乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-23 敗走
雷音、ネロ、イポスは気を失って倒れてる獅鳳と塵芥に駆け寄った。
雷音は気絶している塵芥を拘束したのち、彼の懐から黒い玉を取り出した。
黒い玉の中には、仲間のみんながとらわれている。
盗賊スキルを持つ雷音は、たやすく黒い玉の拘束を解除し玉の中から皆を解放した。
黒玉の中に囚われていた鵺やオーム達が解放される。
幸い皆大した怪我ではなさそうだ。
「みんな大丈夫かい?」
心配する雷音に皆が笑顔で応えた。
雷音は気を失っている塵芥に黒い玉をかざし、その中に彼を捕らえた。
自身の拘束用アイテムに囚われると言うのも皮肉が効いた話である。
「……急がなきゃ、もう時間がない」
雷音はそう呟くと、拳を握りしめる。
壊れた世界。堕ちた仲間。……奪われた“彼女”。
「今度こそ、奪い返す」
彼の瞳は、幼さを脱ぎ捨て、戦士の光を宿していた。
扉はびくともしなかった。
他の道を探すしかない――だが、どの通路も鉄の意志で閉ざされていた。
城全体が、生者を拒む巨大な棺のように静まり返っている。
「……待てよ、確か……」
雷音の目がわずかに見開かれる。記憶の断片が、鋭く脳裏を閃いた。
そんな中、ふと何かを思い出したのか雷音の顔色が変わった。
(待てよ?そういえば確かあの部屋は……)
「ちょっと待ってくれ」
そう言って雷音は廊下を走りだしたかと思うとすぐに戻ってきて皆にこう言った。
「こっちだ!ついてきてくれ!!」と言いつつ再び走り出す。
皆は慌ててその後を追ったが、やがてある部屋の前で立ち止まった。
そこは六芒星のリーダー嫉妬の魔王スタンピートが守護を受け持つはずの部屋である。
「報告書によれば、この部屋の中に大魔王の間へとつながる隠し通路があるらしい。さぁ、急ごう!」
そんな雷音の言葉に皆の表情が引き締まった。
雷音は慎重に扉を開け中に入るや否や周囲を見回した。
……どうやら誰もいないようだ。
注意深く部屋の中を観察しつつ進んでいくうちに、何やら怪しげなスイッチのようなものを発見した。
これが例の隠し通路を起動させる装置だろうか?
そう思った直後、背後から急に声をかけられたものだから驚いてしまった。
振り返るとそこには2人の悪魔が立っていた。
「ひゃーほほほほほほほほほ☆ 残念だったなぁくそがきどもん❤︎」
「ぶひひひひん!皆既日食はもう始まったんだなぁ。ルシルちゃんは大魔王になったんだなぁ。もう手遅れなんだなぁ。♪」
ラスト・エンザとネッソス。
両名は地獄の舞台に似合わぬ滑稽な笑顔で、屠りの瞬間を愉しもうとしていた。
鈍い嘲笑が、終末を告げる鐘のように響いた。
「くっそぉ……」
思わず歯噛みしてしまう雷音であったがここで諦めるわけにはいかないのだ。
一歩、踏み出したその刹那だった。
背後から迫る“死”の気配。反応するより早く──
「ッ──が……」
鋭利な刃が、首筋を掠めた。血飛沫が宙に散り、視界が赤黒く染まる。
最後に見えたのは、黒き翼を広げた“怪物”と化したルシルの姿だった。
ヒーロー ✖︎2 VS 旧支配者 ✖︎2の激闘が行われているプレラーティーの間に通信が入る。
アーレスタロス&ケルビムベロスには織音主水から
アトラックナチャ&イタクァにはスタンピートから連絡が入ってきた。
「羅漢、漢児…すまん、間に合わなかった……」
まずは苦虫を噛み潰した織音主水の声
続いてご機嫌この上ないスタンピートの声
「いよう、プレラーティ、アルカーム!お楽しみのところ悪いが、大魔王降臨の段取りは片付いた。ルシルは傲慢の魔王に至った! 予定通り撤退するぞ。コキュートスで俺たちの同胞を復活させるとしようや。戦いの続きはそこでつけてくれ」
旧支配者の2人はニヤリと笑い戦いから撤退する。
「漢児、羅漢、アルゴー号に引き上げてくれ…作戦を練り直す……」
指令を伝える主水の声は、痛恨極まりない声だった。
「く!」」
アーレスタロスとケルビムべロスの2人は落胆しながらも主水の指令に従った。
───────雷音が気がつくと目の前には天井があった。
自分は仰向けに寝転がっているようだが、身体が動かない。
首から下が全く動かせないのだ。
一体どういうことだ?
必死に身を捩ろうとするがやはり動けないままだ。
それどころか指先一つ動かすことができない状態なのだ。
これは夢なのか?
それとも現実なのだろうか?
