乂阿戦記5 第三章 紫の邪神ロキは銀の鍵を巡り奔走する-1 カイトーランマと魔王ミスティル
作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
第三章- 紫の邪神ロキは銀の鍵を巡り奔走する
夜の街に溶け込むように、ひっそりと佇む一軒のバーがある。
ネオンが瞬く歓楽街の喧騒から外れた、路地裏の小さな店。
――“蛇の巣”。
外見こそ目立たないが、知る人ぞ知る裏社会の隠れ家。
魔法、怪物、泥棒、スパイ──ありとあらゆる異能者たちが、情報と酒を求めて集まる場所だった。
その夜、カウンター席にひとりの女が座っていた。
長く波打つ黄緑髪。切れ長の双眸。
グラスを傾ける所作に、場数を踏んだ女の余裕が滲む。
名前は──暮森レヴェナ。
名うての大盗賊集団〈カイトーランマ・ファミリー〉の一員。
この“蛇の巣”の常連であり、今宵もまた、情報を仕入れるために足を運んでいた。
「……ふふ、相変わらず渋い店ね。ここの酒と煙草の匂い、落ち着くわ」
レヴェナは細い指先でグラスを回しながら、店主と小声で会話を交わしていた。
話題はもちろん、数日前に起きた“あの件”について――
だが、その真相を語るには、少しだけ時間を巻き戻す必要がある。
***********
数時間前。とある安宿の一室にて。
今日の仕事を終えたカイトーは、シャワーを浴びてベッドに寝転び、安酒片手に一息ついていた。
「ふぃ〜……今日はそこそこ稼げたなぁ。明日は久々にのんびり――」
そのとき、不意に通信端末が鳴り響いた。
〈ピピッ〉
ビデオ通話の着信。
画面に表示された発信者名を見て、思わずカイトーは噴き出しそうになる。
「……はあぁあ!? ジキルハイド財団のCEO、ミスティル様!?」
思わず素っ頓狂な声を上げながら、慌ててベッドから飛び起き、端末を手に取った。
通信ボタンを押すと、画面に映し出されたのは――
知的で整った顔立ちに、透き通るような白い肌。艶やかな水銀髪を結い上げた美女だった。
(うおおぉぉぉ……美人すぎる……!!)
画面越しとはいえ、その完璧すぎる容姿に、カイトーは思わず見惚れてしまう。
だが、相手は天下の大企業のトップだ。ボサボサ頭にTシャツ姿のまま、ぼんやり見惚れている場合ではない。
「……ど、どうも。どちら様でしたっけ?」
『お初にお目にかかります、カイトーさん。私、ジキルハイド財団のCEO、ミスティルと申します』
「ひゃ、ひゃいっ!? ど、どうもですっ!」
しどろもどろに挨拶を返すカイトー。
だがミスティルは穏やかな微笑みを浮かべ、核心へと切り込んでくる。
『突然のご連絡、申し訳ありません。今日はお願いがあって……』
「お、お願い?」
『はい。ぜひあなたに……うちの組織へ入っていただきたいのです』
「…………」
沈黙。
一瞬、時が止まったように、カイトーは硬直した。
「…………はい?」
耳を疑った。
あの大企業から、俺に“スカウト”? なんで俺なんかが?
「……悪いな、社長さん。そいつは無理だ。俺は誰の下にもつかねぇって決めてんだ」
即答で断るカイトー。だが、ミスティルはあきらめず食い下がってくる。
『せめて、話だけでも聞いてもらえませんか? あなたにしか頼めないことなんです』
その声に、ただのビジネスではない、何か切実な気配を感じた。
(……面倒ごとの匂いがプンプンするな)
そう思いながらも、カイトーは話を聞く姿勢を取る。
するとミスティルは、驚くべき情報を告げた。
すると衝撃的な事実を聞かされることになった……。
「………アルテミス女学園のかなり数の生徒がナルチーゾの奴隷に変えられてる?」
そんな馬鹿なことがあるのか!?
