乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-14 疫病の騎士ミスティル・クロケル
乾いた靴音が、玉座の間に響く。
「──やれやれ。ようやく全員、顔を揃えたわけだ♣︎」
プレラーティ・アトラックナチャが愉快そうに言い、天井の窓から覗く太陽を指差した。
「あと半日……太陽が喰われる頃、皆既日食が始まる。世界が“夜”に包まれるのさ♦︎」
その言葉に、ネッソスはピクリと身を引いた。
「ま、まずい……!」
こそこそと物陰へ消えようとする背を、プレラーティがひょいと前に立ちはだかって塞ぐ。
「おっとぉ?どこ行くつもりだい?♤ 戦争の支度、まだ終わってないんだよ。手伝ってもらわなきゃ、ねぇ❤︎」
ネッソスは抵抗も諦めて、その場に正座した。
彼らの後ろでは、各陣営の幹部たちが不気味な沈黙を保ったまま、これからの“計画”を待ち構えていた。
「ジキルハイド会長、それでどうする?このまま予定通り悪魔たちの復活作戦を進めても構わないが……」
疫病の騎士クロケルが青髭魔王に尋ねる。
「いや、それではあまりにも面白味に欠けます。ここは一つゲーム形式でやってみようではないですか!」
「なるほどそれは面白いアイデアだね♤でも具体的に何をするんだい?」
「簡単なことですよ、我々の邪魔をするべく集まった地球連合軍の皆さん。これから地球連合軍の皆さんには殺し合いをしてもらいます。この憤怒の魔王の権能を持ってしてね。そう100年前のラグナロクと同じようにね……あの時と違ってエクリプスはいませんが、まぁ構いません。仮に地球連合軍同士の戦争で地球から人間がいなくなったら、それはそれで構いません。「──人間という“バイ菌”どもにね、この星はもう持たせておけないんですよ。
星が壊れる前に、除菌しましょうか。…地球が穢れていく。美しく、歪に、腐りゆく……それを見ていたらねぇ?どうしても“お掃除”したくなっちゃって。
愛しているんですよ、地球を。だからこそ──全部壊して、新しくしましょうよ。この私たちの手で!」
ルキフグスの方針を聞いた瞬間、プレラーティは嬉しそうな表情を浮かべた。
(ついにこの時が来た❤︎……僕の大好きな戦争が始まるんだ♤)
彼はずっとこの瞬間を待ち望んでいたのだ。
「そいつはご機嫌だ!さあ始めようか!楽しい殺戮パーティーの始まりをよぉ♪ギャハハハハハッ!!」
支配の騎士塵芥鏖が猛り笑う。
戦争の騎士ダークフレイムは無言。
飢餓の騎士カルノフハートは不気味に微笑みスルメを齧ってる。
疫病の騎士ミスティル・クロケルは物憂げに思案し、プレラーティは楽しそうに舌舐めずりをしている。
客将アルカームはヘラヘラ嗤い、青髭魔王は狂ったように哄笑している。
エンザは気を失ったままで、ネッソスはガタガタと震えている。
ルシルはなんの感情も示さないまま大魔王の玉座に座っていた。
そんな彼らを、嫉妬の魔王スタンピートだけが冷めた目で見ていたのだった……
ドアーダ魔法学園に一人の使者がやって来た。
戦艦リヴァイアサンから遣わされた悪魔族の使者だ。
黙示録の4騎士の1人にして、72魔王序列49位の魔王ミスティル・クロケルである。
彼女の目的はただ一つだった。
「亡命します。匿ってください!」
彼女は 即断 即決 速攻 で六芒星を裏切った。
亡命希望した疫病の騎士ミスティスは大きな会議室に案内された。
そこには恐ろしい拷問官や尋問官が待ち構えていた…訳ではなく、乂阿烈やガープ校長、クレオラ女史など各勢力のトップ達が説明を求め集まっていた。
実のところ、魔王ミスティス・クロケルは人類に友好的な魔王としてその名声を知られており、また疫病が蔓延した地域に自社のワクチンを大量に抱え疫病患者を助け回った美談から疫病の騎士と褒め称えられるほど、社会的貢献の高い魔王であった。
そんな経緯もあり各勢力の有力者達は、ミスティルを亡命してきた虜囚ではなく、賓客としてもてなし保護することを決定したのである。
まずミスティスとの話し合いの先頭に立ったのは白阿魔王乂阿門だった。
「よう……久しぶりだな、ミスティス」
声をかけたのは白阿魔王・乂阿門。かつて幾度となく剣を交えた宿敵である。
ミスティルの指先がわずかに震えた。目の前の男──この男に、かつて夫、先代赤の勇者ギルトンを殺されかけた。
その記憶が脳裏に蘇る。
(……今さら、あの時の話をしても仕方ない)
「あー……阿門君……昔のよしみで頼むよ! マジでやばいって思ったよ。あの場にいたら、俺もそのうち“洗剤”にされてたかもね。だから、こっちに来た。信じてくれとは言わないけど──できれば、助けてやってほしいんだ。巻き込まれた人たちをさ」
(あの玉座の間にいたとき……俺の中で、あかんわー! これとっとと抜け出して和平交渉進めなきゃ大事なるわー!って猛烈な脳内アラームが鳴ったからな!)
頭痛を抑えるように、ミスティルは深く息を吸い込み、頭を下げた。
「……俺はテロには関わっていない。ジキルハイド財団の大多数は、戦争に加担してなんかいない。イカれた会長一人の暴走だ……だから、どうか……。財団の一般社員たちの処遇だけは……頼む!」
その言葉に、会議室にいた者たちは静かに目を見張った。
魔王が──頭を下げて、懇願しているのだ。
「なるほど……」と言って顎に手を当てながら考え込んだのはドアダ事実上の支配者ナイトホテップこと永遠田左丹である。
「まず最初に聞きたいのだがジキルハイドに囚われているルシル君は今どんな様子だ?今彼女は『嫉妬の魔王』スタンピートの洗脳を受けてるそうだね?それはどんな類の洗脳かな?解除方法は?ルシル君が正気を取り戻せば魔界門の開錠は難なく防げるのだが……」
永遠田左丹の質問に、応じたのはミスティルではなかった。
沈黙を破ったのは、銀緑のローブをまとった女──『傲慢の魔王』ヴァールシファー・デヴィルである。
その目に浮かぶのは、憤怒でも悲しみでもない。ただ冷静な観察者の目だ。
「……まだ完全に支配されてはいない。彼女の人格は、深層で抵抗している」
『傲慢の魔王』ヴァールシファー・デヴィルはそう告げた。
「このままなら、いずれルシルの精神は破壊される。けれど、まだ救える。──今なら」
続けて発言したのは、タタリ族の魔王、オーム・ソウル。
「ならば、急ぎ“ルシル・エンジェル救出部隊”を編成すべきです。ミスティル氏の協力を得れば、HEROの奪還も可能だ」
それを聞いた瞬間、ひときわ大きな音が会議室に響いた。
テーブルを拳で叩きつけた男──元・銀河連邦HEROランキング一位、織音主水である。
「よし……俺も出る。あいつを、ルシルを取り戻す! テロリストどもに好き勝手させてたまるか!」
その言葉に、出席者たちは次々に頷いた。
会議の空気が変わる。
反撃の狼煙が、ここに──上がったのだ。
誰もが静かに、だが確かに──その言葉に呼応するように立ち上がっていた。
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