乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-1 囚われた仲間達
(^^) ブックマークをお願いいたします!
読みやすくなりますよ❤︎
第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎
――静寂。
音が消えた世界。
鉄扉の隙間から差し込む、わずかな光だけが「外」の存在を証明していた。
神羅――ユキルは、じっと息を潜めていた。
ここはドアダ基地の地下、冷たく狭い小部屋。
彼女たちはここに隠れ、仲間たちの安否に胸を痛めていた。
「……嘘でしょ? みんな、本当に……捕まっちゃったの……?」
その囁きには、明確な震えがあった。
「ユキル……いえ、神羅。わかってると思うけど、今ここで戦おうとなんて思わないで」
鵺が言葉を選びながらも、不安げに声をかける。
隣では白水晶が沈黙を貫き、ただ虚空を見つめていた。
「確かに、あの敵には今の私たちじゃ勝てない……。でも、このまま黙ってるだけなんて……!」
「それでも、焦って飛び出すのは愚かよ。相手は、雷音たちを倒した連中なんだから」
「……それでも信じてる。雷音が目を覚ませば、きっと何とかなるって……!」
神羅の言葉に、かすかに空気が震えた。
そのとき――
ガコンッ!!
無慈悲な金属音とともに、部屋の扉が開いた。
「……あの二人って、確か……」
「知ってるのか神羅?」
ミリルが声を潜めて尋ねる。
「うん。ドアダ七将軍の――スパルタクスと、もう一人はイブさん!」
「な、なんで幹部がここに……」
「まさか助けに……?」
「あるわけないでしょ、見れば分かるでしょ」
鵺のツッコミは容赦なかった。
と、そのとき基地内に警報が鳴り響いた。
「黄衣の使徒二人が逃げたぞォ!!追えッ!!」
「逃がすなッ!!ぶっ潰せぇぇッ!!」
どうやらオームとエドナは脱出に成功したらしい。
神羅たちは、胸を撫で下ろした。
「よかった……二人は逃げられた……」
しかし――背後から、静かに、だが確実に刺さるような声が届いた。
「お嬢様。申し上げにくいのですが……我らは最初から、ここにお隠れであることを存じております」
盲目の将軍・スパルタクス。
その声音には、皮肉でも威圧でもなく、どこか痛みすら宿していた。
「に、にゃ、にゃーお……」
……必死だった。とにかく必死だった。
神羅は反射的に猫のフリをしてみせた。
「……無駄です。盲目なれど、我が“心眼”は曇っておりませんので」
あっさり論破され、神羅はスパルタクスにヒョイと抱き上げられ、ベッドに下ろされた。
「きゃうっ!? ……ちょっと何するのよ!」
「おとなしく、お話をお聞きくださいませ」
観念した神羅が頷くと、彼は柔らかな口調で語り始めた。
「ドアダ首領ガープ様には、お嬢様の仲間を傷つける意図はありません。そこは、どうかご安心を」
「え……?」
意外すぎる言葉に、神羅の目が見開かれる。
「狗鬼漢児氏と狗鬼絵里洲さん。あのお二人はガープ様の孫、すなわちお嬢様と同じく――曾孫にあたります」
「えぇぇぇぇええっ!?!?!?!?!?!?」
叫びそうになった神羅の口を、横からイブが素早く塞いだ。
「ユキル様。少し静かにしてくだサイ。話が進みません」
「んーっ! ……ん、んんっ!」
黙って頷くと、スパルタクスは続けた。
「雷音殿やオーム殿たちは、我々と敵対する勢力に属する者たち。よって、政治的交渉の材料として軟禁中にございます」
「なんで私の扱いだけ違うのよっ!?」
「それは……私には分かりかねます。ただ、ガープ様の命に従っているだけでございます」
彼の目は、まっすぐに神羅を見据えていた。偽りのない誠実な視線で。
「ここにお残りになるのも自由。ただし、ここにいるイブの指示には従っていただきます」
「……お願い、なんですね?」
「はい。命令ではありません。お願いです」
深々と頭を下げ、スパルタクスは去っていった。
──そして数刻後。
スパルタクスが再び現れ、神羅に言った。
「お待たせいたしました。首領がお待ちです。どうぞ、こちらへ」
彼に連れられた先は、先ほどとはまるで違う空間だった。
煌びやかな大理石の廊下を抜け、神殿のような重厚な扉の奥――
そこにいたのは、黒紫の装束に身を包んだ老人。
深く刻まれた皺の奥に、哀しみと誇りの宿る眼差しがあった。
「ユ、ユキルや……」
その声に、神羅の胸が跳ねた。
次の瞬間、彼女は弾かれたように駆け寄って――
「おじいちゃん!」
――抱きついた。
(この背中。この匂い。このぬくもり……)
(間違いない、私の……大好きなおじいちゃんだ)
「すまなかった……すまなかったのう、ユキル……
ワシが……ワシがもっと早く……しっかりしておれば……」
震える声で、少女の髪を撫でながら、老人は涙を流していた。
その姿に、神羅もまた、涙をこらえきれなかった。
「違うよ。……おじいちゃんが、ずっと守ってくれてたこと……分かってたよ」
言葉では言い尽くせない想いが、交錯していた。
しばらく、二人は言葉もなく、ただ抱き合っていた。
──やがて、落ち着いたところで。
「さて、紹介しておこうかの。もう顔見知りかもしれんがな……」
ガープが目配せした先にいたのは、黒髪の少年。
「龍獅鳳じゃ。我が孫。ナイトホテップ――サタンの子供じゃ」
「……………………えぇぇぇぇえええええッ!?!?!?!?」
再び天を衝くような神羅の絶叫が鳴り響いた――。
「ははっ。びっくりだよね。俺も最初は混乱してさ……もう最近、驚きっぱなしで笑うしかないんだ」
笑いながらも、どこか寂しげな表情を浮かべる龍獅鳳。
三人はささやかながら食卓を囲み、久々の家族の時間を過ごした。
──だが、それも束の間。
「ユキルよ。少し落ち着いたところで話しておこう」
ガープの声が低く、重く、響いた。
「この世界が今、どうなっておるか――
そして、お前が“何者”なのかということを、な」
終わらない戦乱。繰り返す運命。
そのすべての“原点”が、ここから語られる――。
https://www.facebook.com/reel/882319757016799/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール動画




