乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-17 タッグマッチバトル、ヒーローvs旧支配者!
その頃下の階では羅漢が戦っていた……。
いや、正確には「戦っている」というより「足止めをしていた」と言う方が正しいだろう……。
何しろ相手はあの邪神なのだから……。
しかも羅漢の拳をもってしても傷一つつけることができないのだから、恐ろしいものだ……。
まあ、それも当然なのだが…………。
何せコイツには、並の物理攻撃や魔法などは通用しないのだから…………。
そう、この者は──旧支配者アトラク=ナクアの化身なのである!!!
故に、いくら強いとは言えども、人間にとっては相性が悪い相手なのだ。
そんな絶望的な状況下であっても諦めずに戦う羅漢に、拍手を送りたくなるほどの見事な健闘ぶりだったと言えるであろう……。
「乂羅漢……すごいね君♤ 僕とここまで闘える人間なんて、そうそういるもんじゃないよ❤︎」
プレラーティ・アトラックナチャが死神の鎌を振り下ろし、乂羅漢がケルビムベロスの大剣で斬撃を受け止める。
「それはどうも! こっちは必死なので皮肉にしか聞こえないがね!」
すかさず反撃に転じようとするも、すぐさま距離を取られてしまう。
再び距離を取ったかと思うと、今度は無数の糸を伸ばしてくる。
それらを捌きつつ、隙あらば懐に飛び込もうと試みるが、なかなか上手くいかない。
(く……! こっちの攻撃が全く効いてない上に、向こうの攻撃はほぼ即死コースか!)
内心で悪態をつく羅漢であったが、それでも諦めるわけにはいかないので、必死で食らいついていたのだが…………
不意に後方から気配を感じ取ると、即座にその場から飛び退く。
直後、先ほどまで羅漢がいた場所に何かが飛来し、地面に突き刺さる。
「ほぉ〜、今のを避けるとは流石だな」
声のする方を見ると、そこには一人の男が立っていた。
全身を暗い水色のローブに身を包んでおり、顔には青白い笑い仮面を被っていた。
その男はゆっくりとした足取りで近づいてくると、おもむろに被っていたフードを外す。
「初めましてだな。ドアダの銀仮面羅漢将軍……俺の名はイタクァ・アルカーム、ソコのアトラックナチャのご同輩の旧支配者さ」
「ふん、随分とお喋りが好きな旧支配者もいたものだな……君は右下の部屋の担当だと聞いてたんだがな……」
「おっと、これは失礼。何しろ俺は口が軽いものでね、ついつい余計なことまで喋っちまうんだ♪
おしゃべりついでに教えてやるよ。悪魔宝玉はぶっちゃけ一個だけ残ってりゃ防衛の役割を果たすんだ。だったら俺達が律儀に一部屋ずつ守るこたぁねー。こうやって戦力を集め、挟み撃ちするのが効率的ってもんだろ?」
そう言うと同時に指を鳴らすイタクァ。
するとイタクァの周囲に氷のツララが形成され、ミサイルのように羅漢に襲いかかってきたのだ。
咄嗟に構えを取り、氷ツララを打ち落とす羅漢だったが──
次の瞬間には、目の前にいたはずのアルカームが姿を消していた。
いや、消えたのではない。高速で移動しているのだ。
その証拠に、背後から声が聞こえてきた。
「おいおい、どうした? この程度かい?」
振り返ると、そこにも誰もいなかったが、足元の影だけが動いているのが見えた。
「まさかとは思うが、お前一人で俺達二人を相手にするつもりじゃないだろうな?」
その言葉に反応するかのように、周囲から無数の気配が湧き上がってきたのが分かった瞬間────
四方八方の死角から、一斉に攻撃を仕掛けてくる者たちの姿があった。
それはまさに一瞬の出来事であった!
襲ってきたのは──忍者のように残像で分身したアルカームだった────!
