乂阿戦記5 第三章 紫の邪神ロキは銀の鍵を巡り奔走する-6 黒天の尋問と、時を越える祈り
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
――その場所は、まるで世界の底に穿たれた奈落だった。
重いまぶたを押し開け、カイトーは自分が鉄椅子に縛りつけられていることに気づく。
鈍い痛みと、冷たい金属の感触が現実を呼び戻す。
ぼやけた視界の中、同じく拘束されたロキとケンジュー・ハジキの姿が揺れていた。
「……あー……やっちまったか、これは」
ハジキが低く呻くように呟いた、その瞬間だった。
薄闇の中から足音が響く。
静かに、だが確実に、死神のように。
──その中央に立つのは、黒衣の軍人。将軍・アン・ジャムガ。
その隣には、漆黒の髪と氷の眼差しを持つ少女──今宵 鵺。
静かに佇む彼女の存在は、まるで時を止めたような冷ややかさと焦燥を孕んでいた。
(……鵺……あの子が、ここにいるのか)
カイトーは微かに眉を動かす。
彼女が何者で、何のために銀の鍵を求めているか──
鵺自身は語らない。だがカイトーは知っていた。
彼女がかつて“救えなかった少女”のために、時を超えて戦い続けていることを。
(ユキル……お前のことを、彼女は今も──)
だがそれを口に出すことはない。
鵺が語らないのなら、自分も語らない。
それが“怪盗の流儀”だった。
「まさかネズミ三匹が……よりにもよってお前らとはな。ロキ、カイトー、何をやっていやがった」
ジャムガの声には、抑えた怒気と呆れが交じっていた。
その横から葵 遍が言葉を被せる。
「まぁまぁジャムガ将軍、彼らも目的は私たちと同じ。クーデター派の動向を探ってたんでしょう?」
「チッ……面倒なことを……」
「尋問よ、尋問!拷問……じゃなかった!尋問所に連れて行きなさい!!」
「え?尋問?今拷問って言いかけたよね?本当は拷問する気じゃないの?拷問は今の世の中、国際法違反だよ?」
首をかしげるカイトーに葵遍が怒鳴る。
「うるさいですよ!ほら、お前ら、さっさとこいつらを拷問…じゃなかった!尋問所に連れて行きなさい!!」
そう言って彼女は部下に命令した。
「あぁ今拷問って言いかけた!絶対拷問って言いかけたああ!!」
こうしてカイトーたちは秘密組織アメンオサに連れられていくことになったのだ……。
重厚な扉が軋む音とともに開いた。
現れたのは……無手のまま居合の構えを取る、ジャムガだった。
剣はない。だが彼には、必要なかった。
「これより尋問を開始する。嘘をつけば……命はない」
その静かな言葉に、ハジキの指がピクリと動く。
だが拘束された腕では何もできない。
「ヤバいって……あの構え、居合・無手“黒天斬”だ。俺でも避けられる気がしねぇ……」
ロキが囁く声も震えていた。
だが──
「はいはい、わかりましたよ〜。正直に話しますってば」
カイトーだけが、いつもの調子で飄々と返す。
「我々の狙いは……この銀の鍵だぁ!」
そう言ってポケットから取り出したのは、
ロキの持ち物だったはずの銀の鍵。
「なっ……お前、俺の銀の鍵を盗みやがったな!? 泥棒か!? いや、泥棒だった!!」
「うっさい。後で返すって」
緊張と騒がしさが交差する中──
ジャムガは一瞬でその場の空気を切り裂いた。
ザンッ!!
空気を切り裂く音と共に、3人の体を刃が掠めた感触が走る。
だが、誰一人、傷を負っていない。
「今切ったのは……魔王アンドラスの爆弾だ。お前らの体に仕込まれていた奴な」
ジャムガは静かに言った。
その名に、ロキの顔が青ざめる。
「アイツか……! “暗殺魔王”……!」
どうやらロキにとっても、この事態は完全に想定外のようだ。
「実は、ついさっき部下から報告があってな。捕まえたクーデター派の武将たちが、全員いきなり爆発してオッチんじまったらしい。死体すら残らないほどにな。おかげで屍紫の死霊魔法も意味をなさない。被害者は皆、当人らが気づかないうちに魔法の爆弾を埋め込まれていたようだ。おそらくあの野郎の仕業だろう。11人委員会お抱えの爆弾スペシャリスト、魔王アンドラスのな」
それを聞いてロキは確信した。
手練である自分やカイトー、ボンドを出し抜く悪魔などそうそういるもんではない。
間違いない、あいつだ。
あの暗殺魔王だ!
あの底知れない不気味さを放つ男の姿が脳裏に浮かぶ。
「恐らくアンドラスは11人委員会上層部からクーデター派との繋がりが露見しそうならトカゲのしっぽ切りをしろとか言われてたんだろう。ちっ、長年張り込んでようやく捕まえたクーデター犯だったのによ……今までの捜査が無駄足に終わっちまったぜ!」
そんな彼の言葉を聞きつつ、ロキ達は愕然とすることしかできなかった。
まさかこんなことになるとは夢にも思わなかったからだ。
確かにここに来る前に嫌な予感はあったのだが、それがこんな形で的中してしまうとは思いもしなかったのである。
「くそったれめ……」
重く沈む空気。
誰もが言葉を失う中、カイトーだけが毒づいた。
その瞬間──
ジャムガの背後から、鵺が静かに歩み出る。
「……ロキ、カイトーさん。取引をしない?」
その声は、無感情を装っていた。だが言葉の端に滲む、かすかな震え。
あの瞳に宿っていたのは、冷徹ではなく──焦がれるほどの執念だった。
「あなたたちの持っている“銀の鍵”を、私たちに渡してほしい。
そうすれば──今回の件は不問にします。
それに……私たち、あなたたちの体に仕込まれていた爆弾を解除してあげたでしょう?」
──氷のような少女が、ほんの少しだけ心を覗かせた。
だがその瞳に宿るのは、ただの利益追求ではない。
(お前さんの目的は──今もあの娘を、救うことだ)
カイトーは知っていた。
だからこそ、心の奥底でため息をついた。
(……ったく。こちとら泥棒稼業だってのに……)
覚悟を決めたように、彼は鍵を差し出す。
「ああ、もう!……分かったよ!……渡す渡す!……渡しますよ!だから見逃してくれぇ……!」
カイトーもロキもそう言うしか無かったのである。
するとそれを聞いた鵺は満足げに頷きながらこう言った。
「ありがとう、感謝するわ。今度はこちらが約束を履行するわ。あなたたちの拘束を解きます。さあ早く行きなさい」
3人が去ったあと、その場に残されたアメンオサ達は呆然としていた。
拘束した相手をこんなにあっさり解放していいのかと言う顔である。
そんな中で最初に言葉を発したのはジャムガであった。
「あいつら、マジで渡しやがったな……まあ賢明ではあるか……カイトーの奴はてっきり俺に突っかかってくるとばかり思っていたんだがな……」
そう言って頭をかく仕草をするジャムガ
だが気を取り直ししたのか、彼もその場から立ち去っていった。
1人残った今宵鵺はしばらく思案していたがやがて決意を固めたように顔をあげると、自らもその場を後にしたのであった。
鵺の前から立ち去った後、カイトーはタバコを取り出す。
「……今度こそ、あの子を救えるといいな」
そう呟き、タバコの火をつけた。
紫煙の向こうに見えたのは、少女の背中──そして、救えなかった時間の亡霊だった。




