乂阿戦記4 終章 黙示録の赤い竜と滅びの歌 -13 父の本心
プレラーティがルシルを無事戦艦に送り届けたのを見届け嫉妬の魔王がほそく笑む。
「ふ、ふふ……よ、…く、やったぞ、……プレラーティ」
息も絶え絶えなスタンピートがニヤリと笑っていた。
そんな彼に駆け寄る影がひとつあった……。
「スタンピート〜〜〜〜!!」
その影こそは
「テメー、ルシルを!自分の娘をどこまで喰い物にする気だあああ!!」
主水は真剣を抜きスタンピートの首に突きつける。
だがスタンピートはなんの抵抗もしない。
いや、出来ない。
それどころかダメージがでかすぎて、放っておけば、いずれ死ぬ状況だった。
主水が刀に少し力を入れる。
スタンピートの首筋から血が出る。
「…別に介錯なんか……しなくたっていいぜ……こりゃ……もう助からん……このまま苦しんで死ぬよ……」
嘘いつわりない事実だった。
スタンピートの命は風前の燈だった。
「…………死ぬ前に言い残す事はあるか?」
かつての戦友の問いかけにスタンピート、いやスタンは心の底からの本音を漏らす。
「娘に……ルシルに……目をかけてくれて……ありがとうな……主水」
「……ふざけんな……お前がそうやって娘を想った本音を語れるなら──どうしてもっと早く、それを誰かに打ち明けなかった……!」
「……仕方ねーじゃねーか……俺がやらなくても俺以外の……アイナクィンの命令権を持つやつが……ジュエルウィッチを兵器として利用する……もうすぐ戦争が始まるんだ……娘が他の奴の奴隷にされるくらいならよう……せめて俺がってよう……」
「……どこの誰だろうが、そんな真似絶対させねえよ………俺がさせねぇ…お前の娘、良い娘だよ…ほんとにいい子に育ったんだよ…」
そう言って主水は刀を鞘に収める。
(……お前がそれを言えるなら、もう……斬る理由なんてねぇよ……)
だが返事はない。
呼吸も怪しいし、もう意識がないのかもしれない。
「うおあああああああ!」
イタクァ・アルカームがものすごい形相で主水達の方に突っ込んで来る。
アルカームはスタンピートに抱きつくと彼を担ぎ上げ、風に変身して飛び立っていった。
主水はあえてそれを見逃した。
(スタン……あのバカ野郎が……)
スタンピートを担ぎながらアルカームは必死に彼に声をかける。
「スタン将軍、寝るな!寝ちゃ死ぬぞ!あと少しだけ辛抱してくれ!最寄りの俺たちのアジトで手当てを受けよう!そして再起をはかろう!だからここで死ぬな!あんたは真狂王陛下の大事な将軍なんだ!息子なんだ!後継者なんだ!」
アジトに戻るまでスタンピートの命がもつかどうかわからない。
自身も相当なダメージだ。
「アンタが死んだら、あのバカな六芒星の兵隊どもが“自己犠牲”ってやつを正当化しちまう……! だから生きろ!恥でも無様でも生きて証明してくれ、スタン将軍……!」
だがそれでもアルカームは必死にスタンピートに声をかけ続けて彼の命をつなごうとした。
まるで映画のスパイダーマンのようにプレラーティーは姫騎士を抱えて戦艦リヴァイアサンの戦闘指揮所(CIC)に飛び込んできた。
「やあネッソス♧ 滅びの歌の準備はできてるかい?」
艦長代行ネッソスが答える。
「ブヒブヒん!出来てるよプレラーティさん!!」
「……そ♤ じゃあ後は頼む♦︎」
最後にそう言ってプレラーティーは力尽き気を失った。
「わあああ!!プレラーティさん!?お、お前ら早くプレラティーさんを医務室に運べ!!ルシル様はエンザさんのところにお連れするんだ!!」
ネッソスは大慌てで部下たちに指示を出す。
追い詰められている六芒星たちだが、悪魔軍団復活の儀式はギリギリ間に合いそうだった。
