乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-20 宿命の戦い!織音主水vsスタンピート・レヴァイアタン
スタンピートとつばぜり合いをしながら織音主水は凄む。
「ルシルを返せ……今更てめえに……てめえにルシルの父親を名乗る資格があるものかああ!!!」
そんな声とは別にもう一人の人物が姿を現した。
「主水の言う通りだスタン殿下……」
その人物とは他ならぬルシルの叔母ヴァールシファーだった。
彼女は侮蔑を込めた眼差しでスタンピートを見つめたあと、木刀を構える織音主水を見ながら言う。
「やれやれ、まさか本当に貴方が銀河連邦ヒーローに現役復帰してくれるとは思わなかったわ……」
そう言いながら肩をすくめる。
しかしその表情からはどこか懐かしそうな様子が見て取れた。
そんな彼女に向かって織音が口を開く。
「久しぶりだなヴァールシファー、元気にしていたか?」
その言葉に一瞬驚いたような表情を見せるがすぐに笑顔を浮かべて答える。
「ええ、おかげさまでね」
その言葉を聞いて満足そうに頷く彼に対して今度はヴァールシファーの方から質問を投げ掛ける。
「それで?貴方はなぜこんなところに来たのかしら?」
その問いにニヤリと笑みを浮かべるとこう答えたのである。
「決まっているだろう?可愛い教え子を助けに来ただけだ」
それを聞いた瞬間、スタンピートの表情が一変した。
まるで仇でも見るかのような目で睨み付けると怒りに満ちた声で叫ぶ。
「教え子を助けに来ただと? ふざけやがって! 大恩ある祖国女神国復興の責務を忘れ銀河連邦に尻尾を振る輩がルシルに何を教えると言うのだ!? それよりも織音主水、貴様どうやってこの『大魔王の間』に? 六つの悪魔宝玉を壊さねばこの『大魔王の間』は入ってこられないはず!?」
彼の疑問に対し織音は不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「ああ、その事なら説明は簡単だ。お前の部下たちは、ダークフレイム以外どいつもこいつも戦闘狂すぎる。あいつら目の前の強敵との戦いに熱中するあまり、悪魔宝玉の警護をまるで考えてやがらなかった。悪魔宝玉が壊されたってのに、そんなのお構いなしにウチのメンバーとの戦闘を継続してやがる。まぁ自分が悪魔宝玉を守らなくても、誰かが守ってくれんだろとか思いながら任務に当たってたんだろう。狂犬みたいなのを揃えすぎだぜ。スタン将軍」
「だがダークフレイムならば任務を忠実に実行してくれるはず……」
「ああ、あの赤い騎士はやばかったな。俺の生徒のロイの猛攻に耐え抜きやがったからな……お陰で危うくロイが死ぬところだったぜ! けどな、ロイが体を張って注意を引きつけてくれた。おかげで俺はダークフレイムの目を盗み宝玉を破壊する事ができた。」
おどけるように言いながら肩をすくめた後、真剣な表情になると言葉を続ける織音主水であった。
「体を張ったあいつの覚悟を無駄にするわけにはいかねぇ。とっととテメーをぶっ倒しルシルを助け出し、その後ダークフレイムからロイを助け出さなきゃならねぇ! 覚悟しなスタンピート!」
「……ほざくなよ。織音主水!お前如きの力で俺を倒せると思っているのかぁぁああっ!!」
その言葉と同時に両雄の戦いが始まる! 激しい攻防を繰り広げる二人であったが決着はなかなかつかないようだ。
女神国悲劇の暴君真狂王エンザ・ソウルには28人の子供がいた。
婆娑羅者である彼には愛人や側室が多くおり子供も多くいたのだ。
女神国革命戦争の際、ほとんどのエンザ王の子供達は粛正された。
だが、スタン・ソウルとモンド・ソウル、すなわちスタンピートと織音主水はその能力の高さ故苛烈な粛正の嵐の中から生き延びた。
この二人は腹違いの兄弟というよりも、共に背中を預け戦場を駆け巡る朋友だった。
だが歴史の流れは無常なるかな、狂王エンザは兄である女神国最後の王ゴームに敗れ亡命を余儀なくされ、スタンとモンドも離れ離れとなった。
戦場で背中を預けあった朋友
そんな二人が再会した舞台は互いが愛しい者を守るため殺し合う血闘の舞台
女神国復興を願うスタンは我が娘を一時洗脳してでも新生女神国の王に押し上げたい。
