乂阿戦記5 第一章 赤の勇者雷音はミリルと婚約解消したくない-4 雷音はレスナス・ゼロゼギルトと会う
はじめまして!作者のGoldjごーるどじぇいです!
この物語は、
勇者✖魔法少女✖スーパーロボット✖邪神✖学園✖ヒーロー✖ギャグ✖バトル…
とにかく全部乗せの異世界ファンタジー!
「あれ?これ熱くない?」「このキャラ好きかも?」「展開読めない!」
となってくれたら最高です。
良ければブックマークして、追っかけてくださいね (o_ _)o
アルテミス女学園の生徒会長からの提案を聞いたアキンドたちは、目を輝かせて歓声を上げていた。
「やったー!アルテミス女学園の子たちと一緒に行動できるのか!」
「麗しの令嬢たちと親睦を深められるなんて……くぅ、青春ってやつだな!」
浮かれる仲間たちの様子を、雷音は苦笑しながら見つめていた。
(……こいつら、ほんと呑気だなあ)
心の中でそう思いながらも、今は気を散らしている場合ではないと頭を振る。
ジュエルウィッチたちを巡る状況は、刻一刻と危機に向かって動いているのだから。
打ち合わせが一通り終わり、参加メンバーが次々と帰路につく中──
雷音は帰り際、鉄玄に呼び止められた。
「乂雷音様、少しだけお時間をいただけますか」
「あ、うん。なにかあった?」
「実は……私は11人委員会第四席、レスナス・ゼロゼギルト様の側近の一人です」
「えっ……?」
思わず雷音の目が見開かれる。
鉄玄は真剣な表情のまま、続けた。
「我が主は、今回の件に関し覇王・乂阿烈閣下と協力体制を築くことを強く望んでおられます。そして……貴方様にお願いがございます」
「お願い……?」
「はい。アルテミス女学園の生徒を付け狙う一部の勢力の背後に、委員会第六席・レコキスタ博士の影があると見ています。どうか──兄君、乂阿烈様にその旨をお伝えいただけないでしょうか?」
その申し出に、雷音は一瞬驚いたが……それ以上に嬉しかった。
(……美女に頼られて、悪い気がする男なんていないよな)
「わかった、俺が何とかしてみるよ!」
雷音は、脊髄反射で快諾していた。
鉄玄はほっとしたように微笑み、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。乂雷音様……心より感謝いたします」
翌日、雷音は早速レスナスに会うため、学校近くのスイーツ店「ティンカーベル」へと足を運んでいた。
幸い、今日は土曜日。午後の授業もないため、時間はいくらでも取れる。
このティンカーベルは、雷音が最近親しくなったティンク・ヴェルの実家で、今回は特別に個室を貸し切らせてもらっていた。
「……誰にも邪魔されずに話せるなら、ここしかないと思ってな」
個室にいるのは、今のところ雷音ひとり。
扉の外では、すでにレスナスのボディーガードたちが到着しているらしく、ぴりりとした緊張感が漂っている。
(兄貴……阿烈兄ちゃんは仕事で少し遅れるって言ってたし……つまり、しばらくは俺とレスナスさんの二人きりってことか……)
正直、めちゃくちゃ緊張する。
なにせ相手は、世界中の有力者たちが注目する「十一人委員会」の一角──
新聞王レスナス・ゼロゼギルト。その若きオーナーであり、伝説的ジャーナリストでもある男なのだ。
(普通の学生が接待していい相手じゃねぇよな……)
とはいえ、ティンクのおかげで完璧な場所を用意できたのは本当にありがたい。
と、そんなことを考えていると──
「やあ、待たせたね。私がレスナス・ゼロゼギルトだよ」
低く、心地よい声と共に扉が開いた。
入ってきたのは、金髪の短髪を整えた上品な青年だった。
年齢は二十代後半ほどだろうか。見た目は穏やかな印象だが、どこか“只者ではない”雰囲気がある。
(……あれでたぶん、かなり強い)
直感的にそう思った。戦いの場数を踏んだ者特有の空気。柔らかい口調の裏に、鋼のような意志が宿っている。
「は、初めまして。乂家三男、乂雷音と申します。本日はご足労いただき、誠にありがとうございます」
緊張しつつも、雷音は深々と礼をした。
レスナスは口元に微笑を浮かべ、柔らかく返す。
「いやいや、礼には及ばないよ。私も君に会ってみたかったんだ」
そしてふと、目を細めて付け加えた。
「……君、礼儀正しいんだね。噂では、かなりの乱暴者だと聞いていたけれど?」
「うっ……!」
雷音の顔が引きつった。
(やっぱり、そういう噂広まってたか……!)
