乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-19 母の死の真相
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一方その頃──大魔王の間。
まだ正気を取り戻していないルシルは、宿敵スタンピートと“対峙”していた。
……いや、正確には、スタンピートが一方的に語っているだけだった。だが、それでも“会話”は成り立っていた。
「ルシルよ、さぞかし俺の事が憎いだろうよ。そりゃそうだ。俺はまごう事なきお前の両親の仇だ。俺がいなければお前の両親は死ななかった。さぞかしオレのド頭に鉛玉をぶち込みたいところだろうぜ……」
そう言いながらスタンピートは自分の頭を人差し指でトントンと叩いてみせる。
そんな彼の態度に苛立ちを覚えたのかルシルの表情が険しくなっていく……。
しかし同時にどこか悲しげでもあった……。
(どうしてなんだ……?なんでコイツを見ていると胸が苦しくなるんだろう……?それにさっきから鼓動が激しくなって止まらないし、顔も熱くなってくる気がするんだがこれは一体何なんだろうか……?もしかして病気なのだろうか?それとも何かの呪いかなにかなのか……?いや待て、そもそも何で私がこんな奴と一緒に居るんだっけ……?あれ……?よく思い出せないな……)
必死に思い出そうとしているのだろうか?
眉間にシワを寄せている。
そんな様子を眺めていたスタンピートはニヤリと笑うとこう言ったのである。
「おいおい大丈夫かぁ?そんなに頭抱えてたら頭痛くなっちゃうぜえ?……もっとシンプルに考えればいいんだよ。正義の騎士として暴走するテロリストを叩き切る。憎い敵である俺を殺すのさ。そしたらお前は新しい女神国のジャンヌダルクとなる!それこそが俺の望みだぜぇ?」
その言葉を聞いた瞬間、再び怒りが込み上げてきたのだろう……彼女は口を開こうとしていた!!
(ふざけるな……!誰が貴様なんかに従うものか……!)
だが声が出ない。
「俺に歯向かいたいが歯向かえないか?……そりゃそうだろうな。
なぜなら、アイナクィンの盟約により──
女神国の人造魔法少女ジュエルウィッチは、王族には絶対服従しなければならない。
それは、破壊神ウィーデル・ソウル様の遥か昔……
魔法少女たちが“自ら望んで”身に課した呪いだった。
邪神の脅威から民を守るために。
……それが、いつしか。
支配者たちが“都合よく解釈する首輪”に変わった。」
「ヒャハハ!……クソッタレ………」
そして彼は続けるようにしてこう語ったのだった。
「……つまりこうだ。
“国を守るために”と、願い祈ったその言葉が──
気づけば、“都合の良い呪い”に変わっていたってわけさ」
そこまで聞いたところでルシルの頭に激痛が走る……!!
あまりの痛みに耐えきれず倒れそうになるところを何とか踏みとどまった彼女だったが、その顔には脂汗が浮かんでいた。
その様子を見ていたスタンピートは愉快そうに笑いながら言ったのだった。
「ハハハッ、どうやら自我を取り戻しつつあるようだな!それはそうだろ!お前もまた破壊神ウィーデル・ソウルの血を引く女神国王族の末裔なのだから!奴隷を使役する王族の血がお前を奴隷の身分から解放しようとしてるんだよ。まあ、俺が近くにいるせいで俺の血の影響を受けやすいんだろうよぉ!」
その言葉に反応する様にしてルシルの目が見開かれていく……。
その瞳はまるで血の様に赤く染まっており、口元からは噛み殺し過ぎて血が一筋零れ落ちている。
それを見てスタンピートは作り笑いをやめて真顔になった。
「そうさ、俺を憎め、憎むがいい……今更言い訳なんかしない。……あの日離婚した俺の女房は、お前の母さんルナはお前の近況を知らせたいと言って俺に会いに来た」
「……知ってるか?俺たち女神国の王族はいまだ裏の世界で王族狩りの懸賞金がかかってるんだぜ? 滅びる前の女神国王族は、随分と魔法少女たちの家族から恨みを買っていたからな。よくも私たちの娘を奴隷のようにこき使ったなぁってな。」
「俺は、ルナを……王族狩りに巻き込みたくなかったんだ」
「だから別れた……それなのによ……」
「あいつ、俺の弟と再婚しやがって。王族の血を持つ俺の身内とよ」
「そしたら案の定……俺の代わりに、王族狩りの標的になっちまった」
「夫婦揃って──仲良く、おっ死んじまったんだよ……!」
スタンピートは顔を両手で覆い──
大声で笑う。
狂ったように嗤う。
慟哭するようにワラウ。
ひゃああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!
──嗤う。
ひしゃげた声で、咽び泣くように、狂ったように。
「ひゃああははははっ、あああっ、ひゃああはっ……!!」
沈黙
静寂
道化の貌があがる。
「喜劇だ!こいつぁこれ以上ない喜劇だぜ!!俺は俺の人生は悲劇だと思っていた!だが違った!俺の人生は喜劇だ。喜劇にはオチという幕引きが必要だ!俺を憎む我が娘よ、お前の成したい事をなせ!俺という道化を殺し新たな女神国の女王となれ!俺が肥やしになってやる!俺がお前を高みに引き上げてやる!!娘よ!ルシルよ!父を喰らい歴代史上最強の大魔王になれ!!憎いものは全部その正義の剣で叩き切りまくれえええええええ!!!!」
狂喜と憎悪に満ちた顔で両手を広げる。
まるで舞台俳優のようにオーバーアクションで叫ぶ。
しかしその眼だけは──笑っていない。
「さぁ、始めようか、我が愛しの娘よ、この愚かな父と共に愉快な喜劇の幕を開けよう!!」
……沈黙が訪れた。
ルシルは震えていた。恐怖か怒りか、それとも──ただの拒絶か。
次の瞬間、その体に異変が起こる。
その言葉と同時にルシルの身体が変貌を始める。
手足が膨張し黒い甲殻に覆われ、背中から巨大な漆黒の翼が生えてくる。
頭部から二本の角が伸び、目は真っ赤に充血し、その姿はまさに異形の怪物であった。
どこまでも美しい堕天使の怪物であった。
「さぁ、来い我が娘、そして新たなる大魔王よ」
その言葉を合図としたかのように、一人の男が咆哮を上げて飛びかかる。
「ふざけるなよ。スタンピートオオオオオオオオ!!!」
咄嗟に2丁のソードガンで木刀の一撃を受け止めるが、凄まじい衝撃にダメージを受ける。
「……なっ!?」
驚きのあまり目を見開くスタンピート。
それと同時に口から大量の血を吐き出しながら膝をつく。
その様子を目の当たりにした彼は信じられないといった表情で叫んだのだった。
「馬鹿なっ!?何故お前がここに居るのだ……!貴様は確かに死んだはずだ……!“剣の風神”織音主水!!」
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↑リール動画




