに答える。
「……用件は、それだけかしら?」
「ふふふ、それだけじゃないよ。今日は“プレゼント”を持ってきたのさ」
そう言って、聖羅はポーチから銀色に輝く三本の鍵を取り出した。
「雷華の〈赤〉、スモモの〈桜〉、ブリュンヒルデの〈紫〉──この三本、全部あげる」
思わず目を見開く鵺。
だがすぐに冷静を取り戻し、問いを返す。
「……なぜ、私に?」
聖羅は、ほんの少し寂しげな笑みを浮かべた。
「アテね、エクリプスの力のほとんどを失っちゃったんだ。もう未来視も、完全じゃない。
それに最近、どうしても……避けられない未来の影が消えなくてさ。嫌な予感がするの」
その言葉に、鵺の瞳が僅かに揺れる。
「……世界大戦、か」
「うん。いつか、きっと起きると思う。
だから、その前に。鵺ちゃんには“黒の魔女ルキユ”の力を取り戻してもらわなきゃ困るんだ」
彼女の声音には、幼さとは裏腹な決意が滲んでいた。
「……でも、もし怖いなら返してくれてもいいよ。銀の鍵を多く持つってことは、それだけリスクも背負うことになるから……」
そう言って視線を落とした彼女を見つめながら、鵺は静かに答えを出す。
「……いいえ。受け取るわ。これは“託された想い”よ。……それに、私自身の願いのためにも」
その場で、銀の鍵は四本へと集まった。
銀の鍵──世界を巡る戦いの火種。
いま、確かに“黒の魔女”の手に渡ったのだった。
7月1日(土) 午後8時30分――
とある高級ホテルの一室。
ガチャリ、と扉が開き、ひとりの男が入ってきた。
黒のサングラスに漆黒のスーツ。その背中には、抗いがたい威圧感が漂っていた。
名を──クロウ・アシュタロス。
魔界七大魔王の一柱にして、怠惰の王。
人知れず“掃除人”として暗躍する、銀の鍵戦争の黒幕のひとりである。
部屋の中にはすでに数名の人間がいた。
──マチハス・ソロモン。アルティメットワンの最右翼将軍にして、11人委員会の第一席。
──そして、闇王と呼ばれる第九席の男。
だが、今この場で最も異様な光景は──
部屋の奥で繰り広げられていた。
椅子に拘束された少女。
そしてその前で、口角を歪めた青年が立っていた。
──ナイア。
──そしてナルチーゾ。
「やれやれ、またこうして女神様にお仕置きとはね。ほんと僕って、罪深い男だよねぇ……」
ナルチーゾはそう言いながら、ナイアの服を引き裂き、ポケットから無理やり鍵を引き抜いていた。
その瞬間、ナイアの瞳に、涙がにじんだ。
「くっ……!」
歯を噛み締め、主から預かった大切な“鍵”を奪われた屈辱に、怒りと悔しさをにじませる。
それを見て、ナルチーゾは満足げに笑う。
「ははっ、いいねぇ、その顔。絶望って、最高のスパイスだよ──」
怒りのあまり顔を真っ赤に染める彼女を他所に、青年は自らの服を脱いでいく。
やがてゆっくりと顔を近づけてきたので思わず顔を背けた時だった。
だがナルチーゾは首筋にチクッとした痛みが走ったかと思うと意識が遠のいていくのを感じた。
(麻酔針!?)そう思った時には既に手遅れだったようで、そのまま意識を手放してしまったのだ。
「品性のない真似をするな。下等な淫魔め……」
ナルチーゾを針で麻痺のツボを押し眠らせたのはクロウだった。
その手には針のようなものが握られていた。
どうやらそれで彼を気絶させたらしい。
一方のナイアの方も、何事もなかったかのように振る舞っていたのだった。
だがその瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちており、悔しさを滲ませているようだった。
そんな様子を見かねたのか、クロウはやれやれといった様子でため息をついた後、口を開いた。
「……災難だったな無貌の神、だが銀の鍵争奪戦レースは既に始まっている。お前が大魔王アザトースより預かった白のジュエルウィッチの鍵は我々11人委員会がいただく。帰ってお前の主、大魔王アザトースにそう伝えろ」
その言葉にナイアは何も答えなかったが、代わりにナイチーゾが反応した。
どうやら自分に回復魔法をかけ、いち早く麻痺から回復したようだ。
「おい待てよ!誰だてめえは!?人の楽しみを邪魔しやがって!勝手なこと言ってんじゃねぇぞコラァ!!」
今にも飛びかかりそうな勢いの彼に対して、クロウは冷めた目を向けつつ淡々と告げる。
「黙れ駄犬、俺はお前とお喋りをするつもりはない。さっさと失せろ」
その態度にキレたナルチーゾが飛びかかる。
──その瞬間。
ズドンッッ!!
大地が砕けるような音とともに、クロウの足が前へと踏み出した。
その圧力だけで、ナルチーゾの動きが止まる。
「……な、んだ、この圧……!」
「魔界の王に無礼を働くな。貴様は、跪け」
バキィッ!!!
音を置き去りにした拳が、ナルチーゾの顔面を粉砕する。
「グボォッ!!」
吹き飛んだナルチーゾが壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちる。
「な、めんなぁぁぁ!!」
「俺は、レコキスタ様の、忠実なる──」
ゴシャアッ!!
次の瞬間、鳩尾に肘打ちが突き刺さる。
喉から胃液が吹き出し、ナルチーゾは再び崩れ落ちる。
「……黙れ。貴様のような下劣な輩が、女を汚そうなど万死に値する」
ドガァアアッ!!!
回し蹴りが側頭部に炸裂。
ナルチーゾは壁に激突して意識を失った。
クロウはただひとこと、吐き捨てた。
「──階層が違う」
静まり返る部屋。
その様子を見たクロウは再びため息をつくと、こう続けた。
「お前如きに俺を相手にできるとでも思っているのか?だとしたら随分と舐められたものだな?」
その様子を見ていたナイアルラトホテップは楽しげに笑い声をあげる。
「あはははは!ざまぁないね。色男!」
まるで喜劇でも見ているかのような態度であったが、内心では苛立ちを感じていたことだろう。
何故なら本来最上位邪神である自分が、ナルチーゾごとき下等淫魔に手も足もでないのは、このクロウなる魔王に怠惰の呪いをかけられ、力を封じられているせいだからだ!
怠惰の権能をもつ魔界7大魔王の1人クロウ・アシュタロス
恐るべき男だった。
11人委員会が持つ、オレンジと緑の銀の鍵を奪おうと、持ち前の変身能力で変身してソロモンに接近したナイアだったが、逆にクロウに正体を見破られ捕獲されてしまったのだ。
「さぁどうする無貌の神よ?おとなしく引き下がるなら命だけは助けてやるが?」
そう言いながら剣を突きつけてくるクロウを前に、彼女は降参するしかなかった。
ナイアは震えながらも、かすかに頷いた。
涙をこらえ、唇を噛み──
「必ず、取り返す……」
その言葉は誰にも聞こえなかったが、クロウの瞳だけがわずかに細められた。