悪魔軍団を封印している氷結大地に巨大な魔法陣が描き終わっていた。
後は、大魔王の歌を歌うだけ
滅びの歌を新たなる大魔王ルシルと生贄の歌姫に歌ってもらうだけ
生贄の歌姫と言ってもそれは狂王エンザが作り出す影帽子
神羅、雷華達の姿だけ真似た偽物の魔法少女たちである。
今エンザ達はその偽者たちと共に儀式を行っている。
『ふふふっふひひっ!!』
笑い声だけが響く不気味な空間だった。
アルゴー号のアイドルステージを模したスペシャルシークレットルームとは真逆の、生贄の祭壇みたいなスペシャルシークレットルームだった。
悪趣味な装飾に部屋の1部が触手や肉塊で出来ている不気味な部屋だった。
その中心にいるのは本物の少女達を模して作られた魔法人形の少女達が歌を歌い続けているからだ。
彼女たちには感情はない、ただ歌うだけの機械にすぎないのだから当然なのだが……
「さてそろそろかな?」
エンザの読み通り兵士達が気を失っているルシルを担ぎ上げ、シークレットルームに入ってきた。
「エンザ様!ご準備は?」
「おお、よく来たチミ達!準備ができてるポン!ささ、ルシルたそをそこの触手椅子…じゃなかった、魔王の玉座に座らせて!ミュージックスタンバイ準備オッケーか?」
玉座に座らされたルシルの頭がガクンとうなだれ、BGMが“起動音”のように流れ出す、その時──
エンザ達の目の前の空間に小さな亀裂が生まれた。
「え?なに?」
続いてその亀裂から黒い馬の前足が見えた。
「え?え?だから何?何なのよー?」
続いて胴体と頭が現れると、最後は全身が姿を現した。
その姿はまさしく神話に出てくるような黒馬だった。
ただし普通の黒馬と違う所はその馬は象の様に大きいという点だろう。
「ああー!お、お前はああ!?」
その馬には今宵鵺ともう1人少年が乗っていた。
「おお!カイトーさん達の情報通りの座標だった!さすが天下の大怪盗!」
「さて、私たちのクラスメイトを返してもらいに来たわよ?」
「な、なんだとおおお!!」
怒りに肩を震わす狂王エンザだが、次の瞬間には、彼はすぐに冷静を取り戻す。
「プギャハハハハ♪ ワロスワロス☆ チミ達たった2人で何ができるかポン? でも、せっかくお越しいただいたんだ。チミも儀式の仲間に入れてあげちゃうよ❤︎ それはもう薄い本的な儀式をしてあげるよ!! オニャノコがノコノコこんなところにやってくるなんてハイエースする手間が省けてマジラッキー☆☆☆」
「ふんっ!お断りよ!」
「同じく」
「はぁ~ん?なら力づくで連れてってあげるポン!」
そう言ってエンザは指をパチンと鳴らした。
すると、彼の背後にいた兵士や影帽子達、さらに部屋のうごめく触手が鵺達を拘束しようと動き出す。
だが鵺の後ろに乗っていた少年が、懐からスマホを取り出し余裕綽綽で言い放つ。
「ヴァーカ!敵地に乗り込むのに、俺と鵺ちゃんだけで来るわけねーだろ。
こっちは“文化祭サバゲー組”全員そろえてんだよ、なめんな!! おいみんな準備はオッケーか?」
その少年アキンドは、スマホの中に映る仲間たちに尋ねた。
「おお、アキンド!いつでもオッケーだぞ!!」
なんとアキンドのスマホにはサバゲー試合に参加していたほとんどの生徒たちが映り込んでいた。
「よっしゃ、じゃあ──こっから俺たちのターンだ!! アポートーーーーー!!!」
そして次の瞬間……その場にルシルを救うべくサバゲー試合に参加していたドアーダ魔法学園の生徒達と銀河連邦アカデミア学園の生徒達が勢ぞろいで集まった!!
「「「「「ルシルは、俺たちで取り戻す
──絶対に!!!」」」」」
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