わからないまま混乱していると不意に声が聞こえてきた。
「目が覚めたようですね」と言いながら姿を現した人物を見て驚いた。
その人物とは織音主水の班に同行していたはずのヴァルシア先生だったのだ。
なんでこんなところにいるのかと思っていると彼女が口を開いた。
「ここは戦艦アルゴー号の医務室の中だよ。君たちはルシルに切りつけられてしまったんだ。今はまだ治療中だから無理に動かないほうがいいけど、あと少し我慢すれば完治する。本当に危ないところだった。アキンド君のアポートで避難しなければ全滅するところだったんだよ」
そう言って彼女は話を続けた。
「……皆既日食は始まり、儀式は最終段階に入った。ルシルは“初代・暁の明星”に乗っ取られ、まもなく“大魔王ルシファー”として覚醒する……」
ヴァルシアはそこで言葉を詰まらせた。
「──そう、十五年前の、私のように……」
そう言うと彼女は悲しそうな表情を浮かべた。
「すまないね、私が不甲斐ないばかりに君達に重傷を負わせてしまって……」
そんな彼女に対して雷音は首を横に振って答えた。
「いえ、先生は悪くありません。悪いのは俺です。俺の実力不足が招いた結果ですから気に病まないでください」
それを聞いた彼女は一瞬目を丸くしたあと小さく微笑んだ。
「……そうか、ありがとう。君は優しい子だね。さて話を戻そう。今起こっている状況を簡単に説明すると、現在私たちは、戦艦アルゴー号ごととある場所に閉じ込められている状態だということだ。それも厄介な奴によって……」
そこで言葉を区切る彼女の表情は険しかった。
まるでこの先の展開を知っているかのような様子だと感じた俺は思い切って尋ねてみる事にしたのだが、返ってきた答えは意外なものだったのである。
「私たちは今、魔界宇宙――“翠の星域”にいる。スタンピートはこの船にいる魔法少女たちを、悪魔復活のための“生贄”にしようとしている。復活した悪魔たちを自軍に取り込むためにね。つまり彼らは私たちを生贄として殺すつもりという事だ」
その言葉に驚く俺達だったが、続いて発せられた言葉に奮い立つことになる。
「……ただし、船のメンバーは全員、むざむざと生贄になってやるつもりはないようだがね。君たちはこのままやられっぱなしでいるつもりかい?」
と言われてしまったのだから無理もないだろう。
当然俺達は反論したさ! 当然だ!! こんなところで死んでたまるかってんだよ!!!! すると、その言葉を待っていたかのように先生が言った。
「なら決まりだな」
と言ってニヤリと笑った後でこう続けたんだ。
「よし、そうと決まれば作戦会議を始めようじゃないか」
と言ってきたものだから驚いてしまった。
「いいかい、これから話すことは全て真実だ。信じられないかもしれないが信じてくれ」
そう言う彼女の顔はとても真剣そのものだった為、俺もみんなも黙って話を聞くことにした。
(それにしてもこの人は一体何者なんだろうか?)
そんな疑問を抱きつつも耳を傾けることにしたのだった――………………それから暫くの間沈黙が続いた後、再び口を開いた彼女の口から語られた話は実に驚くべき内容ばかりだったと言えるだろう……。
まず最初に聞かされたことは彼女がかつて世界を救った魔法女神の一人であるということであり、その力を以てしてこの世界を救うために立ち上がったのだという話だ。
さらに言えば彼女も元々は普通の人間に過ぎなかったそうだが、ある時を境に不思議な力を手に入れたのだそうだ。
(……それよりも気になることがあるんだよなあ……)
それはなぜ俺たちを選んだのかということだったんだけどさ、
「ふふ、何を言ってるんだい? 君たちは今代の勇者だ。クトゥルフ戦争も、ケイオステュポーンも戦い抜いた。そして──ルシルの友達だ。それだけで、十分に力を貸してもらう理由になるさ」
と言われて納得するしかなかった。
いやマジで納得するしかない状況だったから仕方がないと思うんだがどうだろう??
そんなこんなで始まった今回の最後の戦いなんだけど正直なところ勝算はほぼ無いに等しいと思う。
何せ相手はあの悪魔軍団だし勝てる気がしないんですけどぉ~~って感じなんだ。
よねホントもう勘弁してほしい、ほんとウンザリしちゃうよねまったく!!
「……わかったよ。なら、俺がやる。
世界が敵でも、友が堕ちても。
絶対、ぶっ壊してでも取り戻してやる──
お前を、大魔王なんかにしてたまるかよ……ルシル。」
……そう呟いた時、どこかで“決意”が音を立てて、覚悟に変わった気がした。
よし、それじゃあ行くとするかぁっ!!
「おいお前ら行くぞぉっ!!」
「おおーっっ!!!」
という掛け声と共に一斉に駆け出していく俺達だった。
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