「くっ!?」
なんとか一撃目を弾くことに成功するものの、二撃三撃と続く攻撃を凌ぎきることができず、徐々に被弾していく羅漢。
さらに追い打ちをかけるように襲いかかる猛攻は留まることを知らない……!
そしてついに限界が訪れたのか、膝を突いてしまう羅漢……。
その様子を楽しそうに見ていたアルカームが、トドメとばかりに鉤爪を振り上げた瞬間───────
羅漢は沈黙のまま、右足をゆっくりと持ち上げる。
まるで時すら呼吸を止めたかのように、空間が凍りつく。
そして──それは放たれた。
「爆散震脚!!」
地を穿つ。
世界が仰け反り、万象が硬直した。
断裂する床。響き渡る断末魔の如き轟音。
「なに……ッ!? この振動は……ッ!?」
突然起こった地響きに驚くアルカーム。
だがすぐに冷静さを取り戻すと、その技の正体を見破ったようだ。
「……ほう、振動波を使った足場破壊か……」
ニヤリと笑うと同時に足を上げて体勢を立て直すために後退しようとした──その矢先のことだった。
ズドォォォォン!!!!!
轟音が鳴り響いている最中でも聞こえるほどの大爆発が巻き起こったのだった!
砂煙が弾け、世界が形を取り戻す。
その中にいたのは──
壁を粉砕し、堂々とその場に降り立つ、漆黒を割く蒼の勇者。
「…………ば……バカな…………ッ、なぜ貴様が、ここに……狗鬼漢児!!」
アルカームの叫びに応じるように、男はニヤリと笑った。
「悪いな。壁は壊すためにあるって、昔からそう教わってきたんでな。
羅漢とは──同じクラスの、拳で語る仲だ。2対1? そんなセコい舞台、俺がぶち壊してやるよ」
呆然と立ち尽くすイタクァに対して、余裕の表情を見せる男はこう答えたのである。
「…羅漢とは同じ学校、同じクラスのダチでよ。一度タッグ組んでみたいと思ってたんだよ」
「うふふふふ❤︎ 蒼の勇者狗鬼漢児か♤……うん、いいね♣︎ たまには2対2のタッグマッチもいいもんだ♦︎」
プレラーティーがニタリと笑い、大鎌を構えた。
その瞬間、その背後にあった影がまるで生き物のように蠢き始め、巨大な怪物の姿へと変貌を遂げていく。
その姿は一言で表すならば『蜘蛛の化け物』だろうか……?
全長50メートルはあろうかという巨体
それは影ではなかった。
闇そのものだった。
現象の形を借りて、この世界に爪を突き立てた、災厄の原像。
かつてラグナロクの夜、世界を蝕み、旧神によって封じられた“それ”──
《蜘蛛の邪神アトラック=ナクア》
瞳は八つ。牙は幾百。
鎌の肢が天井を穿ち、漆黒の外殻が空間を蝕む。
その顕現は、この世の理さえ異界へと転化させた。
神話ではない。災害である。
未だ旧神に本体を封印されているアトラック=ナクアは、プレラーティーという分身体を通さなければ邪神の力を使うことはできない。
だが分身体が強敵と相対した時は、こうやってプレラーティーの影を通し、短時間ながら現世に顕現するのだ。
そんなおぞましい姿形をした巨大生物を前にしても、全く臆することなく対峙する狗鬼漢児の姿は、まさしく歴戦の勇士と呼ぶにふさわしい貫禄を漂わせていた。
狗鬼漢児とプレラーティ。
2人はそれぞれ拳を構えて戦闘態勢に入ったまま睨み合っているように見えたのだが……??
次の瞬間である……!
なんといきなりお互いの間合いを詰めると、殴り合いを始めたではないか?!
いや違う。これはあくまでも前哨戦なのだ!!
