乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-15 六つの悪魔宝玉
「なるほど……要するに、ルシルは“連れて行かれた”って認識でいいのか?」
雷音がそう尋ねると、ヴァルシアが静かに頷いた。
「六芒星は誘拐の事実を否定しているが、ルシルの意識はジキルハイドの下で利用されている。……放っておけば、悪魔軍団の復活に繋がるわ」
雷音はそれ以上の説明を求めず、すっと手を挙げた。
「じゃあ、俺も行く。初志貫徹だ」
赤の勇者、乂雷音──12歳にして盗賊スキルを極め、クトゥルフ戦争・ケイオステュポーン戦で英雄譚を築いた少年は、満場一致で救出部隊への編入が認められた。
編成されたのは、選ばれし精鋭たち。
魔王オーム・ソウル、ドアダ七将軍の乂羅漢、乂族副将の羅刹。
そして、現役トップクラスのHEROたち──鳳天、ロイ(ナイトアーサー)、織音主水。
リーダー役は織音主水。作戦立案と指揮統括を担うのはオーム・ソウルである。
彼らは戦艦リヴァイアサンの内部に潜入し、悪魔軍団復活の儀式を止め、ルシルを奪還する。その一点に全てを賭ける。
だが、敵の本拠地はただの宇宙空間に浮かぶ船ではない。
「確認しよう。リヴァイアサンは地球の上空に見えるが、実際には“翠の魔界宇宙”に存在している。惑星エクリプスの“要石の法則”によって、時空がねじれてる。つまり、見えているだけで、そこには存在しない」
オームが言った。
「現実とズレた空間にあるってことか……ややこしいな」
主水が苦笑する。
「だが、それを利用して敵は警戒を緩めている。だからこそ、こちらも少数精鋭で動くんだ」
ミスティル・クロケルの情報によれば、ジキルハイドは戦艦内部に六芒星の儀式陣を張り、その中央にルシルを据えて儀式を開始しようとしているという。
「中央へ入るには、六つの部屋に配置された“悪魔宝玉”をすべて破壊する必要がある。だが、その宝玉を守るのは――」
主水はホログラムを表示した。
六芒星の各頂点に、敵の名が浮かぶ。
•上:スタンピート・レヴァイアタン
•下:プレラーティ・アトラックナチャ
•右上:塵芥鏖
•右下:イタクァ・アルカーム
•左上:ダークフレイム
•左下:カルノフハート
「……どいつも“当たり”ってわけだな」
羅漢がうなった。
「時間がない。一人ずつ戦っていたら日蝕が始まってしまう。だから、同時に叩く。各自、分隊を率いて配置に就け」
オームの指示で、作戦が確定する。
•スタンピート → 織音主水
•プレラーティ → 乂羅漢
•塵芥鏖 → 乂雷音
•アルカーム → オーム・ソウル
•ダークフレイム → ロイ(ナイトアーサー)
•カルノフハート → 鳳天
「ミスティル女史は、今回は情報支援と外部からのバックアップに回ってくれ」
こうして、潜入作戦が始動した。
数時間後。
地球防衛軍はリヴァイアサンの“時空境界”付近で大規模な軍事演習を開始。注意を引くためのカモフラージュである。
その隙を突いて、少数精鋭を乗せた高速艇が出撃した。
船内。鳳天が静かに呟く。
「さて、じゃあ──始めるとするか」
全員が無言で頷いた。
そして。
高速艇のハッチが開かれる。
次々と飛び降りる精鋭たち。
甲板に降り立った瞬間、彼らは散開し、各自の突入ルートへ走り出した。
その頃、戦艦の中枢にて。
スタンピート・レヴァイアタンが、艦内モニターの映像をじっと見つめていた。
「……来たか。銀河連邦の犬共め。さあ、命令を遂行しよう。壊して、潰して、喰らいつくすだけだ……」
目を細め、舌打ち混じりに吐き捨てる。
(無駄だ。奇襲だとでも思っているんだろうが……全て、計画の内だ)
彼は艦内放送用のマイクを手に取り、無感情に叫んだ。
「聞けぇい! 我が忠実なる下僕どもよ!!」
突然の怒声に、艦内の鳳天たちがピクリと反応する。
そして──
「これより我らが主の命に従い、侵入者を──皆殺しにする!!」
その一言が、空気を凍りつかせた。
奇襲がバレている。敵に完全に読まれていたのだ。
甲板の各所から、悪魔軍の軍勢が次々と姿を現す。
鳳天が前に出た。
「……やれやれだぜ」
肩を回し、気だるげに拳を構える。
「なら、一発目から──ぶちかますだけだッ!!」
――ドンッ!
拳が炸裂し、悪魔の一体が吹き飛ぶ。
連撃、連撃、連撃、連撃!!
「おおおおお! オラオラオラオラオララララァアア!!」
拳が炸裂する。
──空気が、破裂した。
悪魔の一体が爆ぜるように吹き飛び、壁に叩きつけられた。
次の瞬間、動きが見えないほどの連撃が降り注ぐ。
爆音の嵐。拳が、弾丸のように宙を刻む。
「……冗談じゃねえぞ、クソども」
鳳天が一歩を踏み出すたび、悪魔が砕ける。
鋼鉄のごとき拳が、咆哮のように鳴った。
──地響きすら追いつかない暴風のラッシュ。
気がつけば、辺りは悪魔の山だった。
そして、最後の一体を殴り倒すと、鳳天は軽く息を吐いた。
「“最初の警告”だ。……次は、殺す」
みんな思った。
(え?あの悪魔達まだ生きてるの??)
沈黙。
「……もうアイツ一人でよくない?」
誰かがぼそっと言った。
それに、他のメンバーもつい苦笑する。
だが、その笑いも束の間。
鳳天は振り返らず、言い放つ。
「油断するなよ。こっからが地獄だ」
こうして、ルシル奪還作戦──リヴァイアサン強襲戦が、幕を開けた。
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