乂阿戦記4 終章 黙示録の赤い竜と滅びの歌 -2 テロリストの正体は父だった
儀式は最終段階に至った。
いつの間にかスタンピートの足は部屋を抜け出し目的地に着いていたようだ。
そこは艦橋だった。
そこから七つ首の赤い竜が見える。
竜の背中に魔剣に変貌しつつあるラ・ピュセルを地に突き立て瞑想するルシルの姿があった。
もうじき自分の娘は初代『傲慢の魔王』ヴァールシファーに意識を乗っ取られる。
それと同時に凍り付けの悪魔たちが、生き物の形に擬態した殲滅兵器たちが再起動する。
彼は復讐者として哄笑をあげ、父親として慟哭していた。
「──ひゃああはははははははっ!!!」
呵々大笑は、もはや狂気と慟哭の境界を越えていた。
笑ってなどいない。ただ、壊れるしかなかったのだ──父として。
ちょうど通信が入る。
部下からの連絡のようだ。
『報告です!』という声と共に映し出されたモニターには一人の男の姿が映し出されていた。
見覚えのある顔だと思った瞬間思い出した!
「ば、馬鹿な!? あの男が、あの男がなぜここに!!?」
それは忘れもしないあの男の顔だった。
その昔戦場で、自分を追いつめて処刑しようとした男である!
龍麗国独立戦争の折、その異常なまでの超戦闘力で自分達女神国王家親衛隊を全滅に追いやった、神殺しの超武仙!
忘れるはずがない男だ!
あの日、俺の全てを台無しにした男──楚項烈ーーいや、今の名は覇王、乂阿烈!
その男の顔を見た途端、怒りが込み上げてくるのを感じた。
同時に激しい憎悪の念が沸き起こる! 絶対に殺してやる!
殺して、切り刻んで、焼き尽くしてやる!
そう思いながら通信器越しに叫んだ!
「おのれぇえええ!貴様ぁあああ!何故貴様がここにいる!?」
すると、その男はニヤリと笑って言ってきたのである。
歯向かう敵対者たる自分に言ってきたのである。
「ああ〜? 何故ここにいるのかだと……? 決まってるだろうがぁあああああああ?」
男はそう言って笑うとボキボキと両手の拳を鳴らす。
「ここは地球じゃないからなあ〜〜。主神級戦力の縛りもないゆえ思う存分暴れることができる。此度の戦場を喰らってやろうと現れたまでよ〜〜!」
そう言って世界最強の覇王乂阿烈は獰猛な肉食獣の如き笑みを浮かべた!
「ぐううううう!乂阿烈〜〜〜〜!」
スタンピートは呻くように言うと、憤怒の形相で睨みつけた!
かつて全てを喰らい尽くした“神殺し”と、いま全てを取り戻そうとする“破壊者”が、再び激突する。
嫉妬の魔王に対し、灰燼の覇王は全く動じることなく悠然と構えているように見えた。
それが余計に腹が立つのだが、今はそんなことをしている場合ではないと思い直し、気持ちを落ち着かせると改めて問いかけた。
「ふんっ!まあいい……それよりも、わざわざここに来たということは俺を殺しにきたということだろう?いいぜ、かかってこい!返り討ちにしてやるぜぇえ!!!」
そう言いながら身構える彼に相対する男──
すなわち阿烈は鼻で嗤った後こう言い放ったのである!
「馬鹿かお前はぁあ〜??お前みたいな雑魚に興味などないわぁあ〜!ワシが興味あるのはなぁ……」
そう言うと一瞬真顔になって続けた。
「……身の程を知らぬ虫ケラがワシにたてつき、ワシの家族に手を出したことだああぁあああ!ドブネズミにも劣る虫ケラ分際で、よくもこの偉大なる覇王の子供らに手を出してくれたなぁああああ? 許さん! 許さんぞこのビチグソがああああ!! 貴様らは決して楽には殺さん!!! 全員ジワリジワリと嬲り殺しにしてくれる!!!!」
その言葉を聞いた時、スタンピートの中で何かが切れた音がしたような気がした。
いや実際に切れたのだろう、その証拠に彼の全身からは凄まじい闘気が放たれており、その瞳の奥に宿るのは純粋な殺意のみとなっていたのだから……!
「……いいだろう、ならば望み通り決着をつけてやるとしようではないか灰燼の覇王よ……!! 六芒星幹部達につぐ! 総員戦闘準備!!!」
そして次の瞬間、両陣営による戦争が始まったのである─……!!
……世界が、音もなくひっくり返る。
(……ん)
……なんだろう……?なんだか暖かいものに包まれているような感じがする……
これは一体どういう状況なのだろうか?
そんな疑問を抱きながらもゆっくりと目を開けるとそこには見慣れた天井があった。
ああそうか、私は自分の部屋にいるんだなと思ったところでようやく意識が覚醒してきたようだ。
それにしても妙にリアルな夢だったなと思いながら身体を起こすことにする私であったのだけれどもそこでふと気づくことになるのだった……!
なんと私のすぐ隣に誰かが寝ていることに気が付いたからだ!!!
しかもその人はどうやら女性のようだったのだけれども、その姿を見た瞬間に驚愕のあまり固まってしまったわけなのである…………何故ならそこにいたのは私がよく知っている人物だったからだ………………
そう母さんだったのである!!
さらに驚くことに私は赤ん坊だった。
あれ?
という事はこれは夢?
赤ん坊の頃の記憶を夢の中で思い出している?
その赤ん坊の私を嬉しそうに抱き上げるのはお父さんだろうか?
あれ?
この人は?
……スタンピート?
私がずっと敵だと思って追いかけていたテロリスト
私がこの男のことを調べようとするとタット先生も、主水先生も、鳳博さんも、鳳天さんも必ずいつも邪魔してくる。
きっと、私がお父さんのことを知ったら、傷つくと思って隠し通そうとしたんだ。
……あぁ、でも今ならわかる。
やっぱりスタンピートが言ってる事は本当なんだ。
彼は私のお父さんなんだ。
とても悲しい。
とてもショックだ。
でも、1つだけ救われたことがある。
父さんは母さんを巻き込んでしまっただけで、殺そうとして殺したわけじゃなかったと言う事実だ……
それだけでも救いだと思うべきなのかもしれないね……。
もうこれ以上彼を恨むのはやめようと思う。
……だけどどうしても納得できない事があるんだ…………
私の夢に現れるあなたは誰?
私の昔の記憶に、あなたなんて存在しなかった?
なのにあなたはどうしてここに存在するの?
そしてあなたは誰なの?
……教えて欲しい……知りたいんだ……!
なんで私と同じ顔をしているのかを…………!!!
ああぁぁあああああぁああああああああああ!!!!!!
――私は、私ではなかった。
そう、最初から、ずっと。
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