乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-4 旧支配者イタクァの復活
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人間に似た輪郭を持つ、だが明らかに人間とは異質な巨体。
戯画めいた顔には紅蓮の双眸が灯り、その目だけが異様なほど鋭く燃え上がっていた。
巨大な手足の末端には、両生類のような水かきすら付いている。
「――“眼のある紫の煙と緑の雲”、とでも表現すべきか」
誰かが呟いたその比喩が、異形の正体を曖昧に縁取った。
無風の中で、風が唸る。
いや、“唸り”というには静かすぎる。
それははじめ、囁きのような振動だった。
耳鳴りとすら区別のつかぬその音は、次第に空気を震わせ、骨を軋ませ、魂すらを凍てつかせる轟音へと変貌していく――。
「ヌシらの体力と魔力を回復してやる」
不意にガープがそう告げ、手をかざす。
詠唱もなければ光もない。
まるで神が“在るべき姿”を指し示すかの如く、ただその手が振るわれた――その一瞬で、雷音たち六人の魔力と体力が完全に回復していた。
「い、一瞬で俺たち全員を全快だと……!?」
誰かの震えた声が漏れる。
これまで見てきたどんな魔道士とも違う、規格外の“魔”が、ただの老人の手から放たれたのだ。
その事実に、誰もが息を呑んだ。
「イブ。ひよっこ供をサポートしてやれ。仮にも封獣を従える勇者と巫女が六人も揃っておるのだ。旧支配者ごとき、三分くらいは持ちこたえてみよ」
穏やかな口調で言いながら、ガープは微笑んだ。
だがその顔は、六人の若者には“悪魔”そのものに見えていた。
「オ、オーム……あの爺さんめっちゃヤバいわ! ウチらのじいや、ウィウィヴァとドルガ並にヤバい!!」
エドナが青ざめた顔で囁く。
その横で、オームは何も言わずに小さく頷いていた。
イブが前へ出た。
蘇生しかけたイタクァの前に立ちはだかり、静かにその身を展開していく。
「武装展開、殲滅兵器起動――対邪神専用戦闘外骨格、起動します」
白く輝く魔力が、メイド服を呑み込むように包み込む。
背中が展開し、魔法陣じみた機構が発光を始めた。
そこから出現したのは、無数の鋼鉄の羽根――全てが独立した自動追尾兵装。
一枚一枚に銃火器が搭載され、全体で百を優に超える。
彼女のボディも、全身が水色のクリスタル様の半透明装甲へと変貌していた。
唯一、人間味を残した顔だけが、その“兵器の中核”を象徴している。
「目標補足、照準固定。全砲門、ロックオン完了。カウントダウン開始――10秒前。9……8……」
重なり合う音声と機械音が、空間を包み込む。
「7、6、5、4、3、2、1……ファイア」
ドドドドドドドドドドドド!!
百の羽根が一斉に光を放ち、ミサイルの奔流が戦場を焼き尽くす。
その爆音は天井を穿ち、洞窟内を強引に“外界”へと変貌させていった。
だが――風の唸りは止まらない。
いや、むしろ……ますます激しさを増している。
「ミサイルの弾幕で時間を稼ぎマス。皆様は今のうちに――『HERO変神』『魔法少女変身』ヲ」
イブが静かに告げる中、さらなる爆音が山体を揺らす。
そのとき、漢児が叫んだ。
「ダメだ! 変身じゃ間に合わん! ――機神招来だ! 全員、持てる全力を出せッ!!」
振り返って、隣にいた少年に呼びかける。
「獅鳳! お前は俺の横で作戦参謀だ! 知恵を絞ってくれ!!」
即座に全員が頷いた。
六人の勇者と巫女が、封印された“獣”の力を解き放つ。
(ほう……良い判断だ)
遥か上空に立つガープが、満足げに頷く。
(狗鬼漢児……魔法少女の助力無しで機械神を招来するか……。いや、ここに来る前に、女神の“口づけの儀”を受けていたのか?……いずれにせよ、切り札の切るべき瞬間を心得ておる)
次の瞬間、大地が震えた。
ゴオオオオオオオオォォォォォ――!!!!
爆音と共に、大地を割って現れた三柱の神機。
赤、蒼、黄の三色が、世界に戦端の火を灯す。
《炎の封獣・クトゥグァ》――鳳凰を思わせる炎翼を持つ機神。
その機体には、雷音と雷華が搭乗する。
《蒼き戦神帯・アーレスタロス》――蒼狼を思わせる双拳の神機。
その機体には、狗鬼漢児と獅鳳が搭乗する。
《黄衣の封獣・ベリアルハスター》――牛の角を戴く黄衣の魔王型機神。
そこに乗るのは、オームとエドナ――。
天を割り、大地を穿つ――
三体の“封獣機神”が、ついに戦場に舞い降りた。
「うおおおおっしゃあああっ!!」
雷音の咆哮とともに、炎の封獣クトゥグァが咆えた。
その巨体の口腔から放たれたのは、灼熱の魔炎――いや、“炎の竜巻”だった。
旋回する焔が地を舐め、空気を焼き、山肌を朱に染める。
迎え撃つは、《風に乗りて歩むもの》イタクァ。
全身を覆う氷気が膨れ上がり、やがて冷気の咆哮となって噴き出す。
口から迸ったのは、極寒のブレス――
大気を凍てつかせ、視界を蒼白に染める“氷の奔流”。
二つの元素が空中で激突した。
紅蓮の熱風と蒼白の氷牙が、世界を裂くように衝突する――
――ドオオオオンッ!!!