いや実際問題として起こっているんだから認めるしかないけどさ……。
それにインキュバス・ナルチーゾの悪行は俺も良く耳にする。
あの淫魔は狙った女に目をつけるとすぐさま手籠めにしてサキュバスに改造し、自らの欲望を満たすためだけに利用する最低最悪のクズ野郎なのだ。
サキュバスに変えた少女を自らの“玩具”として弄ぶだけでなく、他者の手に委ね、羞恥と屈辱の中で悦びを深めるという歪んだ性癖の持ち主――それが、ナルチーゾだった。
……許せねえぜ全くよぉ……。
「ところで一つ聞きたいけどいいかい?」
「ああいいぞ、何でも聞いてくれ♪」
「アルテミス学園はあのセオスアポロのお膝元だ。チンピラ淫魔ごときがイキって手出しできる場所じゃねぇはずだろ??」
俺がそう言うと彼女は少し考える素振りを見せてからこう答えた。
「……どうもね。11人委員会第6席Dr.レコキスタが奴のバックについてるみたいなんだ。今レコキスタの腕利きの部下がナルチーゾを護衛している。恐らくだけどヤツこそが今回の黒幕だろうね……目的もおよそ察しがつく。多分ナルチーゾの奴隷を使って、ジュエルウィッチ達中にある『銀の鍵』のデータを取り出し、奴隷達に移植させようとしてるんだろう」
……おいおいマジかよそれまずいんじゃねぇか……?
事が明るみになったら、オリンポスと11人委員会との間で戦争が起こるぞ!?
セオスアポロもあいつの親父に負けず劣らずの武闘派だからな……。
(こりゃ本格的にヤバくなってきたな)そう思った瞬間だった。
緊迫した空気の中、突然カイトーのスマホが震えた。
再びの着信。差出人の名を見た瞬間、彼は目を見開く。
「……レヴェナ!?」
それは、あの《蛇の巣》にいる情報屋――暮森レヴェナからの直電だった。
ミスティルとの通話を一旦切り、すぐに着信に応じる。
「もしもし、どうしたレヴェナ? こんな時間に……」
だが返ってきた彼女の声は、いつもの妖艶さとはまるで違っていた。
『カイトー……まずいことになったわ。Dr.レコキスタが動き始めてる。あのナメクジ野郎、手を広げすぎてるわよ』
「……詳細をくれ」
『スラッグラーって傭兵ブローカー、知ってるでしょ? あれが今、世界各地の凄腕殺し屋をスカウトして回ってる。特に……“あの男”を仲間に引き込もうとしてるって情報が入ったのよ』
「まさか……ゴドー・ハーケンか!?」
『ビンゴ。依頼成功率、驚異の100%。世界最強のプロ暗殺者。しかも今はフリーで動いてる。資金を積まれたら、誰の命だって取るわよ』
カイトーの背筋がゾクリと冷えた。
ゴドー・ハーケン――伝説の暗殺者。
一度“ターゲット”と定めた獲物は、どれほど強かろうが逃げられない。噂では、オリンポスの上級神ですら狙われたときは息を潜めたという。
「チッ……レコキスタ、マジで戦争起こす気かよ……!」
オリンポス最強の戦神、セオスアポロ。あいつを敵に回して無事でいられるわけがない。
けれど――もし、あの太陽神が“殺される”なんてことが起これば……?