その証拠にお互いに本気を出している様子はなく、ただ単にじゃれあっているだけのようだった…………。
(おいおいマジかよ♦︎……おい小僧、本気で来いって♢)
とか言いながら楽しげに戦っている姿は異様そのものだったが…………。
……やがてウォーミングアップが終わったので、お互い本気を出し始めた。
「無茶無理無謀と言われようと意地を通すが漢道!! 無茶でも壁があったら殴って壊す! 無謀でも道がなければこの手で切り開く! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! 無茶無理無謀、そんなものは殴って壊せと俺の拳が唸る! 不撓不屈のHEROアーレスタロス! いくぜ、変!神!!!」
蒼い閃光に包まれ、狗鬼漢児がアーレスタロスに変身する。
「混沌の渦巻く深淵より、蜘蛛の糸を紡ぐ者よ。星々の光を喰らい、闇に踊る者よ。禁忌の知識と狂気の宴を司る者よ。
アトラックナチャ! イア! イア! イア!ン・ガイ・ン・ガラグ! ルルル・ルル・ルル! フタグン・フタグン! アトラックナチャ!」
プレラーティーの背後にあったアトラックナチャの影が実体化し、プレラーティーの体にまとわりつく。
全高50メートルの影が人サイズに縮小した頃、プレラーティーは四本の鉤爪巨腕を背中から生やした蜘蛛型の怪人に変身していた。
そして2人は再び戦闘を開始した。
もはや拳ではない。語られる伝説が、今まさに現世に転写されている。
それは格闘という名の仮面を被った、神話級の交錯であった。
高速で動き回り、目にも止まらぬ速さで打ち合い続ける両者の戦いは、もはや人間の目では捉えることすら困難な次元に達していた。
その様子を傍から見ていたアルカームが肩をすくめた。
「……やれやれ、まったく困ったものだね。ここにはオレ達の破壊の力を中和する武仙はいないんだぜ。まあ、魔王の船リヴァイアサンはすごく頑丈だから、滅多なことじゃ壊れはしないがな……」
それを聞いて羅漢がフッとニヒルに笑う。
「なるほど。つまり私が本気を出しても、仲間たちに迷惑がかかることはないということか……」
羅漢は封獣ケルビムベロスの首飾りを取り出し、変身の口上を述べる。
「闇に潜む邪悪よ、震えよ! 我が名は、白虎の戦士! 正義の牙と爪を研ぎ澄まし、悪を喰らい尽くす! 虎の咆哮と共に、我が身に満ち溢れる! 鋼の肉体、鋭い爪、燃える眼光! 今こそ、悪を裁きの刻! 変!神!ケルビムベロス!!!」
すると羅漢の身体が光に包まれたかと思うと、そこには古代中国に伝わる霊獣・白虎の力を宿したHEROの姿があった……。
それを見たアルカームがニヤリと笑った。
「どうやら貴様も本気を出す気になったようだな。良かろう! ならば俺も!」
アルカームが両手を広げ、イタクァの呪文を詠唱する。
「吹雪吹き荒ぶ凍土より、闇にまみれた巨躯現る。風を操り、死を招き、狂気の宴を催す者よ。
イタクァ! 汝の名を唱え、汝の力を讃え奉る! 汝の吹雪に凍てつきし旅人よ、永遠の眠りにつき、安息を得よ。氷の獣よ、獲物を狩り、狂乱の宴に供せよ。イア! イア! イタクァ!」
吹雪がアルカームの体にまとわりつき、アルカームが怪人の姿に変化する。
その姿は人間に似た輪郭を持ち、人間を戯画化したような顔、鮮紅色に燃え上がる2つの目を持ち、足には水かきがある。
長い四肢に鋭い鉤爪を持ち、悠然と佇んでいる姿は「眼のある紫の煙と緑の雲」と呼ぶに相応しい。
かくしてプレラーティーの間にて──
アーレスタロス&ケルビムベロス
VS
アトラックナチャ&イタクァ
ヒーロー VS 旧支配者のタッグマッチが、ここに開幕されたのであった!
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↑イメージリール動画




