乂阿戦記4 終章 黙示録の赤い竜と滅びの歌 -1 愚かな道化は笑う
終章 黙示録の赤い竜と滅びの歌
翠の魔界宇宙
氷結の惑星コキュートスを覆う空に、七つ首の赤き巨龍が浮かんでいた。
七つの頭には、それぞれ異なる色の冠が戴かれていた。
赤、橙、黄、緑、青、紫──そして、何色にも染まらぬ透明の光。
透明色の冠をいだくドラゴンだけが生気のない眼で咆哮も上げることなく佇んでいた。
その竜は巨大で全長が666メーターあった。
その存在は、かつて神すら恐れた終末の象徴──
黙示録の赤い竜。
ジルドレェ財団会長、ジキルハイド・ルキフグスの真の正体。
実のところジキルハイドに人間のような感情は存在しない。
そもそも、彼は初代暁の明星ルシフェルにより作られた戦艦兵器である。
主であるルシフェルの命令を効率よく処理するため、擬似人格が表面だけ人間らしく振る舞っているに過ぎない。
戦艦兵器である彼は待っていた。
主が復活し、再び自分を使ってくれる日を待っていた。
兵器の本能で待っていた。
元の主は故人になっても、その遺伝子情報を引き継ぐ子孫が再び自分達兵器の主となり任務を与えてくれると待っていた。
今まさに主は復活を遂げ、そして今日ようやく再起動できる日がやってきたのだ。
そんな彼が今何をしているかというと───── 《マスター》から送られてきた座標データを元に目的の場所へと向かう最中であった。
7つの首を振り回して空を飛び回りつつ目的地への最短ルートを探すこと数分が経過した頃、前方に小さな点のようなものが見えたためそちらへと進路を変えた直後のことであった。
突如として巨大な閃光に包まれたかと思うと次の瞬間には凄まじい衝撃と爆風によって身体を貫かれるような痛みに襲われたのである。
何が起こったのか理解できずにいると今度は全身が焼けるように熱くなっていくのを感じたのだがそれも一瞬のことであった────………………
戦艦の自動修復機能が、すぐに彼を直すからだ。
「くそ!主砲を1発当てただけじゃビクともしねぇか!」
そう叫んだのは雷音だ。
「……はぁ、笑えねぇよ……。どうすりゃこんな化け物を倒せるってんだ」
つい先まで『神話』だと思っていた連中が、今は真上にいる。
冷や汗と絶望だけが、現実だった。
心の中で誰かに問いかけたが、もちろん返事など返るはずもない。
目の前の“現実”が、ただ黙って立ちはだかるだけだった。
みれば20メートルはある巨大な悪魔たちが、次々と赤いドラゴンの周りに集まってきている。
まるで巨大ロボの軍勢みたいだ。
デカい悪魔達だけでなく、ジルドレェ財団が誇る空中戦艦が23隻もある。
そのうち一隻は魔王戦艦リヴァイアサンだ。
連中はすぐに攻撃仕掛けてくる様子は無い。
赤い竜は、何やら儀式のような呪文を唱えている。
真下にいる氷漬けの悪魔たちを復活させようとしているみたいだ。
凍りついた悪魔達は、おびただしいほどの数で、どれもが巨大で非常に強そうだった。
ギガス・オブ・ガイアの軍勢を髣髴させる光景だ。
もともとギガス・オブ・ガイアはこの悪魔軍団に対抗するため作られた軍勢だったと言う説もある。
直接対決には、まだ猶予がありそうだった。
雷音達は一旦会議室に集まり、皆で対策を練ることにした。
「さて……どうしようか?」
意見を求めたが、誰も動けなかった。
いや、正確に言えば身動きが取れずにいたと言った方が正しいかもしれない。
何故なら俺達がいる戦艦アルゴー号を無数の敵が取り囲んでいたからである。
しかしそれでも何とか打開策を見つけようと必死に頭を回転させ考えていたその時であった─────!!
「グルァーッア"ッア"ッア"ッア"ッア"ッア"ッ!!」
いきなりドアを突き破って現れた1人の巨漢を見たとき、俺たちはこの戦争の勝利を確信した。
7つ頭の赤いドラゴンの隣に巨大戦艦リヴァイアサンがたたずんでいる。
艦長室で嫉妬の魔王スタンピートは自分達の勝利を確信していた。
(勝ったッ!この悪魔の軍勢を手中に収めれば、今度こそ龍麗国に、五剣のユドゥグに勝てるぞぉおおおお!!!)
もはや、自軍と儀式を邪魔しに来た銀河連邦軍の戦力差は明白であり、戦力的にも勝負にならないことは一目瞭然だった。
しかも、我が娘ルシルの大魔王への覚醒は、もはや目前だ。
これはもう完全にこちらの勝ちであろう!
「クククッ!アーッハハハハハハハハァ!!」
喜びに満ちた笑いが止まらない。
…もはや戦局は決した。あとは勝利の果実を刈り取るだけだ。
だが、胸の奥で、微かに疼くものがあった──
スタンピートは通路へと駆け出し、敬礼する部下たちの前を素通りした。
誰もいない一室に飛び込むと、そのまま壁に背を預け──
また笑った。
……だが、胸が痛む。
喜びのはずのこの笑いが、なぜか虚ろに響いていた。
その奥で、父としての良心が呻いていた──
娘ルシルを、自らの戦争に引きずり込んだことが──
だが、引けない。
引くわけにはいかない。
自分には女神再興の使命がある。
戦争で死なせてきた部下たちの業を背負っている。
王族狩りで殺された妻、兄弟、一族の恨みが残っている。
自分に父親らしく生きる選択肢はとうの昔に捨てたのだ。
彼は自分自身の意志で大義を成すため邪悪を選択したのだ。
もはや善悪ではなかった。正義でもなかった。
ただ、娘を世界ごと残すために、父は悪を選んだ──
彼は自分自身の意志で大義を成すため邪悪を選択したのだ。
そしてこれからも修羅の道を進む覚悟を決めたのだ。
https://www.facebook.com/reel/1445499509472070/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール動画