かつての武闘派イメージが、いまだに消えきらないのだろう。
とはいえ、今さら否定しても始まらない。雷音は苦笑しながら肩をすくめた。
「……まあ、よく言われます。でも最近は……それなりに反省してるつもりなんですよ」
レスナスもまた、同じように苦笑を返した。
「ははっ。そうか、安心したよ。さて──そろそろ本題に入ろうか」
雷音は小さく頷くと、真剣な表情で腰を据える。
いよいよ、レスナスが“雷音に直接会いたかった理由”が語られることになる──。
レスナスは紅茶に口をつけ、落ち着いた口調で語りはじめた。
「君にお願いがあるんだ、雷音君。単刀直入に言おう──我々十一人委員会と、乂族に協力してほしい」
雷音は驚きに目を丸くした。
「協力……ですか? それって、俺にですか?」
「君を通じて、乂阿烈閣下に連絡を取りたい。実は……地球に存在する古代遺跡“三聖塔”に関わる件で、重要な事実が判明したんだ」
雷音は姿勢を正した。話のトーンが、明らかにただ事ではなかったからだ。
レスナスの声は、低く慎重に続いた。
「我々は今、エクリプスが地球にかけた“要石の世界法則”──地球が滅べば宇宙のあらゆる惑星が滅ぶと言う恐るべき呪い。この世界を歪め、封印している大規模な魔法体系の解除を目指している」
「要石……?」
「その法則を解除するには、三聖塔の扉を開かなければならない。だが、その鍵は君たちの身近にある。ジュエルウィッチたちが体内に宿す“ジュエルウィッチハート”……そこに、“銀の鍵”のデータが封じられているんだ」
「銀の鍵……」
聞いたことのあるような、ないような──雷音の脳裏に、かつての断片的な記憶がよぎる。
レスナスは言葉を続けた。
「先日、私は覇王・乂阿烈閣下と交渉の場を設けた。そして、ジュエルウィッチハートに関する一部のデータを譲り受けたんだ」
「兄貴が……?」
「もちろん、それと引き換えに、我々委員会はジュエルウィッチ達に一切関与しないという取り決めを交わした。阿烈閣下の威光の前に、委員会の中枢もこの約定には従うと決定した」
「……でも、それが破られようとしてるんですね?」
レスナスは頷いた。表情に微かな怒りが滲む。
「第六席・レコキスタ博士が、独断で動いている。彼は阿烈閣下の恐ろしさを理解してはいるが……間接的な方法で“銀の鍵”の情報を引き出そうとしている」
「つまり……ジュエルウィッチたちには手を出さない代わりに、他の手段で“鍵”のデータを奪おうとしてるってことか」
「その通り。現在、アルテミス女学園の一部の生徒が、レコキスタによって洗脳、あるいは操られている可能性がある。我々はそれを危惧しているのだ」
雷音は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
確かに、ここ最近身の回りで妙な事件が多発していた。
ルシルが襲撃されかけた件をはじめ、魔法少女たちに関する不可解な出来事……それがすべて、繋がっていたのか。
「雷音君──君の身近にいる少女たち、たとえば雷華ちゃんやアテナちゃん、アリスちゃん、ブリュンヒルデさん……彼女たちは皆、“ジュエルウィッチハート”の所持者なんだ」
「なっ……!」
雷音は息を呑んだ。
(マジかよ……!? いや、ネロや白水晶さんがそうだってのは知ってたけど、雷華まで!?)
