乂阿戦記4 終章 黙示録の赤い竜と滅びの歌 -25 憤怒の魔王戦艦
「おのれ!おのれーー!!」
憤怒の魔王ルキフグスが絶叫する。
「よくも我が主をーー!!」
怒りに満ちた咆哮の中にも、確かに混じっていた。
──怯え。
──敗北の予感。
(まさかこれほどとは……!)
戦況はすでに逆転していた。
“剣の風神”織音主水が戦場を駆け、“覇王”阿烈が敵陣を蹂躙し、勇者たちは次々と仲間を救出している。
ルキフグスのAI思考回路ですら、彼らの怒りと意志に恐怖を覚えずにはいられなかった。
だが、彼は諦めない。
なぜなら──
ルシル・エンジェルこそ、大魔王ルシフェルの転生の器。
かつてのリュエル、ヴァルシアをも凌駕する、最も“真ルシフェル”に近づける少女なのだ。
「諦めない……諦めるものか……! 我が麗しの聖処女を……返せええええ!!!」
絶叫とともに、ルキフグスは自らの首を、
その白く長い指で──
“ねじ切った”。
──グチュ、メリメリメリ……ッ!!
生首が落ちる。
だがそれで終わりではなかった。
首が転がった床に、ぬるりと黒い瘴気が滲み出す。
次の瞬間、床材が蠢き、金属が肉へと変質していく。
その変化はまるで、戦艦そのものが「内臓と筋肉を得ていく」かのようだった。
「な、なんだ……これは……!」
騒然となる現場。
艦内放送が鳴り響く。
「──やばい!ルキフグスの爺さん、自分と戦艦リヴァイアサンを融合させようとしてやがる!」
カイトーランマの声だった。
「お前ら急げ!アルゴー号に撤退しろ!もうすぐ戦艦リヴァイアサンは“ルキフグスそのもの”になる!!あの化け物になったら……もう手がつけられねえぞ!!」
「うわあああああーーー!!」
絶叫と共に、全員が一斉に走り出す!
プレラーティと対峙していた乂羅漢が後ろ髪を引かれるように振り返ると、プレラーティが軽く笑った。
「どうやら君との死愛は今回はここまでのようだ♤ 僕はエンザとネッソスを救助して撤退するよ♣︎」
「だけど──覚えておいて。我が愛しの君❤︎
君を殺すのは僕だ♦︎
君の首は、永遠に僕のそばに飾っておきたい♢」
「しばしの別れだ♧ 次に会う時まで、いい子で待っていてね♠︎」
そう言い残して、プレラーティは闇に溶けるように姿を消した。
「……やれやれ、とんでもない奴に目をつけられたものだ……」
羅漢は深くため息をつきながら、皆の脱出の誘導に動き始める。
幸いにもまだ甲板への道は開かれていた。
全員がなんとか脱出に成功し、連邦の第二戦艦《アルゴー号》へと避難する。
だがその直後──
《戦艦リヴァイアサン》の全景が変貌を始めた。
鉄と鋼で作られた巨艦が、肉と骨と皮で覆われていく。
装甲は鱗に、砲門は触手に。
そして艦橋にそびえ立つのは、巨大な龍の体──その首から上だけが、ルキフグスの“人間の顔”のまま残されていた。
「な、なんて姿だ……!」
その歪んだ顔の異様な笑みを目にした瞬間、誰もが息を呑む。
あれはもう、人の姿を借りた理性の仮面ですらない。
──狂気。
──完全なる、混沌の化身。
だがその時、艦橋に響き渡る声があった。
「諸君……!聞きたまえ!」
白衣をはためかせながら現れたのは、
《ドアーダ魔法学園》の名物教師、プロフェッサー・タット。
「我々は絶望を知っている! だがそれでも、クトゥルフ戦争を生き延びたじゃないか!
あの時と同じだ! この艦《アルゴー号》で、再びあの悪夢に立ち向かうんだ!」
生徒たちに、希望が灯る。
動揺していた面々が、彼の一声で顔を上げ始める。
その瞬間──
ルキフグスの凶悪な声が、スピーカー越しに響き渡った。
「フン……ほざけ、虫けらども! 貴様らが束になってかかろうと、我が怒りの業火の前では塵芥に過ぎぬ!」
「我こそは大魔王ルシフェル様の使徒、憤怒の魔王ルキフグス!! 我が怒りをその肉で知れえええええええええ!!!」
血のような咆哮が船内を震わせる。
だがタットは一歩も退かずに吼える。
「ならばこちらも応じよう!この艦のオーナー、阿門殿より全権を委任されている!
アルゴー号、全軍、戦闘配置につけ!!」
即座に命令が飛ぶ。
「副長──ルシル・エンジェル!」
「航海長──乂雷音!」
「砲術長──浪花明人ことアキンド!」
「雷撃長──伊藤修一ことイポス!」
「通信長──神楽坂レイミ!」
「機関長──龍獅鳳!」
「兵器長──蛮童熹助ことキース!」
「オーム君は軍師、ユグドラシル活性化のため、神羅たちは女神の歌を!」
「リリス君、演奏隊の指揮を頼むぞ!」
「「「了解しました!!!」」」
――こうして、地獄から蘇った戦艦リヴァイアサンと、
それに挑む英雄たちの艦《アルゴー号》。
二つの巨影の戦いが、いま──始まる。
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↑イメージリール動画