ルシルに真っ当な人生を送らせたい主水は国の復興という夢物語にルシルを巻き込ませないため決死の覚悟でかつての朋友に切り掛かる……
そんな両者の闘いは凄絶極まるものがあった。
大魔王の間の柱時計の針がゆっくりと回り、物言わぬオブジェのように時を刻む。
織音主水は真剣な眼差しに、疲労の色が濃い。
かつての友情が心の奥底に渦巻いている。
スタンピートはいつもの飄々とした様子は影を潜め、真剣な表情で主水を見つめる。
両者互いに刃を構え、鍔迫り合う。
窓から入る月の光が二人の顔に影を落とす。
「……なあ、スタン。俺にはわからない。お前ほど、世界を背負える器を持ってねぇからな」
「だったら聞くな。主水、お前にも“失った部下たち”の一人や二人はいるだろう。俺は──もう、後戻りできねえんだ」
「後戻り……?それでいいのか?自分の娘に、そんなものを背負わせて、笑って死ねるのかよ!!」
「笑うさ……それが“親”ってもんだ。俺がルシルの憎まれ役を引き受ければ、あいつは前に進める。お前にだって、そのぐらいわかるだろ? 俺は女神国の復興果たさなきゃならねぇ!…」
「そんなことのためにルシルを…自分の娘を!!」
織音はスタンへの友情に、スタンは亡国の任務への忠誠の間で揺れ動く。
彼らの瞳には、複雑な感情が入り混じっていた。
(…やめて…二人とも…)
ルシルの切ない声は、二人には届かない。
意識は半分目覚めても、いま彼女の体は彼女のものではないからだ。
「ルシル……俺に任せろ。ここは、教師として、けじめをつける」
「なにが教師だ、主水!お前の“おせっかい”がいつも人を巻き込むんだよォ!!」
激突したのは次の瞬間。
嫉妬の魔王が咆哮とともに斬りかかり、織音はそれを真っ向から受け止める。
木刀と双剣、理想と執念──。
一対一の決闘が、炎を上げて始まった。
刃がぶつかり合う音、二人の荒い呼吸が、静寂な夜空を切り裂く。
「なぜ、お前はいつも…!!いらない、おせっかいにしゃしゃりでる〜! 主水〜〜っ!!」
「俺ぁな……教師ってのはな、生徒の未来に口出しして、説教して、時にケツを蹴り飛ばしてやる生き物なんだよ。……だからルシルは、俺が守る」
二人の戦いは、次第に激しさを増していく。
互いの刃が、肉体を切り裂く。
血塗れになりながら刃を交わす両雄
しかしその時、突如天井の一部が崩れそこから何者かが現れた!
それは7つの頭を持つ赤いドラゴンだった。
これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた
7つの冠はそれぞれ赤、青、黄色、緑、紫、橙、そして透明の色をしていた。
咆哮を上げるドラゴンたちの内、透明の冠をいだくドラゴンだけが生気のない眼で咆哮も上げることなく佇んでいた。
それを見たヴァールシファーが声を上げる。
「あれは……!」
その声に反応するようにドラゴンの顔の1つが口を開いた。
その声はとても落ち着いたものであり敵意を感じさせないものだった。
そしてゆっくりとした口調で話し始めたのだがその内容は驚くべきものであった。
「おやおや、お久しぶりですねルシファー様の空蝉ヴァルシアさん。先先代の暁の明星よ。私はジキルハイド・ルキフグス。覚えていらっしゃいますか?再会を懐かしみたいところですがあいにく今はこみいっております。もうすぐ大魔王様が再臨なさるのです。本日のところはお引き取り願えますか?」
その声音は、七つの首がそれぞれ異なる感情を担うように発されていた。
威圧、哀悼、嘲笑、嘆き、激情、無関心、そして──理知。
声は重なり、ずれて、互いを覆い尽くすように響く。
まるで“ひとつの言葉”を、七つの魂で語っているかのようだった。
それは不快で、しかし目を背けられぬほどに神秘的で。
異形の言葉は、空間そのものをねじ曲げる“呪文”のようでさえあった。
そんな彼らの姿を見て驚きを隠しきれない様子の織音主水
しかし彼とは対照的にヴァールシファーはまるでこうなることがわかっていたかのように冷静であり落ち着き払っていたのだった。
(やはり来たか……)
と思う一方でこれから起こるであろう戦いに不安を覚えていた。
だが今はそんな事を考えている場合ではないと思い直すとその思考をかき消したのである……….。
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