世界は崩壊の一歩手前に陥る。
(これは……小細工じゃ済まねえな)
カイトーの表情が鋭くなる。次の一手を探ろうとした、そのとき――
ふと、ある疑問が頭をよぎった。
「……なあ、ミスティル。さっきの話だけどさ」
『ん?』
「どうしてあんた、ナルチーゾがアルテミス学園の生徒たちを奴隷化してるって情報を掴めたんだ? あいつのサキュバスどもは、見た目は普通の人間と変わらねぇ。普通なら気づけないはずだろ?」
それに対し、ミスティルは静かに答えた。
『ロキ・ローゲが教えてくれたのよ』
「……ロキ、だと?」
カイトーの眉がぴくりと跳ねた。
ロキ・ローゲ。北欧神話に名を残す、混沌の神。いたずら好きで、嘘つきで、掴みどころのない存在。
『ちょうど、俺たちジキルハイド財団では“サキュバス化治療薬”の研究をしていた。けれど技術的な壁にぶつかっていて……。そこにロキが現れて、こう言った』
ミスティルの声に、どこか皮肉めいた苦笑が混じる。
『「サキュバス化の専門家――ナルチーゾの秘密を暴けば、研究は飛躍的に進む。だから手を貸してやろう」とね。奴が持ち込んだ情報が、今の状況のすべての始まりだった』
「……ロキのやつ、また“遊び”を始めやがったな」
ロキが何を思って動いたかは分からない。だが、少なくともこの一件――いや、“銀の鍵”を巡る戦争の背後には、彼の思惑が絡んでいるのは間違いない。
たしかアイツがいるナイン族の領土でも市民が無理矢理サキュバスに改造される事件が増えてるって話だしな……
「ところでさっきから気になってたんだけどさ、そこにいる女の子達は何者なんだい??」
『……実はね。ロキが、“ある少女たち”を私のもとに連れてきたんだ』
「……少女たち?」
ミスティルが手招くと、画面の向こうに三人の少女が現れた。
一人は柔らかな橙色の巻き髪を揺らす、気品あふれる少女。
一人は涼やかな水色の瞳とロングストレートが印象的な、落ち着いた佇まいの美少女。
そしてもう一人は、どこかお嬢様風の口調ながら、眼差しに芯の強さを秘めたゴスロリ風の少女。
『彼女たちも――“被害者”だそうだ』
ミスティルの言葉に、カイトーの目が鋭くなる。
「……つまり、あのクソ淫魔にサキュバス化されたってわけか」
少女たちは、一様にうなずいた。
橙色の少女が、おずおずと前に出る。
「は、初めまして……オレンジアと申します。ドアーダ魔法学園の生徒で、つい最近……“連れ去られて”、その……その……」
彼女の手が震える。
ミスティルがそっと肩を抱いて支えると、代わりに水色の少女が前に出た。
「私はライトブルー。オレンジアを助けようとして、一緒に捕まった。気づいたら……身体が変わってて……もう、魔力の流れが人間じゃなかったの」
「マジ・エンダですわっ!」
三人目の少女が、ふんぞり返って名乗った。
「……わたくし、絶対にあのナルチーゾなる外道を許しませんわ! サキュバスにされた時の記憶、ぜんぶ覚えてますのよ! しかも、私たちの“銀の鍵の因子”を調べようとしたですって!? ふ・ざ・け・る・な!」
(ふむ……見た目も性格もバラバラ。だが、芯は強い……)
カイトーは、三人をじっと見つめた。
「……ようし、決めた」
『えっ?』
「こいつら、しばらく俺のアジトで預かる。どうせレコキスタの犬どもが狙ってくるだろう。だったら、俺が守ってやるさ」
『ほんとに……?』
「別に可愛い子たちに囲まれたいとか、そんなんじゃねーからな!? これは戦略的保護だ! 必要だから保護するだけで――ああもういいから黙って聞け!!」
三人の少女たちは、小さく笑った。
『ありがとう、カイトーさん』
「礼はいい。それよりも……戦いの準備を進めようぜ」
カイトーの視線は、再び画面の向こうのミスティルへと向けられる。
「銀の鍵を巡る戦い……どうやら、想像以上に根が深そうだな」
『ああ。奴らは“封印”をこじ開けようとしている。今はまだ序章にすぎない。けれど――』
ミスティルの声が低くなる。
『もし奴らが“鍵”のデータを解析し、複製して他者に移植することに成功したら……世界の均衡は崩れるわ』
「……なるほど。じゃあオレの役目は決まってるな」
にやり、と笑うカイトー。
「鍵を盗むのが怪盗ってもんさ。たとえ、それが――神々の秘密であってもな」




