乂阿戦記4 終章 黙示録の赤い竜と滅びの歌 -10 覇王の闘気像
一方、覇王・乂阿烈に追い詰められたエンザとネッソスの命運は、もはや風前の灯だった。
彼の配下の兵士たちは、わずかの間に皆殺し。
ブルブルと抱き合う、彼らを救ったのはなんと予想外の人物だった!
「殺ああああああああああ!!」
「死いいいいいいいいいい!!」
プレラーティが大鎌を構え、アルカームが鋭い鍵爪を展開して、覇王・乂阿烈に向けて切りかかる!
だが阿烈は、二人の接近などとうに見切っていた。
動じることすらない。──否、あえて“動かぬ”という余裕の構え。
無理もなかった。
刃が、阿烈の肉体に届くや否や──砕け散ったのだ。無敵の装甲に、切先が!
「ほう? 小ネズミどもが、我に挑むとはな! その心意気、買ってやろう! よかろう、相手になってやる! 来るがいい!!」
覇王・阿烈が不敵に笑い、構えを取る。
二人も、もはや武器を捨てて拳を握り、素手で挑んだ──!
だが……戦況は、圧倒的だった。
打撃は当たる。的確に、数多く──
だが、まるで効かない!拳に、手応えがないのだ!!
「な、なんだと……!?」
「俺たちの一撃が、まるで……通用してない……?」
信じ難い現実に、二人は愕然とする。
数多の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の戦士たちが、初めて直面する“絶対防御”の壁!
「どうした?終わりか? そんなものか、旧支配者の器とは?」
挑発する覇王。怒りが沸騰した二人は、一斉に襲いかかった!
だが、結果は同じ。殴っても蹴っても、まるで傷一つつけられない!!
逆に、二人の体力ばかりが削られていく……。
「ウォーミングアップは済んだか? ならば、本気を見せろ。邪神ども──イタクァ!アトラク=ナクアよッ!」
二人は呼応するように深く息を吐き、己に宿る神性を解放する!
まずはアルカームが、エンザとネッソスへと目配せを送る。
──“俺たちが稼ぐ。スタンピートのいる戦艦へ逃げろ”。
プレラーティが詠唱する!
「混沌の深淵より、蜘蛛の糸を紡ぐ者よ! 星を喰らい、闇に踊る邪神よ──アトラックナチャ!イア! イア! イア・ンガイ・ンガラグ! ルルル・ルル・ルル! フタグン・フタグン! アトラックナチャ!」
影が迫る。50メートル級のそれが、プレラーティの体に融合し──
彼は蜘蛛型の異形へと変貌した!四本の鉤爪腕を背負い、地を這う怪人へと進化!
「 変!神! 夜を紡ぐ蜘蛛の魔導星・アトラック=ナクア!」
続いてアルカームが両腕を広げ、凍てついた呪文を唱える!
「吹雪荒れ狂う凍土より、黒き風の王よ! 氷の死神よ! 今ここに姿を現せ──イア! イア! イタクァ!!」
吹雪が渦巻き、アルカームの身体を包み込む!
やがて現れたのは、人に似て人に非ず──紅い眼を燈した、氷風の怪人!
長い四肢に水掻き、紫の煙と緑の雲のような邪神の化身!
「 変!神! 氷風の葬送者・イタクァ!」
二体の怪神が、ついに立ち上がった!
「いくぞッ!」
「応ッ!」
その力、今やかつての数倍!
強化された二人が覇王・阿烈に怒涛の連撃を叩き込む!
──しかし、通じない。
凄まじい威力のはずの連撃が、覇王の表情一つ変えさせない!
“勝てない”という直感。焦燥。
それでも二人は止まらない、止まれない!
やがて限界が近づき、二人は息を合わせて後退──
そのとき、通信が入った。
「二人ともッ!すぐそこから離れろおおおおおおッ!!!」
スタンピートの叫びに、二人は即座に反応!
壁をぶち破り、戦艦の外へと飛び出す!
直後、戦艦内部を焼き尽くすような“光”が放たれた!
発射されたのは──魔王戦艦リヴァイアサンからの反物質波動砲ッ!!
その威力たるや、戦艦ごと阿烈を消し飛ばすほど!!
──だが。
「…………何ィ……?」
戦艦は崩壊したが、覇王はそこに“いた”。
反物質の塊を、両の手で押さえ──押し止めていたのだ!!
「グルァッア”ッア”ッア”ッア”ッアッ! なかなか面白い手を使うな。だが我を侮るなよ? 小手先の兵器など──この覇王・乂阿烈には通じぬわ!」
そして、握りつぶす。──反物質を、素手で!
「フフ……さすがだねぇ。まぁ、こうなるとは思ってたさ。これは時間稼ぎ──“前座”にすぎんよ」
スタンピートの背後に魔法陣が浮かぶ!
そこから現れるは──
怪獣化した本来の姿、イタクァ!アトラク=ナクア!!
全長20メートルの巨体。世界を滅ぼしかけた邪神たちが、ついに真の姿で現界した!
加えて、全長300メートルの戦艦リヴァイアサン!
三体が同時に阿烈に向かって襲いかかる──!
だが、その瞬間……三体がピタリと動きを止めた。
いや、“止められた”のだ。
出現したのは──
阿烈と同じ姿をした、“全長3キロメートル”の闘気像!!
灰色の闘気で構成された巨神が、右手に邪神二体を、左手にリヴァイアサンの船首を──掴み上げていた!!
「「「……な、なんだと!?」」」
桁違いの大きさ。その圧倒的威容に、スタンピートたちは絶句するしかなかった。
「グルァァア”ッア”ッア”ッア”ッア”!!! ── 大きさ比べなら圧勝──だが魂を賭けるのが、“戦い”という名の真剣勝負よッ!!」
阿烈はさらに言葉を続ける。
「……つまらんだろう? せっかく生身の肉体を持ってるのだ。拳で語るからこそ、戦いは至高なのだッ!! 怪獣であろうと──その魂は“拳”に宿るッ!!」
「せっかく生の肉体があるんだ。生身の肉体のどつきあいこそが戦いのカタルシスを味わえる最高の調味料よ。お互い生の体でしばき合おうや? なに、慣れれば生身の体と怪獣巨体の強さは大して差はない。アングやデウスカエサルのボケナス共もタイマンはるときは生身の肉体で戦うことを選択しよるぞ?」
そう言い放ち、覇王・阿烈は闘気像を消し去った。
──戦いの場に残るのは、ただ一つ。“拳で語り合う”戦場のみ──!
覇王が吼える。
「武人なら拳で語れいッ!!」
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↑イメージリール動画