「彼女たちの多くは、まだ自覚していない。だが、もし“銀の鍵”のデータが抜き取られれば、世界規模の崩壊を招きかねない」
レスナスの声は真剣そのものだった。
「だからこそ、乂阿烈閣下と再度連携し、レコキスタの暴走を止めなければならない。そして──セオスアポロにも根回しをする必要がある」
「セオスアポロ……アルテミス女学園の理事長か」
雷音は思わずうなった。
(なるほど、話が一気にでかくなってきた……!)
そのときだった──
部屋の扉が、ギィ……と軋む音とともに開かれた。
「グルァーッア”ッア”ッア”ッア”ッア”……なるほどな……」
響き渡る低く威圧的な笑い声とともに、部屋の空気が一変した。
ギィ……と音を立てて扉が開き、その場に入ってきたのは、まるで戦場からそのまま歩いてきたような巨躯の男。
堂々たる体格、獣のごとき眼光、圧倒的な威圧感──
それは世界最強の武人にして、“灰燼の覇王”と称される男、乂阿烈その人だった。
雷音とレスナスは、思わずビクッと肩をすくめた。
(で、出た……阿烈兄ちゃん、相変わらず鬼のオーラ……!)
阿烈は鋭い視線をレスナスに向けながら、ズカズカとテーブルへ近づいてくる。
「直接ジュエルウィッチハートを狙えば、ワシに潰される……。だからこそ、あの浅知恵のレコキスタは、洗脳した魔法少女達を使って間接的に“銀の鍵”の記録を抜き出そうとしておるわけか……」
そう言って顎に手を当てると、彼はふんと鼻を鳴らした。
「レスナスよ、貴公がここまで丁寧に話を持ってきた理由──それは“あの男”を恐れてのことだな?」
「……はい、閣下」
レスナスは真剣な面持ちで応える。
「私は、無用な戦を避けたい。特に──アルテミス女学園の理事長であるセオスアポロを敵に回すことは、委員会にとって大きなリスクです」
阿烈は椅子にドスンと腰を下ろすと、豪快に腕を組んだ。
「まったく……あの傲岸不遜、唯我独尊、傍若無人、好戦的かつ残忍な太陽神め……」
(おいおい、悪口のオンパレードじゃねーか……)
雷音は内心でツッコミながらも、黙って聞いていた。
「だがな、レスナスよ。あ奴はただの破壊者ではない。どれほど我欲に忠実で周囲に害を及ぼそうと……“自分に堂々と物申す者”には、妙に気を許す癖がある」
レスナスは驚いたように目を見開いた。
「それは……」
「貴公が自らの言葉で、真正面からセオスアポロと交渉すれば……奴は、案外聞く耳を持つ。逆に、自尊心を逆撫でしたり、上から物を言えば……その場で地球ごと焼き払うだろうな」
「……なんと……」
雷音は震えた。
(いやマジかよ……地球ごとって……)
だが、阿烈は立ち上がり、拳を掲げるように高々と腕を上げた。
「よかろう! 貴公の覚悟、見届けたぞ! ワシがセオスアポロと貴公を引き合わせてやる! このワシが“仲介”の橋をかけてやろう!」
「か、閣下……!」
レスナスは思わず立ち上がり、深々と頭を下げた。
阿烈はそれを見て、豪快に笑った。
「グルァーッア”ッア”ッア”ッア”ッア”ッ! 礼などいらんわ! ワシが気に入ったのは、貴様のその真っ直ぐさよ!」
雷音はふと、微笑を浮かべた。
(……あ、やっぱ兄ちゃん、レスナスさんのこと気に入ってるわ)
乂阿烈には、一つだけ分かりやすい癖がある。
──気に入った相手には、とことん甘い。