爆音が空を揺らし、爆煙が大地を呑み込む。
(ほほう……あの小僧と小娘、あれを相殺したか)
爆煙の彼方、ドアダ首領ガープが感嘆の息を漏らす。
(最強格の封獣クトゥグァの力を、あそこまで使いこなすとは……。流石は怪物・阿烈の弟妹よ。やはり只者ではないな)
そして、爆炎の中から新たなる動きが生まれる。
突き抜けるように現れたのは――
黄衣の魔王・ベリアルハスター、蒼き狼神・アーレスタロス。
二柱の封獣機神が左右へと分かれ、疾駆するように旋回する。
「行くぞアーレスタロス! 合体技だ!!」
漢児が吠える。
「タイミングは“いち・に・の・さん”だ! いくぞ!!」
だが――
「3・2・1・ゼロ!!」
「1・2の3っっ!!」
掛け声が真っ二つに分かれた。次の瞬間――
ガシィィッ!! ドオオォォン!!!
攻撃は空を切り、イタクァの巨体は悠々とそれを回避。
反撃の如く、水かきのついた巨大な手が機神たちを打ち払う!
アーレスタロスとベリアルハスターは見事に吹き飛ばされ、地面を転がった。
「おい〜〜!? “いち・に・の・さん”って言ったじゃん!?」
「うるっさ〜い! ウチらは“3・2・1・ゼロ”の方がしっくりくるんや!!」
戦闘中にもかかわらず、漢児とエドナが喧嘩を始める。
(はあ〜……なんじゃこやつら。全然コンビネーションが取れておらんのう)
ガープは額に手を当てる。
だがすぐに、ニヤリと口元を歪めた。
(……ふむ、だがそれもまた良い。未熟なればこその面白さ。ならば――)
彼は指を一本、空に向けて軽く振るった。
すると、空中に忽然と浮かび上がる――
見たこともない巨大な魔法陣。
地脈を照らす神光が奔り、空が鳴動する。
ガープの大魔法が発動した。
それは力の波動だった。
封獣たちの力が、一斉に膨れ上がる。
魔力の制御限界を超えた“霊格向上”が起き、
同時に、邪神イタクァの霊圧がわずかに抑制される。
そして、操縦士たち――雷音たち六人の魔力も増幅されていた。
「……え? なんだこれ……?」
雷音が驚愕する。
「ち、チートや……チートすぎるやろあの爺さん!!」
エドナが苦々しく舌打ちする。
「……確かに。できれば……イタクァ戦のあとにあの御老人とは戦いたくないな」
コックピットでオームが静かに呟く。
彼らのコックピットは、雷音たちと同様、前座席に操縦士、
後方には“魔力供給装置”たる巫女が、透明な培養カプセルの中で静かに浮かんでいる。
シュウウウ……と白い蒸気が漂い、まるで魔法少女アニメに出てくる変身シーンのような幻想的な光景が広がっていた。
「オーム、グングニールレプリカの精製、完了やで!」
エドナの声が響く。
その合図とともに、ベリアルハスターの両腕に光が収束していく。
巨体の掌に、黄金の光が宿る。
やがて――
その光は一本の“投槍”となった。
その長さはベリアルハスターの身長の1.5倍。
魔王機が構えたそれは、まさに神話の槍を思わせる風格。
「いっけぇぇぇ!!!」
振るわれた槍が風を裂く。
投擲された瞬間――
その軌道に沿って、無数の光の矢が誕生し、
まるで星の雨のように、戦場全体に降り注いだ!
「うおっ!?」
咄嗟に雷音たちも機体を旋回し、射線を回避する。
槍の本体も、そして光の矢も――すべてが自動追尾型の超魔導兵装。
完全にイタクァを狙い撃ちにしていた。
だが――
イタクァは、想像を絶する速度で飛翔する。
その異形の肢体を細かくたたみ、急旋回。
同時に、長く伸びた手足で、光の矢を一つ一つ叩き落としていく。
「チッ、やっぱ速すぎるなぁ……」
舌打ちをするエドナ。
だがその目には、戦闘の高揚感が灯っていた。
もともとスピード型の彼女にとって、
“速すぎる敵”は――嫌いではなかった。
――続く。
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