乂阿戦記5 第三章 紫の邪神ロキは銀の鍵を巡り奔走する-3 レッドの選択
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
──翌朝。
朝靄がまだ街を覆う通学路。
紅烈人は学園へ向かう途中、前方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
(あれは……昨日の女、ミスティル・クロケル……?)
ジキルハイド財団の若きCEO。バー《蛇の巣》で銀の鍵の引き渡しを求めてきた相手だ。
なぜ、こんな早朝に学園通りに……?
訝しむレッドに気づいたのか、ミスティルが手を振ってきた。
「おはよう、レッド君。偶然だね。こんなところでまた会えるなんて」
わざとらしい笑み。だが、レッドは軽く頷いて返す。
「……ああ、おはよう。天気がいいな」
そのとき、後ろから声が飛んだ。
「よう、レッド……」
「……ロキ……!」
そう、声の主は――露木ロキ。
かつては学園でも悪名高き問題児だったが、今は……誰よりも深い闇と戦っている男だった。
「すまん。少しだけ、時間をくれないか。君に、話したいことがある」
突然の頼みにレッドは戸惑ったが、ロキの眼差しがあまりにも真剣だったため、静かに頷く。
「わかった。……場所を移そう」
──しばらくの沈黙のあと、三人が辿り着いたのは人気のない空き地だった。
蝉の鳴き声すら遠い、静寂の中。
ロキが切り出す。
「……単刀直入に言う。ニカちゃんが持っている“銀の鍵”を……俺たちに預けてほしい」
レッドの顔が凍りつく。
「……理由を聞こうか」
ロキは深く息を吐き、決意したように語り出した。
「お前の家族に危険が迫っている。……11人委員会が、“銀の鍵”を持つジュエルウィッチを狙って動き出してる」
「……11人委員会?」
「そう。奴らは《三聖塔》を掌握し、全宇宙の理を書き換えようとしている。
そのためには、“銀の鍵”が十二本、どうしても必要なんだ」
レッドは言葉を挟まず、黙って聞き入った。
「実際、ニカちゃんも狙われた。俺が《真フェンリル》と《真ヨルムンガンド》を警護に付けてたから無事だったけど……次はどうなるかわからねえ。
だから、鍵だけでも安全な場所に保管したい。それが、お前の家族を守る最善の手段だと……俺は、そう思ってる」
レッドは様々な考えが頭を巡る中で一つの結論に至った。
それは……
「断ると言ったらどうするんだ?」
ロキはしばし黙り、拳を握ったまま空を見上げた。
その唇が震えた次の瞬間、
一呼吸、置いて。
ロキは両手を付いてレッドに頭を下げた。
「頼む……!」
「……バカ野郎!」
レッドは思わず声を荒げた。
「お前ほどの男が、いきなり頭を下げるな! そんな姿……見たくなかった!」
だが、ロキの瞳は真剣だった。
「もうなりふり構ってられねぇんだよ……!このまま引き下がったら一生後悔することになるだろうし、それにお前にはこざかしい二枚舌は使いたくないからな!! 俺は、イサカちゃんの“魂”を守りたい。それだけなんだ……!」
「……イサカ、だと?」
レッドの目が細められる。
「……やっぱり、そうか。ニカの中に宿る“黄緑のジュエルウィッチハート”……それと、イサカさんは関係があるのか?」
ロキは一瞬、息を詰まらせたが――やがて、真実を語り出す。
「イサカちゃんの魂は、いわば“悪霊”のような存在だ。怨敵であるマクンブドゥバが死んだいま、とっくに成仏していてもおかしくない。
だけど、彼女はまだこの現世に留まり続けている。なぜか……それは、ニカの中に眠る《クリームヒルト》さんのせいだ」
「クリームヒルト義母さんの……?」
「イサカちゃんとクリームヒルトさんは、“お互いが成仏できないように縛り合ってる”。
クリームヒルトさんは、現世で活動するために、イサカちゃんの身体を必要としてる。
一方で、イサカちゃんも、“ニカちゃん達のお母さんであり続ける”ために、この世から離れられないんだ」
レッドは無言で聞き入る。
「もし11人委員会が、ニカのジュエルウィッチハートに“細工”を施せば……その均衡は壊れ、2人の魂はともに消えるかもしれない。
俺はそれだけは、絶対に許せないんだ。……頼む、レッド!」
──沈黙。
しばらくして、レッドは口を開いた。
「……お前が“本気”になる時ってのは……世界征服でも理想でもなく、いつだって“惚れた女”のためだよな」
ロキが苦笑した。
「……ばれたかよ」
「わかったよ。家族と相談する時間が欲しい。それだけだ」
そう言って、レッドは踵を返そうとした――そのとき。
「レッド君」
ミスティルが前へと出てきた。
「銀の鍵を私たちに預けてくれれば、君の探す《ゴドー・ハーケン》の居場所……提供できる。
そのことも、忘れないでほしい」
レッドは振り返らず、ただ一言だけ返した。
「……それも含めて、慎重に考えるさ」
──空は、もうすぐ朝焼けに染まる。
レッドの心にも、決断の時が近づいていた。
(妹を守るか、師父の仇を追うか……)
拳を握りしめながら、彼は歩き出した。
――その背中は、確かに何かを決意していた。




